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医療におけるAIの社会実装を加速させるNVIDIAのGPU 
世界8か国の医療機関がCOVID-19患者の酸素需要予測AIを共同開発するなど,最前線で医療を支えるAIコンピューティング技術の最新動向ヘルスケアの未来を築く深層学習とGPUコンピューティングの最前線

2021-1-5

NVIDIA

人工知能(AI)が社会に大きな変革をもたらしている。なかでも医療では,AI技術を用いた医療機器・ソフトウエアが数多く世に送り出され,臨床現場の最前線で活躍している。AIの研究開発で重要な役割を担うのがGPUだ。このGPUのマーケットでシェアトップを独走するNVIDIAは,AIの社会実装に向け,GPUをベースとした開発環境を提供している。NVIDIAの取り組みから,AIが医療をどのように変えるのかを展望した。

画像診断装置にもGPUの力

第三次AIブームといわれる現在,そのブームの原動力となったのが,技術革新によるアルゴリズムの開発とビッグデータの蓄積,そして,コンピュータパワーの向上である。神経細胞をモデルにしたアルゴリズムであるディープラーニングが開発されたことで,かつてのAIブームで用いられたアルゴリズムとは異なり,飛躍的に学習能力が向上した。しかし,ビッグデータを用いるディープラーニングには,強力なコンピュータパワーが求められる。それに応える高度な演算処理性能を有するのがGPUだ。コンピュータの演算処理装置は,これまでCPUが主流であり,GPUは画像処理の演算を担うプロセッサであった。しかし,逐次処理で演算するCPUは,膨大なデータを用いるディープラーニングの場合,処理に時間がかかってしまう。一方で,GPUは,並列処理で演算するため,ディープラーニングも高速に行えるという特長がある。NVIDIAは,GPUの世界ナンバーワンのシェアを持ち,現在のAIブームを牽引してきたと言っても過言ではない。そして,医療におけるAIの社会実装にも,NVIDIAのGPUが大きな役割を担っている。
実は,NVIDIAの医療へのアプローチは,AIの研究開発に始まったわけでない。NVIDIAのGPUは,10年以上前から,CTやMRI,超音波診断装置といった画像診断装置に搭載されてきた。画像診断装置の高性能化に伴って発生するデータ量が増大する中で,CTの逐次近似画像再構成などの高度な画像処理をNVIDIAのGPUが支えているのである。

医用画像向けプラットフォーム「NVIDIA Clara Imaging」

NVIDIAでは,ヘルスケア分野をはじめとした各産業に向けて,AIの研究開発に最適なGPU製品を用意している。ラインアップには,データセンターでの大規模なAI研究開発を行うための「DGX」シリーズ,クラウドにおける高速処理サーバ用の「HGX」シリーズ,企業や医療機関,研究機関で高性能なサーバで研究開発を行うための「EGX」シリーズ,医療機器やロボットなどにAIを組み込むための「AGX」シリーズがある。
さらに,NVIDIAでは,これらのGPUをベースに産業分野別にAIの研究開発を行うためのソフトウエアなどのプラットフォームを用意している。ヘルスケア分野に向けては,「NVIDIA Clara」を提供している。NVIDIA Claraには,医用画像向けのNVIDIA Clara Imaging,ゲノミクスを対象とした「NVIDIA Parabricks」,スマートホスピタルを実現するための「NVIDIA Clara Guardian」,そして2020年10月に行われた同社イベントであるGTC 2020で発表された創薬のための「NVIDIA Clara Discovery」がある(図1)。新たに加えられたNVIDIA Clara Discoveryは,スマート創薬のためのアプリケーションフレームワークを提供する。GTC 2020では,グラクソ・スミスクライン(GSK)社と提携し,このアプリケーションフレームワークを用いて薬剤・ワクチン開発を行うことが発表された。
医用画像向けのNVIDIA Clara Imagingは,2018年から提供が開始された(図2)。「Clara Train SDK」「Clara Deploy SDK」「Clara AGX」が用意されている。Clara Train SDKは,研究者や開発者をユーザーに想定しており,事前学習ずみのモデルのライブラリを用いて,アプリケーションの開発を行える。さらに,開発に当たっては,高速なアノテーション処理が可能な「Clara AIAA」,多施設間での分散型連合学習を実現する「Clara Federated Learning」(図3),自動機械学習により短時間での高精度なモデル生成を行う「Clara Auto ML」といった機能を利用できる。さらに,Clara Train SDKで開発されたAIモデルを基に,アプリケーションとして展開するのが,Clara Deploy SDKである。Clara Deploy SDKでは,「Clara Pipelines」「Clara Platform」「Visualization & UI」が用意され,アプリケーション上で,画像のセグメンテーションや画像再構成,レンダリングなどの処理を行えるようにする。また,Clara AGXは,画像診断装置などの医療機器にAIを組み込むための開発者向けのプラットフォームである。

