2021-2-1
富士通の電子カルテシステムのユーザー会である電子カルテフォーラム「利用の達人」は,2020年11月14日(土)にオンラインでOn-line TATSUJINスペシャル企画「導入事例共有会」を開催した。同フォーラムでは,ユーザー同士の情報共有を目的として年1回「導入/運用ノウハウ事例発表会」を開催してきたが,2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でオンラインでのイベントとなった。コロナ禍において新しい行動様式が求められる中で,システム活用事例を含めたさまざまな情報共有の場となった。
プログラムとしては,ユーザーによる事例発表9演題のほか,特別企画としてSpecial session「ニューノーマルが作り出す常識とヘルスケア」,Special talklive「これからの病院経営〜withコロナ時代だけじゃない,この荒波を乗りこなすためのヒント〜」などが行われた。また,配信の最後にはユーザー会員からの悩みや質問に,「利用の達人」の世話人が答える“TATSUJINラヂオ”のコーナーも設けられた。
5時間におよぶ配信の中から,Special talklive,Special sessionと事例発表7題をピックアップしてレポートする。
Special talkliveでは,済生会熊本病院や済生会横浜市東部病院で組織改革や経営改善に取り組んできた正木氏と,「利用の達人」副代表世話人でデータを活用した病院の経営企画に取り組む兵藤氏が,超高齢社会の到来に加えコロナ禍の大波にもまれる病院の舵取りの参考となるトークセッションを行った。
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厳しい病院の経営環境の現状を分析
まず,2つのキーワードについてのコメントからスタートした。最初のキーワードは「病院経営の現状を知る」。正木氏は病院の置かれている現状を次のように分析する。
正木「診療報酬はこの10年間で10%下がっている。支出では固定費(人件費)は変えられないので,収入だけが下がり続けている状態だ。一方で,高齢化は進んでいるが,患者数は増えていない。平均在院日数は短くなっており,済生会熊本病院では1995年には17.7日だったが現在は8日と半分以下になっている。病床数は変わらないので採算を取るには患者数を増やす必要がある。病床や人員の削減ではない,抜本的な取り組みが必要になっているのが現状だ」
兵藤氏は,医療機関を取り巻く課題として資金,役割,機能の3つを挙げ(図1),次のように現状を分析した。
兵藤「医療機関には,超高齢社会に対応した診療体制の構築,生産人口減少による働き方改革,COVID-19の流行で疫病・災害対応などBCPに向けた取り組みが求められている。さらに国の財政難から医療費削減の流れがある中で,医療機関は診療報酬の呪縛の中で資金調達をどうするかが課題となっている。その上で,対策を考えるには民間か,公的か,公立かといった病院の運営形態で求められる役割は異なる。また,急性期か,ポスト・サブアキュートか,回復期かといった病院の機能によっても課題は異なる。病院には以前からさまざま課題があったがコロナ禍で状況が加速度的に変化し,過去の経験則だけでは対応できなくなっている。地域のニーズを把握して,自院の役割や機能を見直すことが急務だ」
2つめのキーワードは,「立ち位置とビジョンを明確にする」。病院経営では,この2つが重要だと言われるが,必要なことは何か。
正木「地域になくてはならない病院になるには,ビジョンを全員で共有しチームとして一つになることが重要だ。職員全員が認識を一つにすることが必要で,計画がうまくいかない時には本当にチームができているかを再点検することで,新しいアイデアが出てくる。もう一つは,多職種によるチームになること,その時に一番大事なのは事務職である。事務職がチームに参加できていない医療機関が多い。事務職と臨床現場の乖離がプランを実行できない要因となっている」
兵藤「経営企画の立場からアドバイスしたいのは,プランを立てる時にPDCAのP(プラン)→D(実行)のPの段階で終わってしまって実行に至らないケースが多いことだ。最初から完璧な計画はなく,やってみなければわからないことも多い。一つの計画にこだわるのでなく,多くのPをつくって実行し,PDPD…を繰り返すことで,組み合わせや相乗効果が生まれて進むことがある。たくさんのプランを考えてPDを繰り返すことが大事だ」
コロナ禍の中での課題解決方法は?
