2017-7-3
Conference
共創で実現するサスティナブルな「まちづくり」
地域の力で情報格差を解消し,魅力的な「まち」をデザイン
2017年5月18日(木)〜19日(金)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「富士通フォーラム2017 」において,行政・医療・教育などの分野を通じて住民が継続的fに幸せに暮らせる「まちづくり」をテーマにカンファレンスが行われた。登壇者4名による講演と,宮田裕章氏(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)がモデレータを務めたパネルディスカッションの様子を報告する。
講演1
「成長と成熟の調和による持続可能な最幸のまちかわさき」の実現
福田紀彦 氏
川崎市長
川崎市には国内外からさまざまな人が集まり,2017年4月には人口150万人を突破した。「市民一人ひとりの思いが多彩な“色”となり,川崎の新しい未来への可能性を広げていく」という意味を込めた市のブランドメッセージ“Colors, Future!いろいろって,未来。”が示すように,川崎市は多様性により発展してきた。市長になって感じたことは,さまざまな思い込みが課題解決の壁になっていることである。これを打ち破り,多様な主体とコラボレーションする取り組みを行っているので,その一部を紹介したい。
自治体との共創では,隣接する横浜市と共通の課題である待機児童問題の解決に向けて連携協定を締結。“在住する自治体の保育所を利用する”という思い込みを打破し,共同整備や相互利用を進めることなどで待機児童を解消できた。
企業との共創としては,JR東日本とは沿線価値を高めるため,南武線に戦略的新駅「小田栄駅」を開設した。費用を折半し,簡易的に建設することで,決定から半年で開業することができた。また,給食による食育で健康づくりを推進するため,(株)タニタと協力し,同社のノウハウなどを生かした健康給食を今年度中に中学校全校で開始する。富士通とは2014年に包括連携協定を締結。取り組みの一つとして「かわさき子育てアプリ」を開発し,子どもの年齢や在住地域などの条件に合わせて情報を提供する仕組みを構築した。
地域との共創では,川崎市が最も注力している施策である地域包括ケアシステムの構築をめざしている。高齢者などケアが必要な方だけでなく,すべての市民を対象にしたチャレンジングな取り組みだが,ICTを活用し,必ずや実現させたい。
ほかにも,NPOとは障がい者の就労体験事業を実施し,また,官民の研究機関とはライフサイエンスの国際戦略拠点「キングスカイフロント」を整備するなど,多くの取り組みを進めている。
このように,自治体だけでは解決できない課題も,多様な主体との協力により解決でき,新しい価値を創造することが可能である。
講演2
医療・行政の現場からまちづくりをシステムデザインする
藤本智裕 氏
池田市役所市民生活部にぎわい戦略室 地域活性課課長
私からは,企業,医療,行政での現場経験を基に,共創の時代に求められるシステムデザインについて述べる。少子高齢化や急速な社会変化により不確実な未来が待ち受ける今,医療や行政の現場では共創が求められている。私は,病院経営の現場経験を通じて,医療組織とは,不確実で複雑な答えのない問題に対応するため,高い専門性とほかの組織と連携する柔軟性を持ち合わせた自立分散型組織であるとの認識を得た。このような組織構造は,不確実性への対応のヒントとなるだろう。しかし問題はあり,医療者と患者の情報の非対称性(情報格差)により,互いに他人事となってしまう悪循環で市場(医療)崩壊が起こりうる。
こういった問題は,専門領域内だけで解決することは困難で,領域外から全体を俯瞰し,多視点から見た上で構造化する,つまり,全体をシステムとしてとらえ,解決方法をデザインすることが重要だ。一例として病院経営では,現場と管理運営側がリンクしないと,現場の資源を生かすための投資,予算案の策定は難しい。そこでバランススコアカードという手法を用いることで,現場の戦略と予算案策定,業績評価までを一貫した病院経営管理システムとしてデザインすることができる。
