innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

富士通フォーラム 2016 REPORT(2016年5月19日(木)~20日(金)@東京国際フォーラム)Conference:医療現場のイノベーション健康長寿社会の実現に向けて / Seminar:電子カルテで支える地域医療・包括支援

2016-7-1

富士通フォーラム 2016

Conference
医療現場のイノベーション健康長寿社会の実現に向けて
ヘルスケアデータの活用が変える「医療の未来」

2016年5月19日(木)〜20日(金)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「富士通フォーラム2016」において,医療をテーマとしたカンファレンスが行われた。登壇者3名による講演と,嶋田 元氏(聖路加国際大学情報システムセンター長,聖路加国際病院消化器・一般外科副医長)をモデレータに迎えたパネルディスカッションの様子を報告する。

 

 

講演1
医療の質向上と持続可能性の両立
ビッグデータ時代の課題と展望
宮田裕章 氏
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授

宮田裕章 氏

日本はいま,少子高齢化,経済成長の鈍化に加え,人口減少という困難に直面している。2025年問題が注目されているが,さらに将来の人口構造を見据えた医療システムの構築が不可欠であり,その核となるのがICTである。

臨床現場を主とした医療の質改善

現在日本では,専門医制度と連携して現場と密接に結びついた情報を集約する世界最大の臨床データベース「National Clinical Database(NCD)」が作られている。これを活用することで,医療の質の向上を図ることが可能となっている。1つは,患者の術前リスクを入力することで予測されるアウトカム(死亡率や合併症発生率)が算出されるリスク評価である。もう1つが,患者の重症度を補正した自施設診療科の治療成績を算出し,全国の施設と比較できる機能である。このベンチマーキングにより自施設の弱みと強みを分析し,適切にPDCAサイクルを回すことが可能になる。
従来は,ガイドラインに基づき医療の質を担保・改善してきたが,ビッグデータの分析により,瞬時に,かつ個別化した最善の医療を提案する次世代型Evidence Based Medicineに発展すると考える。このプロセスの多くに人工知能(AI)が活用され,ICTの役割はさらに大きくなることが予想される。

診断治療法の継続的な改革

医療機器や医薬品の研究開発には,「開発・探索」「検証・評価」「実装・市販後調査」という3つのフェーズがある。従来は切り離されていた各フェーズのデータを統合したビッグデータとして体系化し,データサイエンスを効果的に活用することで,研究開発の質とスピードを飛躍的に向上させ,コストを低減することが可能となる。
また,データベースの考え方も,これまでのような施設主導型から,AIを活用して患者を軸に情報を共有し,患者自身が主体的に治療決定や健康作りにかかわっていくオープンデータベースへと変化するだろう。日本は,魅力的な生き方を追求する中で自然と健康になるウェルビーイング・プラットフォームで世界をリードできるのではないだろうか。

人口減少社会を乗り越える方策

日本が抱える課題をICT活用で解決する方策を,4つの観点から提案したい。
財源の効果的活用
日本の平均在院日数は米国の約3倍と長く,短縮改善によるコストへのインパクトは大きい。ビッグデータを分析することにより,財源の効果的活用のための施策検討が可能となる。
専門性の拡張
医療プロセスの一部をAIが代替することで,医師の仕事は患者マネジメントやデータ分析,AIのチューニングへとシフト・拡張すると予想される。
連携による空間デザイン
ICTで医療機関をつなげることで,地域において診療のフェーズ別に実施施設を絞り込み,より高効率に医療を提供するネットワークを形成することができる。
共有による時間の運用
ICTネットワークを活用した遠隔病理診断で病理医の時間的リソースを有効活用するといった取り組みが始まっている。将来的に診療報酬が適用され,オールジャパンで取り組めれば大きな価値を生むだろう。
ICTの活用は,医療において今後ますます重要になってくる。医療者やICTの関係者・企業が連携することで,課題を解決し,世界をリードする新しいモデルを日本から発信できると考える。

 

 

講演2
医療現場におけるデータ活用とデータサイエンティスト育成の重要性
工藤卓哉 氏
アクセンチュアData Science Center of Excellence北米地域統括 兼
アクセンチュア アナリティクス日本統括 マネジング・ディレクター

