セミナーレポート(AZE)
第73回日本医学放射線学会総会が2014年4月10日(木)〜13日(日)の4日間,パシフィコ横浜にて開催された。11日(金)に行われた株式会社AZE共催のランチョンセミナーでは,AZE社の最新アプリケーションとビューアについて,国家公務員共済組合連合会熊本中央病院放射線診断科部長の片平和博氏と東京大学医学部附属病院コンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座特任助教の三木聡一郎氏が講演を行った。
2014年7月号
第73回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー6
躯幹部MRIの新たなる潮流 ~簡便で・美しく・有用なMRIアプリケーションの数々~
片平 和博(国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科)
ワークステーションのアプリケーションとして最近は,有用性の高いMRIアプリケーションが数多く開発されている。本講演では,AZE社のワークステーションに搭載されている拡散に対するComputed DWIと,血流に対するPerfusion MRIのアプリケーションを紹介する。
Computed DWI
●前立腺がんにおけるDWIの有用性
前立腺がんは,T2強調画像やdynamic MRIでは断定的でなく,拡散強調画像(以下,DWI)でのみ明瞭な異常高信号を示すことも多いため,診断におけるDWIの有用性が知られている。最近,診断や治療のために他院からMR画像が提供されることがあるが,非常にノイズの多いDWIを時々経験する。前立腺や乳腺など背景の信号値が高い臓器では,b値が低いと病変が埋もれてしまうため,b=1000以上のultra-high b valueが推奨されている。そのため,安易にultra-high b valueを適用することでノイズが多くなっていることが原因と考えられる。われわれの検討1)でも,T2強調画像だけではなく,より高いb値のDWIを加えることで診断能が向上することがわかっているが,単純にb=2000などの高いb値で撮像すると,ノイズが非常に多くなり診断できない。そのため,ultra-high b value撮像ではSNRを担保するための工夫が必要となる。
b値によるSNRの違いについては,当院の豊成がファントムを使った検討2)を行っている。b値を500から1000に,また,1000から2000に上げると,それぞれSNRが約2倍損なわれる結果となった。SNRを補うには,時間をかけて撮像する方法があるが,SNRを2倍にするには撮像加算回数を4回にする必要があるため,撮像時間は4倍に延長し,臨床では現実的とは言えない。
そこで当院では,shortest TEとマトリックスを少なくすることで,SNRを担保している。TEを100msから60msに短縮すると,SNRは約2倍となる。また,マトリックスを192から112にして空間分解能を下げると,SNRが約2倍となる。当院プロトコール(TE=56,マトリックス112)では,b値が1000や2000でもSNRを担保でき,病変を指摘することができる(図1)。
●Computed DWI によるultra-high b画像
shortest TEは傾斜磁場やスリューレートで制限されるため,MRI装置のスペックによってはTEが長くなって実施できない。しかし,Computed DWIの登場により,MRI装置に依存することなく,ultra-high bの画像を取得できるようになった。Blackledgeらが,異なる2点のb値が決まれば高いb値は算出可能であり,かつ計算値であることからSNRは不変であるとの論文3)を発表し,この理論を基にAZE社が“Computed DWI”を開発した。
Computed DWIは,2つのb値からだけでなく,任意のb値とADC値からでも画像を作成でき,b値を上げても最適なWW/WLが自動で設定されるという特徴を持つ。操作は簡単で,DWIを選択し,「Computed DWIボタン」を押すだけで解析が実行される。解析結果画面でb値のスライダーバーの調整,またはb値を入力するだけで,WW/WLが自動調整された任意のb値の画像を取得できる。さらに,ROIを指定するとヒストグラム解析が行われ,ADC値の分布や,尖度や歪度が数値で表示されるため,経過観察などに用いることができる(図2)。
Computed DWIは実際のDWIと比較しても遜色はなく,b値を上げてもSNRは担保され,b値が高いほど病変が高コントラストで表示される(図3)。
また,短いTE設定が可能な装置であれば,マトリックスを保ってFOVを絞ることで高分解能撮像を行い,さらにComputed DWIを適用することでultra-high bの高分解能化が可能になる(図4)。さらに,Computed DWIにより,isotropic化も可能で,MPRでも病変が明瞭に描出される。