COVID-19の感染拡大は医療経営にも多大な影響を与えている。収束が見えない中で,医療機関にはどのような対応が求められるのだろうか。
正木「従来は自院のことだけで良かったが,今後は地域全体を見て考えることが重要になる。急性期病院であれば,亜急性期や回復期の病院を含めた関係づくりが必要だ。従来のような急性期を主,それ以外が従ではなく,地域を支える仲間として一つの集合体となって機能させる努力が求められる。済生会熊本病院では,当時の須古博信院長(現・名誉院長)が医療・介護・福祉が集まったキャンパスをつくるという理念で,地域の関係づくりを進めた。平均在院日数の削減は,地域の協力なくしては不可能であり,それを考えることが必要だ」
兵藤「課題解決へのヒントとして,(1) 人・組織,(2) 道具・データ,(3) 地域共生の3つを挙げたい(図2)。(1) は人材育成はもちろんだが,その人材を組織としていかに生かすか,新しい発想を取り入れる組織文化をどうやってつくるかが重要になる。(2) はデータもまた道具の一種だと言える。タスクシフトが言われるが,RPAやAIを積極的に使って業務負担を軽減したり,データを生かすことも重要になる。そして(3) は地域連携がカギになるが,今後患者が高齢化すれば病院だけでなく地域の中でサービスの利用者になっていく。従来の連携は医療だけにフォーカスされていたが,そうなれば生活全般がサービスの対象になり,ショッピングセンターや地域支援センターなど事業領域が拡大して,医療以外のプレーヤーの参入などビジネスチャンスが広がっていく。さらに,今回のコロナ禍では地域の診療所の先生方の状況も変わってきている。そこをサポートすることで地域との関係を拡大する余地があるのではないか」
政府の方針として,地域包括ケアシステムが進められている中で,今後,医療機関の立ち位置に変化はあるのだろうか。
正木「地域包括ケアは,まさに地域でチームをつくることである。医療だけでなく,介護・福祉との連携を考えて地域全体がいきいきとする関係を構築することが重要になる。その時にもやはり病院の事務職が動いて医療から働きかけることが大事になる。今の電子カルテシステムからはさまざまなデータを取り出すことができる。今までチームの中で事務職には道具がなかったが,このデータは事務職にとって強力な武器になる。これを持って参加することが必要だと期待している」
データを活用して地域のニーズに対応
データ活用のためのコストや,そのための人材育成はどのように考えて進めればよいのだろうか。
兵藤「データ活用は,診療報酬には直接つながらないので投資するのは難しい。しかし,組織や地域共生を生かすためには,データ活用の環境構築は絶対に必要だ。その必要性を病院の経営陣に訴求するしかない。また,システムを提案するベンダー側にも,病院側が導入しやすくなるような提案をお願いしたい。分析だけでなく活用しやすい,使いやすいデータを出せるところまでフォローする仕組みを提供してほしい」
正木「データを活用するためには電子カルテシステムが絶対に必要であり,それを活用できる人材を育成することは当然のことだ。これまで医療界では,事務職への教育には無関心だったが,今後,病院経営にICTが必須なことは明らかであり,それを使える人材を育てることは急務だ。コロナ禍の今だからこそ力を入れる必要がある」
最後に,医療機関に向けたメッセージで締めくくった。
正木「この先,病院が生き残っていくためには地域が重要になる。どんなに素晴らしい病院でも,東京から熊本に患者さんは来ない。地域の住民に役立ち,評価される病院づくりをすることが重要になる。そこではやはり地域性を大事にしながら,病院や地域におけるチームづくりを考えてほしい」
兵藤「事務部門が病院組織の中で,データを出したり業務改善の部分を担うことでさらに評価は高まる。それを評価できる組織としての文化をつくっていくことが大事だと考えている」
日本の働き方改革は,2019年4月の「働き方改革関連法」施行で,大企業のみならず中小企業を含めた全企業の課題である。さらに,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大をきっかけに,働き方に根本的な改革が求められた。移動や接触の制限などの制約は,新たな価値を生み出した。その背景にあるのが“デジタルトランスフォーメーション(DX)”である。
