セミナーレポート(AZE)

第77回日本医学放射線学会総会が2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。15日(日)に行われた株式会社AZE共催ランチョンセミナー29では,慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)教授の陣崎雅弘氏が司会を務め,スペクトラルCTとAZE社製ワークステーションの臨床活用について,国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科部長の片平和博氏が講演を行った。

2018年8月号

第77回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー29

スペクトラルCTが臨床に与えるインパクト ―AZE VP併用でインパクト倍増! ネタを含めて―

片平 和博(国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科)

片平 和博(国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科)

スペクトラルCT(IQonスペクトラルCT:フィリップス社製)は,161種類の仮想単色X線画像やヨード密度強調画像,仮想単純画像,実効原子番号画像など,さまざまな画像を取得でき,当院でも臨床で活用している。本講演では,スペクトラルCTの有用性を紹介するとともに,「AZE VirtualPlace」の新機能“iTexture”(W.I.P.)や“ECV解析”ソフトウェアを用いて,その有用性をさらに高める方法を紹介する。

スペクトラルCTの臨床的有用性

●物質弁別活用術

CT値は「質量減弱係数×密度」で表されるが,スペクトラルCTではX線エネルギーを仮想的に変化させて係数を変えることによる物質弁別が可能で,CTでありながらMRIのような画像を得ることができる。
スペクトラルイメージング“Calcium Suppression”では,カルシウムを抑制することで,MRIのSTIR画像のように骨髄浮腫を描出することができる。MRIを用いなくても骨折の急性/陳旧性を診断できる可能性があり,MRI禁忌の患者に対しても検査を施行できる。
X線陰性結石に対してもスペクトラルCTは有用である。例えば,総胆管拡張精査症例を120kVp画像で観察しても,総胆管内と胆囊内のCT値は同等となり弁別できない。そこで,スペクトル曲線(縦軸:CT値,横軸:仮想単色X線エネルギー)を作成すると,胆汁に満たされた総胆管内はCT値が一定であるのに対し,胆囊内のCT値は低エネルギーで低下するためコレステロール結石であると判断できる。また,実効原子番号画像でも明瞭に弁別できる。
副腎腫瘍は,単純CTでCT値が10HU以下であれば脂肪を含む副腎腺腫と推定可能だが,20HU程度を示す場合は鑑別が難しい。スペクトル曲線にて,低エネルギーで当該部位のCT値が低下すれば脂肪含有が示唆され,副腎腺腫であると判断できる。また,CT値がゼロに近い副腎結節も,スペクトル曲線にてCT値が一定となる副腎囊胞と,脂肪を含む充実性腫瘤との鑑別が可能である。
スペクトラルイメージング“Iodine no water”(ヨード密度強調画像)も臨床的有用性が高く,通常の造影CTでは指摘できない肺血流の血流欠損や,小児における川崎病と咽後膿瘍の鑑別,出血性囊胞と腎がんの鑑別,造影剤と出血の鑑別などに利用できる。

●造影CTとの相性抜群

造影CTは,低エネルギーになるほどCT値が上昇し,コントラストが高くなる。40keVでは,従来CTにおける100kVp相当の約3倍,120kVp相当の約4倍の造影効果を得ることが可能だ。低エネルギーの仮想単色X線画像を作成することで,造影効果が上がり診断能も上昇するとともに,コントラストを維持したまま,造影剤の大幅な減量や注入スピードの低減など,低侵襲化を図ることができる。

iTextureによる低エネルギー画像の画質改善

40keV画像の高い造影コントラストは,臨床的インパクトが非常に大きいが,臨床では50〜55keVの画像を使用することが多い。その理由は,40keV画像はFull IRのように,質感がオイルペインティング様になるためである。NPSを測定すると,40keV画像は低空間周波数域でほかのエネルギー画像と明らかに異なることがわかる。これを解決する方法の一つが,boostを用いて必要な部分のみ線量を上げることである。そして,もう一つの方法が,AZE VirtualPlaceの新機能iTextureを用いることである。
iTextureの原理は,ハイブリッド逐次近似法で取得したリファレンス画像(iDose)からノイズを抽出してノイズマップを作成し,40keV画像にオーバーレイするというものである(図1)。これにより質感を保ったままコントラストを維持した画像を取得できる。NPS(図2)を比較すると,iDose(a)の曲線形状に近ければ質感を保てるが,40keV画像(b)は曲線が交差してしまう。そこで,iTextureの強度を調整して40keV画像に適用すると,iDoseの曲線形状に近づき,ノイズは増えるが質感が良くなることがわかる。

