2017-4-3
札幌心臓血管クリニックで稼働し始めた
Azurionの国内第1号機
2008年4月に開設された医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニックは,年間2000件以上の心臓カテーテル治療をはじめ,外科的治療,不整脈治療など総合的な循環器診療を手がける医療機関である。6室ある治療室すべてに,フィリップス エレクトロニクス ジャパンの血管撮影装置が設置されており,うち1室はハイブリッド手術にも対応している。心臓カテーテル治療を数多く手がける同クリニックでは,2017年に最新鋭の血管撮影装置である「Azurion」の国内第1号機を導入した。1000以上もの新しい部品・技術が採用されたAzurionは,従来のワークフローを改善し,業務効率化と省力化,治療時間の短縮を追究した装置として開発された。同クリニックにおける初期使用経験について取材した。
総合的な循環器診療を担う専門施設
2008年4月に開設された医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック(札幌市東区)は,10年に満たない短期間のうちに,循環器診療において多数の症例を手がけ,実績を築き上げてきた。同クリニックは当初,心臓カテーテル治療を中心としていたが,2012年には外科的治療にも対応するため心臓血管外科を設置。さらに,2013年には不整脈治療を行うハートリズムセンターを設けた。これにより,循環器内科,心臓血管外科,ハートリズムセンターの3部門で,循環器診療を提供する体制を整えている。また,関連施設である札幌心臓血管・内科・リハビリテーションクリニックでは,循環器疾患の予備群である生活習慣病患者への予防医療や,急性期医療後の回復期・慢性期患者へのリハビリテーションを提供している。このように,予防医療から急性期,回復期・慢性期に至るまでの循環器診療を手がけているのが医療法人札幌ハートセンターの特色でもある。藤田 勉理事長は,「心臓カテーテル治療,外科的治療,不整脈治療の三本柱で総合的な循環器診療を提供できるのが私たちの強みです」と説明する。そのため,治療件数も多い。2014年の心臓カテーテル治療件数は2344件,外科的治療件数は276件となっている〔出典『手術数でわかる いい病院2016(週刊朝日ムック)』(朝日新聞出版)〕。
同クリニックでは,理念の一つに掲げている「心臓血管分野における最先端の医療技術を提供」するために,施設や設備の拡充を図っている。開設当時19床だった病床数は,診療体制の強化と治療件数の増加のため,2013年には53床に増やしたほか,手術室を2室設置。2014年には74床へと増床した。
同様に,高精度な診断・治療の提供に必要なモダリティも充実させている。血管撮影装置は開設当初,フィリップス エレクトロニクス ジャパン(以下,フィリップス)の「Allura Xper FD10」を1台導入し運用してきたが,その後「Allura Xper FD10/10」と「Allura Xper FD20/10」を追加して3台体制とした。2014年にはハイエンドクラス血管撮影装置である「AlluraClarity FD10」2台と「AlluraClarity FD10/10」1台の計3台を追加導入。6台の装置をラインアップした。6室あるカテーテル治療室のうち3室を心臓カテーテル治療専用,2室を不整脈治療専用とし,残りの1室を経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)やステントグラフト内挿術(TEVAR/EVAR)などに対応したハイブリッド手術室にして,高度な治療にも対応できる環境を整えている。さらに,フィリップスの256列CT「Brilliance iCT」を北海道内で初めて導入し,冠動脈造影に置き換わる検査として心臓CTを施行しているほか,「Achieva 1.5T」を用いた心臓MRIも行っている。
最先端の医療の提供をめざして,常に最新のモダリティを導入してきた同クリニックでは2017年,開設時から使用してきたAllura Xper FD10を,フィリップスの最新鋭装置である「Azurion」に更新。国内第1号機となる同装置によりワークフローを効率化し,患者負担を軽減する心臓カテーテル治療に取り組んでいる。
