2014-7-1
写真のテーマは海をイメージした“海の中”
1984年設立の総合健診センター ヘルチェック(以下,ヘルチェック)は,神奈川県(横浜)と東京都(新宿)で6つの施設を運営する健診専門の医療機関である。精度の高い検査の提供と同時に,女性専用健診施設やWebでの予約・検査結果提供など,受診者のニーズに合わせたサービスを提供し,毎年多くの健康診断を実施している。2014年4月,ヘルチェックの横浜東口センターに3T MRI「Achieva 3.0T」が導入され,脳ドック検査がスタートした。このMRI検査室にフィリップスの検査室内環境システム「Ambient Experience(アンビエント エクスペリエンス)」が国内で初めて導入された。健診センターにおける導入のねらいと運用について,診療放射線技師の鈴木百合子課長代行と健診経営企画室の坂倉潤思係長に取材した。
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女性向け施設の充実など健診精度とアメニティを向上
ヘルチェックは健診専門の医療機関として,神奈川県の横浜駅周辺に4施設(横浜東口センター,横浜西口センター,レディース横浜,ファーストプレイス横浜),東京都では新宿駅周辺に2施設(新宿西口センター,レディース新宿)を展開する。人間ドックを中心にして,生活習慣病健診,一般健診などの法定健診にも対応し,婦人科系のマンモグラフィや乳房超音波検査,消化器系の上部・下部内視鏡検査,CTによる肺がん検診など,多彩なオプション検査を提供する。
ヘルチェックでは,女性専用の健診センターの開設や男女別のコースの設定など,女性のプライバシーやアメニティに配慮したメニュー構成,健診や人間ドックのWeb予約システム,過去の健診結果をブラウザで確認できる健診Webカルテの提供など,さまざまな取り組みを行っている。坂倉係長は,「健診事業では,立地や受診可能な時間帯,アメニティ,健診メニューなどのさまざまな要素が,たくさんの健診施設の中から選ばれるポイントとなり得ますので,よりご満足いただけるよう受診者サービスの向上に取り組んでいます」と説明する。
例えば,2004年に開設された女性専用の健診センターであるレディース横浜は,マンモグラフィや乳房超音波診断装置による婦人科健診コースを充実させるとともに,医師,診療放射線技師を含めて女性スタッフのみによる対応やナチュラルで落ち着いたインテリアなど,女性のニーズに応えるサービスを提供する。今でこそ女性向けの健診施設は増えているが,いち早く取り組んだレディース横浜は新しいコンセプトが話題となり,口コミ効果も相まって多くの利用者を集めることになった。女性のニーズを取り入れた健診サービスの展開について坂倉係長は,「健診のサービスやアメニティに関しては,女性の視点を取り入れて改善に取り組んできました。これからも男女を問わず,多くの受診者がリラックスして快適な健診を受けられる環境づくりを進めていきたいと思います」と語る。
3T MRIとアンビエント エクスペリエンスを導入し脳ドックをスタート
横浜東口センターでは,2013年から女性専用フロアと受付の新設など段階的にリニューアルを進めてきたが,2014年4月にフィリップス社製超電導MRI装置「Achieva 3.0T」を導入,脳ドック/脳MRI検査をスタートした。脳ドックの提供は,受診者へのアンケートでは以前から要望が多く,ヘルチェックとして長年の課題となっていたという。脳ドックでは,頭部MRI/MRA,頸部MRAと血液・尿検査,頸動脈超音波,心電図などの各種検査と内科診察,画像結果説明をセットで提供するほか,MRI検査のみのオプションも選択可能だ。
Achieva 3.0Tの選定の理由について坂倉係長は,「MRIは脳ドックからスタートしましたが,次のステップ以降で他の領域まで対象を広げていく計画です。全身領域で高画質でスピーディな検査が可能な機種が求められます。健診での利用という観点から機種選定を進め,価格と性能のバランスからAchieva 3.0Tを選択しました」と述べる。検査を担当する鈴木課長代行はAchieva 3.0Tについて,「選定の段階でアンビエント エクスペリエンス導入の検討は行っておりましたが,あくまで画像が良くなければ本末転倒ですので,数社の装置の中から画質を最重要視して選定しました」と述べる。
MRIと同時に導入されたのが,フィリップスの検査室内環境システムである“アンビエント エクスペリエンス プレミアム”である。坂倉係長は,アンビエント エクスペリエンス導入のねらいを次のように説明する。
「高い精度で診断が可能な機種であることは当然ですが,受診者に“ここで健診を受けてよかった”という良い“体験”を持ち帰っていただくことも大切に考えています。今回,MRIの機種選定を進める中で,装置のスペックだけではなく,受診者へのさらなるサービスを提供できるツールとして提案していただきました。脳ドック検査において,最新のMRIの導入と同時に,受診者に対してこれまでにない“体験”を提供できる検査環境を構築できたことは,健診施設としてサービスの充実につながると期待しています」
■Ambient Experience Premiumのテーマ
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施設の差別化と受診者の満足度の向上を実現するアンビエント エクスペリエンス
アンビエント エクスペリエンスは,フィリップスが提供する医療現場の環境デザインを目的としたトータルソリューションで,フィリップスのライティング部門などで培ったLEDをはじめとする照明技術,デザインなどの技術を結集し,照明,映像,音響を駆使して,快適で心地良い空間を提供し,受診者に特別な体験を与える。MRI室では,天井に埋め込まれた調光LED照明「アンビエント ライティング」による部屋の色彩演出,壁面を使ったプロジェクタによる映像の投写と高品質オーディオによる音響効果などによって,通常の検査室とはまったく異なる空間を構築する。鈴木課長代行は,「照明によって部屋全体の色彩が変わり,空や海の風景,動物のアニメーションなどで検査室とは思えない空間に変化します。実際に体験してみて驚きました」と,第一印象を語る。
