次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2017年9月号

No.185 肺動静脈1相撮影による標準機能を用いた肺がん術前3D画像作成法

岡本 大器(群馬県済生会前橋病院放射線科)

はじめに

当院の外科部門の特色として,胆囊摘出術や膵頭十二指腸切除術を中心に腹腔鏡下手術の症例数が多く,腹部疾患を中心に手術が行われてきた。2016年度より非常勤呼吸器外科医による胸腔鏡下肺切除術(VATS)が開始され,主にフォローアップ患者が肺がんと診断された後に,3Dシミュレーション画像作成のためのCT撮影を術前に追加オーダされるようになった。これを機に構築したプロトコールや作成に当たっての工夫を,「1相撮影による肺がん術前3Dシミュレーション画像の作成」という演題でAZE展2017に応募した。その経緯や概要を紹介したいと思う。

プロトコール構築までの経緯

TBT法1)や到達時間推定法2)による肺動静脈1相撮影法の有用性も報告されているが,当院のCT装置とインジェクタでは適用不可であった。さらに,当院で使用している「AZE VirtualPlace 新NT」(AZE社製)には肺の専用解析ソフトウェアが搭載されておらず,肺動静脈などの自動抽出は困難であった。初期の症例は2相撮影法で開始したものの,3D画像作成のためにしか使用しないデータを取得するために被ばくを増やしたくはなかったことに加えて,標準機能による位置合わせ作業にかかる時間や操作者間の処理能力の違いによるミスレジストレーションも問題と考えた。そこで,あえて肺静脈相のみで作成を試みたところ良好なVR画像を作成することができたため,以後の症例では1相で撮影することとし,試行錯誤を重ねてVR画像作成方法の効率化と標準化を進めていった。

肺動静脈1相撮影による術前3Dシミュレーション画像の作成

1.撮影方法
まずは撮影法について紹介する。テストインジェクション法にて左心房のtime enhancement curve(TEC)ピークを確認して,本スキャンはfractional dose 25mgI/kg/sの造影剤を10秒注入後に同速度で生理食塩水を20mL後押しし,テストピークの3秒後に管電圧100kVで撮影している。これにより肺静脈の造影効果が優位になり,肺動脈のCT値はおおむね200〜250HU程度となるが,VR画像を作る上での必要値は得られている。

2.VR画像作成方法
本題のVR画像の作成に当たっては,事前にカラーマップを用意しておくとよい。作成手順であるが,まず骨除去を行った全体像をレイヤー3までコピーし,レイヤー1で造影優位な肺静脈と大動脈を抽出する(図1)。当院の実施経験から,肺動静脈のCT値差がおおむね150HU以上あれば,肺動脈がきれいに除去されることがわかっている。そして,これをレイヤー2の全体像から差分し,肺動脈を描出する(図2)。末梢の細い血管が消えてしまった場合は,「修復」ツールで追加抽出を行うが(図3),どこまで追跡し描出するのかは医師の意見と作業時間の延長を考慮する必要がある。
肺動脈が完成すれば,レイヤー3の全体像から引き算することで造影優位な肺静脈は容易に作成できる。さらに,レイヤー1で大動脈,セミオート抽出機能を用いてレイヤー4で腫瘍,レイヤー5で肺(図4),レイヤー6で気管支(図5)を作成し,これらをマルチレイヤー表示して完成となる(図6)。
撮影方法と作成方法をマニュアル化し3Dラボチームで共有することで,30分程度で作成することができている。また,本手法は気管支動脈塞栓術の術前シミュレーションにも応用可能である。
この一連の手法の最大のメリットは,1相のデータを用いることでミスレジストレーションをなくし,造影剤量および被ばく線量を低減できていることである。さらに,実施件数と導入コストのバランスから専用ソフトウェアなどを導入できず,各部位の自動抽出が困難であっても,比較的短時間で良質のVR画像を作成できるテクニックであることを特に強調しておきたい。総括するとAZE VirtualPlaceの基本的な機能の充実さが成せる工夫であると考えている。

図1 肺静脈と大動脈の抽出 骨除去を行った全体像(a)を肺動脈が消えるまでウィンドウ調節し(b),肺静脈を選択抽出(c)して肺動脈を消去する。

図1 肺静脈と大動脈の抽出
骨除去を行った全体像(a)を肺動脈が消えるまでウィンドウ調節し(b),肺静脈を選択抽出(c)して肺動脈を消去する。

 

図2 肺動脈の抽出 肺静脈(図1 c)を全体像から引き算すると周囲のゴミが多く残るため,肺動脈末梢が消えないよう慎重にウィンドウ調節して,カッターと選択抽出で肺動脈を抽出する。

図2 肺動脈の抽出
肺静脈(図1 c)を全体像から引き算すると周囲のゴミが多く残るため,肺動脈末梢が消えないよう慎重にウィンドウ調節して,カッターと選択抽出で肺動脈を抽出する。

 

図3 末梢側肺動脈の補足 閾値を広くすることで検出感度を上げ,必要な血管を補足する。

図3 末梢側肺動脈の補足
閾値を広くすることで検出感度を上げ,必要な血管を補足する。

 

図4 肺の抽出 カラーマップ「肺抜き」で両肺を選択抽出,マスクを反転して,サイズ5で2回細く,3回太くする。

図4 肺の抽出
カラーマップ「肺抜き」で両肺を選択抽出,マスクを反転して,サイズ5で2回細く,3回太くする。

 

図5 気管支の抽出 SSD(shaded surface display)表示の閾値を−2000~−890HU程度にして気管支を選択抽出する。描出されない末梢は修復ツールで補足する。

図5 気管支の抽出
SSD(shaded surface display)表示の閾値を−2000~−890HU程度にして気管支を選択抽出する。描出されない末梢は修復ツールで補足する。

 

図6 マルチレイヤー表示でVR画像が完成

図6 マルチレイヤー表示でVR画像が完成

 

まとめ

3D画像の作成が一般的となった現在では,作業時間の延長や操作者間の処理能力の違いは業務上大きな問題であり,効率化や標準化が重要であると考える。医師からの診療支援画像の作成依頼は年々増加しており,画像等手術支援加算の適用対象も今後さらに拡大することが予想される中で,われわれ診療放射線技師としては自施設状況に合わせて,効率的かつ質の高い診療支援画像の提供をめざしていかなければならない。

●参考文献
1)山口隆義, 高橋大地 : 新しい造影方法であるtest bolus tracking法の開発と,冠状動脈CT造影検査における有用性について. 日本放射線技術学会雑誌, 65・8, 1032〜1040, 2009.
2)中森克俊・他 : 肺切除術前3D-CTにおける
新しい肺動静脈1相撮影である到達時間推定法の考案. 日本放射線技術学会雑誌, 70・11, 1258〜1264, 2014.

【使用CT装置】
LightSpeed VCT VISION(GE社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 新NT(AZE社製)

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