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耐久性と画質で手技を支えるフィリップスの血管撮影装置
札幌心臓血管クリニックでは,年間2000件以上の心臓カテーテル治療を行っているだけに,ハイエンドクラスの血管撮影装置を採用してきた。心臓カテーテル治療における血管撮影装置の位置づけについて,藤田理事長は次のように説明する。
「医療機関を取り巻く環境が厳しい中,ほかの医療機関との差別化を図らなければいけません。そのためにも,常に最新の医療技術を取り入れ,新しい装置やデバイスを積極的に採用していくことが必要であり,ハイエンドクラスの血管撮影装置を導入していることは,大きなアピールにもなります。最新の装置で最先端の医療の提供をめざすことで,患者さんからも支持が得られると思います」
さらに,藤田理事長は,血管撮影装置に求められる性能・機能として“耐久性”を挙げ,この要件を高いレベルで実現しているフィリップスの装置を選定してきたと述べる。
「これまで他社も含めて血管撮影装置を使用してきた中で,フィリップスの装置は故障が少なく,非常に耐久性が高いという印象があります。2008年4月の開設時に導入したAllura Xper FD10は,12月までの9か月間で746件の心臓カテーテル治療を施行しましたが,その間大きな故障はありませんでした。1日10~20件程度の治療を行うという過酷な条件の中で,長期間使用によってベアリングが摩耗しても故障することなく,Azurionに更新するまでの8年以上にわたって安定して稼働してきました」
藤田理事長はさらに,「長時間使用していても,X線管のヒートアップの心配もありませんでした」と,装置の信頼性の高さも評価している。これを受けて,操作を行う臨床工学部の舘内雅典副部長も,「心臓カテーテル治療は,血管撮影装置の透視・撮影画像を見ながら行われるので,治療中に故障するようなことがあってはいけません。操作する立場から考えると,操作性の良さはもちろん,耐久性があり,信頼できる装置であることが大切です」と説明している。
また,藤田理事長は,血管撮影装置に求められる要件として,“画質”も重視しており,「耐久性の高さでフィリップスの装置を導入してきましたが,結果として優れた画質を得ることができています。特に,AlluraClarityシリーズの画質はすばらしく,とても満足しています」と述べている。画質については,診療放射線部の佐々木康二部長も高く評価しており,「他社の装置と比較して,微細な血管まで明瞭に描出できています。AlluraClarityシリーズを導入して以降は,分解能の高さを生かし,従来の画質を維持したまま,線量を落として透視・撮影を行っており,被ばく低減も図れています」と話す。
開設以来,長年フィリップスの血管撮影装置を使用し続け,耐久性や画質などをよく知っているからこそ,藤田理事長らは大きな期待を持って最新鋭のAzurionの導入を決めた。
1000以上もの新部品・技術を採用したAzurion
国内第1号機として札幌心臓血管クリニックに導入されたAzurionは,2017年の欧州放射線学会(ECR)で発表された,フィリップスの新型血管撮影装置である。ハイエンドクラスに位置づけられるAzurionは,フィリップスの従来装置の基本技術を受け継ぎつつ,さらに先進的な技術を惜しみなく投入して開発された自信作である。フィリップスは2015年のボルケーノ社買収により,心臓カテーテル治療の分野を強化しており,もともと定評のあった技術力をさらに高めている。同クリニックが導入したAzurionにも,アルパインホワイトと呼ばれる,従来装置と一線を画す新しいカラーの外装パネルが施された内部に,1000以上もの新しい部品・技術が採用されている。
●コネクトOS
特に注目すべきは,新しいOSである“コネクトOS”である。近年,TAVIやEVERといったハイブリッド手術も含め,インターベンション治療が進歩する中,治療室内で使用されるモダリティやデバイスも高度化しており,それらのマネジメントが重要となっている。コネクトOSでは,血管内超音波(IVUS)や心電計などの情報をAzurionで統合管理できるようになり,治療に必要な情報をリアルタイムに把握できるようになった。
●プロシージャーカード