DX先進国の中国では,COVID-19の感染が広がる状況下で多くの先進事例が生まれた。例えば,オフィスワーカーの8割以上が在宅勤務し,400万人の教員がオンライン授業を実施している。ドローンや配達ロボット,遠隔運転を利用した無人の対応も進んでいる。また,武漢で10日間で完成した1000床規模のCOVID-19専用病院では,5Gによる院内の高速無線ネットワークが3日間で,院内スーパーは1日で開店し,無人決済システムが5時間で構築されるなど,デジタルテクノロジーは未知の速度での対応を可能にした。
一方,日本では2020年4月にCOVID-19に対する緊急事態宣言が出され,さまざまな行動制限が求められた。富士通では,ニューノーマル時代の働き方に対処すべく“Work Life Shift”に取り組んでいる。「場所」に依存しない働き方として在宅勤務へのシフト,単身赴任の解消,拠点のリロケーション(分散,完全フリーアドレス化)などを進めている。また,「時間」に依存しない働き方では,コアタイムのないフレックスの適用,スマートフォンの支給を実施した。さらに,「能力」が発揮できる働き方として,自立的・計画的に働ける人材転換をめざし,“ジョブ型”を幹部社員から導入し,順次一般社員へも拡大している。
働き方の変化に合わせ社内のデジタル環境も,“トラストネットワーク”から“ゼロトラスト”へのシフトを進めている。従来のVPNでのイントラネットへの接続から,直接クラウドに,安全にアクセスできる“ゼロトラスト”を国内からスタートし,全世界への拡大を進めている。
DXへの対応は,COVID-19下の医療現場でも求められる。感染リスクと向き合う中で,常識にとらわれないデジタル化が必要となる。例えば,SNSやオンライン会議,スマートフォンを用いて会議や事務処理を場所にとらわれずに可能にすること。デジタル化された聴診器を用いた遠隔診療や“音”のAI分析による判断の導入,院内ではRFIDやAIカメラを活用した業務の効率化や医療安全の向上などが期待される。
デジタルでできることはデジタルに任せ,人は人にしかできない仕事に集中することで,働き方を大きく変えられる。“変化はチャンス”ととらえて,医療現場の働き方改革を支援していく。
当院は,2019年度実績で救急外来患者数が約3万人,救急搬送患者数が約1万人,救急応需率は98.8%と断らない救急を実践している。休日・夜間の救命救急センターの診療は,研修医を中心に内科・外科系当直医が担当しており,診断に迷う場合や専門的治療が必要な場合は自宅待機している各診療科の専門医と連携する必要がある。しかし,院外にいる専門医はカルテを閲覧できず,上申は電話で行うため情報が不足し,専門医は患者の容態をしっかり把握できないまま来院することになり,対応に時間を要していた。
そこで,2017年のHOPE EGMAIN-GX更新と同時にHOPE PocketChart を導入した。PocketChartの院外機能を活用することで,院外から医師などの記事だけでなく,検査結果や処方,画像,経過表などの任意の診療情報が閲覧できるとともに,カルテ記載が可能になる。セキュリティ面では,VPN,利用者認証だけでなく,端末認証により紛失時などには端末へのアクセス制限が可能だ。画像以外の診療情報はHTML表示で内部データはなく,画像データはログオフ時に削除されるため安心して利用できる。
当院では,PocketChartを呼吸器内科,脳神経内科,脳神経外科,外科,血管外科が使用している。10ライセンスしか契約していないため,診療科により台数にバラツキがある点や休日が連続すると診療科内の端末受け渡しが煩雑になる点は運用課題であるが,脳卒中などの救急患者の画像診断,入院患者の状態把握や指示,新型コロナウイルス感染症の画像診断などに有効活用している。
