2017-3-1
20名を超える大所帯で,質の高い診療を
支援する情報システムセンター
聖路加国際病院では,病院情報統合システム「SMILE(St. Luke’s Medical center Information systems Linkage Environment)」を構築し,「Quality Indicator(QI)」を用いた医療の質改善に取り組んでいる。放射線科では,2003年にGEヘルスケア・ジャパンのPACSを導入。可用性の高い同社のPACSを10年以上にわたり運用してきた。さらに,2018年5月に稼働する新システムでは,バックアップ用に長期間の安定稼働を実現するVNA(Vendor Neutral Archive)サーバ製品「CCA(Centricity Clinical Archive)」を導入し,より信頼性の高い統合画像管理をめざす。医療機関の資産である医用画像データを安全に管理し,医療の質の向上に貢献するシステム構築のノウハウを,情報システムセンターの才木誉友氏と放射線科の須山貴之氏に取材した。
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ITを活用しQIによる医療の質改善に取り組む
聖路加国際病院は,現在,病床数520床,1日の外来患者数約2700人の規模を有する国内有数の病院として,海外にもその名が知られている。同院が世界的な認知度を持つ理由には,基本方針の一つである「国際病院としての役割を果たすため,海外からの患者受け入れ態勢を整える」取り組みとして,医療の質と患者安全の担保を評価する国際的な第三者評価認証機関JCI(Joint Commission International)の認証を2012年に取得したことが挙げられる。米国シカゴ市に本部があるJCIは医療の質と改善,患者安全などの施設評価を行っており,2015年に同院が認証を更新した際は,14分野1145項目にわたる審査が行われた。
このように,同院が国際的にも評価を得ている背景には,医療の質に対する真摯な活動がある。同院では,基本方針に「医療の質を高めるため,『根拠に基づいた医療』を実践する」ことも掲げている。その実現に向けて,2005年に院内に診療情報解析システムワーキンググループ(現・QI委員会)を設置。電子カルテシステムのデータを二次利用して医療の質を数値化した「Quality Indicator(QI)」を公表し,質の改善を図っている。同院のQIによる医療の質の改善活動は,海外からも高く評価されており,2015年には国際病院連盟の国際病院連盟賞最高位賞,2016年には欧州質研究学会(ESQR)のベストプラクティス賞を受賞した。また,2015年8月に出された“OECD Reviews of Health Care Quality JAPAN”では,同院のQIを用いた活動は,日本における医療の質の向上のためのロールモデルになると記述されている。
QIの測定や分析で重要となるITの導入にも,同院では力を注いできた。1992年には,病院情報統合システム「SMILE」が構築され,2003年には電子カルテシステムを中心とした第三世代SMILEの運用を開始。さらに,2011年には,第四世代のSMILE(現行SMILE)が稼働し始め,現在も運用中である。現行SMILEは,(1) Quality,(2) Usability,(3) Integration,(4) Communication and Collaboration,(5) Knowledge and Researchをコンセプトに構築されている。電子カルテシステムを核に各部門システムが連携し,データウエアハウスに集積された情報から,QIに関するデータを高精度に分析することが可能になったほか,教育・研究の目的でも質の高いデータを提供できるようになった。
SMILEの更新に伴い,放射線部門システムも進化し続けてきた。2003年には第三世代SMILEへの更新に合わせて,GEヘルスケア・ジャパンの「Centricity PACS」を導入。フィルムレス運用に移行した。第三世代SMILEでは,RISやレポートシステムなどに他ベンダーのシステムを採用し,マルチベンダーで放射線部門システムを構築した。その後,2011年の現行SMILEの稼働に当たっては,PACSも更新。Centricity PACSを中心に,内視鏡画像やマンモグラフィ画像,健診の眼底検査画像も含めた統合画像管理を実現し,医療の質の向上に貢献するシステムとして安定稼働している。
信頼性の高いフィルムレス環境を構築
