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Philips血管撮影装置 FlexMove × 医療法人社団筑波記念会 筑波記念病院ハイブリッド手術室で患者の利益を優先した低侵襲で最先端の心臓血管外科医療を展開─高画質・低被ばくの血管撮影装置で大動脈疾患のステントグラフト治療など最新の治療を提供

2019-4-1

筑波記念病院ではフィリップス社製血管撮影装置FlexMoveを設置したハイブリッドORを構築。心臓血管外科の末松義弘統括診療部長(左)と西 智史医師。

筑波記念病院ではフィリップス社製血管撮影装置FlexMoveを
設置したハイブリッドORを構築。
心臓血管外科の末松義弘統括診療部長(左)と西 智史医師。

茨城県つくば市の筑波記念病院(長澤俊郎院長)は1982年の開院以来,つくば医療圏の地域医療を支える中核的医療機関として発展を続け,現在は487床,24診療科を標榜する急性期総合病院となっている。同院では,2018年4月に,フィリップス・ジャパンの血管撮影装置FlexMoveを設置したハイブリッド手術室(OR)を構築し,心臓血管外科のステントグラフト治療などの高度な治療を,より安全な環境で行う体制を整えた。最先端の技術を取り入れ最善の治療を提供する心臓血管外科の現状について,FlexMoveを導入したハイブリッドORの運用を中心に,心臓血管外科の末松義弘統括診療部長と西 智史医師,放射線部の神宮仁一主任,古谷 亘技師に取材した。

末松義弘統括診療部長

末松義弘統括診療部長

西 智史医師

西 智史医師

放射線部の神宮仁一主任(右)と古谷 亘技師(左)

放射線部の神宮仁一主任(右)と
古谷 亘技師(左)

 

つくば医療圏の中核病院として地域医療に貢献

筑波記念病院は,1982年に循環器内科,脳神経外科を中心とする92床の急性期病院として開院した。その後,診療科や病床を拡大し,2005年には外来機能を筑波総合クリニックとして独立,2015年には新病棟(S棟)がオープンするなど,療養環境の向上を含めて高度な医療に対応すべく継続的に施設の充実を図ってきた。現在は,一般病床387床(ICU8床,回復期リハビリテーション病棟52床を含む),療養病床100床(地域包括ケア病棟49床を含む)で,二次救急を含めた急性期から回復期,慢性期までをカバーする自己完結型の病院としての機能を整えている。また,筑波健康増進センターやつくばトータルヘルスプラザ,介護老人保健施設のつくばケアセンターなどを開設し,予防から介護・福祉までをトータルに提供可能な体制を構築した。さらに,2012年にはつくば医療圏(つくば市,常総市,つくばみらい市からなる二次医療圏)では2か所目,民間病院としては初めて地域医療支援病院の認定を受け,地域包括ケアシステムの中で機能を分担し,連携の要として地域を支える重責を果たしている。
同院の心臓血管外科は,末松統括診療部長の下,虚血性心疾患,弁膜疾患,大動脈疾患,不整脈疾患などの心臓疾患に対して,正確かつ無駄のない低侵襲手術を迅速に提供している。手術においては標準的な心臓手術に加えて,大血管や末梢血管に対するステントグラフト内挿術をはじめとする血管内治療など最先端の治療を数多く取り入れているのが特徴だ。
末松統括診療部長は心臓血管外科の診療ポリシーについて,「患者さん本位の治療を行うことを第一として,基本的には患者さんを断らないこと(No refusal policy),そして患者さんの治療に効果があると判断したものについては,新しい手法やデバイスなどを積極的に取り入れて提供しています。冠動脈バイパス術や弁置換術,形成術といった標準的な手術を正確に迅速に提供することはもちろんですが,それに加えて患者さんの疾患や病態からメリットがあると判断すれば特殊な治療についても提供します。その判断基準は,自分や家族が病気になったときにどう治療するかという医の原点です」と述べる。手術は,虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術,弁膜症の弁置換・形成術,下肢静脈瘤手術などで年間430件を超える。また,脳神経外科,循環器内科との“ハートブレインチーム”を組織し,心房細動と心原性脳梗塞に対するチーム医療を提供する体制を整えている。その一環として,末松統括診療部長は完全胸腔鏡下左心耳切除術を含めて,最小限の侵襲で心原性脳梗塞を予防する「左心耳マネジメント」にもいち早く取り組んでいる。

