2015-3-27
RICOH Unified Communication Systemを
活用して地域の医療・介護連携を支援
急速に進む高齢社会の中で,大都市のベッドタウンを中心に医療と介護が連携した仕組み作りが大きな課題となっている。2014年に新病院がオープンした北里大学病院では,急性期病院としての地域医療の要となる部門としてトータルサポートセンターを新設,入退院支援,医療相談,地域連携などによる新たな連携作りに取り組んでいる。その連携を支えるインフラとして活用されているのが,インターネット回線とクラウドのデータセンターを活用したリコーのテレビ会議システム「RICOH Unified Communication System(RICOH UCS)」である。地域での医療と介護をつなぐ,“顔の見える”連携づくりを支えるRICOH UCSの運用について,トータルサポートセンターの小野沢 滋センター長に取材した。
新病院の地域医療支援の要となるトータルサポートセンター
神奈川県相模原市の北里大学病院は,2005年から次の時代を支える医療拠点作りとして新病院プロジェクトを進めてきたが,その中核となる新病院が2014年5月にオープンした。地域医療への貢献,人材育成といった病院の使命を果たすため,最先端の医療設備や患者中心の医療を実践する組織を整えた“成長する病院”である。
新病院の開院に合わせて,従来の“患者支援センター”を改組して新たに設けられたのが,“トータルサポートセンター(TSC)”である。TSCでは,入院支援,退院支援,外来相談,地域連携などに,ソーシャルワーカー(社会福祉士)14名(2015年からは16名),入院支援看護師10名,退院支援看護師6名,事務4名のスタッフが対応する。小野沢センター長はTSCの役割について,「TSCでは,入退院支援看護師やソーシャルワーカーが,患者さんの退院後の療養環境まで見据えた入院支援,生活や仕事などを含めたさまざまな相談業務を通じて,患者さんの状態をしっかりと把握して,医療や退院後の生活まで総合的な支援を行っています。これまで急性期病院は,主に高度な治療技術を提供してきましたが,高齢社会の中ではそれだけでなく,病気という人生の転機にある患者さんの希望を把握し,必要があれば可能な限り在宅での療養を支援する,そういった役割を担うことも必要になっています。それが結果的には病院の在院日数の短縮になり,急性期病院としての役割を果たすことにつながります」と説明する。
小野沢センター長は,千葉県鴨川市の亀田総合病院で在宅医療を中心に地域医療に取り組み,南房総における医療介護のネットワークを構築してきた。そして,北里大学新病院での新しいTSCの立ち上げのため2012年4月赴任した。故郷でもある相模原市に戻ることになった経緯について小野沢センター長は,「南房総では亀田総合病院を中心に,急性期から在宅での療養まで,患者さんの要望に沿った医療が提供できる体制が構築されています。それは20年以上前から地域との関係を築き,自治体とも協力しながら連携を構築してきた結果です。一方で,東京のベッドタウンとして急速に発展した相模原市は,今後2025年に向けて急速に進む高齢化の中で,今のままの体制では医療・介護の提供体制が破綻することは明らかです。地域の救命救急センターを運営する中核病院として,TSCを中心として地域の医療と介護の新たな連携の構築に少しでも役立てればと考えています」と述べる。
首都圏のベッドタウンが直面する医療・介護提供体制の危機
相模原市は人口72万人(2015年2月現在),東京都心のベッドタウンとして高度成長期に急速に開発が進んだ。小野沢センター長は,「大都市周辺のベッドタウンでは団塊の世代の人口比率が高く,今後20年の間に急激に高齢化が進みます。高齢化はもちろん日本全体の課題ですが,特に首都圏では,高齢者の人口が多い割に病床数が少ないというアンバランスな状態であり,医療の需要とリソースという観点で見れば崩壊寸前と言っていい状態です」と説明する。
相模原市の今後の人口予測では,死亡数は現在の年間約5000人から2035年前後には倍の1万人に増え,それに伴い要介護者の数も現在の2万人から,ピーク時には4万5000人前後と,2倍以上になると見られている。一方で,地域の医療提供体制は,相模原市を中心とする周辺地域の人口約120万人に対して,救命救急センターとしては北里大学病院があるのみで,一般急性期や療養病床については,今後,急速に不足していくことが予想される状況だ。小野沢センター長は相模原市を中心とする医療の提供体制について,「今は急性期から回復期,療養病床など施設間の連携でなんとか対応していますが,このままではいつか限界がきます。