PACSも含めたSMILEの構築・運用で重要な役割を果たしている部門が,情報システムセンターである。情報部門の発足当時は,病院情報システムの運用・管理をメインに行っていたが,業務範囲の拡大に伴い,「情報室」と「システム室」(現行名称)からなるセンターを2006年に設立した。さらに,2014年には,聖路加国際大学も含めた法人全体の情報部門として,規模を拡大。法人のIT全般にかかわる業務を分担して取り組んでいる。
このうち情報室では,病院経営や診療,教育・研究などに関するデータの分析と提供を行っている。同院の特色であるQIによる質の改善においても,情報室がデータの収集・分析などの重要な役割を担っている。一方,システム室は,SMILEなどのITサービス・ネットワーク全般の企画から導入,運用全般にかかわるITサービスのライフサイクル管理業務と,教職員からの問い合わせや要望などの対応を行うヘルプデスク業務を担当している。システム室のアシスタントマネジャーである才木氏は,センターの特色について,次のように述べる。
「2016年1月時点で,システム室11名,情報室13名の体制で運営していますが,これだけ規模の大きい情報部門は,大学病院も含めあまり例を見ないと思います。特に,現在は膨大なデータから診療や経営に役立つ情報をフィードバックすることに力を入れており,QIによる質の向上に貢献しています」
システム構築を主導するのも情報システムセンターの役目であるが,多岐にわたる部門システムの選定や導入,運用には,各部門がワーキンググループとして参加している。PACSについては,放射線科のスタッフがシステム構築に参加した。
放射線科のスタッフは,予防医療センター,聖路加メディローカスも含め,放射線科医が20名以上,診療放射線技師が約70名在籍している。また,放射線科は,モダリティも各メーカーのハイエンドクラスを配備。CTはGEヘルスケア・ジャパンの最上位機種であるワイドカバレッジCT「Revolution CT」をはじめ計3台,MRIもGEヘルスケア・ジャパンの3T高級機である「Discovery MR750w 3.0T」など4台をラインアップしている。
これらのモダリティで行われる検査の件数も非常に多い。本院では,2015年度の実績で,CTが3万91件,MRIが1万6257件,一般撮影が7万9122件(ポータブル含む),X線透視が1564件,マンモグラフィが9371件,核医学検査が9400件となっている。このうち,一般撮影を除くCT,MRIなどの検査画像は,原則として放射線科医が読影を行っている。
検査・読影とも膨大な数に上る放射線科の業務を支えるPACSの存在は重要である。2003年の第三世代SMILE更新に伴うPACS導入とフィルムレス運用への移行においては,放射線科のワーキンググループが中心となり,システムを選定した。放射線科アシスタントマネジャーで診療放射線技師の須山氏は,「システム選定では,複数のベンダーのPACSを候補に挙げて検討しました。各社のデモンストレーションなどから,GEヘルスケア・ジャパンのPACSがビューワの操作性も良く,表示速度が速かったことを評価して,採用を決定しました」と,Centricity PACS導入の理由を説明する。
GEヘルスケア・ジャパンのPACSは,独自の可逆圧縮技術である“Progressive Wavelet”により,高画質を維持したまま1/3まで圧縮して画像データを保存できる。この技術により,高速な画像配信を実現。さらに,配信された画像をメモリに展開する“ダイレクトメモリアクセス”によって,ビューワの表示速度も高速化を図っている。これらの高速化技術が,膨大な検査画像を読影する放射線科医のストレスを軽減し,業務の効率化とともに,質の高い診断の実現につながっていると言える。
2003年に稼働し始めたGEヘルスケア・ジャパンのPACSは,その後もバージョンアップを経て,長期間にわたり同院の信頼に応えてきた。2011年の現行SMILEへの更新に際しては,再びPACSの選定が行われたが,操作性や速度はもちろんのこと,安定稼働を続ける信頼性の高さも評価されて,再びCentricity PACSの採用が決まった。
充実した保守サービスによるPACSの安定稼働
