2018-4-2
仮想透視画像の作成から血管の経路生成まで
自動化してIVRの手技をサポートする。
東京都板橋区の帝京大学医学部附属病院(病床数1078床,坂本哲也病院長)では,年間8000台の救急車と2万6000人の救急患者を受け入れ,東京都城北エリアの救急医療を支えている。同院では,救急科と放射線科のIVRチームが連携して外傷やほかの救急疾患に対する緊急IVRに積極的に取り組んでいる。富士フイルムメディカルの三次元画像解析ボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT」の新機能である“IVRシミュレータ”の評価を行った放射線科の近藤浩史教授に,緊急IVRやTACEでの有用性を取材した。
一次から三次までカバーする3つのセンターで救急医療を提供
同院では,2009年の新病院棟の開院から救急部門の体制をさらに充実させ,三次救急に対応する高度救命救急センターに加え,一次・二次救急を行う総合診療ERセンター,重症外傷患者に総合的に対応する外傷センターの3つの部門で救急医療を提供する。病院長でもある救急科の坂本教授をトップとして,救急の専従スタッフと各診療科が連携して高度な救急医療を展開している。
同院の放射線科は,診断,IVR,放射線治療に分かれており,IVRチームは緊急TAEや肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)など血管内治療,肺生検や膿瘍ドレナージなどの非血管内治療を専任で行うのが特徴だ。近藤教授は2014年に岐阜大学から赴任,以来,IVRの普及に精力的に取り組み,2017年度には約800件と赴任前から倍増している。IVRチームは修練医などを含めて6名だが,近藤教授は「スタッフは多くはありませんが,救急科と連携して緊急IVRなどを含めて血管内治療には積極的に取り組んでいます」と説明する。
放射線科でのIVRは,中心静脈カテーテル留置やTACEのほか,CTガイド下肺生検も多い。緊急系IVRは,外傷や消化管出血に対する止血術などを中心に年間160件を行い,特に外傷IVRは年間約50件に上る(2017年度)。同院は板橋区,北区,豊島区の城北エリア(人口190万人)が主な医療圏となるが,外傷カテーテル治療は対応施設が限られ,さらに広い範囲をカバーしている。近藤教授は,「救急医療でのIVRによる治療のニーズは高まっており,今後もますます増加すると予測しています」と述べる。
同院に緊急IVRが必要と思われる患者が搬送される場合,診療時間内であれば直接IVR専用のモバイル端末(PHS)に連絡が入る。診療時間外では,IVRの必要性が高いと判断された場合にIVRチームに連絡が入るシステムになっており,連絡から30分以内にIVRが施行できる体制を整えている。
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重症外傷患者に対する“PRESTO”プロトコール
救急の外傷IVRには,時間を意識した診断や治療が求められる。迅速で的確な診断の下に適切な処置を行うことが,患者の救命に直結するからだ。そのため,救急部門ではCTの設置や,診断から治療へのタイムラグを短くするハイブリッドERの構築が進んでいる。同院でも,2017年4月に320列CTを設置したハイブリッドERが稼働した。救急車から直接ハイブリッドERに搬入して,CT撮影,外科手術,IVRなどが患者を移動せずに可能になった。
こういった診断,治療技術の進化を踏まえて,救急医療での画像診断やIVRの普及を目的とした活動を行っているのが,近藤教授も幹事を務めるDIRECT(Diagnostic and Interventional Radiology in Emergency,Critical care,and Trauma)研究会である。同研究会の松本純一氏(聖マリアンナ医科大学)は,時間を意識し患者の救命を最優先にした“Damage Control IVR(DCIR)”と“PRESTO(Prompt and Rapid Endovascular Strategies in Trauma Occasions)”プロトコールを提唱している1)。DCIRは,血行循環の不安定な患者に対して循環動態の安定化を最優先したIVRであり,PRESTOはDCIRを視野にprimary surveyの段階からIVRチームが待機し,CT撮影,読影,IVRの準備を同時並行に進め,さらに手技時間自体も短縮することで治療全体の時間短縮をめざすものだ。
DIRECT研究会ではまた,外傷初期診療に求められるCTの迅速な読影方法を,FACT(Focused Assessment with CT for Trauma)として提案し,このFACTから始まるCTの3段階読影の方法は外傷初期診療ガイドライン(JATEC)第4版にも取り入れられた。近藤教授は,「救急の画像情報は,後から異常を発見しても意味がありません。収集された画像を短時間で読影し治療に直結する情報をピックアップすることが必要です」と説明する。
