2015-1-1
筑波記念病院が導入したIngenia 3.0T CX
「誠意を以て最善を尽くす」を基本理念に1982年に開院した筑波記念病院は,健診施設から介護施設までを運営する医療法人社団筑波記念会の中核施設である。地域医療支援病院の施設認定を受けている同院では,2015年9月の新病棟開設に先駆けて,フィリップスエレクトロニクスジャパンの3T MRI「Ingenia 3.0T CX」を導入。2014年10月から稼働を開始させた。全世界で3台目,アジアでは第1号機となる最新鋭のMRIは,地域医療の重責を担う同院にとって期待の大きい装置である。Ingenia 3.0T CXがどのようなメリットをもたらすのか,導入のねらいと初期使用経験について,同院副院長でもある鯨岡結賀放射線科部長,星野建仁放射線部技師長,田中正人用度課課長に取材した。
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地域包括ケア体制を構築して住民に安心を提供
筑波記念病院は1982年2月に,循環器内科と脳神経外科を中心とした92床の救急医療専門病院として,現在地に開院した。以来,急性期病院としての診療を提供しつつ,回復期のリハビリテーションにも力を注ぐ,つくば保健医療圏における地域中核病院の一つとして,地域医療の重責を担ってきた。92床,5診療科でスタートした同院は,その後規模を拡大。翌年には,筑波健康増進センターを開設し,86年には医療法人社団筑波記念会としての認可を受けた。さらに,92年には在宅介護支援センター,つくば訪問看護ステーション,96年には老人デイケア施設のピンクハウス,98年には老人保健施設つくばケアセンターを開設し,その後も訪問リハビリセンターを地域内にオープンさせるなど,医療にとどまらず,介護事業も手がけてきた。一方で,地域の健康増進にも積極的に取り組んでおり,筑波健康増進センターに加えて,94年にはつくばトータルヘルスプラザ,メディカルフィットネスセンターのフェニックスの運営を開始している。また,2005年には,同院の外来部門を独立させ,新たに筑波総合クリニックを敷地内に開院。さらに,開院30周年を迎えた2012年には,地域医療支援病院の認定を受けた。このように筑波記念会は予防や健康増進から急性期・回復期・慢性期医療,そして介護に至るまでをカバーする医療法人として,地域住民の信頼を得ている。わが国では,厚生労働省が主導し,各自治体で地域包括ケアシステムの整備が進められているが,同法人では,以前から筑波大学附属病院や周辺の診療所などと連携して,地域包括ケア体制を構築していた。そして現在,より質の高い医療を提供するべく,新たに5階建ての中央棟の増築を進めており,2015年9月に診療を開始する予定である。
地域包括ケアの要とも言える同院において,放射線部門も開院時から重要な役割を果たしてきた。開院当初からCTや血管撮影装置を導入し,常勤の放射線科医が画像診断に当たってきた。さらに,86年には初代のMRIが稼働を開始。その後も健診車を導入するなど,早期診断・治療のために,検査・診断体制を充実させてきた。鯨岡部長は,「1982年の開院時は,茨城県内に放射線科医が常勤している病院はほとんどありませんでした。現在,PACSによるフィルムレス環境を構築していますが,フィルム運用の時から,画像はすべて放射線部門で一元管理しており,CTやMRIだけでなく,一般撮影や消化管の造影検査,超音波検査など,心臓カテーテル検査と心臓エコー検査以外は,すべて放射線科医が読影を行ってきました」と述べる。
このような長年の歴史と実績のある放射線部門が,新病棟増築に先駆けて導入したのがIngenia 3.0T CXである。
アジア初の導入となったIngenia 3.0T CX
筑波記念病院放射線科は,現在,常勤の放射線科医3名に加え,非常勤で2名が勤務。速やかな読影により,画像診断管理加算2の施設基準を満たし算定を行っている。また,検査を担当する放射線部は,診療放射線技師23名,臨床検査技師2名(うち1名非常勤)を擁し,数多くの検査を施行する体制を整えている。放射線科医の読影端末は,モダリティのコンソールに取り囲まれるようにレイアウトされている。これにより放射線科医と診療放射線技師らが互いに声を掛け合い,意見を交わすなどコミュニケーションをとりやすくしており,質の高い検査・診断に結びつけている。
