2013-12-1
iNtuition REVIEWで読影する山本助教
京都大学医学部附属病院では,2004年にPACSの構築に合わせてテラリコン・インコーポレイテッドの「AquariusNET Server」を導入し,3D画像配信環境を構築した。その後,バージョンアップを図りながら,現在はAquariusNET Server iNtuition Editionを中心に,院内各所に用途に応じてビューアーを配置。PACSや電子カルテシステムのクライアント約2000台から3D画像を作成できるようにした。これにより,放射線科医の読影や診療科での術前シミュレーション,カンファレンス,患者説明において,3D画像が用いられている。そこで今回,増大するボリュームデータを有効活用するためのノウハウを探るとともに,同社の新型ビューアー「iNtuition REVIEW」についても取材した。
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■ボリュームデータ活用のために3D画像配信環境を構築
1899(明治32)年に,京都帝国大学医科大学附属医院として開院以来,国内にとどまらず世界でもトップレベルの医療を提供し続ける京都大学医学部附属病院。その放射線部門では,320列のほかに64列が3台など,計5台のCTが稼働し,MRIも3T装置が3台,1.5T装置が1台設置されている。これだけのハイスペック装置があるだけに検査数も膨大で,2012年度はCT検査が3万8222件,MRI検査が1万3457件にのぼっている。
このような状況の中で,画像診断を行う放射線科医,そして,検査業務を担当する診療放射線技師の負担も増している。特に,モダリティの高性能・多機能化により1検査で発生するデータ量が飛躍的に膨らんでおり,放射線科医の読影時間や診療放射線技師の業務量も増えている。それだけに,効率的な読影環境と3D画像作成・配信システムを構築することは重要である。そこで,同院では,テラリコン社のAquariusNET Server iNtuition Editionを中心に,ボリュームデータ運用のためのネットワークを構築。PACSや電子カルテの各クライアントから,3D画像を容易に作成できるようにした。
■PACSと親和性の高いAquariusNET Server
同院がテラリコン社の製品を導入したのは2004年12月。PACSの構築に合わせてAquariusNET Serverを採用し,ネットワーク環境での3D画像配信を開始した。また,その翌年には,画像配信機能を持つ3Dワークステーションの「AquariusNetStation」を設置した。当時,同院では,64列CTや3T MRIの導入を予定しており,膨大なボリュームデータが発生することが予想された。つまり,ボリュームデータ時代の到来を見据えて,先手を打って3D画像配信環境を構築したと言える。放射線部の小泉幸司技師は,次のように説明する。
「当院では,GE社製PACSを運用していますが,AquariusNET Serverの採用にあたっては,PACSとシームレスに連携することが選定ポイントの1つとなりました。モダリティの高度化に伴い,放射線部門だけでなく診療科でも3D画像に対するニーズが高まっている現在の状況を踏まえると,3D画像を作成するワークステーションやサーバは,PACSとの親和性が高いことが非常に重要だと考えます」
近年,電子カルテシステムの導入が進んだことで,施設内の各所でそのクライアント上からPACSの画像を参照できるようになってきた。従来,多くの施設では,3D画像の運用方法として,VR画像のセカンダリキャプチャ画像を作成し,それをPACSに保存して電子カルテシステムのクライアントから参照するようにしていたが,静止画像のため,診断や治療に役立つ十分な情報を必ずしも提供することができなかった。しかし,ボリュームデータを効率的に扱い,診療に有用な情報とするためには,施設内にある電子カルテやPACSのクライアントから,医師が必要に応じて3D画像を作成できるようにすることがカギとなる。同院では,こうした考えからAquariusNET Serverを採用。以降バージョンアップを経て,現在に至っている。
■約2000台のクライアントから3D画像を作成可能
同院で稼働するAquariusNET Server iNtuition Editionは,テラリコン社の最新のサーバー・クライアント型医用画像処理・診断支援ソリューション「Aquarius iNtuition Server」と同等の機能を有している。サーバー側でボリュームデータの3D画像作成や解析を行い,その結果を電子カルテやPACSのクライアントにインストールされたビューアー上で参照する。ビューアー側では,画像処理を行わずに結果を表示するだけなので,ハードウェアの性能やネットワークスピードにかかわらず,高速に3D画像を配信できる。
一方,ビューアーは,高度な画像解析機能を搭載した「Aquarius iNtuition Clientビューアー」,簡易解析機能を有する「Aquarius NET Clientビューアー」,Webベースの3D画像参照機能を持つ「AquariusWEB」が用意されており,ユーザーの用途に合わせて選択することが可能である。
さらに,テラリコン社では,「iNtuition REVIEW」という新開発のビューアーをラインナップに加える予定である。