工藤卓哉 氏

本講演では,予防医療におけるICTの活用について事例を中心に紹介するとともに,医療現場とICTをつなぐ人材の重要性について述べる。

予防医療におけるICTの活用

医療分野でもビッグデータの活用が注目されているが,ここで重要なのはデバイスという概念がビッグデータを支えていることである。センシング技術が進化し,薄膜センサーや加速度センサーなど各種デバイスが人間の生活スタイルに近づくことで,さまざまなデータを取得できる。そのデータを活用して予防医療の実現をめざす取り組みが,ICT企業で盛んに取り上げられ始めている。北米ではデータを集積してオープン化する取り組みが急速に進んでおり,日本でも予防医療の領域でデータ活用が始まっている。
医療分野でICT企業が注目するのは,予防医療や発症後のケース分類(重篤化/治療・共存/完治)におけるICT活用である。将来的には,遺伝子検査や生体データモニタリングを基にした予防アドバイスにより治療が不要となり,医療費や社会保障も抑制できることが期待される。

事例紹介

予防医療にICTを活用した事例をいくつか紹介する。
日本でサービスインとしている遺伝子検査では,唾液サンプルを送付するだけで282項目の遺伝的特徴をまとめてアドバイスをする。未病の段階でヘルスサポートを提供する点が特徴である。
米国では,呼吸器疾患の患者,医師,研究者をつなぐ仕組みとして,ICTを利用したプラットフォームが提供されており,異なるベンダーのさまざまなデバイスから生体情報を収集・集約し,患者,医師,研究者それぞれの目的に合った形で情報を提供する。米国では患者の自己管理意識が強く,高いニーズがある。
また,無線ICチップを内蔵した錠剤によって,服用した薬剤の種類や量などの服薬情報と,体温や心拍などの身体情報とを併せて記録し,薬効の検証や服薬指導に役立てる“デジタル錠剤”なども提供されている。
さらに,米国ではデジタル聴診器とタッチレス温度計からなるメディカルキットを使い,携帯端末で自己管理を行うと同時に,クラウド上にデータ送信してビデオ通話などで自宅から医師に相談し,診断を受けられるサービスが提供されている。遠隔医療は,少ない労働力を十二分に生かしワークフォースの平準化を可能にする。

医療領域で求められる人材とは

ビッグデータ分析の専門家であるデータサイエンティストは,医療現場に限らずあらゆる領域で不足している。日本においては,人数の少なさもさることながら,専門技能に対する対価が非常に低いことが課題である。
医療におけるデータサイエンティストには,医療現場とデータ分析の知識を持ち,2つの現場をつなぐとともに,多種多様なデータや解析手法と医療現場のニーズを適切につなげるスキルも必須である。各現場をつなげる役割だけでなく,データ分析にはチームで取り組むことから,コミュニケーション能力は必要なスキルである。
データサイエンティストという言葉はスマートに聞こえるが,実際には地道な作業が大半を占める泥臭い職業である。人材の確保・育成には課題も多いが,今後の医療現場を支える人材として,ますます需要は高まっていくだろう。

 

 

講演3
人工知能を活用した医療画像診断支援技術
医療現場で使われながら成長する支援システムの実現に向けて
村川正宏 氏
産業技術総合研究所人工知能研究センター人工知能応用研究チーム研究チーム長

村川正宏 氏

日本はがん患者の増加に加え,医師不足により現場の負担が増大し,医師の高齢化や医療の地域間格差も進んでいる。そして,データのデジタル化により,処理不可能な量の情報が日々蓄積されていることも,医師の負担増加の一因となっている。
本講演では,われわれが開発している人工知能により医師の負担を軽減する医療画像診断支援技術を紹介する。