大動脈疾患に対するステントグラフト治療を展開

同院では,胸部,腹部の大動脈疾患については,低侵襲治療としてステントグラフト治療を数多く行っている。2017年度には99件を実施し,茨城県内トップの治療件数となっている。心臓血管外科は医師6名で,現在,血管内治療に中心となって取り組んでいるのが西医師である。西医師は,2016年に自治医科大学附属さいたま医療センターから赴任,主に血管疾患を中心に診療を行っている。血管内治療の現況について西医師は,「大動脈瘤や大動脈解離に対しては,従来,開胸,開腹による人工血管置換術が基本で,ステントグラフト治療はIFU(instruction for use:解剖学的適応基準)に従って適応を判断していますが,近年ではステントグラフト治療が増加傾向にあり,そこにはIFU外の症例も含まれます。それは,胸部や腹部を切らずに治療を受けたいという患者様のニーズの高まりも一つの理由だと思います。当院では,動脈瘤破裂などの緊急手術の依頼は断らないことを基本としていますが,その結果としてステントグラフトによる治療の機会が増加しました」と説明する。
心臓血管外科では,2011年から大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術を行ってきた。大動脈瘤に対するステントグラフト治療は,日本では2006年に腹部,2008年に胸部で保険収載され,デバイスの進化も相まって適応が拡大し,治療成績も向上している。西医師は,「保険適用以降,デバイスの種類が増え,また,留置テクニックや治療戦略も工夫されたものが報告されており,IFU外でも良い結果を出せるようになってきています。当院でも適応を吟味し,IFU外であっても良い結果が見込まれる場合はステントグラフト治療を行っています。しかし,大事なのは術後の遠隔期成績で,フォローアップが非常に重要になります。当院では4:6の割合で,胸部のステントグラフトが多くなっています」と述べる。
末松統括診療部長は,同院での大動脈疾患に対する治療方針を次のように説明する。
「心臓血管外科の手術は,基本的に低侵襲化の方向に向かっており,ステントグラフト内挿術はその一つです。当院では,通常は保存的な方法がとられる急性大動脈解離のスタンフォードB型に関しても,ステントグラフト治療を積極的に行っています。もちろん適応については慎重に判断しますが,保存療法では患者さんの予後が良くないと判断すれば治療します。これに関しては,症例データを蓄積しており,今後,治療成績についてエビデンスを提供する予定です。また,大動脈疾患の病態解明をすべく産学医連携をベースとした研究をリードするとともに,急性大動脈解離の超重症例に対する新しい外科手術の開発にも取り組んでいます。こういった最先端の低侵襲治療を,安全で確実に施行するためにもハイブリッドORは必要不可欠でした」

2018年4月にハイブリッドORが稼働

同院では,2018年4月に従来の手術室を改装し,開胸手術が可能な環境に血管撮影装置を設置したハイブリッドORを新たに構築した。高度な治療が可能な清潔性や設備を備えた手術室に,ハイエンドの血管撮影装置を設置することで,血管内治療から開腹術への移行や,その両方を組み合わせた手技を,より安全で確実に行うことができる。ハイブリッドORに導入された血管撮影装置(AlluraClarity FD20)は,“ClarityIQ technology”によって高画質と低被ばくを両立した血管撮影装置として,2012年の発売以来,インターベンションを行う施設から高く評価され多くの導入実績を重ねてきた。同院のハイブリッドORでは,ハイブリッドOR用に設計されたCアームのソリューションである“FlexMove”を搭載し,外科手術専用寝台と組み合わせることで,外科治療と血管内治療の高度な融合を可能にしている。FlexMoveでは,Cアームを床置きではなく天井走行式にすることで,手術場における麻酔や人工心肺などのさまざまな装置や心電図などの配線と干渉することなく移動できる。さらに,Cアームは頭尾方向だけでなく,横手(左右)方向へも稼働し,手技時における術者やスタッフの動線を妨げることなく自由な動きが可能になっている。また,外科用寝台には手術用寝台として定評のある「TruSystem 7500」(Trumpf Medical社製)が採用され,通常と同じ環境でのオープンサージェリーが行えるほか,FlexMoveとのインテグレーションによって,血管内治療時の透視や撮影においても高度な運用が可能になっている。

FlexMoveでは,未使用時にはCアームを待避できるため,手技のための空間を大きく確保できる。透視撮影時(左),待避時(右)。

FlexMoveでは,未使用時にはCアームを待避できるため,手技のための空間を大きく確保できる。
透視撮影時(左),待避時(右)。

 