また,これまでにない機能として,“プロシージャーカード”と呼ばれるアプリケーションを搭載した。プロシージャーカードは,治療内容や術者によって,透視・撮影での画質や線量などのプロトコル,治療室内の58インチ液晶モニタの “FlexVision”の画面レイアウト,操作室モニタに各検査機器の映像を集約し1つのマウスとキーボードでフルコントロールが可能な“FlexSpot”の画面レイアウトなどを登録しておくことで,事前準備を簡略化できる。プロシージャーカードの設定は,操作室のコンソールPCにてユーザー側で任意に変更を行える。また,使用する薬剤やデバイスなどの情報をチェックリストとしてFlexVisionに表示し,術者に注意喚起することもできる。このプロシージャーカードを使うことで,セットアップ作業を短時間で行えるようになるほか,設定エラーを防ぐこともでき,より安全な治療にもつながる。
●インスタントパラレルワーキング
Azurionに搭載された新技術としては,“インスタントパラレルワーキング”も画期的である。従来の装置では,透視中にほかの画像処理ができなかったが,Azurionでは同時に別の作業が可能になった。例えば透視中に,リファレンス画像の作成や以前撮影した画像の解析などが行える。このため,術者をサポートする臨床工学技士などが効率的に作業を行え,治療時間の短縮化を図れる。
●ハードウエアの新技術
さらに,Azurionは,ハードウエアにも多くの新技術が使われている。FlexVisionは,58インチの高精細液晶を採用し,同時8系統(最大16系統)の信号入力が可能である。プロシージャーカードでの設定に合わせて画面レイアウトをプリセットでき,IVUSや心電計,電子カルテシステム,PACSビューワの画面など状況に応じて,表示内容を切り替えられる。さらに,画面レイアウトだけでなく,表示されている電子カルテシステムやIVUSなどが操作できる“FlexVision Pro”機能も搭載しており,テーブルサイドから移動しなくても機器の操作も行える。
手技を支援するデバイスとしては,テーブルサイドの操作コンソールも新しいインターフェイスが搭載された。Cアームやテーブルなどの操作を行うコントロールモジュールと,撮影条件の変更やオートポジションの呼び出しなどを行うタッチスクリーンモジュールで構成される。さらに,“TSM Pro”機能により,透視・撮影などの手技にかかわる情報が表示され,コリメーションの設定などを指先の操作で直感的に調整することが可能である。この機能により,FlexVisionを見ながら手技を進めている術者を妨げることなく,サポートするスタッフがTSM Proの画面を確認しながら操作を行える。
このほか,AzurionのCアームは,12インチのFPDで,パネル外側の寸法は従来装置から変更はないが,ハウジングを薄くすることにより,取り回しの良さはそのままにFOVを39%拡大した。表示範囲が広くなったことで,手技の精度向上に貢献する。FPDも新型が採用されており,従来機種より15%ピクセルサイズを小さくしたことで分解能が向上し,より高解像度の画質を実現した。また,藤田理事長らが評価する耐久性も向上している。新しくなった冷却システムにより,最大陽極冷却率が従来の910kHU/minから1820kHU/minに,最大陽極熱容量が従来の2.4MHUから6.4MHUになり,定評のある“MRC X線管”のパワーを最大限に生かしつつ,高熱化を抑え安定稼働する。
全国トップレベルの心臓カテーテル治療を行う同クリニックだけに,従来の耐久性と信頼性というフィリップスの血管撮影装置のDNAを継承しつつ,新しい技術を搭載したAzurionは,大きな武器となるはずである。
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ワークフローの改善で効率化と省力化,治療時間の短縮を実現
Azurionが稼働し始めたばかりの札幌心臓血管クリニックであるが,フィリップスのサポートを受けながらプロトコルの設定などを行い,最適な条件を検討しつつ治療件数を積み重ねている。藤田理事長は,Azurionでの治療を行っている中で,ますます期待が高まっていると述べる。