同院では,地域医療支援病院としての役割を果たすために,モダリティのラインナップも充実させてきた。現在,院内には,Ingenia 3.0T CXのほか,64スライスCT,SPECT,血管撮影装置,マンモグラフィ,X線一般撮影装置,X線移動型撮影装置,X線TVシステムなどが配備されている。また,併設される筑波総合クリニックでは,1.5T MRIと16スライスCT,X線一般撮影装置,X線TVシステム,骨密度測定装置などが稼働している。
Ingenia 3.0T CX導入以前は,同じくフィリップス社製1.5T MRI装置の「Achieva 1.5T」が稼働しており,2013年度のMRIの検査数は約3900件,CTは約7300件であった。Achieva 1.5Tでは,入院患者の検査を中心に,脳ドックの検査も行っていた。しかし,導入から7年が経過しており,各診療科からの検査画像に対する要求が高くなる中,コイルも含め,検査オーダに対応できないというケースが増えてきた。そこで同院では,装置の更新時期に加え,新病棟開設に伴うトピックとして,MRIを更新することとした。星野技師長は,「筑波総合クリニックで使用している1.5T MRIも老朽化しており,更新時期を迎えていました。そこで,画質の優れるAchieva 1.5Tをクリニックに移設して,病院の方には新しい装置を導入することにしました」と,その経緯を説明する。
同院では導入機種の選定に当たって,1.5T装置ではなく,3T装置を候補とした。田中課長は,2014年度の診療報酬改定の内容が,3T MRI導入を後押ししたと述べる。
「2014年度の診療報酬改定で,コンピューター断層撮影診断料において,1.5T MRIは従来の1330点のままでしたが,3T MRIは1400点から1600点へと引き上げられました。3T MRIを導入した場合の診療報酬による収入とイニシャルコスト,ランニングコストの収支を試算した結果,病院経営の点でも大きなメリットが出ると判断し,3T装置の導入を決めました」
そして,具体的に3T MRIの選定に際して,大学病院のような研究機関ではない同院が求めたのは,ハイエンドクラスの画質を実現しつつ,容易に検査を施行できるスループットの良い機種であった。鯨岡部長は,「MRIは高磁場化が進んだことで,分子イメージングや代謝情報などの新たな知見を得られるようになりました。これは大学病院などの研究機関にとって,とても重要なことです。しかし,3T MRIは磁化率アーチファクトやケミカルシフトアーチファクトなどにより,撮像が難しいといった一面もあります。その中で,Ingenia 3.0T CXは,デジタルコイルシステム“dStream”技術により,安定した画質と容易な操作性を実現しており,当院には最適な装置だと判断しました」と,選定の理由を説明する。加えて,星野技師長は,「Ingenia 3.0T CXは,アジアでは初の導入となるので,職員のモチベーションが上がると考えました」と述べる。田中課長も,「2014年4月に国内で発表されたばかりの最新装置の第1号機を導入することが,新病棟の開設とともに大きなトピックになり,病院のPRにつながるという効果も期待しました」と話す。このように同院では,臨床面でのメリットはもちろん,病院経営の面においても,大きな期待を寄せてIngenia 3.0T CXの導入を決定した。
デジタルコイルシステムで高画質と容易な操作性の両立を実現
Ingenia 3.0T CXは,フィリップス社の最新鋭のハイエンド3T装置である。JRC 2014における2014国際医用画像総合展(ITEM in JRC 2014)で,国内初披露された。2009年の北米放射線学会(RSNA 2009)で発表された「Ingenia」の技術を継承し,アナログデジタル変換器(ADC)をRFコイルに内蔵し,デジタル信号を光ケーブルで伝送するdStream技術を採用している。dStreamは,フィリップス社が開発した世界初のデジタルコイルシステムで,RFコイル内でアナログ信号をデジタル信号に変換するため,ADC非搭載の従来装置よりも最大40%,SNRが向上。ルーチン検査における撮像時間の短縮化が可能になることに加え,ノイズを抑えた高画質を実現する。
高画質技術は,ADCだけにとどまらない。フレア形状のガントリ設計により,開放感を保ちつつ最小開口径を60cmとして,磁場の均一性や傾斜磁場性能の向上を図っている。高い傾斜磁場強度を有しており,脳神経領域におけるecho planar imaging(EPI)やdiffusion tensor imaging(DTI),心臓MRIにおける高画質化を可能にする。