現行SMILEでは,Centricity PACSを中心とした統合画像管理環境が構築された。CTやMRI,一般撮影,X線透視,血管撮影,超音波,核医学検査などのデータをCentricity PACSに保管。マンモグラフィと内視鏡画像,心エコー画像,眼底検査画像も,他ベンダーのサーバで一時的に保存しているが,最終的にはCentricity PACSに保管される。聖路加国際病院と聖路加国際病院附属クリニック・予防医療センター,聖路加メディローカスの3施設から発生する検査画像を一元管理している。また,放射線科の読影ビューワには「Centricity RA1000」を36台設置。各診療科の参照用ビューワとして,電子カルテシステム端末で利用できる「Centricity Web」を採用し,院内各所からマンモグラフィを含めた放射線科検査画像,内視鏡画像を参照できるようにした。才木氏は,このシステム選定の経緯を次のように説明する。
「2003年の第三世代SMILE構築の時と同様に,ワーキンググループを中心にベンダー選定に伴う評価を行いましたが,最も評価が高かったのがGEヘルスケア・ジャパンのPACSでした。特に,保守体制がしっかりしており,長期間にわたって安定稼働しているという信頼性の高さが評価されました。また,他ベンダーのPACSを採用した場合,サーバのデータ移行が発生します。私たちは2003年からフィルムレス運用をしていますが,それに先立って2002年から放射線科の検査画像をPACSサーバに保管しており,これまでに蓄積したデータ量は膨大です。データ移行に伴って発生するコストや時間を考慮すると,Centricity PACSへの更新が最も良い選択だと判断しました」
須山氏も,GEヘルスケア・ジャパンの製品・システムに対して信頼を寄せており,「私自身は,フィルムレス化の前から診療放射線技師としてCTを使用しており,『質実剛健』というイメージを持っていました。実際にPACSを運用していても,その印象は変わらず,画像の配信と表示の速度が速いという点も含め,満足していました。さらに,診療放射線技師としては,とても使いやすく,システム管理の視点からも画像の修正や削除などの操作が容易かつ確実に実行できるのが良いと思っていました」と述べている。
聖路加国際病院で評価された「信頼性の高さ」につながっているのが,充実した保守サービスである。GEヘルスケア・ジャパンのPACSなどのITシステムは,担当スタッフによる現場での保守に加えて,電話回線によるリモート保守である「inSite」とブロードバンド回線を用いた「inSite BB」により,専任のエンジニアが24時間体制で診断・点検・修理を行う。さらに,製品・システムを24時間監視して,故障の予兆を検知して保守を行い,システムダウンなどのトラブルを未然に防ぐモニタリング保守「WatchNet」も提供している。加えて,2013年には,ユーザーが常に最新のソフトウエアを利用できるようにする「SWOP(Software Obsolescence Protection)」というサービスの提供も開始した。このような保守サービスにより,ソフトウエアだけでなくハードウエアについても,故障が発生する前にメーカーへ部品の手配を行い,速やかに交換することで,ダウンタイムを最小限に抑えることを可能としている。
病院全体のシステムを管理する立場から,才木氏は,PACSのシステム要件として,保守サービスも含めた信頼性の高さが最も求められると言う。
「私たちがPACSや電子カルテシステムを選定する上で重視する項目の一つに『可用性』があります。人の命にかかわる医療情報システムでは,『止まらない』ことが何よりも求められます。システムダウンの原因は,ハードウエア,ソフトウエアのトラブル,そして,ヒューマンエラーの3つの要素がありますが,GEヘルスケア・ジャパンのPACSは,ヒューマンエラーが生じにくく,またハードウエア,ソフトウエアのトラブルも,リモート監視による予兆診断により発生していません。特に,現行SMILEにおいては,非常に安定しています。毎月開かれる情報システム管理委員会では,各システムの保守状況を報告しており,PACSの保守件数が上位になることが多くあります。しかし,これは故障が発生しているのではなく,事前にトラブルを解決し,システムダウンを回避していることの証明です。システムにハードウエアの故障はつきものですが,GEヘルスケア・ジャパンの保守サービスは,予兆があれば,夜中であっても速やかに部品交換などを行ってくれるので信頼できます」
現行SMILEの中でも,GEヘルスケア・ジャパンのPACSは安定稼働することで絶大な信頼を得ており,同院が重視する医療の質の向上に欠かせないデータを安全に守っている。
拡張性・将来性の高さをメリットに持ち可用性を実現するVNA製品「CCA」を導入
聖路加国際病院では,2018年5月に第五世代目SMILEへのシステム更新を計画している。放射線科も新システムの準備を進めており,PACSもマルチベンダーで構築する。
