2021-9-1
(ちの・しゅうすけ)1996年東京大学工学部卒業。
創業メンバーの一人として1998年ザイオソフト設立,
2012年から代表取締役社長
1998年創業のザイオソフト(株)は,高い製品開発力を背景に医用画像処理ワークステーションの分野で最先端を走ってきた。2010年に発売された医用画像処理ワークステーション「Ziostation2」は,人工知能(AI)技術を先取りした独自の“インテリジェンス技術”によって,膨大なデータのハンドリング,高度な計算処理や解析を可能にし,高速で信頼性の高い製品として定評を得ている。Ziostation2には,(株)日本HPのワークステーション「HP Z6 G4 Workstation」やNVIDIAのGPU(graphics processing unit)である「Quadro RTX 5000」が採用されている。代表取締役社長の茅野秀介氏に,医用画像処理ワークステーションの開発とハードウエアの関係についてインタビューした。
医用画像処理のベンチャー企業として1998年に創業
─会社の概要からおうかがいします。
当社は,医用画像処理の専業メーカーとして1998年に創業しました。私を含めてソフトウエア開発やハードウエアアーキテクチャなどの技術者が集まって立ち上げ,ちょうどその頃飛躍的に性能を向上させつつあったCTやMRIといった画像診断機器のデータを処理して,三次元画像を作成・表示する医用画像処理ワークステーション(以下,3DWS)を開発しました。
現在の主力製品は3DWSの「Ziostation2」です。CTやMRIの画像に対して,頭部や腹部,胸部などのさまざまな領域で,心機能解析,手術計画など用途別の多くのアプリケーションを搭載しているのが特長です。そこで核となっているのが当社独自の“インテリジェンス技術”です。今でこそAI技術を使った画像認識や解析技術が話題になっていますが,当社は創業当初から画像認識や自動解析に取り組み,いち早く製品に生かしてきました。2010年に発表した“PhyZiodynamics”は,独自の画像補完技術で画像データを処理し,3Dに時間軸を加えた“四次元”解析によって動態観察や計測,定量化を可能にしました。また,“RealiZe”では解剖学的情報やAI技術を組み合わせて,高度な画像認識によって,臓器や血管の精度の高い認識や自動抽出を可能にしています。これらをZiostation2のさまざまなアプリケーションに生かして,画像処理や解析の精度向上や画像作成業務の効率化を実現しています。
現在,日本をはじめ世界で20以上の国と地域に製品を出荷しており,これまで4000システム以上を販売しています。
─3DWSベンダーとしてのアドバンテージはどこですか。
3DWSは,実はさまざまな技術の集合体でもあります。画像認識や解析技術だけではなく,大容量データのハンドリングや表示スピード,検査目的に応じたワークフローなど,医療現場で要求される多種多様なニーズに合わせて作り上げていくことが必要です。また,3DWSで処理した結果や導き出された数値が,臨床的にどのような意味や価値を持つのかは臨床側の見識が必要です。そのために,当社では医療機関や先生方との共同研究や開発を20年以上にわたって続けてきました。そこに真摯に取り組み,継続してきたことが大きな財産となっています。
ハイパフォーマンスと高信頼性が求められる医療機器だからこそHPのワークステーションを選択
─HPのワークステーションはどのように使われていますか。
Ziostation2では,出荷時にハードウエアであるワークステーションにソフトウエアを設定して,医療機関に設置します。製品構成は,ユーザーの使用目的や用途によってさまざまです。例えば,院内でもCT室や読影室で画像処理から高度な解析までに使う場合と,医局や診察室などで参照を中心に使う場合では,CPUの数やメモリー容量,GPUのグレードまでパターンが異なります。それだけに一般的なPCではなく,高性能なワークステーションを選択しています。Ziostation2では,現在は「HP Z6 G4 Workstation」をメインに,グラフィックスボード(GPU)には「NVIDIA Quadro RTX 5000」から「NVIDIA Quadro P620」まで,使用する環境に合わせてさまざまなスペックで提供しています。HPのZシリーズは,発売当初から採用していますので10年以上のお付き合いになりますね。
─3DWSのハードウエアには何が求められますか。