図1 iTextureの原理

図1 iTextureの原理

 

図2 iDoseと40keV画像のNPS

図2 iDoseと40keV画像のNPS

 

iTextureの適用でノイズが増加するものの,臨床上問題はない。CNRはコントラスト/SD(ノイズ)で求められるが,40keV画像はコントラストが大きく向上しているため,SDが多少上がってもCNRは維持されるためである。
図3は,肝腫瘍精査例である。40keV画像(図3 b)はコントラストが非常に向上しているが,オイルペインティング様の質感になっている。そこで,iTexture 100%(図3 c),iTexture 50%(図3 d)を適用すると,ノイズが増えるものの画質が向上することがわかる。120kVp画像(図3 a)とiTexture 100%を比較すると,CNRはiTexture 100%の方が高く,かつノイズも診断に支障はないレベルである。

図3 造影CTによる肝腫瘍精査

図3 造影CTによる肝腫瘍精査

 

なお,造影剤減量プロトコールでは,iTextureの強度を低くする必要がある。腎機能障害により造影剤量26mLで撮影した画像(図4)では,120kVp画像(a)と比べ40keV画像(b)は濃染されているが,造影剤量が少ないため,それほどコントラストは高くない。このような場合は,iTexture 50%(図4 c)やiTexture 25%(図4 d)など低い強度で適用すると,臨床的に有用な画像となる。
また,Full IR(IMR)へもiTextureを適用した。IMRはiDoseと比べてノイズを大きく低減できるが,オイルペインティング様の画質になることが問題となっている。IMRとiDoseのNPSはまったく異なり,これが画質の差となるが,IMR にiTextureを適用することでiDoseの曲線形状に近づき,質感が良くなることがわかる。高解像度というIMRの特長も相まって,非常に見やすい,臨床的に有用な画像を得ることができる。

図4 造影剤減量プロトコールによる検査

図4 造影剤減量プロトコールによる検査

 

ECVマップの活用

AZE VirtualPlaceでは,スペクトラルCTのヨード密度強調画像からECVを解析してマップなどで表示する“ECV解析”を利用できる。これにより,心臓・肝臓領域の線維化の推定が可能となる。

●肝臓領域のECV

肝臓領域については,造影CT平衡相で得たECV値が生検や血清による線維化指標と相関し,慢性肝疾患におけるびまん性線維化の定量が可能であると言われている。AZE VirtualPlaceでは,平衡相のヨード画像とヘマトクリット値を入力するだけで,簡単にECVマップを作成することができる(図5)。ECVマップ上にROIを取り定量的に評価できるほか,カラーマップにすることで視覚的に線維化の程度を把握できる。

図5 ECVマップの作成

図5 ECVマップの作成

 

●心臓領域のECV

心筋梗塞症例(図6)では,スペクトラルCTにて遅延造影CTを撮影し,50keV画像(b)を作成すると,遅延造影MRI(a)と同じような画像を得ることができる。AZE VirtualPlaceで容易に作成できるECVマップ(図6 c)は,Iodine値と比べ造影剤の量や注入速度の影響を受けないため,信頼性が高いと考えられる。また,MRIでは造影前後の画像からECVマップを作成するのに対し,スペクトラルCTでは造影画像から仮想単純画像を作成することから,画像の位置ズレがなく,より正確なECV計測が可能であると考える。

図6 心筋梗塞症例の遅延造影画像とECVマップ

図6 心筋梗塞症例の遅延造影画像とECVマップ

 

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