病理画像診断支援システム

現在,病理診断の顕微鏡画像は高精細なフルデジタルデータとして保存できるようになっており,病理医は大量の画像を短時間で,見落としなく診断しなければならず,精神的プレッシャーが非常に大きい。
そこで,人工知能技術を活用し病理医の負担軽減をめざすシステムの研究開発を進めており,2つの使い方を検討している。1つ目はスクリーニングとしての使用で,人工知能により明らかにがん組織を含まない正常な画像を振り分け,疑わしい画像だけを病理医が診断する。2つ目はダブルチェックとしての使用で,病理医が正常と診断した画像の中に見落としがないかを,人工知能でチェックするというものである。
システム開発にあたっては,正常パターンを機械学習し,正常部分空間からの逸脱度で異常を判断する手法でアプローチした。性能検証実験では,スクリーニングに使った場合に医師の作業負担を大幅に削減する効果があるとの結果を得ている。

内視鏡診断支援システム

内視鏡診断では,「患者に苦痛を与えない機器操作」「異常を見落とさない観察」「正確な診断」の3つを同時に行う高度な手技が必要となる。これに対してわれわれは,人工知能による異常検出技術に加えて,類似症例高速自動検索技術の研究開発に取り組んでいる。
ポイントは,厳密には色や形が違っていても似た画像を過去の症例画像からピックアップし,さらにデータベースで紐付けされた治療履歴や投薬履歴をその場で医師に提示できる点である。これにより診断の意思決定にも貢献できると期待される。開発中のシステムは,異常が疑われる部位を撮影すると,約1秒で重症度分類と類似症例の検索結果が表示されるようになっており,現在,医師による評価を行っている。

乳腺超音波診断支援システム

乳腺超音波検査は検査者の経験や技量により見落としの危険性があるため,それを防止するシステムを開発中である。
超音波画像は,動画像でノイズが多く,結果をリアルタイムに提示する必要があることから,人工知能による診断支援が技術的に難易度が上がる。現段階のシステムでは,筋肉と乳腺組織の境界領域において過検出が認められるため,手法の改良に取り組んでいる。

今後の研究開発の課題

いずれのシステムも,医師が診断した症例を教師データとしてモデルを構築しアウトプットするため,最初の教師データに認識・検索機能が依存するという課題がある。また,多くの事例を集めなければ認識性能は向上せず,一方で完璧なシステムとなるまで現場に投入できないとなれば,“ニワトリとタマゴ”の問題になりかねない。
システム開発では,システムが現場で使われながら,医師のフィードバックにより成長するという好循環のサイクルを回す必要があり,そのためのプラットフォームを構築する必要があると考えている。それを実現するために,医師の追加負担をできるかぎり小さくするシステムの作り込みや,継続的に参加してもらうためのインセンティブの付加が,今後の課題と言える。

 

 

パネルディスカッション
だれもが幸せになれるICTの活用をめざして
モデレータ:嶋田 元 氏
聖路加国際大学情報システムセンター長,聖路加国際病院消化器・一般外科副医長

データ活用に必要な意識改革

モデレータ:嶋田 元 氏

モデレータ(嶋田):医療現場の課題克服のために,ICTの活用が必要とのお話でした。そのためには超えねばならないハードルがあると思います。
宮田:情報活用のメリットが見えにくく,プライバシー保護の面ばかりが強調される傾向にあります。しかし,厳しい状況を改善するためには情報活用は必須であり,バランスを考えることが必要です。また,外科領域でNCDが始まっていますが,データ集約に消極的な領域もあるため,積極的な領域にインセンティブが働くような制度設計と,全体の底上げも必要だと考えます。
工藤:日米を比較すると,日本でデータ活用が浸透しない大きな要因の一つが保険制度であると感じます。米国は利益優先の私的保険制度で,保険申請は高い確率でリジェクトされるため,適切な医療を受けるためにはデータを基に対応する必要があります。だからこそ有権者は医療政策を重視しますし,その結果ICT活用に予算が付くのだと思います。
嶋田:皆保険制度の日本では,医療費負担も多くなく,患者の情報は医療機関が蓄えるという文化が残っているのでしょう。しかし,情報が流通しなければ新しいソリューションは生まれにくいと,さまざまな現場が感じ始めているように思います。