さらに,Ingenia 3.0T CXには,ハードウエアとともにアプリケーションにも最新の技術が投入されている。dStreamのアプリケーションである“dS SENSE”は,従来のSENSE法に替わる新たなパラレルイメージング法である。高いSNRに加え,コイル近傍に位置する組織信号の展開エラー低減,背景信号や関心領域以外からのノイズを抑えることにより,SENSE法において撮像倍速が上がることによるアーチファクトを軽減し,高倍速であっても高画質を得ることが可能である。
このdS SENSEのアルゴリズムを用いた撮像法である“dS Zoom”も新たなアプリケーションとして,Ingenia 3.0T CXに搭載された。これは,局所撮像において,撮像時間を延長することなく,背景信号の折り返しアーチファクトを低減し,関心領域の高分解能データが得られるというものである。心臓MRIでは,腕からの折り返しアーチファクトを抑え,短時間で高画質の撮像を行える。
そのほか,拡散強調画像(DWI)のシーケンスも新たなアプリケーションが加わり,高い磁場均一性と強力なグラディエントコイルとの組み合わせによって,安定して高画質画像が得られるようになった。fast spin echo(高速SE)法を用いた“TSE DWI”と“LIPO”である。TSE DWIは,エコー時間とデータ収集時間を短縮し,ブラーリングアーチファクトを抑え,高いSNRのDWIが可能になる。また,LIPOは,腹部や乳腺領域でのアーチファクトのないDWIを撮像できる。
Ingenia 3.0T CXの特長は,それだけではない。高画質,高スループットであることに加えて,容易な操作性も筑波記念病院がIngenia 3.0T CXを採用した大きな理由の一つである。同社独自の機能として定評のある,プランニングから撮像,後処理までを自動化する“SmartExam”機能が搭載されているほか,新型インターフェイス“iPatient”が採用されている。iPatientは,撮像を行う診療放射線技師の視点から開発されており,項目設定などをシンプル化しつつも,撮像時間や撮像枚数と画質のバランスをとり,最適な検査を行えるよう設計されている。
同院のような一般病院がMRIに求める「画質に妥協することなく,効率的に検査を行える」というニーズに応える装置としてIngenia 3.0T CXは最適な選択肢の一つだと言えよう。
高いSNRの高画質や高速撮像が広げる可能性
2014年10月から稼働を開始したIngenia 3.0T CXであるが,同院では稼働前から広報誌「記念樹つくば」で紹介するなど,地域住民や近隣の医療機関に向けてPRを行ってきた。設置場所は,Achieva 1.5Tが設置されていた部屋であるが,シールドだけを施工して,拡張工事なども行わずに,低コストでの設置が可能であった。通常の3T装置は大型であるため,設置スペースも広くとらなければならないが,Ingenia 3.0T CXはショートボアのコンパクト設計であり,この点においても,1.5T装置からのステップアップに適した装置だと言える。
稼働後2週間で170件の検査を行っており,単純MRIのほか,EOB-MRIなどの造影MRI,緊急検査も約15件施行した。撮像シーケンスは,ルーチン検査ではAchieva 1.5Tとほぼ同じで,パラメータの調整に取り組みながら撮像している。さらに,頭頸部領域では,Ingenia 3.0T CXで可能になったTSE DWIも追加している。その画質は,鯨岡部長も納得させるものである。
「デジタルコイルシステムによりSNRが優れているため,ルーチン検査においては,非常に高分解能の画像が得られています。脂肪抑制では,脂肪がきれいに抑制されており,DWIは,従来の装置よりもアーチファクトが軽減されています。頭頸部領域では,緊急の検査の場合,従来のシーケンスを使用していますが,悪性リンパ腫などの症例ではTSE DWIを適応しており,非常に情報量の多い高精細な画像を得られています」