アンビエント エクスペリエンスには映像と照明で構成されるテーマがいくつか用意されており,タブレット端末(iPad)から選択できる。用意されているテーマは,“空”や“海の中”,“アフリカ”など10種類で,そのほか室内の照明カラーだけを選択することもできる。同センターでは,前室で受診者にテーマを選んでもらってから検査室に案内するようにしているという。「扉を開けて入った瞬間には大きなインパクトがあるようです。その後は,寝台に腰掛けてプロジェクタの映像を見ていただきながら検査の説明をしてスタートしています」(鈴木課長代行)。
また,検査室自体の設計についても,部屋の角をなくしたラウンドフォルムや壁に埋め込まれたコイルキャビネット,丸みをより印象づける装置を中心とした床のアイランドフロアデザインなど,圧迫感のないやさしい空間を作るための配慮が施されている。
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照明,映像,音響で受診者がリラックスできる空間を創出
ヘルチェックでは,脳ドックのスタートに合わせて内覧会を実施し,Achieva 3.0Tとアンビエント エクスペリエンスによる検査環境を紹介したが,来所した関係者や利用者の反応には十分な手応えがあったという。さらに,受診者の口コミ効果を期待していると坂倉係長は言う。「健診の性格上,会社や事業所単位で受診される傾向にありますので,評価や感想は口コミで広がりやすいと感じています。実際にヘルチェックで女性専用施設を開設した際には,2年目から受診者の増加傾向が見られるようになりました。アンビエント エクスペリエンスについても,今年体験された受診者の評価が来年以降に表れてくるのではないでしょうか」
MRI検査では,装置の形状や検査時に発生する騒音などによる不安や緊張で検査がスムーズに行えないケースも少なくない。アンビエント エクスペリエンスは被検者の圧迫感や不安感を軽減するため,欧米の導入施設では実際に,リラックス効果によって検査のスループットが向上する効果も表れている。鈴木課長代行は,検査時の受診者の反応について,「表情や雰囲気からはとてもリラックスされているように感じています」と説明する。
アンビエント エクスペリエンスが作り出す環境はまた,受診者だけでなく医療スタッフの働く環境の向上にもつながり,モチベーションや効率性の向上などの効果も期待される。働く環境としてのアンビエント エクスペリエンスについて鈴木課長代行は,「しっかりとした画像を得ることが第一ですが,最新のテクノロジーを搭載した環境システムが導入され,スタッフのモチベーションもとても高まっています」と語る。アンビエント エクスペリエンスを導入した様子が紹介されることで,スタッフ採用の際に応募の動機につながるような二次的な効果も期待される。
アンビエント エクスペリエンスによる口コミ効果で受診者増に期待
ヘルチェックでのアンビエント エクスペリエンスの今後の展開について,坂倉係長は次のように説明する。「健診施設の差別化は難しい問題で,例えば脳ドックにしても,高磁場装置の導入というだけでは直接受診者の増加にはつながらないところがあります。それは,利用者から見て違いが見えにくいからで,その意味でアンビエント エクスペリエンスは視覚的なインパクトが大きくアピールしやすいツールだと言えます。ただ,一方で,医療の本質的な部分ではありませんので,最新3T MRI装置を用いて検査の質を高める努力を続けていきながら,アンビエント エクスペリエンスをアピールポイントとして活用していきたいと考えています」
検査を担当する診療放射線技師として鈴木課長代行は,「受診者には検査の質はもちろんですが,アンビエント エクスペリエンスがあることで,またここで受診したい,と感じていただけるようになることを期待しています」と述べる。
質の高い健診業務を提供する施設として,受診者の求めるニーズを把握し,きめ細かいサービスを提供してきたヘルチェック。新たに加わったアンビエント エクスペリエンスを導入した検査が,今後,受診者へ提供するアメニティ向上,さらには受診者の獲得にどこまで効果を発揮するか期待される。
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INTERVIEW
Philips HealthcareのJeroen van Kempen氏 に聞く
Ambient Experienceの“体験”は医療機関と利用者に新たな価値を提供
アンビエント エクスペリエンスは全世界では450施設以上に導入されている。国内初の導入となったヘルチェックを訪問した,フィリップス本社のAmbient Experience Senior Field Marketing ManagerのKempen氏に検査環境向上のメリットを聞いた。
■アンビエント エクスペリエンスは,医療機関における新しい環境デザインを提供するソリューションですが,ヘルチェックのMRI室のような快適な空間の提供による受診者のアメニティの向上だけでなく,建築デザインや人間工学に基づいたワークフローの見直しや再構築によって,医療従事者に快適な作業空間を提供できます。
■アンビエント エクスペリエンスが提供する環境は,MRIだけでなく他の画像診断機器の検査室,放射線治療部門,救急の治療室などさまざまな部門で利用できます。病院を訪れる患者さんや受診者に対して快適な環境を提供すること,また,そこで働くスタッフの労働環境の向上は,医療機関の差別化や従業員の満足度の向上(リテンションへの効果)になり,病院経営にも貢献することが期待されます。
■診断精度の高い検査を提供するという本質は変わりませんが,そこにアンビエント エクスペリエンスのような環境効果が加わることで,医療機関を訪れたすべての患者さんや受診者に対して,特別な体験を提供することができます。その新しい経験は,患者さんと医療機関の双方に新たな価値を提供できると考えています。
(2014年4月15日取材)
総合健診センター ヘルチェック
横浜東口センター
住 所:〒221-0056
神奈川県横浜市神奈川区金港町6-20
TEL:045-453-1150(予約センター)
URL:http://www.health-check.jp
アンビエント エクスペリエンスの動画はこちらから:
http://www.health-check.jp/option/brain.html