また,診療の面においても課題はある。五感を使用した理学所見は取得できず,カルテに取り込まれていない心電図などの部門システムのデータは閲覧できない(SS-MIX 2標準化ストレージを実装すれば可能)。DICOM画像については,JPEG 形式となるため動画は閲覧できず,コントラスト調整しかできないため目的部位に応じた処理された画像が必要となる。ハード面においては,端末のバージョンアップに対してサーバ側のバージョンアップが必要なことや,外部サーバをHumanBridgeと相乗りさせている場合にはメンテナンス時や障害時に相互に影響することに留意が必要だ。
PocketChartの院外機能はこうした課題を抱える一方,医師は自宅や学会など遠方にいてもカルテ閲覧やプログレスノートの記載を活用することで患者の状態を把握できるとともに,コンサルテーションもシームレスに実施でき,医療の質向上につながる。また,代行オーダの承認業務などを隙間時間に有効的に活用することにより,2024年に向けた医師の働き方改革の一助になると考える。
当院は,特定機能病院や都道府県がん診療拠点病院などの機能を担い,病床数は686床,2019年度の平均外来患者数は1766人/日,手術件数は8818件/年である。新型コロナウイルス感染症の流行により受診控えが進む一方で,がん専門病院である当院では,診察・治療・処置の継続を希望する患者も多い。そこで,安全な診療を継続するため,スクリーニング外来を設置した。
当院は,現時点ではPCR検査の結果を院内で出すことができない。そのため同外来は,問診と検体採取を行うPCR当番医師を各1名,バイタルサイン測定や状態観察,採血などを行う看護師を1〜3名,検体搬送や患者搬送補助を行う助手を1〜2名配置した。6月22日〜10月30日までの期間中,受付患者数は615名で,そのうち260件(42%)にPCR検査を実施し,320件は通常診療戻りとなった。
運用に当たり,本来の病院入り口とは別に専用の入り口と診察室を設置した。また,当院は従来から電話による事前の症状問い合わせが多いことから,今回のスクリーニング外来の設置に伴い,電話問い合わせの際に3日以内の発熱(37.5℃以上)の有無など,スクリーニング項目を聞き取り,該当者にはスクリーニング外来の受診を促す案内を開始した。また,電話内容の記録には,記録内容や形式を統一した,通常の「電話症状問い合わせテンプレート」を活用することとした。
実運用開始後は,事前の案内にもかかわらず,患者が通常の入り口を通り,院内に入ってしまうケースが続出した。そこで,電話問い合わせ時に,該当者は再来受付機で受け付けできないよう設定した結果,患者が誤って院内に立ち入ってしまうことはなくなった。
またスクリーニング外来では,看護師によるバイタルサイン測定・状態観察後,問診による診察やCT撮影,感染対策部へのコンサルトを経て,必要に応じてPCR検査を行う。多職種での運用となるため,タイムリーな情報共有が不可欠であると同時に,スクリーニング外来へのスタッフ立ち入りを必要最低限に抑える必要があり,電子カルテでの情報共有が必須となる。そこで,スクリーニング外来テンプレートを作成し,医師と看護師が同じテンプレートに記載するようにした結果,カルテ確認の際の情報がまとめられ,遠隔からの多職種での情報共有やデータ収集を容易に行うことができた。
今後は,スクリーニング外来でPCR検査とインフルエンザ検査を同時に行うことを予定しており,患者数の増加や室内での長時間滞在が懸念される。そのため,迅速に検査結果を確認し,患者に説明するシステムの構築を検討中である。
HumanBridgeの病診連携以外での活用として,リモートカルテとリモートSDVの事例を紹介する。
当院では,2019年4月に2診療科の夜間体制が各科当直から23時帰宅の自宅待機に変更されたことを機に,院外から画像やカルテを閲覧するシステムの導入を検討した。すでに稼働しているHumanBridgeのリモートカルテが追加費用なしで使用できることから,iPad 3台を回線契約し,同年12月から整形外科,一般消化器外科,呼吸器内科で利用を開始した。HumanBridgeをリモートカルテとして利用する場合には,病診連携の運用と異なり,閲覧対象カルテや閲覧期間に制限はない。導入に当たっては運用規約・運用細則を作成し,SNSやフリーWi-Fiの無効化,利用者講習を必須化するなどの対策をとった。また,独自に簡易マニュアルも作成した。2020年6月からは,使用頻度が低かった2台を回収して希望する診療科に約1か月交代で貸与している。