その中で,次期システムでは新たな試みとして,VNA(Vendor Neutral Archive)を導入することとし,これまでの信頼性の高さを評価し,バックアップ用にGEヘルスケア・ジャパンのCCA(Centricity Clinical Archive)をVNAサーバとして採用を決めた。これにより,システム更新において,多くのメリットが得られると,才木氏は指摘する。
「聖路加国際病院,聖路加国際病院附属クリニック・予防医療センター,聖路加メディローカスの3施設から日々大量の画像データが発生しており,データ量は増大の一途をたどっています。システム更新では,このデータの移行作業が発生しますが,GEヘルスケア・ジャパンのPACSサーバからVNAサーバであるCCAへデータを移行することで,コストを抑えることができ,スケジュールの短縮が可能になります。また,VNAサーバでバックアップを行うことで,データを安全,確実に管理できるようになるほか,DICOM形式以外のデータや連携先医療機関のデータの保管も可能になります。さらに,今回VNAサーバを採用し,データを蓄積していくことで,その次のシステム更新でも,データ移行に伴うコストを抑え,時間も短縮できます。このようなCCAの拡張性・将来性の高さをメリットと考え,導入を決定しました」
現行SMILEのPACSサーバには,3施設からの15年間分の画像データが保管されており,そのデータ量は120TBにも及ぶ。2017年1月までPACSサーバからVNAサーバであるCCAへのデータ移行の検証を行い,その後,本システム稼働に向けて本格的な移行作業が始まる。新システムにおけるVNAサーバは,システム管理で最も重要な要件である可用性,止まらないシステムのための重要な位置づけにあり,同院が追究している質の高い医療の提供に貢献すると言える。才木氏は,「新システムのPACSサーバがダウンしても,速やかにVNAサーバに切り替えることでダウンタイムを最小限に抑えて画像を配信でき,診療を継続することが可能です」とCCAのメリットを説明する。また,須山氏も同様に,システムのさらなる安定稼働につながると述べている。
「これまでGEヘルスケア・ジャパンのPACSやCTを使用し,予兆判断によりトラブルの防ぐことができました。それだけに,システムやモダリティを管理する立場としては,VNAサーバの存在は大きな安心感を得られます。新システムでVNAサーバがバックアップサーバとして機能することで,ダウンタイムが限りなくゼロに近くなると期待しています」
さらに,VNAサーバを導入したことで,今回だけでなく将来的なシステム更新でも柔軟な対応ができるようになる。データ移行に伴うコストを抑えて更新期間を短縮化し,ビューワの選定などにおいても,PACSベンダーに依存することなく施設の運用に見合った自由度の高いシステムの構築が可能となる。これは,医療機関にとって大切な財産であるデータを管理するという観点からも,非常に重要なポイントだと言えよう。
CCAをVNAサーバで利活用・共用し質改善と地域医療連携を推進
聖路加国際病院では,VNAサーバによって長期的な視点からPACSの安定稼働を図ることとしたが,今後は,保管されたデータを有効活用することも,大事な取り組みとなる。才木氏は,将来的にはサーバに保存された膨大な画像データをビッグデータとして分析するなどして,QIによる質改善につなげていきたいと考えている。また,「今後は非DICOM形式の画像もVNAサーバ内に保管していき,ほかの医療機関への情報提供が可能な標準フォーマットとすることで,地域医療連携の強化を図っていきたい」とも述べている。
この言葉を踏まえて,須山氏は,「PACSは,放射線科医,診療放射線技師,システム管理者によって求める要件が異なりますが,VNAなどの仕組みを利用して,長期的に安定稼働するシステムを構築していくことが,結果として満足度の高さにつながると考えます」と説明する。
同院では,これからも信頼性の高いシステムにより,病院の資産であるデータを安全に保管,活用することで,QIを用いた質改善活動を通じて,「医療の質を高めるため,『根拠に基づいた医療』を実践する」という基本方針を実践していく。
(2017年1月12日取材)
*Centricity Clinical Archiveは,非医療機器です。
本記事はGEヘルスケア・ジャパンの依頼に基づきインタビューを行い作成したものです。
●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社 ヘルスケア・デジタル事業本部
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