「Azurionの一番のメリットは,新しいハードウエア,ソフトウエアによるワークフローの改善だと思いますが,実際に使用してみて実感しています。プロシージャーカードは従来,治療ごとに設定しなければならなかった画質や線量を事前に登録しておけばすぐに利用できるので,恩恵は大きいと思います。治療の内容によって線量などの異なる条件のセットを用意しておくことで,治療前の準備時間の大幅な短縮につながります。また,これまでの装置では透視撮影中にほかの画像処理ができず,非効率な面もありましたが,同時並行で解析などが可能になったことで,治療の効率化にもなります」
このようなワークフローの改善や効率化については,治療をサポートするスタッフも高く評価している。舘内副部長は,コネクトOSによりほかの装置やシステムの情報を統合的に管理できることと,インスタントパラレルワーキング技術で透視撮影中の並行処理が可能になったことについて,「以前から,このような機能があれば良いと思っていました。治療中には,今までは一つの操作しかできないのが当たり前でしたが,別の作業ができることは,とても利便性が高いです。特に,Azurion上でIVUSやPACSなど,ほかのモダリティやシステムの画像も扱えるようになり,それが並行処理できるようになったことは,マンパワーが不足している際に有用であり,スタッフの省力化にもなります」と話す。同じく佐々木部長も,「AzurionのコンソールであるTSM Proで,治療室内のモダリティやシステムの画面を表示させたり,画面レイアウトを変更できたりするのは画期的であり,以前の操作環境とはまったく異なるもので,感動しました。これにより,検査効率が向上し,治療のスループットも良くなります」と説明している。TSM Proの画面上でも各種の情報を統合管理でき,さらに並列処理が可能になったことは,スタッフの負担を軽減し,ヒューマンエラーの防止にもつながると期待されている。
また,治療を進める上で重要となる画質などの表示性能でも,Azurionの進化がメリットをもたらしている。藤田理事長は,「AlluraClarityシリーズの高画質を受け継ぎつつ,ハードウエアが高性能になったことで,リアルタイム性がさらに良くなり,スピーディに表示されます。画像解析の処理スピードが速くなったことは,手技を進める上でとても有用です」と,評価している。加えて,解像度が上がり,FOVも拡大したことは,精度の高い治療を行う上で役立っていると,藤田理事長は続ける。
「従来,描出が難しかった血管の視認性が向上し,またFOVが広がったことで手技を進めていくところを広範囲に表示できるようになり,正確なデバイス操作に役立っています」
これまでの使用経験を踏まえ,藤田理事長は,「すでに十分な画質を得られているので,今後は被ばく低減を進めたいと考えています。これまでの使用経験では,通常の心臓カテーテル治療の1/3程度まで被ばく線量を落とすことができるのではないかと思います。特に,慢性完全閉塞病変(CTO)の治療などの被ばく線量が多くなる手技では,積極的に低被ばく化を図っていきます」と述べている。
モダリティのラインアップを充実させ診療体制の強化を図る
藤田理事長は,Azurionについて,アプリケーションの充実に期待を寄せている。特に,撮影したリファレンス画像を透視画像に重ね合わせて血管をカラー表示し,デバイス操作を支援する“Dynamic Coronary Roadmap”が搭載されれば,よりいっそうの治療時間の短縮が可能となり,被ばくと造影剤量の低減にもつながる。また,藤田理事長は,既設装置も順次Azurionに更新していくことを検討している。さらに,2017年にはCTの更新も計画しており,スペクトラルイメージングが可能なフィリップスの「IQon スペクトラル CT」の導入を予定している。今後もモダリティのラインアップを充実させていくことで,藤田理事長は,診療体制を強化していきたいと考えている。
「まずはSHD(Structural Heart Disease)インターベンションへの対応を進め,多くの治療ができるようにしていきます。また,海外との交流を深め,インターナショナル化,アカデミック化も推進します。その上で,リハビリテーションセンターやサテライト施設を設置して,北海道中の患者さんを救いたいです」
札幌心臓血管クリニックでは,今後も最新のモダリティを活用し,最先端の循環器診療をめざしていく。
(2017年2月3日取材)
医療法人 札幌ハートセンター
札幌心臓血管クリニック
病床数:74床
診療科目:循環器内科,内科,心臓血管外科,麻酔科,不整脈外来