利用状況は,16時台〜0時台や早朝,休日日中が多い。最も閲覧数が多い呼吸器内科からは,救急外来からの肺炎患者のコンサルテーションで結核を否定できれば出勤せずにすむと高く評価されている。次いで利用が多い移植外科は,患者から医師に直接問い合わせる運用があることと,経過表で術後の状態把握をしているためと思われる。なお,iPadの契約は1GB/月の安価なプランで十分である。オーダ登録やカルテへの書き込みはできないため,閲覧のみと割り切って運用し,指示は電話で行っている。今後,iPadOS版での機能制約の解消やログ出力関連の改善を期待している。
もう一つのリモートSDVは,治験依頼者から指名されたモニターがカルテなどの原資料を直接閲覧して照合・検証を行うSDV(source document/data verification)をリモートで行うものである。通常はモニターが遠方の勤務地から当院まで出張してカルテを閲覧するが,コロナ禍に伴う移動制限で2020年3月にSDVが停止したためHumanBridgeを使ったリモートSDVを検討した。規約や各種申請書を作成し,院内の作業分担を決め,7月から試験運用を開始した。リモートSDVでは,閲覧対象カルテを当該治験課題の治験患者に限定し,閲覧期間は治験予定期間とした。治験依頼者からの各種申請を治験事務局で集約し,HumanBridgeへの登録は地域連携室で,使用端末の設定やユニバーサルコネクトIDの割り当ては情報システム室で行っている。10月末までの利用はモニターが1名,被験者は4名,閲覧実日数は7日間だった。
両機能ともHumanBridgeが稼働していれば追加費用なく利用できることから,さまざまな活用方法が期待される。
当院の病床数は712床(うち,一般病床は662床)で,2019年度の病床稼働率は84.5%,平均在院日数は10.4日であり,患者総合支援センター内の病床管理室でベッドコントロールを行っている。一般的なベッドコントロール業務として,救急外来や一般外来からの入院,他院からの緊急入院に際してのベッド調整と確保,救命センターから一般病棟への転棟・転出,入退院患者数の把握と調整,予約入院のベッド調整などを行っている。しかし当院では,入院に関する制限は設けておらず,例えば外科系の診療科では,手術枠の決定が優先されているのが実情である。
当院は,2018年1月にシステムをHOPE EGMAIN-GXからHOPE LifeMark-HXに切り替え,運用を行っている。いずれも病床管理機能やベッドコントロール機能などが標準機能として搭載されており,これらの機能は非常にレスポンスが良く,病床管理機能では画面を開いた瞬間に入退院人数や空室などを把握することができる。しかし,入退院の移動オーダが決定処理されないと画面に反映されず,ベッドキープも空床扱いになるなどの問題があった。そこに退院許可オーダが遅いというユーザー側の課題も重なり,「いつ,どこの病棟でどの部屋が空きそうか」がわからないのが実情であった。そこで,看護部からの要望もあり,オプションの空床管理マップを導入した。
空床管理マップは,退院情報や入院・退院予定一覧,空床検索が一画面で表示される。このうち退院情報は,退院許可やクリニカルパスの適用日数,入院申し込みオーダ時の推定入院期間などに基づいて表示される。クリニカルパス適用率などで有用性が左右されるものの,退院見込みがわかるのは運用上大きなメリットである。また,空床検索も同一画面で操作でき,部屋別にわかりやすく表示されるほか,1クリックでカルテ画面が起動できる点が便利である。
一方,空床管理マップへの要望としては,(1) マップ上で実際の病室の位置が表示されず,わかりにくい,(2) カーソルを合わせないと名前が表示されない,(3) 空床検索できる未来日が翌日のみ,(4) レスポンスが悪い,などの点について改善が望まれる。また,DPC入院期間や残日数などの表示機能があれば,より望ましいのでないかと考えている。