●膀胱がんにおけるDWIの有用性
膀胱がんの診断において,DWIは一般的に存在診断に用いられているが,竹内らは深達度診断にも有用であるとの論文4)を発表している。DWIによる深達度診断の重要なポイントは,膀胱内尿の無信号化のためにb値を高くすることと,詳細な評価のために高分解能で撮像することだが,これらはSNRに負荷がかかる。
そこで,低いb値でSNRを保った高分解能撮像を行い,Computed DWIでultra-high bの高分解能画像を作成することで,高コントラストの深達度評価に有用な画像を得ることができる(図5)。
Perfusion MRI
●Permeability MRIの有用性と限界
Perfusion MRIでは,時間分解能を上げて撮像し,コンパートメント解析することで定量性のある指標(Ktrans,kep,ve)を得ることができ,血管透過性(permeability)など腫瘍の血行動態の定量評価が可能となる。AZE社のワークステーションでは簡単にkepを取得でき,Permeability MRIを実施することができる。
Perfusion studyでkep mapを作成し,ROIを設定してkep値を求めた。このkep値は腫瘍の悪性度を反映すると考えられ,悪性度が高い部位で高値となり,kep mapでは高信号に描出される。ROC曲線による検討では,AUCはADCが0.906,kepが0.781であった。ADCの方が精度が高いものの,kepの方が正しい診断である症例もあり,診断の一助として有用と考えている。
しかしPermeability MRIは,高時間分解能撮像のため画像が粗いことや,前立腺がんや乳がんなどの多層性の病変に対してはシングルスライスの解析では不十分であること,また,マルチスライスにするとデータの運用や保存が課題となることなどを理由に,実臨床にはあまり広がっていない。
●簡便に定量化できるDynamic MRI
臨床では,Dynamic MRIによる定量評価が有用性を発揮する。腫瘍のwash outの程度を見ることで悪性度の予想が可能であるが,実際には視覚的に濃染のphaseを確認することは容易ではなく,dynamic curveを描いてもROIの設定により変化するため,客観性に乏しかった。
そこで,より客観的な解析をめざしてアプリケーション“wash out map”が開発された(図6)。wash in mapでROIを設定すると信号の変化を解析し,カラーマップでwash outの程度を表示する。また,wash inの程度もグレースケールで表示される。解析は容易で,ワークステーションでデータを呼び出し,「dynamic 4Dボタン」を押すと解析画面が立ち上がり,「解析ボタン」を押すだけで実行できる。
従来は,複数の病変が存在する場合でもpeak phaseは1つの病変で設定されるため,悪性度が異なる病変が混在すると,どちらかのwash outが過大評価,もしくは過小評価されるという課題があった。そこで,新バージョンでは全ピクセルごとのpeak phaseを自動で検出できるように改良され,より精度の高いwash out mapの取得が可能になった。
まとめ
MRIアプリケーションにより可能になった拡散や血流の評価は,臨床的に有用性の高い非常に多くの情報を提供してくれる。今後,さらなる臨床に役立つ機能の開発が望まれる。
●参考文献
1)Katahira, K., et al:Ultra-high-b-value diffusion-weighted MR imaging for the detection of prostate cancer:Evaluation in 201 cases with histopathological correlation. Eur. Radiol., 21, 188〜196, 2011.
2)豊成信幸・他:前立腺癌の拡散強調画像におけるSNRの基礎的研究. 九州MR研究会, 2011年1月15日.
3)Blackledge, MD., et al:Computed diffusion-weighted MR imaging may improve tumor detection. Radiology, 261, 573〜581, 2011.
4)Takeuchi, M., et al:Urinary bladder cancer:Diffusion-weighted MR imaging─accuracy for diagnosing T stage and estimating histologic grade. Radiology, 251, 112〜121, 2009.
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