天井走行式のため無影灯などと干渉せず,また清潔空間を確保してハイブリッド手術を可能にする。

天井走行式のため無影灯などと干渉せず,また清潔空間を確保してハイブリッド手術を可能にする。

58インチ「FlexVision XL」で透視画像や術前CTなどの画像を大画面に表示

58インチ「FlexVision XL」で透視画像や術前CTなどの画像を大画面に表示

 

低被ばくで高画質を提供しステントグラフト治療をサポート

同院では,従来,ステントグラフト内挿術などの手技の際には,手術室の環境でCアーム型の移動式X線透視装置を使用していた。2018年4月のハイブリッドORの運用以後,12月までに約40件のステントグラフト内挿術を施行しているが,導入後の評価について西医師は,「画質については格段に向上しました。胸部大動脈のステント治療では,大動脈弓部から頭部に向かう分枝血管を確認して血流を温存することが必要ですが,従来のCアーム型撮影装置では,透視画像上で弓部分枝や肋間動脈は不明瞭でした。しかし,ハイブリッドORの血管撮影装置では,肋間動脈のような細径血管も鮮明に描出されるようになり,血管を確認しながら確実で素早い手技が可能になりました」と述べる。神宮主任は,「Cアーム型撮影装置はI.I.でしたので,フラットパネルになったことで視野が広がり,さらに画質も大きく向上しました。また,被ばく線量についても大きく削減されており,低線量で高画質の透視が可能になっています」と評価する。
ハイブリッドORでは,手術室と同等の設備や清潔空間を実現するため,術野周囲には,天井からの無影灯,電源や医療ガスを供給するシーリングペンダントなど多くの装置が存在する。撮影や透視の際には,これらの設備と干渉せず,また,アームの接触など安全性を考慮した操作が要求される。FlexMoveでは,撮影時には術者の要求に応える素早いアームの移動や回転を実現すると同時に,必要がない時には部屋の隅までアームを待避し,術野の空間を大きく確保することが可能になっている。古谷技師は,「Cアーム型撮影装置では,装置の移動や撮影時のアームの回転などの操作も一苦労でしたが,FlexMoveでは操作性が向上し,手技を素早くサポートできるようになりました」と操作性を評価する。
“Pedestal”は移動型の操作卓で,アーム操作や撮影などが行える。古谷技師は,「スティック操作でCアームの回転や移動が簡単に行えます。ハイブリッドORでは,天井からモニタや無影灯など多くの機器が取り付けられており,死角も多いのですが,Pedestalでは移動して視認しながら操作が可能です。追従性も高いので安心して操作できます」と評価する。神宮主任は,「アームの角度や位置をあらかじめセットしておくことで,ボタン一つで自動的にその位置に移動したり,戻したりすることも可能です」と述べる。
また,画像表示用モニタには,58インチの“FlexVision XL”が採用されており,透視画像のほか,超音波や術前CT,3D画像,心電図などを表示することができる。手技中は,透視画像と術前CTの3D画像,心電図の3画面の分割で表示されることが多い。西医師は,「必要に応じて表示画像の入れ替えやレイアウトの変更もできます。大画面に表示されることで,手術室内のスタッフから見えやすく,情報を共有して手技を進めることができます」と述べる。古谷技師は,「Pedestalに付属するリモコンで画像の操作ができるので,操作室に出ることなくその場で操作が完結できます」と説明する。

■胸部大動脈瘤におけるステントグラフト内挿術

3DCT画像 ショートネック(腕頭動脈からの距離13mm)の弓部大動脈瘤に対しTEVAR施行の方針。

3DCT画像
ショートネック(腕頭動脈からの距離13mm)の弓部大動脈瘤に対しTEVAR施行の方針。

TEVAR術中画像(1) 弓部分枝が鮮明に描出され,より正確な位置合わせが可能。

TEVAR術中画像(1)
弓部分枝が鮮明に描出され,より正確な位置合わせが可能。
 

TEVAR術中画像(2) 左鎖骨下動脈は単純閉鎖。鮮明な画像でもエンドリークは確認できず安心して終了。

TEVAR術中画像(2)
左鎖骨下動脈は単純閉鎖。鮮明な画像でもエンドリークは確認できず安心して終了。

 

