2020-11-2
医用画像管理にかかわる人々が集うPACS Innovation研究会では,コロナ禍の中,活発にWebセミナーを実施し,最新技術の情報共有,交流を図っている。2020年9月24日(木)には,「PACS Innovation研究会Webセミナー2nd」を開催。「最新トレンドを知る!!」をテーマに,医用画像管理においても今後重要な技術となる人工知能(AI)についてベンダー2社による講演が行われ,知見を広げる機会となった。
医療AIをリードする2社が講演
PACS Innovation研究会は,「めまぐるしい進歩を遂げる医療システムの最新の情報を提供できる場を提供する」「ベンダー各社とユーザーのより良い関係を築くことを目的とする」「施設間のつながりを持てる場を提供する」場として,年1,2回開催してきた。コロナ禍の中,2020年度は主にオンラインでの活動に移行。Webセミナーを精力的に開催している。「PACS Innovation研究会Webセミナー2nd」では,医療AIをリードする,NVIDIAとGEヘルスケア・ジャパンの担当者による講演2題と,機器紹介プレゼンテーションとして両社に加えEIZOの情報提供が用意された。
NVIDIAの最新AI技術を紹介
セミナーでは,代表世話人の池田龍二氏(熊本大学病院)の挨拶に続き,エヌビディア エンタープライズ事業本部 シニアマネージャー ヘルスケアビジネスデベロップメントの小野 誠氏が「医療AIを実現するエヌビディア最新製品のご紹介」と題し情報提供を行った。小野氏は,「NVIDIA 仮想GPU(vGPU)」による仮想デスクトップ環境やAI開発用向けの「NVIDIA DGX A100」などを紹介した。さらに,講演として,エヌビディア ディープラーニングソリューションアーキテクトの阮 佩穎(Colleen Ruan)氏が,「NVIDIAにおける医療AIの取り組み─人工知能で放射線医学をサポート─」をテーマに,「NVIDIA Clara Imaging」や「NVIDIA Clara Guardian」などの解説を行った。
今回は,9月10日の時点で定員に達し,申し込みが締め切られるなど,医療AIに対する注目度の高さがうかがえた。lecture
では,阮氏の講演をダイジェストで紹介する。
Interview
PACS Innovation研究会代表世話人・池田龍二氏に聞く
AIなど未来のPACSを実現するイノベーションに期待
PACSの将来像を考える上で,AIは重要な技術。ベンダー各社には,AIを用いた解析処理の自動化など新たな技術を用いた差別化が求められる。
VNAなどの技術が登場するも,その普及が遅れているのがPACSの課題
─現在のPACSについてどのような見解をお持ちですか。
池田氏:PACS Innovation研究会が設立された2010年以降,VNAなどの新技術が登場していますが,臨床現場でのPACSはほとんど進歩していないのが課題です。当研究会も,新しい技術を普及させるための活動をしていきたいと考えています。そこで今回は,医用画像管理にも大きくかかわってくるAIを取り上げました。
安全かつ効率的な「Clara Federated Learning」に注目
─PACSにおけるAIについてどのようにお考えですか。
池田氏:2つの側面があります。1つは,AIを開発するために,PACSに蓄積されている画像を教師画像に用いるという研究開発の側面です。研究開発用に画像を提供するためには,過去画像も含め,すべてのデータをPACSに保存し,構造化された所見データなどを連携するのが理想です。そして,これらの膨大なデータを他施設と連携し,安全かつ効率的にAIの研究開発を行うには,NVIDIAの「Clara Federated Learning」のような連合学習の仕組みが良いと思います。また,もう1つの側面としては,日常診療で使う画像ビューワへのAIの実装があります。類似症例を自動的に表示させたり,自動的に解析処理を行ったりすることで,業務効率が向上して画像処理や読影時間などが大幅に短縮されるでしょう。
AIの実装などベンダー各社はPACSの差別化を
─NVIDIAへの期待をお聞かせください。
池田氏:従来,日常の診療業務と並行してAIの研究開発に携わるのは困難でしたが,「NVIDIA Clara Imaging」によりその敷居が低くなると期待しています。また,「NVIDIA Clara Guardian」の事例のように,体温スクリーニングや非接触の制御などは,検査での感染症防止対策などにも有効です。このような医療安全に貢献するAIへのニーズもますます高まるでしょう。
─PACSの将来像をお聞かせください。
池田氏:これからのPACSを考える上で,AIは重要な技術の一つです。ベンダー各社には,AIによる自動化やクラウドによるデータ保存の階層化,仮想化,RPAなど,新しい技術を用いた差別化が求められるでしょう。私たちも未来のPACSを実現するイノベーションに期待しています。