なお,LifeMark-HXの患者横断検索では,「退院予定」などをキーワードにプログレスノートを検索し,診療計画情報を確認することで,退院許可オーダが出ていない場合も空床管理を行うことが可能である。この方法は,診療録がpoorな医師の場合は効果がないが,患者横断検索は標準機能であるため,活用が勧められる。
当院は,2017年1月に他社の電子カルテシステムから富士通のHOPE EGMAIN-GX V8に変更したことを機に,感染管理支援ライブラリを導入した。以前の電子カルテシステムでは,院内ラウンドや環境ラウンド後の資料作成と記録入力に時間を要した。また,感染対策に必要なデータが分散しているため,データ収集や統計作業に手間を要するという課題が感染管理認定看護師から指摘されていた。
しかし,同ライブラリ導入後は,それらの課題が解消された。特に感染対策に必要なデータ収集と統計作業が便利となり,JANIS提出形式のファイルが容易に作成できるようになった。また,感染症にかかわる情報の共有や,対象菌検出やアウトブレイク発生を感染対策チーム,主治医,看護師間で共有することが可能となった。同時に,感染症発症患者と同室者の情報を取得でき,追跡が容易となった。さらに,デバイスサーベイランス対象患者の把握がしやすくなり,カテーテル挿入日や抜去日,感染判定結果などがデバイスサーベイランス一覧上で確認できるようになったため,進行状況の確認が容易になるなどの利点が生じた。
一方,環境ラウンド時に撮影した写真をシステム内に取り込むことができないため,各部署へのフィードバック資料を作成する際には,別のPCでの作業が必要になる。また,SSIサーベイランス入力時に,周術期患者情報管理システム「ORSYS」(フィリップス社製)と連携がとれないため,手術日や手術時間などを手入力する必要があるといった課題が挙がった。
さらに,当院における同ライブラリの使用状況を把握するため,職種ごとのアクセス履歴の解析や,病棟看護師(以下,看護師)を対象としたアンケート調査を行った。アクセス履歴の解析では,薬剤師と検査技師のICTチーム員のみが,一部の項目のみにアクセスが集中していることが確認された。アンケート調査の結果からは,看護師の72%が同ライブラリの存在を知らず,存在を知っていた看護師も含め,全体の約90%の看護師が同ライブラリを使用したことがないことが明らかとなった。これは,看護部内で同ライブラリへの周知が不十分であることが要因と考えられた。同ライブラリを使用したことがある看護師の使用目的と項目は,(1) SSIサーベイランス対象患者の管理のためにサーベイランス一覧を使用,(2) 中心静脈カテーテル挿入・抜去後の管理のために感染病棟マップを使用,(3) 院内ラウンドのために使用,の3点が挙げられたが,それら以外の目的ではほぼ使用されていなかった。
これらから,今後は全職種が同ライブラリの必要性と同時に,利便性も感じるものにすることが課題として明らかとなった。
当院は,2018年に内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」の開発・実装施設として採択され, 2020年3月に同プログラムの患者医療情報の統合表示の一環として,富士通のHOPE LifeMark-GRIDを導入した。GRIDは,事前に設定した内容に従い縦軸(対象患者)と横軸(情報)を自由に組み合わせて一覧にできるシステムで,軸の交点をクリックすると詳細情報の閲覧が可能である。GRID は,当院で稼働しているHOPE EGMAIN-GXとの親和性が高く,詳細の閲覧では電子カルテ内の情報だけでなく,電子カルテを経由して部門システムの情報も一部閲覧できる。
