2021-12-1
東京都予防医学協会は2017年,ホロジックのデジタルマンモグラフィ「Selenia Dimensions」を導入し,臨床研究を通じて日本人におけるトモシンセシスの有用性を検証してきた。2019年には装置をアップグレードし,ソフトウエアも活用しながら,受診者の不利益や読影負荷の軽減をめざした取り組みも進めている。トモシンセシスの臨床的有用性と乳がん検診・精密検査におけるメリットについて,がん検診・診断部の坂佳奈子部長と,放射線部の富樫聖子部長にお話をうかがった。
受診しやすさに配慮した乳がん精密検査を提供
予防医学を使命とする東京都予防医学協会は,1949年に東京寄生虫予防協会として設立,その後,生活習慣病(当時の成人病)やがんの増加を受けて1967年に改組され,以降,健康診断(職域や学校)とがん検診を主な事業に活動してきた。併設する保健会館クリニックでは,近隣住民の外来診療のほか,健康診断での要受診者への対応や,5がん(胃がん,大腸がん,肺がん,子宮がん,乳がん)すべての精密検査への対応を行っている。
乳がん検診の年間実施数は,対策型が約1万2000件,任意型(職域検診,人間ドック,個人検診など)が1万4000件弱となっている。対策型検診のうち9000件弱はマンモバスによる巡回検診で,多摩地域や島しょ部まで都内全域をカバーする。また,任意型検診の検査内訳としては,マンモグラフィが約6000件,超音波が約5000件,マンモグラフィと超音波の併用が約2500件となっている。これらの検診業務に,診療放射線技師12名,臨床検査技師14名の女性スタッフで対応している。
一方,精密検査を中心とした乳腺外来は年間約1500人が受診する。精密検査は,初診日にマンモグラフィや超音波検査を行い,必要な症例に対しては同日に針生検や吸引式生検まで行える体制を整えている。がん検診・診断部の坂部長は,「初診から結果確定まで2週間で行っているのが大きな特長です。大学病院などでは結果が出るまで1か月以上かかると思いますが,結果を待つ受診者の精神的負担は大きく,また,乳がん好発年齢である40〜50歳代の方は仕事をしている人も多いため,1日で検査を終えて早く結果がわかることは受診者にとってメリットだと思います」と話す。
世界で最も実績のあるSelenia Dimensionsを導入
マンモグラフィ検診が開始された2000年代初めは,マンモグラフィを導入している施設が限られていたが,同協会は2003年にはマンモバスを導入するなど早期から検診の提供体制を整えてきた。2010年代に入ってマンモグラフィ検診を行える施設が増加し,施設の強みとなる新たな検診方法を模索する中で,トモシンセシスが坂部長の目に留まり,2017年4月にホロジックのデジタルマンモグラフィ「Selenia Dimensions」が導入された。
Selenia Dimensionsのトモシンセシスは,3.7秒で±7.5°の範囲を15回撮影し,1mmピッチの3D画像を再構成する。乳腺や病変の重なりを低減して読影できる利点があり,すでに海外では多くの実績があったが,導入に当たっては不安もあったと坂部長は振り返る。
「国内での実績がはっきりしないため本当に日本人に役立つかは不明で,また,2015年にJ-STARTの結果が発表され,これからはマンモグラフィと超音波の併用だという流れもあり,トモシンセシスの役割についてはやや懐疑的でした。しかし,Selenia Dimensionsは世界50か国以上で導入されている最も実績のある機種で,トモシンセシスに関するほとんどの論文で用いられています。日本人における有用性の確認や海外との比較では,そのような実績のある装置を使うことは重要だと考えました」
坂部長らは,有用性を検証するため導入初期に任意型検診を対象に臨床研究を行った。約1万2000人を対象に通常のマンモグラフィ(2D)とトモシンセシス併用(2D+3D)の成績を比較したところ,トモシンセシスの追加により要精検率が有意に低下し,がん発見率,陽性反応適中度も良好な結果となった。これを踏まえ,現在は精密検査のほぼ全例でトモシンセシスを撮影するとともに,検診のオプションとしてトモシンセシスを提供している。
トモシンセシスの臨床的有用性
●精密検査における有用性
局所的非対称性陰影(FAD)で精密検査となった場合,トモシンセシスで病変ではなく乳腺組織の重なりであると証明できることが多い。超音波検査でも病変がなければ,経過観察不要で通常の検診のみとすることができる。