SHDや整形外科領域など低侵襲手術を展開

これまでハイブリッドORで,血管内治療から開腹手術に切り替わった症例は経験していないと西医師は言うが,「以前,腹部大動脈瘤破裂の症例で,緊急でやむを得ず血管造影室で局所麻酔下にステントグラフト治療を開始したことがあります。結局,治療を完結できず,手術室に移動して全身麻酔下に後腹膜アプローチを追加して完結させたという苦い経験がありました。ハイブリッドORのおかげで,今はそういった心配をせず治療が行えています」と述べる。また,被ばく低減に関しては,「事前に撮影した画像を透視のガイドにするロードマップ機能を利用しています。手技が複雑になると透視時間や造影剤量が増加しますので必須の機能だといえますね」と西医師は評価する。
今後の展望として,西医師はハイブリッドORでA型解離や胸腹部大動脈瘤の血管内治療についても取り組んでいきたいと次のように述べる。
「A型解離や胸腹部大動脈瘤は,現在,ステントグラフト治療は適応外とされていますが,近年ではステントグラフトを用いた治療の報告も散見されます。海外では,腕頭動脈を温存する枝付きステントグラフトの開発が進んでおり,いずれ国内でも使用可能となるのではないかと考えています。胸腹部大動脈瘤については,国内でも数年前に細径ステントグラフトの使用が可能となり,これまで以上に血管内治療が可能な症例が増えてきています。細径ステントグラフトで分枝血管を温存するなど手技が複雑化すれば,高解像度と同時に被ばくや造影剤量の低減が必須になりますので,ハイブリッドORの役割もますます大きくなると思います」
また,ハイブリッドORでは,大動脈弁狭窄症患者に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)の導入を視野に入れているほか,脳神経外科領域の血管内治療や整形外科の脊椎手術などへの展開も期待されている。神宮主任は,「放射線部としては,より多くの診療科の低侵襲手術に対応できるように,診療科や手術部門のスタッフとも連携して対応していく予定です」と述べている。
心臓血管外科治療では北関東の拠点であると同時に,最先端の治療が可能な体制づくりを進めている同院において,ハイブリッドORを中心とした診療のさらなる進展が期待される。

 

末松義弘統括診療部長に聞く◎心臓血管外科運用のポリシー
「医療の本質を見極め,最善の治療を選択することが必要」

末松義弘統括診療部長

心臓血管外科を中心に先駆的な取り組みを進めている末松統括診療部長に,ハイブリッドORなど同院での運用のポリシーを聞いた。

■当院では低侵襲手術を基本として,最先端の治療法を積極的に取り入れています。必要と判断した時には,ガイドラインに未収載の治療も行うこともあります。もちろん,エビデンスに基づいた治療(EBM)は重要ですが,EBMはあくまで底辺を平均点に引き上げるための方法論であり,医療のさらなる発展を保証するものではありません。われわれは,治療の本質は何かということを常に考えて検討を重ね,技術だけでなく概念や哲学を含めて研究し,最先端の治療を提供しています。その上で,メリットがあると判断すれば,患者さんと相談して最新の治療を行います。例えば,心房細動から発症する脳梗塞を予防する“左心耳マネジメント”には,他施設に先駆けて取り組み実績を重ねています。

■治療という観点で,低侵襲化の流れは本質であり,心臓血管外科においても例外ではありません。従来のオープンサージェリーから,Minimally Invasive Cardiac Surgery(MICS:低侵襲心臓手術)や血管内治療といった方法に確実に置き換わっていきます。その一つの例が大動脈弁置換術ですが,開胸手術からTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)へシフトしています。いまやワクチンがない時代には戻れないように,手術の低侵襲化というパラダイムシフトは確実に進化します。新しい技術が受け入れられるには時間が必要ですが,将来的には心臓外科はなくなるかも知れません。現在の心臓外科,循環器内科が,“ハートチーム”としての連携が求められるように,患者さんの疾患や病態を優先して組織のあり方が変わる時代が必ず来るでしょう。

■現在のハイブリッドORは,治療の低侵襲化というパラダイムシフトの過程での過渡期的な形態です。私は超音波診断装置の3Dプローブの開発などさまざまな機器の開発に携わってきましたが,機器を支える要素技術は必ず進化します。それを見通して,常に患者さんに最善の医療を提供する準備をしておくことが重要です。Cアームなどが完全に壁や天井に埋め込まれたバリアフリーなORというのも可能になるでしょう。高度で患者さんに負担の少ない治療をスムーズにストレスなく行える,まったく新しい手術室が誕生することを期待しています。

(2018年11月14日,12月19日取材)

 

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