当院では,GRID導入に当たって医師・看護師・クラーク・医事部門などにヒアリングを行い,モデルケースとして初期セットを8つ作成して構築。その後,現場の要望に応じて独自に4つの業務セットを設定した。初期セットでは,縦軸に「ユーザーの所属病棟入院患者」や「当日手術予定患者」などを,横軸に「入院時必須の文書リスト」「手術前必須文書リスト」「医事の算定チェック」を設定して,必要な情報や文書の入力・取り込みができているかを患者横断的にチェックできるようにした。また,追加したものとしては,病棟をまたいで対応するクラークなどのために縦軸に「端末の設定病棟入院患者」を設定したほか,横軸には「退院支援状況確認リスト」「カンファレンス記録一覧」「身体抑制患者チェックリスト」などを作成した。
GRIDの利用が適している業務は, (1) 業務上必須事項の漏れがないかを確認する,(2) 特定の範囲において特異的な事象が起きていないかを確認するの2つに大別できる。(2) の活用例としては,医療安全管理部が身体的拘束患者をピックアップする際などに役立つ。ただし,ミスや記入漏れが恒常化している業務では手直しをする必要が生じるため,最初からカルテを開いた方が早いという意見もあり,この場合には,まず記入漏れをなくす改善活動が必要だろう。一方,当院でGRIDが有用だった例では,次営業日の外来予約患者の診療情報,算定状況やオーダ状況などの把握がある。以前は看護師が毎日手作業で情報を集約していたため,大幅な業務効率化を図れた。予約患者のうち実際にカルテを確認すべき患者は限られるが,カルテを開けないと該当患者かわからないため,このような業務においてGRIDは非常に有効である。GRIDは“現時点での情報”を取得できる点で現場業務に向いており,今後,看護系データの取得や,施設側での設定が柔軟になれば,さらに利便性が向上するだろう。
佐渡総合病院では,2011年に導入した電子カルテシステムHOPE EGMAIN-GXを2018年に更新し,統合データ管理システムHOPE LifeMark-VNAを導入した。電子カルテは今や病院に必須のシステムだが,導入・維持・更新の費用が高額なことが課題である。電子カルテを中核とする病院情報システム(HIS)は部門システムの複合体で,その更新には部門システムごとのデータ移行が必要である。また,電子カルテではアクセスしない情報は目に入らず,情報が部門ごとに分散する状態は見落としリスクを高め,業務の効率化を大きく低下させる。
そこでVNA(vendor neutral archive)の導入を検討した。VNAは簡単に言えばデータを一つの箱にまとめて入れるもので,部門システムで個別に行っていたデータの格納と参照を統合管理する仕組みである。旧システムでは,部門システムごとにデータ格納機能(ストレージ)とデータ参照機能(ビューワ)を持ち,サーバも無停電電源装置(UPS)も個別に設置されていた。VNAでは,部門システムは原則ストレージを持たず,ビューワもVNAに統一される。サーバやUPSも統合することが可能で,ハードウエア,ソフトウエアの削減と患者情報の俯瞰的表示の強化が期待できる。
今回の導入では,VNAベンダを指名型プロポーザル協議で決定し,電子カルテと同様に富士通となった。導入時の課題が,部門システムベンダの参加と協力である。VNAはまだ実績が少なく,新規参入の部門システムベンダにとって参加のハードルが高い。そこで,関連ベンダに当院の構想とVNAの将来性を説明して協力を要請し,さらに今回のVNA導入を実証・検証フィールドと考え初期不具合を容認するのでチャレンジしてほしいと提案した。
実際の導入では,PACS以外の各部門システムにデータの格納,参照機能が残ったが,VNAでのデータ格納と参照機能の統合化は実現し,さらに電子カルテの“マルチカルテビューア”の中にVNAの“ユニバーサルビューア”を組み込むことで,画像やレポートの内容をそのまま表示して参照が可能になった。当初目標とした構成には到達できなかったが,部門システムのVNAとの一体化や,サーバやUPSの一元化によるコスト削減,マルチカルテビューア+ユニバーサルビューアによる情報の俯瞰的表示などは実現できた。
VNAは,技術的に病院グループ内や地域での応用や展開が可能であり,地域での医療情報の共有も実現できる。VNAは,超高齢社会の到来で病院運営が困難になる中でブレイクスルーとなり得るICT技術であり,今後の発展を期待している。