一方,病変がある場合にも有用で,腫瘤は辺縁が明瞭化して辺縁鋸歯状や微小なスピキュラも確認できるため,生検の要不要の確信度が向上する。また,石灰化は三次元的に分布を把握でき,真の集簇性,区域性の分布であるかを判断しやすい。坂部長は,トモシンセシスが最も威力を発揮するのは構築の乱れであるとし,「2D検診でわずかな疑いとされた構築の乱れをはっきりと認識でき,がんの発見につながることも多いです」と述べる。
●検診における有用性
検診においても精密検査と同様に,腫瘤の辺縁所見や構築の乱れを見つけられることで感度が向上する。それと同時に,2DではFADとなるケースもトモシンセシスで病変なしと判断でき,特異度も向上する。検診においては感度と特異度のバランスが重要であると,坂部長は次のように説明する。
「以前は,検診ではがんを見つけることが最優先で精密検査が増えることはあまり問題視されませんでしたが,今は不要な精密検査を行うことは受診者にとって大きな不利益とされています。医師にとっては念のためだとしても,要精密検査になって不安で食事も喉を通らないと訴える受診者も多いですし,時間的・経済的にも負担になるため,不要な精密検査を減らすことは重要です。トモシンセシスは,感度と特異度の両方を向上させることができる,とても有益なモダリティだと思います」
被ばくや読影の課題を解決するソフトウエアの活用
Selenia Dimensionsでは,乳房を圧迫した状態で2Dとトモシンセシスを連続して短時間で撮影することができる。放射線部の富樫部長は,「一度に撮影を行えるため効率がよく,トモシンセシス撮影をしていると気づかない受診者もいます。フェイスシールドもワンタッチで前後に移動するため,着脱の手間がありません。入室から退室までの時間は2D撮影の1.3倍ほどですが,スループットに大きな影響はありません」と説明する。
2D+3D撮影による被ばく線量は約2.6mGyで,日本乳がん精度管理中央機構の指針に示される3mGy以下はクリアしているが,検診での被ばく増加は受診者の不利益につながる。そこで坂部長らは,3D画像から自動で作成される合成2Dを活用することで,2D撮影を省略できるか検討した。約2500症例で読影試験を行った結果,2Dと合成2Dの読影結果に差がないことを確認し,2021年4月からは撮影を3Dのみ(撮影線量1.4mGy)とする合成2D+3Dでの検診も開始した。
同協会のSelenia Dimensionsは2019年のアップグレードで,3D画像を2Dと同じ70μmで再構成する高解像ソフトウエア“Clarity HD”と,その画像から合成2Dを作成する“Intelligent 2D”が実装され,合成2Dの高画質化を実現した。坂部長はIntelligent 2Dについて,「コントラストがより強調されるため,スピキュラや石灰化の視認性が高くなり,非常に診断に役立つようになったと実感しています」と評価する。
また,トモシンセシス追加による読影時間の延長も課題であるが,これを解決するソフトウエア“3DQuorum”が2020年にリリースされた。3DQuorumは,3Dの1mmスライス画像から6mm厚画像を再構成することで画像枚数を66%減少させ,読影時間の短縮を支援する。また,データ量も50%以上低減するため,表示速度の向上やデータ保管の負荷軽減にも寄与する。坂部長らは3DQuorumの非劣性読影試験を行い,データ解析を行っている最中で,今後の結果報告が待たれる。
検診現場の実情に即したトモシンセシス併用検診に期待
さまざまな検証を通してトモシンセシスの有用性を明らかにしてきた坂部長は,トモシンセシス併用検診の可能性に期待を示す。
「デジタルマンモグラフィの読影では線構造が重要で,その拾い上げにはトモシンセシスが非常に有効です。トモシンセシス併用は超音波併用ほどのインパクトはないかもしれませんが,私たちの研究では超音波にも迫るがん発見率を示しました。検診でトモシンセシスを併用する最大の利点は,1つのモダリティでできることです。検診はスループットが重要ですし,超音波併用検診では設備や人材を整える必要がありますが,トモシンセシスには2Dと同時に撮影できる大きなアドバンテージがあります」
ハードウエアとソフトウエアの技術により臨床で使いやすいトモシンセシスを提供するSelenia Dimensionsが,国内の乳がん検診・診療に貢献していくだろう。
(2021年10月7日取材)
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