医療のリソース不足を補うICT

パネルディスカッション

嶋田:リソース不足という課題に対してICT活用の可能性はいかがでしょうか。
村川:医師を支援する形でICTは活用できると考えます。医師は診療で迷ったときにはその場でアトラスや医学書を参照するので,それらの代わりにICTを使うのであれば,敷居は高くないのではないでしょうか。
宮田:画像診断と病理は,遠隔における共有とリソースの活用が最初に進んでいく領域だと思います。AIについても相性のいい部分から置き換えられ,現場と連携するプラットフォームが作られるでしょう。
嶋田:新しい事例を作ることは大変難しいと思います。事業を始めるためのヒントはありますか。
村川:医療領域における研究開発では,医師と医療機器メーカーの協力を得て,三者で進めることが重要です。まずは取り組みを理解してもらい,提供してもらったデータを解析して結果を見せることで研究開発は前進します。スタートはコンパクトにして一通りのことを見てもらうことで,三位一体となって展開できるようになると思います。

人材育成とこれからのICT活用

嶋田:ICT活用のためのデータサイエンティスト育成の難しさについても話がありましたが,育成のポイントは何でしょうか。
工藤:医療に限らず,他業界でもデータサイエンティストの育成がうまくいっていない理由の1つに,データの解析だけをしていて実際のプロセスへの落とし込みができていないことがあります。「統計的に有意である」と解析して終わりではなく,現場からのフィードバックを得て,データの質を向上させるための改善につなげないと,データサイエンティスト自体が評価されません。データの循環に力点を置いて育成することが重要だと思います。
嶋田:日本では在院期間の短縮が以前から言われていますが,短縮化だけが本当に良いことか,疑問もあります。死亡率や合併症以外にも,Quality of Life(QOL)や患者・家族の満足度のデータも,安心,安全で豊かな健康長寿社会の実現には必要ではないかと感じています。
宮田:データベースを作る際には,医療提供側の視点になりがちです。医療のゴールは患者側のQOLやウェルビーイングであり,客観的かつ標準的な評価が必要です。適切な患者マネジメントのためにも,データを患者と共有しながらコミュニケーションを続けることが重要だと思います。
嶋田:医療は患者のためにあることを忘れてはいけません。今後は個々人の人生や価値観に配慮した医療が必要ですが,医療現場ではまだ模索中です。だれもが幸せになれるICTの使い方を皆で考えて,オールジャパンで対応していけるといいと思います。

(敬称略)

さまざまなヘルスケア拠点の医療情報を統括して管理できれば,あらゆるシーンで患者さんに適切な医療やケアを行うことができます。さらに将来的には,ビッグデータを活用した高度医療や,個人向け医療サービスも可能になるでしょう。こうした医療環境の創出に向けて,富士通はクリニックや介護,健診にかかわるすべての情報を統合して活用するヘルスケアICT基盤「Healthcare Information Suite」の構築に取り組んでいます。

 

 

Seminar
電子カルテで支える地域医療・包括支援
〜地域住民が安心・安全に暮らせる地域包括ケアシステムの取り組み
上野道雄 氏
福岡県医師会副会長/国立病院機構福岡東医療センター院長

上野道雄 氏

セミナー「電子カルテで支える地域医療・包括支援」では,高齢化社会に向けた電子化医療モデルとして,国立病院機構福岡東医療センター院長の上野道雄氏が,同センターと福岡県古賀市で展開する「結(ゆい)ネットいきいき」の取り組みついて講演した。

病院・医師会・行政が連携

高齢化社会において安全な救急医療体制を提供するため,当センターと地域医師会,行政とが連携して「粕屋在宅医療ネットワーク」を2006年に立ち上げた。高齢者の病歴や薬歴などを登録して,かかりつけ医と基幹病院で情報共有を行うネットワークである。病院,医師会が表裏一体となって地域への広報活動を行い,行政とも連携することで登録病院の数も増え,登録患者数も2000人超まで発展した。現在は福岡県医師会と連携して「とびうめネット」として福岡全県下に拡張中である。
この粕屋地区での在宅医療ネットワークの構築を通じて,基幹病院・地域医師会・行政が三位一体となって,ともに汗をかき成功体験を共有したことが信頼関係の構築につながった。
地域のシステム構築では,“何か要望はありませんか”と聞くだけではだめで,具体例を示して不満の声を聞き,それを基に再設計案を提示することが必要だ。それを地道に繰り返したことが,もう1つの夢であった,基幹病院と地域包括をつなぎ患者情報を共有する「結ネットいきいき」として結実した。