私は長年,システム=IT,システムエンジニアリング=IT構築だと思っていたが,現在は,システムとは社会そのものであり,システムエンジニアリングとは社会問題を解決する手法であると実感している。システムエンジニアリングにはチームワーク(共創)が必要であり,その担い手育成のため,医療・介護現場の人たちを集め,システムデザインのワークショップを主催している。
情報の非対称性や他人事意識が強まる時代においては,目的実現や問題解決のために,ヒト・モノ・コト・情報をつなげるシステム思考が重要になる。これにより,あらゆることを自分事としてとらえることができ,緩やかにつながる“生き心地の良いまち”づくりにつながると考える。
講演3
地域住民が「その人らしく」安心して暮らし続けるために
上野道雄 氏
福岡県医師会副会長/福岡東医療センター 名誉院長
高齢化が進む現在,医療は多職種協議型,地域継続型へと転換しつつある。在宅医療の安全な提供には病院情報が必要だが,従来のような紙や口頭で1対1に伝達する方法では共有は難しい。そこで当センターは,2006年に地域医師会,行政とともに「地域医療を考える会」を立ち上げ,多職種医療連携の方法を模索してきた。その中で,救急医療については「粕屋在宅医療ネットワーク」が構築され,安心・安全な医療を提供できる体制を整えた。
この活動を通して,多職種間で病院情報を共有することの重要性が強く実感されたが,実際には情報はすべて単線伝達となり,全体像を誰も把握していないこともわかった。また,病院には莫大な情報が蓄積されているが,診療環境が異なる地域の医療職とは,大きな情報格差が生じている。そこでわれわれは,ICT活用による課題解決をめざし,電子カルテを改善するとともに,基幹病院と地域の医療職・介護職が患者情報を共有する取り組みを始めた。
関係者間で円滑に患者情報を共有するため,電子カルテやネットワークにはさまざまな機能を用意した。まず,電子カルテに情報共有画面を設け,院内すべての医療職の情報を収集することにした。そして,部門ごとの専門的表現を誰でもわかるようにするため,標準化マスタを作成した。例えば,リハビリテーションでは,診断と対処を機能別に整理してわかりやすい言葉で表現し,時系列に示すようにしている。
また,情報を確実に伝達するため,電子カルテの情報共有画面に送付先ボタンを設け,送付先(医師/看護師/薬剤/地域連携など部門別や,がん緩和/栄養指導/多職種協議など機能別)を選択すると,一斉に情報を送信できるようにした。それに対して承認や回答することで,双方向伝達も可能となっている。
医療と介護の架け橋となる介護保険主治医意見書については,電子カルテ内の診療,看護,リハビリテーション情報を収集・整理して,自動出力できるテンプレートを作成することで,作成時間の短縮と正確性の向上を実現した。
さらに,病院情報の検索にも工夫を施した。自由記載で膨大な電子カルテから必要な情報を探す,あるいは院外から必要な病院情報を得るには,多くの時間を要し,検索漏れも生じやすい。そこで,病院情報を機能別に整理して表示する「サマリーホルダー」機能を作成し,「患者の思い」や「多職種協議」などの項目を選ぶと,それに関する情報が抽出表示されるようにした。
当地域では,地域医療に重要な病院情報を機能別に整理してわかりやすく表現し,双方向性ネットワークを用いて院内外で情報を共有している。このような共創が,地域住民が「その人らしく」安心して暮らし続けられるまちづくりを実現すると考えている。
講演4
オープンエデュケーションによるまちづくり
村上和彰 氏
九州大学名誉教授
私は,「まちづくり」とはエコシステム(生態系)づくりだと考える。自然界では食物連鎖により,さまざまな動植物が共存共栄しているように,まちとはカネとモノが回って人と組織が共存共栄するビジネスエコシステムだと言えるだろう。そして,このエコシステムづくりには,国任せ,行政任せではなく,私たち地域住民がつくっていくのだという意識が必要である。私からは,まちづくりのための4つの実践を紹介する。
1つ目は「マインドセットを変える」。私たち自身でまちづくりを行うことが,デジタル技術により可能になっている。SNSでは,コストや時間をかけずに多くの人とつながることができ,“アラブの春”に見られるように個人の力が革命を起こすまでになっている。もう一つ重要なことがオープンネスだ。行政が持つデータを公開することで,住民自身がオープンデータとテクノロジーを使って地域の課題を解決する“civic tech”が可能となる。地域のことを他人任せにせず,自分たちのこととしてとらえることが大切である。