PRESTOコンセプトをサポートするIVRシミュレータ
緊急IVRでは,実際に手技を行う術者(operator)とアシスタント(assistant)に加えて,直前に撮影された外傷CT画像を参照しながら指示を出すコンダクター(conductor)による“COA”システムの体制が理想となる。近藤教授は,「スピードが要求される緊急IVRでは,術者はコンダクターの指示に従ってカテーテル操作に集中する方が早く正確な手技が可能です」と説明する。この時にコンダクターをサポートしIVRに必要な情報を提供する画像として,DIRECT研究会の松本氏,一ノ瀬嘉明氏(国立病院機構災害医療センター)が考案・開発したのがpreprocedural planning(PPP)である。
緊急IVRのCOAでの課題が,カテーテル操作で血管を迅速かつ的確に選択することだと近藤教授は言う。
「緊急IVRでは,術者はコンダクターからの指示でカテ操作を行いますが,コンダクターはCT画像を基に選択する血管の位置を,透視画像上の目印となる脊椎番号などから高さを,方向は大動脈に対する角度として術者に伝えます。透視画像上で素早い操作を行うには経験やテクニックが必要ですが,それをサポートするため仮想透視画像上に患部までの血管のルートを表示しカテ操作をナビゲートするのがPPPです」
このような緊急IVRの術前画像作成が可能なアプリケーションとして,SYNAPSE VINCENTに新たに搭載されたのが“IVRシミュレータ”である。
■SYNAPSE VINCENT “IVRシミュレータ”アプリケーションの操作画面
仮想透視画像上に患部までの血管経路を表示
IVRシミュレータでは,起動と同時にCTデータからX線透視画像のような仮想透視画像を作成する。次に出血や腫瘍などの目的部位を選択し,“経路生成”をクリックすると大動脈や腹部血管などが自動で抽出され,“観察”ボタンで大動脈から患部に向かう血管が表示される。血管抽出とルート選択についてはクリックによる手動選択も可能だ。近藤教授は,「IVRシミュレータでは仮想透視画像の作成から血管の抽出まで,ほぼ自動で行えます。スピードが要求される緊急IVRでは大きなメリットです」と述べる。さらに3D画像を回転させることでX線管球角度(ワーキングアングル)が確認できるほか,血管の分岐方向を遠近でカラー表示(手前は赤,遠ざかるほど緑)してカテーテル操作のナビゲーションを行うことができる。近藤教授はIVRシミュレータのメリットについて,「時間が勝負となるDCIRでは,1本の血管選択の時間が短縮できればトータルでの手技時間の短縮になり,それがひいては患者さんの救命につながる可能性があります」と説明する。
IVRシミュレータについて近藤教授は,「肝臓や脾臓などの臓器は高い精度で血管の自動抽出ができますが,そのほかの腹部血管ではまだ不十分なことがあり,認識能力の向上に期待しています。教育ツールとしても有用ですが,自動認識に頼り切るのではなく,自分で血管を抽出したり,手技後に検証したりすることが重要です」と述べる。
TACEに対するシミュレーションなどでIVRをサポート
放射線科では,SYNAPSE VINCENTのほかの機能を応用してTACEにおける塞栓領域のシミュレーションの検討を行っている。TACEでは,腫瘍に対してマージン(安全域)を取った抗がん剤の注入が必要だが,選択した血管の支配領域が事前に予測できれば正確な治療計画が可能になる。近藤教授は,「従来はTACE後にCTで治療効果を確認しますが,術前に予測できれば,再治療の必要がなくなり,造影剤の削減や手技時間の短縮にもつながり,患者さんの負担軽減にもなります」と期待する。
近藤教授はSYNAPSE VINCENTについて,「血管の抽出など画像認識では,Deep Learningのような技術を生かせば飛躍的な精度の向上も期待できます。救急外傷の現場でのIVRシミュレータは治療までの時間短縮に確実に貢献できますので,患者さんの命を救うための技術としてさらなる進化に期待しています」と述べた。
(2018年2月14日)
●参考文献
1)Matsumoto, J., et al. : Damage control interventional radiology(DCIR)in prompt and rapid endovascular strategies in trauma occasions(PRESTO); A new paradigm. Diagn. Interv. Imaging, 96, 687 〜 691, 2015.
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