現在の財政状況や医師の人員を考えると,ベッドを増やすという選択肢には限りがあるでしょう。その時に利用できる資源は“家”であり,今後は,在宅での療養環境を,いかにコストを抑えて整備するかということが非常に重要な課題になります」と,在宅医療への取り組みの重要性を強調する。首都圏での課題は,地方に比べて高齢者人口が多いこととスタッフや施設の不足だが,さらに,小野沢センター長は,「相模原市のような人口の密集した都市部では,多くの病院や介護施設があるため責任が分散してしまい,かえってうまくいきません。それは,それぞれの連携が希薄なことと,情報が共有されていないからです。双方の壁をなくし,医療と介護を統合していく取り組みが必要になります」と説明する。
地域の医療と介護の連携を促進するコンソーシアムを発足
地域での医療・介護の連携構築として,小野沢センター長が取り組んでいるのが,「相模原町田地区介護医療圏インフラ整備コンソーシアム(以下,コンソーシアム)」である。コンソーシアムは,北里大学病院のほか,南町田病院,町田病院など地域の医療機関と,相模原市,町田市の地域包括支援センター,居宅介護施設,訪問看護ステーションなどの介護事業所107施設が参画して,2013年12月に発足した。小野沢センター長はコンソーシアムについて,「地域での医療と介護の情報共有やスタッフの連携の必要性を感じた関係者有志で起ち上げた団体がベースになって,現在は大学の連携事業として展開しています。まずは,地域の医療・介護スタッフのネットワークづくりを進めて,研修会などを通じた知識のレベルアップ,情報共有など,多職種連携を可能にするさまざまな仕掛けを行っています」と述べる。
コンソーシアムでは,介護職向けの研修会,講習会などを定期的に開催しているが,このインフラとして導入されたのが,リコーの「RICOH Unified Communication System(RICOH UCS)」である。導入のねらいを小野沢センター長は次のように説明する。
「コンソーシアムでは,発足当初から介護スタッフの知識の向上やレベルアップを目的とした勉強会を定期的に開催しています。RICOH UCSのメリットは,多地点で同時に双方向のコミュニケーションが行えることです。大きな会場に200人を集めて講習をしてもそれは一方通行にしかなりませんが,20人が集まった拠点をRICOH UCSで結べば,同じ知識を学びながら拠点の中では双方向で密なコミュニケーションが可能です。RICOH UCSでは,それを多地点に作ることができ,ひとつの知識を一気に広げることが可能です」
簡単なセットアップと双方向コミュニケーションを可能にするRICOH UCS
RICOH UCSは,町田病院,南町田病院などの医療機関,地域包括ケアセンターや在宅療養支援施設,居宅サービス施設など,27拠点に導入されている。スタッフそれぞれが日常の業務で忙しい中,全員が1か所に集まることは難しいが,RICOH UCSは専用端末をセットするだけで,多地点を結んだテレビ会議をどこでも簡単にスタートすることができる。会場全体をカバーする広角のカメラと遅延の少ない通信方式(ダイナミックメディア制御)で,多地点でのやりとりでもストレスのない会話が可能だ。各拠点では,手軽に使えることから,日常的な連絡や報告会にも利用されているという。また,専用のアプリを使えば,外出先からPCやスマートフォンで参加することも可能だ(コラム参照
)。
RICOH UCSのネットワーク構築には,専用端末導入の初期コストと月額サービス利用料のランニングコストが必要だ。小野沢センター長は,「導入のコストは,すべて各施設の自前の予算で購入されています。講習会の費用なども基本的にはボランティアでの運営です。コンソーシアムのミッションに賛同いただいた参加施設が,地域のためにという意識の元に活動している,いい流れができています。予算が厳しくても,RICOH UCSであればほかの地域でも運用は可能だと思います」と述べる。
小野沢センター長は,将来的には退院支援にも活用したいと話す。
「大学病院から転院先を紹介される患者さんは不安を抱きますが,むしろ研修医や若い医師が多い大学病院よりも,ベテランの開業医の方が経験豊富で安心できるはずです。RICOH UCSで退院前に,実際に紹介先の医師の顔を見ながら会話をすれば,患者さんも安心して転院することができます」
RICOH UCSは地域の中の拠点を作るための重要な仕掛け
小野沢センター長は,コンソーシアムのこれまでの成果について,「地域の介護スタッフから見て大学病院の敷居は少し低くなったかもしれません。勉強会や研修などを通じて,互いの顔がわかるようになり,コミュニケーションがスムーズになってきました。それでもまだ,やっと“種をまく前の準備”ができたかな,というところです。知識を得たというだけでは意味がありませんので,その知識を現場の中でどうやって生かしていくかが,これからの課題です」と述べる。