2つ目は「協働型経済でビジネスエコシステムをデザインする」。協働型経済とは,Uber(ライドシェア)やAirbnb(ルームシェア)に代表される共有型経済と同じようなコンセプトを持つ。この原動力も,デジタル技術とオープンネスである。共有型経済が成立するには,他者との信頼が非常に重要であるが,デジタル技術によりサービスの提供者と受給者の相互評価が可能になったことで,共有型経済が実現可能になった。そして,オープンプラットフォームの考え方やシステムが共有型経済を支え,ビジネスを非線形に成長させることができる。
3つ目は「デジタル技術とオープンネスを前提に,社会システムを再構築する」。社会や個人へのサービス提供システムである社会システムは,情報通信技術なしには成り立たないが,今の社会システムは19世紀にデザインされたため,ICTが発達した21世紀の現状に合わなくなっている。行政サービスの税金に頼る収益モデルは,人口減少社会ではサービスの質の担保は難しい。非常にチャレンジングだが,今こそ社会システムの再構築が必要だ。
4つ目は「オープンエデュケーションでまちを活性化する」。今後,ほとんどの人が100歳まで生きる時代が来ると言われている。大学までの教育で生涯を送るのではなく,学び続け,学び直すことができる場を作ることがまちの活性化にもつながる。一人ひとりの“無限の可能性”のための次世代教育環境としてオープンエデュケーションを提供することが重要となる。富士通は,オープンエデュケーションのためのデジタルラーニングプラットフォーム「Fisdom」の提供を開始し,社会人の学び直しを支援している。
これらの実践により,まちづくりが可能になり,私たち自身をつくっていくことにもつながるだろう。
パネルディスカッション
「共創(Co-creation)」で実現する住民中心の次世代のまちづくり
モデレータ:宮田裕章 氏
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授
パネルディスカッションでは,宮田氏をモデレータとして,講演した4名のほか,富士通の佐藤秀暢氏,岡田英人氏が登壇して「共創」をキーワードに新しい社会システム構築の将来像をディスカッションした。
宮田:「共創」の方法論として,システムデザイン思考を収束させ結実させるために重要なことはなんでしょうか。
藤本:収束させているという意識はなかったのですが,医療の世界では目の前に多くの課題があって,日々その課題を解決しなければなりません。小回りの効く組織の中で,システムデザインの思考を生かせたことが大きかったですね。
ICTが結ぶ医療と介護の情報連携
宮田:上野先生の地域の取り組みは,ICTで情報を共有し相手の立場に立って,医療と介護,患者さんまでをつなぎ成功した例でした。地域の中で多職種との構築で印象に残ったことはなんですか。
上野:2005年に院長になって構築を始めた時に,自分の視野にあった在宅の地平線は開業医まででした。それが,地域で連携にかかわる方々とお話しをすればするほど,地平線はどんどん遠ざかり,まったく知らない世界を知ることになりました。われわれ医師には,共に働くスタッフの仕事内容を知るという視点が欠けていたことに気づいたことが最大の出来事でした。
宮田:この事例のネットワークのベースでもある富士通の「HumanBridge
」の推進についてコメントをお願いします。
佐藤:現在の地域連携システムは医療職の利用が中心であり,今後は上野先生が取り組まれた古賀市のように介護職も含めた利用者の裾野の拡大が課題です。富士通の持つ電子カルテ技術を生かし,お客様と共創しながら医療と介護が互いに情報を共有し連携を推進できるような価値の高いコンテンツやサービスを提供して,地域包括ケアシステムを支え安心して暮らせるまちづくりに貢献をしていきたいと考えています。
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デジタル技術が作る社会システム