不満の声をシステムに生かす

10年間,地域の声を聞いてわかったことは,基幹病院が地域から離れ,まったく期待されていないことだった。病院から発信される診療情報提供書は,地域まで届いていなかった。かろうじて介護保険主治医意見書が,情報量や精度に問題はあるものの医療・介護間の情報共有ツールとなっていた。また,退院調整会議は患者に関係する病院と地域のスタッフが集まる場だが,協議ではなく単なる情報伝達の場になっていた。しかも膨大な情報を口頭で伝えるだけでは理解や共有には限界がある。ここにこそICTのノウハウを利用すべきと感じた。
われわれが行っている地域との取り組みの中の一つが,粕屋地域交流学習会である。ここで病院と地域包括を結ぶ連携システムへの声を集めている。最大の収穫は,まったく接点のなかった病院職員と地域の介護職がふれあい,顔を突き合わせて議論ができたことだ。「病院と地域の情報共有は理想論で画に描いた餅」「病院ではなく地域が情報発信を主導すべきではないか」といった,われわれからすると信じ難く厳しい意見も多く出たが,“医療と介護の情報共有の難しさ”と“電子化の必要性”が徐々に認識され,構築のための土壌が熟成されつつあると感じている。まだ道半ばではあるが,言葉も視点も異なる関係者が密な会議を続けることこそが唯一の解決策だと確信している。

多職種が連携可能な電子カルテ

結ネットいきいきの基本構造(コンセプト)は,病院の多職種が高度な専門性を持って短期集中的に作成した膨大な情報と,地域での日常生活を長期的に観察した情報を統合的に管理し,病院と地域とで情報共有するシステムである。そこで最大の障害は病院の電子カルテシステムだと言えるだろう。電子カルテには,多職種が情報を生成しそれを共有する仕組みも,そのための画面もなかった。その部分を富士通と共同開発した。
医師や看護師は,以前からカルテの2号用紙に患者の所見や問題点を記録してきた。電子カルテ導入後はそれがプログレスノートになり,ICTによる自動入力などのサポートで紙の時代とは比較にならない情報量が記載されることになった。しかし,そのために,本当に欲しい情報が“藁くずの中の針”の状態になって見つけにくくなった。そこで,このプログレスノートの診療・看護情報を人的負荷をかけずに,利用する場面にあわせて機能的に活用できるようにすることが電子カルテ改造の根幹となった。具体的には「eXChart(エクスチャート)」を利用して,変数を利用した多重利用,医師と看護師の入力情報をあわせた2次情報生成などを行っている。
こういった電子カルテの改造をもとに,結ネットいきいきでは病院の看護情報を中心に共有し,活用することを考えている。医師の記載が専門的な情報なのに比べて,看護記録には日々の暮らしを支える全人的な情報が,誰でも理解可能な文体で記載されているからだ。さらに,地域の介護情報を見た時に,病院の看護情報とパラレルに一致することがわかったことも大きい。これも10年の蓄積があって初めて明らかになったことだった。

病院の医療は“注文住宅”へ

これまで,地域に対して病院が医療を一方的に提供する医療はいわば“建売住宅”だった。地域に戻ってからの生活や介護は考慮せず,主治医が最善と判断した治療を提供していた。しかし,退院後も個人の暮らしを継続的するには,病院の医療も“注文住宅”に変わる必要がある。そのためには,地域と病院の情報を統合しなければ,本当に患者の要望に沿った注文住宅は提供できない。地域からは,社会環境に応じたゴールと日々の暮らしぶりを病院に伝えてもらう。それらの情報を統合し共有するための仕組みが,結ネットいきいきの中核機能であり,地域が情報発信を主導するネットワークとなるが,われわれも積極的に取り組んでいきたいと考えている。