図1 ヘルスケア分野向けプラットフォーム「NVIDIA Clara」

図1 ヘルスケア分野向けプラットフォーム「NVIDIA Clara」

 

図2 医用画像のAI研究開発を効率化する「NVIDIA Clara Imaging」

図2 医用画像のAI研究開発を効率化する「NVIDIA Clara Imaging」

 

図3 分散型連合学習を可能にする「Clara Federated Learning」

図3 分散型連合学習を可能にする「Clara Federated Learning」

 

COVID-19患者の酸素需要予測が可能に

世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが続く中,研究者や臨床家は,寸暇を惜しんで研究・診療に取り組み,見えない敵と対峙している。そして,この戦いの最前線でも,NVIDIAのAIコンピューティング技術が活躍している。GTC 2020の初日10月5日には,マサチューセッツ総合病院や日本の自衛隊中央病院など全世界8か国20の医療機関が,Clara Federated Learningによる分散型連合学習を行い,わずか20日間でCOVID-19患者の酸素需要予測AIのモデルを作成したことが発表された(図4)。この研究では,参加医療機関がそれぞれの施設で,NVIDIA Clara Imagingを用いて,胸部X線画像とバイタルデータなどを組み合わせたローカルモデルでトレーニングを行った。その上で,Clara Federated Learningによって,モデルの重み(重要度)のサブセットだけをグローバルモデルと共有させた。このプロセスを何回も繰り返すことにより,最後に作成した「EXAM(EMR CXR AI Model)」は,AUC=0.94という非常に高い精度でCOVID-19患者の酸素需要予測を可能にした。このEXAMは,「NVIDIA NGC」から利用可能である。
さらに,COVID-19に関しては,自衛隊中央病院との間で,CT画像と臨床データなどを利用した重症化予測のAIについても共同研究を進めている。この共同研究では,胸部CT画像から肺野のマスク処理などの画像処理にNVIDIA Clara Imagingが用いられており,ディープラーニングと臨床データを組み合わせて,高精度の重症化予測をめざしている。
このほかにも,日本国内でのNVIDIA Clara Imagingの注目は高まっている。大阪大学大学院歯学研究科の平岡慎一郎助教は,口腔がんの早期発見を支援するAIモデルの研究開発を推進しており,2018年,共同研究機関からの協力を得て,AIの学習に必要となる口腔粘膜疾患写真を約3万枚収集した。これは同分野の研究において世界屈指の規模を誇るデータ量であり,NVIDIAはこの段階から,大規模な学習データをより効率的に精度向上させるための支援を行っている。すでに,悪性腫瘍の検出分類において高精度なAIモデルを作成したが,社会実装のためにさらなる精度の向上をめざし,2020年9月にNVIDIAと共同研究の契約を締結。NVIDIAからのさらなる技術支援,およびNVIDIA Clara Imagingも活用する予定だ。口腔粘膜疾患の領域でのこのような高精度のAIモデルは世界的に見ても前例がなく,その成果に大きな期待が寄せられている。

図4 COVID-19の酸素需要予測AIを20日間で開発

図4 COVID-19の酸素需要予測AIを20日間で開発

 

最新のアノテーションツールを提供する「MONAI」が本格稼働

医療におけるAIの社会実装を支えているNVIDIAであるが,2020年11月29日〜12月5日に開催された放射線医学の世界最大級の学術集会である第106回北米放射線学会(RSNA 2020)に合わせて,2つの大きな発表を行った。1つは,オープンソースフレームワークであるMONAIの本稼働がスタートすること,もう1つは,医療機器への組み込み用のClara AGXに高性能AI開発キットが登場したことである。このうち,MONAIは,オープンソースのライブラリであるPyTorchをベースとした医用画像処理のフレームワークで,NVIDIA Claraに新たに加えられた。2020年4月の発表以降,ドイツがん研究センター,キングス・カレッジ・ロンドン,マサチューセッツ総合病院などが,MONAIを採用している。MONAIでは,20以上の学習ずみモデルや最新の「NVIDIA DGX A100」に最適化したトレーニング性能が提供されるほか,最新のアノテーションツールである「DeepGrow 3D」を利用できるようになる。DeepGrow3Dでは,ラベルづけや臓器のセグメンテーションを容易に行え,研究開発の効率化・短縮化に寄与する。

AIの社会実装による日本の医療の課題解決に期待

このように,AIの社会実装に向けて,新たな技術を矢継ぎ早に研究者や開発者,臨床家の下へ届けられるのが,NVIDIAの最大の強みと言える。COVID-19だけでなく,日本の医療は,少子・超高齢社会の進展,医療費の増大化,医師の働き方改革など,多くの課題を抱えており,これらの課題の解決に向け,AIの活躍の場が広がっていくと予想される。それだけに,NVIDIAのAIコンピューティング技術に今後も注目していく必要があるだろう。

NVIDIA Japan 各種お問い合わせ
https://nvj-inquiry.jp/