宮田:村上先生は,デジタル技術,オープンネスの2つをキーワードとして,これからの社会のあるべき姿をお示しいただきました。その中で税金に代わる収益モデルが鍵という問いかけがありましたが,実際にはどのような可能性が想定されますか。
村上:例えば,Google検索のような広告モデルがあります。もう一つは,デジタルネットワークの世界では,他者からのreputation(評価)や信頼が重要になっています。そうなると自治体や企業が評価を高めるために,組織や個人レベルでさまざまなサービスを提供することも考えられます。多くの選択肢があり,何がうまくいくかはやってみないとわかりません。しかし,デジタル技術がありプラットフォームがある現在は,素早く試して失敗することができます。その上で成功したものだけを残していけばいい。今,ビジネスの世界で行われていることが,実際の社会システムの再構築に適用できる時代です。
宮田:われわれは今,社会システムが変わる文明の転換点に立ち会っていて,さまざまな社会的資産を活用できる時代が来ていると感じました。その中で富士通のオープンネスの取り組みをお話しください。
岡田:富士通内の体制もこれまで行政とヘルスケアなど,分野ごとにサイロになっていました。これを横につながる組織に見直し,さらにお客様同士をつなげるハブの役割を果たせるように変化しています。さらにそのハブ機能をオープンな誰でも利用できるプラットフォームとして提供し,その上で富士通自身が社会システムを再構築するサービスを自ら提供することで,21世紀型の会社に変わっていく必要性を感じています。
多様性を受け止めるICTの役割
宮田:最後に福田市長に多様性に応えるためのICTの活用をおうかがいします。
福田:行政でも一人ひとり異なるニーズにどう答えていくかは大きな課題です。川崎市では,7つの区をさらに分割し担当の保健師を配置して地域包括ケアシステムを進めていますが,地域に入ると一人の方が抱えている課題がいかに複合的かに気づかされます。現状では紙ベースで膨大な情報がやりとりされている状態で,必要な情報を適切なタイミングでわかりやすく把握することはほぼ不可能です。上野先生の地域の取り組みではそれをクリアされており,ICTを活用した仕組みが地域包括ケアシステムを本当に動かすことができるのではないかと感じました。
また,税金に代わる収益モデルでは,実は人口密度の高い川崎市にも地域交通の課題として,コミュニティ交通が求められています。しかし,全国の税金を投入したコミュニティ交通のほとんどは赤字です。一方で,そのような地域にも荷物を配達する宅配便のルートはあるわけで,人も一緒に乗れる仕組みがICTを使えば効率的かつ持続的に実現できる可能性があります。税金ではなくICTによるビジネス化が問題解決の一つの選択肢になり得ます。ICTを利用すれば,まさに多様性を受け止めた上で,さまざまなソリューションを提供できる可能性が広がっているとの思いを強くしました。
宮田:住民が,地域が実現するヘルスケアや公共的な価値そのものを評価するようになった時に,ICTを活用したソリューションが問題を解決し,さらに新しい価値の創造につながる可能性を感じました。ICTを活用して共創で新たなイノベーションが生まれることを期待します。(敬称略)
Seminar
厳しさを増す地域の病院経営
課題解決へ導く改善への取り組みについて
平山謙司 氏
公立八女総合病院企業団事務局長
セミナー「厳しさを増す地域の病院経営」では,医師不足などをきっかけとして赤字に転落し厳しい病院経営となった公立八女総合病院企業団(福岡県八女市)の経営再建の取り組みについて,同病院企業団事務局長の平山謙司氏による講演が行われた。
八女・筑後医療圏の基幹病院
当院は,八女・筑後医療圏(八女市,筑後市,広川町)の中央に位置し,1960年に2市4町2村の組合立の一般32床(伝染32床)の病院としてスタートした。その後,増改築を経て94年には16診療科330床となるなど順調に運営を続けてきた。
