次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2015年9月号

No.161 負荷心筋dynamic CT perfusionと冠動脈CTAのフュージョン画像の有用性

西山 光(愛媛大学医学部附属病院診療支援部診療放射線技術部門)

はじめに

multi detector-row computed tomography(MDCT)は冠動脈狭窄病変やプラーク性状評価に用いられ,その陰性適中率の高さから冠動脈病変検査のゲートキーパーの役割を担ってきた1)。近年,冠動脈疾患の灌流機能評価に対して,MDCTを用いた負荷心筋血流解析法が有用であると報告されている2)。さらに,これまで単相撮影による静止画像が主流であったが,心筋全体をカバーする検出器幅を持ったMDCTが開発され,dynamic CT perfusion(以下,CTP)撮影が可能となった3)
冠動脈の形態と心筋虚血を組み合わせて,虚血部位の責任血管を明確にする手法として,冠動脈CT angiography(以下,CTA)と心筋SPECTのフュージョン画像の有用性が知られている。しかし,CTAとSPECTは別々に行われる検査であるために,位置ズレが生じることや,SPECTの分解能が低いことが課題として挙げられる。今回,われわれはCTAとCTPを一度の検査で行ったデータから,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)を用いてフュージョン画像を作成したので,その有用性を報告する。

CTPの撮影

当院では,8cmの検出器幅を持った「Brilliance iCT」(フィリップス社製)で撮影を行っており,心筋全体を1回転のスキャンで撮影することができる。造影剤を注入しながら連続30心拍撮影するダイナミックスキャンを行っている。テストインジェクション法を用いて撮影タイミングを決定し,撮影開始3分前からATP負荷を行い撮影する。その後,10分以上空けて負荷が十分に改善してからCTAを撮影する。造影剤量は,CTPが50mL,CTAが30〜50mLで,計100mL以下で検査可能である。

フュージョン画像の作成

AZE VirtualPlaceの“4次元解析”で読み込んだCTPの心筋画像と“3D”で読み込んだCTAの冠動脈画像を,“フュージョン”機能で重ね合わせてフュージョン画像を作成する(図1)。

図1 フュージョン画像の作成

図1 フュージョン画像の作成
時間軸情報を持ったdynamic CTPデータから“4次元解析”で画像作成することで,各心拍の血流灌流の様子がわかる。

 

CTはSPECTと比較して高い分解能を有しており,心内膜部と心外膜部を分離して表示することができる。内膜はCT値の高い内腔を取り出し,内腔から5ボクセル厚みを取った部分を内膜とし,外膜はセミオート抽出を使い目的部位を囲むことで抽出している。
CTでも虚血部位の診断は可能であるが,MRIと比べるとコントラスト分解能が劣る。そこで当院では,CT値の高い部分に暖色,低い部分に寒色を用いたカラー表示にすることで,コントラストをつけて診断能を向上させている(図2)。また,大動脈のCT値を測定し,その造影効果に応じた半定量的カラーマップを作成することで,三枝病変など全体の血流が落ちている症例でも虚血を検出することができる。
冠動脈画像は種々の編集ツールを用いることで作成できるが,あらかじめ“CT細血管解析”を用いて自動抽出しておくと,より短時間で作成することができる。

図2 術前CTP画像

図2 術前CTP画像
左から心基部,心中部,心尖部。カラー表示にすることで虚血部位 (→)が明瞭に描出される。前壁中隔に内膜下優位の心筋血流低下を認める。

 

症 例

60歳代,男性。CAGで#6高度狭窄,RCA,LCXに有意狭窄があり三枝病変と診断され,高位側壁枝からの側副血行路でLADが造影されている(図3)。MRI perfusionでは,心基部〜心尖部前壁中隔に高度虚血,内膜側に遅延造影を認める(図4)。治療としてCABG(LITA-LAD,Ao-SVG-PD)が施行された。治療前後で施行されたATP負荷CTPと,同時撮影のCTAのフュージョン画像を供覧する(図5 a)。治療前CTPでは前壁中隔に内膜側優位の心筋血流低下があり,フュージョン画像でLAD近位部の虚血とわかる。治療後は外膜側優位に血流改善があるものの,MRIで遅延造影の見られた内膜側では血流改善が見られない(図5 b)。また,各心拍のフュージョン画像を作成し継時的にシネ再生することで,4Dフュージョン画像を作成することができる。これによって,まさにダイナミックに心筋の灌流の様子を観察することができる。

図3 治療前CAG画像

図3 治療前CAG画像
#6に高度狭窄あり。高位側壁枝からの側副血行路でLADが造影されている()。

 

図4 治療前MR画像

図4 治療前MR画像
左から心基部,心中部,心尖部。前壁中隔に内膜側優位の心筋血流低下があり(),内膜側に遅延造影を認める()。

 

図5 CTPとCTAのフュージョン画像

図5 CTPとCTAのフュージョン画像
aが治療前,bが治療後。それぞれ左に心筋外膜側,右に心筋内膜側を示す。外膜側の虚血は,良好に改善していることが一目でわかる。一方,内膜側では虚血の改善が見られず,遅延造影MRIに一致した梗塞部位を表している。

 

本症例の治療前の外膜側を心拍ごとに見ると,8心拍ではRCA,LCXからの血流で中隔,側壁が染まっているのに対し,心尖部前壁は高位側壁枝から側副血行路を介してLADに血流があるため血流遅延が生じ,9心拍から染まり始め,11,15心拍と逆行性に染まる様子がわかる(図6)。

図6 4Dフュージョン画像(治療前外膜側)

図6 4Dフュージョン画像(治療前外膜側)
RADやLCXから造影されている下壁や側壁は8心拍ですでに造影剤による造影効果が見られるが,高位側壁枝()からの側副血行路で造影されるLAD領域()は9心拍あたりから染まり始め,ほかの心筋に比べ血流が遅延している。

 

まとめ

一度の撮影で得られる冠動脈CTAと負荷心筋CTPをフュージョンすることにより,虚血域とその責任血管を位置ズレなく正確に結びつけることが可能である。また,CTは空間分解能が高いため内膜側と外膜側を分けて観察でき,虚血の程度が評価できる。さらに,今回の試みで,dynamic CTPで作成した4Dフュージョン画像を用いれば,これまでは難しかった心筋灌流を画像化できることが示された。以上より,今後CTを用いた心筋虚血評価は,これまでどのモダリティにもなかった高い精度で虚血を診断することが可能になると考えている。

●参考文献
1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007−2008年度合同研究班報告); 冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. 日本循環器学会・他編, Circ. J., 73(Suppl. Ⅲ), 1091〜1114, 2009.
2)Kurata, A., et al. : Myocardial perfusion imaging using adenosine triphosphate stress multi-slice spiral computed tomography ; Alternative to stress myocardial perfusion scintigraphy. Circ. J., 69, 550〜557, 2005.
3)田邊裕貴・他 : CT Perfusionを用いた心筋血流定量評価の有用性─SPECT, MRIと比較して. 臨床画像, 31, 74〜86, 2015.

【使用CT装置】
Brilliance iCT(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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