小野沢センター長は地域連携の拠点作りについて,「自然が作った渓谷は強固ですが,人間が作った川は氾濫します。それと同様に,お仕着せではなく自然発生的に生まれた組織は強く継続します。ただ,その流れを作るためには誰かが水を流す必要があります。コンソーシアムでは,地域にある介護や医療のさまざまなリソースが有機的に結合して,新しい連携を生むためのインフラづくりを続けていきます」と説明する。
小野沢センター長が考えるのは,地域の中に核となる拠点が作られ,リーダーが生まれることだ。
「雪の結晶は1つの小さなチリを核として拡大し,きれいな文様を構成します。それと同様に,このRICOH UCSを使った拠点が核となって,周りにさまざまな職種や施設が集まって有機的なつながりができるのが理想です。やがてリーダーになる人や施設ができ,医療と介護の柔軟かつ強固な連携につながることを期待しています」と述べる。
団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて,各地で地域包括ケアシステムの構築が急務となる。地域包括ケアシステムの運用では,医療と介護の連携をスムーズに進めることがハードルと言われている。距離と時間をICTの力で結びつける,RICOH UCSのようなコミュニケーションシステムは,地域の中に連携の自然な流れを作るためのキーアイテムとなるかもしれない。
(2015年2月18日,3月2日取材)
■RICOH Unified Communication Systemによる地域連携の取り組み
●相模原町田地区介護医療圏インフラ整備コンソーシアム
コンソーシアムは,北里大学など医療機関,相模原市,町田市の介護事業所など107施設が参画する。「すべての市民の真の希望にそって,医療・介護が提供され,人としての尊厳が保たれる社会を実現すること」をミッションとして,医療・介護職向けの研修会や症例検討会などを定期的に開催して,地域での連携や情報共有の促進,専門知識のレベルアップを図っている。
●RICOH Unified Communication System
クラウドとインターネット端末で安全かつ簡単に多施設コミュニケーションを構築
RICOH UCSは,クラウドのデータセンターを介してインターネット回線を利用して,異なる法人間でも容易にテレビ会議の環境を構築できることが特徴だ。従来型のテレビ会議システムとは異なり,専門的な知識や多拠点を接続するための特別な装置(MCU)がなくても,簡単に,しかしセキュリティは担保した形で多施設を結んだコミュニケーションが可能になる。接続にはカメラやモニタを備えた専用端末のほか,PCやスマートデバイス向けのソフトウエア“RICOH UCS Apps”が用意されており,既存の端末の利用も可能だ。
専用端末は,本体とカメラが一体となった上位機種である「P 3500」(本体価格:26万8000円〜)と,液晶モニタを搭載したオールインワンタイプ「P 1000」(12万8000円〜)の2機種をラインナップする。一体型の専用端末によって,シンプルな操作性を実現すると同時に,コンパクト(P3500で重さ1.6kg以下)で持ち運びが容易なため,特別な会議室は必要なく,ちょっとしたスペースを利用してすぐにテレビ会議が始められる。また,専用アプリの“RICOH UCS Apps”には,Windows®,Mac OS,iOS,Android™版があり,PCやスマートフォン,タブレット端末でも利用可能だ。
RICOH UCSでは,クラウド上のプラットフォームにあらかじめ接続先を登録しておけば,使用時には接続先を選択するだけで会議がスタートする。複雑な設定や操作は必要なく,専任のスタッフがいなくても誰でも簡単に使用できる。最大20拠点の接続が可能で,9拠点の同時表示ができる。画面表示では,9拠点の均等分割や,発言者の拠点映像を拡大した表示も可能になっている。また,PCなどをUSBケーブルで接続することで,接続拠点間での画面共有ができ,プレゼンテーションソフトや電子カルテなどの内容を共有したコミュニケーションが可能だ。セキュリティについては,映像・音声データが暗号化されているほか,接続先はクラウドのアドレス帳に登録されたIDしか受けない仕組みになっており,安全な通信を担保している。
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北里大学病院
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