経営の転機になったのは,2000年の第4次医療制度改革である。急性期病院の要件が変更され病床稼働率を重視した病院完結型から,地域の医療機関と連携し診療の質を重視する地域完結型への転換が求められるようになった。全国の急性期病院が対応に苦しむ中で,当院は地方公営企業法の全部適用や人事給与制度改革など,経営権限の強化や経営改革を進め,入院日数を減らしながら入院平均日当額(単価)を上げて収益を確保し,2009年には総収益42億円と2002年から6億4300万円の増益となった。この時に重要な役割を担ったのがノンカスタマイズ型の電子カルテ「HOPE EGMAIN-FX
」で,大きく変化する医療環境にカスタマイズせずに対応できるようになったことが経営に大きく貢献した。
大学の医師引き揚げで経営難に
次の経営戦略として,久留米など隣接医療圏に流出していた医療費を高度医療の充実で八女・筑後医療圏に回帰させる地域完結型医療の強化に取り組んだ。まずは病床稼働率の低下を補い,当医療圏の緩和ケア病床の不足を解消するため,30床を緩和ケア病床に転換して病院を設立した。これによって病院の病床稼働率は97%となったが,このままでは緊急入院などに対応できないため,10床を救急病棟として割り当てた。そのほか,放射線治療や化学療法,常勤の病理医による術中迅速検査など,がんをはじめとする高度医療に対応する体制を充実させてきた。一方で,この体制維持には設備投資や人員の投入が不可欠であり,高コストで固定費の大きいハイリスク病院となった。実際に同じ医療圏の筑後市立病院と比較しても,筑後の損益分岐点が病床稼働率71%(165床)のところ,当院は90%(270床)が必要となる。しかし,この体制は高齢過疎化が進む地域の公的病院としての使命であり,また同時に大学からの医師派遣先として選択されるための方策でもあった。
ところが,2004年の医師臨床研修制度の変更によって,久留米大学の関連病院として医師の派遣を受けていた当院も大きな影響を受けることとなった。2010年に4名の麻酔科医が引き揚げ,手術および救急診療に影響が出た。さらに2012年には,呼吸器科の医師5名が総引き揚げし,約10億円の収益減少となった。2014年に消費税の引き上げ,公営企業会計制度の改正が影響し8億4800万円の赤字を計上,翌年も改善が見られなかったことから,2016年に企業長(院長),事務局長が交替して新体制が発足した。私自身は一度現場を離れていたが,事務局長として再登板し経営再建に取り組むこととなった。
新体制で経営再建へ取り組み
経営再建にあたり,まず,経営方針について迅速な意志決定を行えるよう企業長,副企業長,看護部長,事務局長の4名による経営責任者会議を設置した。医師獲得については,人事給与制度を見直し,民間医局を通じた医師確保などを進めたが,給与体系や待遇面などで大学派遣医師との調整が難しく道半ばとなっている。医師以外の人員配置については,MSW(医療ソーシャルワーカー)を2名から5名へ増員,医療秘書については21名へ増やし,15対1基準を取得できるよう進めている。
また,救急医療については,公的病院の役割を果たすため当直医師にアルバイトを採用するなどして,断らない救急を死守している。そのほか,経費節減として,後発薬品への切り替え,井戸水の利用,検体検査の契約見直しなどで,約1億円の節減を行った。ほかにも通勤手当の基準の見直しなど,職員処遇の適正化を進めている。
病院統合も視野に経営を進める
経営再建を進める上で当院が直面している課題に,福岡県が進める地域医療構想への対応がある。県の構想では病床区分は医療圏ごとに完結することが求められており,八女・筑後医療圏では2025年に高度急性期・急性期併せて約100床の削減が必要になる。一方で当院は,病棟の狭隘化や管理棟の耐震基準未達成,建築老朽化という問題も抱えており,これらをトータルに考えれば筑後市立病院との経営統合による移転新築が最適解となる。筑後市立病院は233床であり,当院の300床と合わせて100床ほど減らせば,高度急性期・急性期の必要病床数がクリアできる。これについては,両病院の医師派遣元である久留米大学からも統合が提案されており,あとは各自治体の長による判断を待つこととなる。
その中で,われわれとしては現在の八女総合病院をしっかりと経営し,再び軌道に乗せることが重要だと考えている。かつてはノンカスタマイズ型電子カルテシステムが役割を果たしたが,現在,2025年を見据えた新たな経営管理システムの開発を富士通と進めている。ICTも活用しながら当院のミッションである「医療で安心を提供する」を実現していきたい。