(2020年9月29日取材)
lecture
NVIDIAにおける医療AIの取り組み
—人工知能で放射線医学をサポート—
阮 佩穎(Colleen Ruan)(エヌビディア シニア ディープラーニング ソリューション アーキテクト)
はじめに
NVIDIAは,ヘルスケア分野に向け数多くの取り組みを展開している。最近の例としては,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として,CT画像の疾病検出AIモデルを米国国立衛生研究所(NIH)と共同開発し,公開している。
NVIDIA Clara Imaging
1.NVIDIA Clara Imagingの概要
医用画像処理を加速する技術として,「AI」「Internet of Medical Things(IoMT)」「エッジ」の3つのトレンドがある。NVIDIA Clara Imagingは,これらの技術に寄与するアプリケーションフレームワークで,Clara Train SDKやClara Deploy SDK,Clara AGXを提供する(図1)。
2.Clara Train SDK
Clara Train SDKは,データサイエンティストと研究者,AIアプリケーション開発者をユーザーに想定している。ユーザーはNVIDIAが提供するライブラリを用いてAIモデルを作成するなど,アプリケーションの開発が可能となる。また,NVIDIAが開発したアプリケーションをソフトウエアに組み込むこともできる。
高精度のAIモデルを作成するためには,膨大なデータが必要となるため,アノテーションツールには高速処理が求められる。NVIDIAのアノテーションツール「Clara AIAA」は,数百スライスのデータも数分で処理できる。さらに,最新のClara Train SDK v3.0では,インタラクティブなアノテーションが可能になった。これにより,学習ずみモデルがなくてもAIモデルの作成が可能となる。
アノテーション後のトレーニングでは,トレーニングフレームワークとして,連合学習,自動機械学習,転移学習を実行できる。医用画像の場合は,個人情報保護の観点から他施設とのデータ共有が難しく,データ数も少ないことから連合学習が有用であるが,NVIDIAでは,「Clara Federated Learning」を提供している(図2)。これは,複数の医療機関がデータを共有せずに,共通のAIモデルを作成できるフレームワークである。また,自動機械学習の「Clara AutoML」では,自動で各種のハイパーパラメータを並列的にチューニングし,短時間で高精度なモデル生成を可能にする。このほか,Clara Train SDK v3.0では,ドメイン技術を最適化することにより最大55倍の高速処理でのトレーニングを実現している。
3.Clara Deploy SDK
Clara Deploy SDKでは,Clara Train SDKなどで作成されたAIモデルを臨床に導入するためのアプリケーションとフレームワークを提供する。そのアーキテクチャは,「Clara Pipelines」「Clara Platform」「Visualization & UI」で構成される。Clara Pipelinesは,CT画像のセグメンテーションや画像再構成といったreferenceパイプラインを提供する。ユーザーはreferenceパイプラインを用いて,セグメンテーションや画像再構成,レンダリング,分類,検出など,目的とする処理を行える。
4.Clara AGX
Clara AGXでは,超音波診断装置や内視鏡などの医療機器へのAI実装をするためのツールキットを提供する。AIコンピューティングモジュールの「NVIDIA Xavier」とGPUの「GeForce RTX」シリーズをベースとしている。
NVIDIA Clara Guardian
NVIDIA Clara Guardianは,センシング技術を用いたアプリケーションやシステムを開発するためのアプリケーションフレームワークとパートナーエコシステムを提供する。これによって,スマートホスピタルの実現を加速する。NVIDIA Clara Imaging同様,学習ずみモデルを提供し,カメラやセンサなどを用いたシステムの開発を支援する。ユースケースとしては,体温スクリーニングや患者モニタリング,手術の画像分析,安全なソーシャルディスタンシング,患者の転倒防止・安全管理,非接触の制御などがある(図3)。
まとめ
本講演では,医用画像処理に最適化されたNVIDIA Clara ImagingとNVIDIA Clara Guardianを紹介した。
●問い合わせ先
PACS Innovation研究会
http://pacs.main.jp/
●NVIDIA Japan 各種お問い合わせ
https://nvj-inquiry.jp/