医用画像処理は,もともと大容量のデータからの3D画像化に膨大な計算能力が必要でした。それに加えて最近では機械学習の推論や2つの画像の位置合わせ(レジストレーション)のような,いわゆる最適化問題などインテリジェンス機能にも高い処理性能が求められます。処理性能の使い方にも2つの方向性があって,1つは精度の向上で,複雑なアルゴリズムを繰り返したり,処理のステップ数を増やしたりすることで精度を向上させます。もう1つは処理時間の短縮で,例えばZiostation2の「IVRプランニング」ではCT画像から血管を抽出し出血部位などのターゲットまでの最短ルートを計算して,IVRによる塞栓術をサポートしますが,現場では速さも必要になります。
また,安定性と信頼性も重要な要素です。医療現場で日々使われるシステムとして,止まることなく安定して稼働することが求められます。ハードウエアに使われるパーツの信頼性や,全国のどこの医療機関にも故障時のサービスやメンテナンスを提供することも重要です。そういったものが,高いレベルでバランス良くパッケージされているのがHPのワークステーションです。個人的に付け加えるならば,3DWSにふさわしく筐体のデザインが格好良いことも気に入ってますね。
●高い処理能力を活用するZiostation2の代表的アプリケーション
画像処理だけでなく推論,学習などAI技術にはGPUの高い計算能力が必要
─GPUはどのように使われているのでしょうか。
製品においては,PhyZiodynamicsによる動態解析やRealiZeによる画像認識で,計算負荷の高い処理についてGPUを使用しています。そのほかに,画像化や最適化問題などにも内容に応じてGPUを使用しています。また,研究開発段階においても,特に機械学習では多くのデータに対して多量の計算処理を繰り返すので,GPUの高い処理能力を活用することでターン・アラウンド・タイムを短くすることは重要なポイントです。実際に,社内の開発環境にもGPUを搭載したWSが数多く稼働しています。
創業当初,一般的に3Dレンダリングで1枚の表示に秒単位の時間がかかっていた時に,われわれは汎用PCのCPUの能力を最大限に使って高速なレンダリングを可能にしてきました。機械学習などの手法を使ったインテリジェンス技術では,GPUの活用によって高速化が図れたり,製品に搭載することができるようになってきました。
CPUやGPUをはじめとするハードウエアは日々進化していますので,製品開発ではその方向性も見極めつつ,最適なプラットフォームを選択し,そのパワーをソフトウエア技術で引き出すことが求められます。そういった状況の中で,プロセッサを含めたハードウエアの情報提供や,安定した供給など,製品やサービス体制を含めてパートナーとして信頼できることが長いお付き合いにつながっているのだと思います。
自動化や新たな診断価値をもたらすインテリジェンス技術を医療現場に届ける
─最後に,これからの事業の方向性についておうかがいします。
医用画像処理は,今後,ますますインテリジェンス技術が求められてくると思います。それには2つのメリットがあります。1つは自動化です。Ziostation2の機能には,肺の動静脈を分離する“肺動静脈分離”がありますが,これは従来,診療放射線技師が手作業で時間をかけて行っていた負荷を軽減するものです。作成作業や処理を自動化することで,時間の短縮はもちろんですが,新たな解析や処理を加えたりといった診療の質の向上も期待できます。
もう1つは新たな診断価値の提供です。例えば,「CT心筋ECV解析」では,2種類の画像解析の結果に計算を加えることで細胞外容積分画(ECV)という数値を算出し,それを画像上にマッピングして診断に新しい指標を加えることができます。心臓の冠動脈解析は,現在では3DWSで当たり前のように行われるようになりました。これも心臓データの三次元処理に加えて,計測の自動化や処理アルゴリズムを組み合わせてブラッシュアップすることで普及したものです。同様に,インテリジェンス技術についてもうまくパッケージングすることで医用画像の応用範囲を広げ,診療の質の向上に役立つ機能を提供していくことがわれわれの目標です。
そのためには,ハードウエアも最新のCPUやGPUを搭載するだけでなく,それを快適に安定して稼働させ,安心して使っていただける製品が必要であり,その2つが両輪として機能することで,より良い医用画像処理ワークステーションを医療現場に届けることができます。それが最終的には患者さんのため,さらには安全で安心な社会の構築につながるのではと考えています。
ザイオソフト株式会社
1998年創業。99年国産初の3D医用画像処理ワークステーション「M900」を発売。2010年より発売の「Ziostation2」まで,世界20の国および地域・4000システム以上の実績を誇る。
東京都港区三田1-4-28
TEL 03-5427-1903
https://www.zio.co.jp