さらに鯨岡部長は,非造影MRAの撮像法である“4D PCA”についても期待を示している。この撮像法は3D PCAに心電図同期を追加したもので,心時相ごとに3D MRAのデータを取得でき,非造影の3Dデータから血流動態の評価が可能である。鯨岡部長は,「社会の高齢化に伴って被検者も高齢者が増加していきます。腎機能の低下した高齢者など,造影剤を使用できない被検者も少なくないため,非造影の検査は重要です。Ingenia 3.0T CXの4D PCAは,きれいな血流画像を描出しており,非常に評価しています。当院は心臓領域の受診者数も多いのですが,心臓血管外科の医師も4D PCAには関心を持っているので,今後積極的に施行していきたいと考えています」と述べている。
画質だけでなくワークフローの向上という点でもIngenia 3.0T CXは,検査数が増えるごとに評価が高まっている。鯨岡部長は,検査に応じてRFコイルエレメントを自動選択する“SmartSelect”機能によって,短時間で,検査担当者のスキルに依存せず検査が行える点をメリットとして感じている。また,星野技師長もスループットの良さをメリットに挙げている。
「救急患者などの緊急検査が多い当院にとって,撮像時間の短縮は重要なテーマです。その点で,Ingenia 3.0T CXはdS SENSEにより高速撮像でも高画質が得られるので,非常に良いと思います。また,短時間で撮像できることで,静止が困難な救急患者などにも検査を施行することが可能です。被検者にとっても負担の少ない検査ができるだけでなく,われわれにとっても効率的な撮像ができる点に満足しています」
稼働から間もなく,撮像件数も少ない中であっても,Ingenia 3.0T CXは画質や操作性,検査効率の面で,医師や診療放射線技師から着実に信頼を得ている。
症例1:多発性骨髄腫の“Direct Coronal DWI”(超高速DWIBS,2分40秒×3)
症例2:右頸動脈血栓内膜剥離術(CEA)後の“CINEMA-STAR”(非造影ダイナミックMRA,2分56秒)
症例3:真珠腫のTSE DWI
症例4:肝血管腫の“Multivane XD”(新しい体動補正機能)
Ingenia 3.0T CXは「誠意を以て最善を尽くす」ための装置
今後,放射線部門では,パラメータの調整などを行いながら,ほかの診療科とも協力しつつ,新たなシーケンスや検査の適応などの検証に取り組んでいく。鯨岡部長は,Ingenia 3.0T CXでは造影検査や高分解能データが必要な検査,血管系の撮像を行い,それ以外の検査を筑波総合クリニックに移設するAchieva 1.5Tで行うよう,装置の使い分けを考えている。また,鯨岡部長は,心臓領域のスクリーニングにもMRIを使用したいと言う。
「非造影で行える心臓MRIは被検者の負担が少ないので,循環器内科や心臓血管外科の医師とも相談してスクリーニングで施行し,その次のステップとしてCTや心臓カテーテル検査を行うという流れにしていきたいです」
鯨岡部長は,自身の専門である乳腺領域の画質も評価しており,これらの検査も増やしていきたいと考えている。一方,星野技師長は,「装置の性能を最大限に引き出すためにも,医師への説明会や放射線部スタッフの勉強会も行っていきます」と述べている。
また,アジア第1号機の導入というトピックは,放射線部門のスタッフはもちろん,全職員のモチベーションアップという効果をもたらしており,新病棟オープンも控えて,病院全体の士気が上がっている。田中課長は,「職員の高揚感が感じられており,これは病院経営の面から見てもメリットだと言えます。今後は連携先の医療機関に装置のPRを行い,紹介検査を増やしていきたいです」と力強く語る。
臨床での有用性だけでなく,職員の士気高揚にもつながっているIngenia 3.0T CXは,まさに,筑波記念病院の基本理念である「誠意を以て最善を尽くす」ための装置だと言えるだろう。
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(2014年11月10日取材)
医療法人社団筑波記念会 筑波記念病院
住 所:〒300-2622 茨城県つくば市要1187-299
TEL:029-864-1212
病床数:487床
診療科目:内科,循環器内科,呼吸器内科,消化器内科,神経内科,アレルギー科,リウマチ科,血液内科,心療内科,外科,脳神経外科,心臓血管外科,呼吸器外科,消化器外科,整形外科,形成外科,小児科,婦人科,精神科,皮膚科,眼科,耳鼻咽喉科,泌尿器科,リハビリテーション科,放射線科,麻酔科,病理診断科
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