iNtuition REVIEWは,PACSにアドオンすることが可能で,CTやMRIの高度な画像解析機能に加え,DRなどのX線画像,アンギオグラフィの動画像,超音波画像のほか,非DICOM画像も表示。各モダリティや過去画像との比較表示機能も搭載している多目的ビューアーである。また,ハンギングプロトコルにより,個々のユーザーが施設内のどこからでも目的に応じて最適なインターフェイスで画像観察することが可能である。加えて,Aquarius iNtuition Clientビューアーでも採用されている「Workflow Template」により,ユーザーがテンプレートから指定したワークフローに沿って画像処理を行うため,誰もが精度の高い3D画像を容易に作成できる。このような画像診断・参照機能を持っているiNtuition REVIEWであるが,サーバー側のAPS機能(自動前処理)により,検査直後から自動的に事前に設定した解析処理が行われ,検査から画像配信までの時間を大幅に短縮し,検査業務や診断を効率化することも可能である。
同院の放射線診断科では,現在,このiNtuition REVIEWを3台設置しており評価を行っている。実際の検査では,CT,MRI,PET/CT,SPECTの画像がゲートウェイ経由の自動転送やDICOM Q/Rにより,AquariusNET Server iNtuition Editionに送信され,APS機能により自動前処理が行われる。放射線診断科のPACSクライアントには,iNtuition REVIEW(3台のみ),Aquarius iNtuition Clientビューアー,Aquarius NET Clientビューアーがインストールされており,放射線科医はこれらを使用して読影を行う。また,放射線部のCTのコンソールにはAquarius iNtuition Clientビューアーがインストールされた電子カルテクライアントが設置されており,放射線診断科や各診療科のオーダに応じて,より高度な3D画像処理を行っている。一方,診療科にある約2000台の電子カルテクライアントには,Aquarius NET Clientビューアーがインストールされ,診療時の画像参照に利用されている。このうち,脳神経外科,呼吸器外科,整形外科,形成外科には,Aquarius iNtuition Clientビューアーもインストールされており,術前シミュレーションなどに用いる画像を医師自らが作成できるようにしている。
■用途に合わせてビューアーを配置し 3D画像をハンドリング
Aquarius iNtuitionシリーズのビューアーを,ユーザーのニーズに合わせて配置した同院では,放射線診断科と放射線部でフル活用しているほか,診療科でも術前のシミュレーションやカンファレンス,患者説明に利用している。また現在,放射線診断科で評価が行われているiNtuition REVIEWは,効率性と診断の質の両面を追究したビューアーとして高い好評を得ている。
●2Dと3D画像を一元的に扱えるiNtuition REVIEW
放射線診断科では,1人の放射線科医が通常,1日30〜60件程度の読影を行っている。現在はPACSクライアントで読影を行っているが,iNtuition REVIEWは,PACSクライアントと3Dワークステーションの機能を有したビューアーとして,効率的な読影環境を提供している。放射線診断科の山本 憲助教は,次のように説明する。
「iNtuition REVIEWは,一言で言えば『全部入りのビューアー』です。私たちの読影業務では,毎回3Dワークステーションの機能を使うわけではありませんが,MPRやMIP処理を日常的に行っています。iNtuition REVIEWを使用することで,PACSクライアントと3Dワークステーションを切り替えることなく,2D画像とMPR画像,MIP画像,3D画像,解析データを一元的に操作できます。もちろん,近年のPACSはクライアントの中にMIPやMPR処理ができるものもありますが,2Dビューアーから派生してきたため,操作性などでiNtuition REVIEWに劣ります。iNtuition REVIEWでは,2D画像も3D画像もインターフェイスが統一されており,一貫した操作性を実現しています。また,複数のモダリティの画像も同時に扱うことができる点も優れていると思います」
64列以上の多列CTや3T MRIから発生するボリュームデータは,2D画像が基本となるものの,3D画像を作成して読影するケースが増加している。多くの病院では,PACSクライアントと3Dワークステーションを併用しているが,iNtuition REVIEWを使用することにより,2D画像を観察しながら,必要に応じて同一画面上から3D画像処理を行うことができる。さらに,2D画像と3D画像は同期しており,ページングなどの操作を行うと両画像が一緒に展開していく。山本助教は,「例えば,MRIでの複数のシーケンス画像を1画面上に表示させて,T2強調画像やFLAIR画像,拡散強調画像,拡散テンソル画像,造影画像などを並べて表示してページングしていくことで,診断のための情報を拾い上げていくことができます。画面を切り替えながらそれぞれの画像を表示させたり,手動で同期させたりする必要がないため,読影効率の観点からも有用です」とそのメリットを強調する。
さらに,この同期は,異なるモダリティの画像でも実施できる。同院ではCTやMRI,PET/CTのデータをAquariusNET Server iNtuition Editionに送信しており,読影では各モダリティの画像を観察し診断していく。そのため,複数のモダリティの画像を効率的に表示させることが重要である。この点についても,山本助教は,「iNtuition REVIEWでは,個々のモダリティのデータを同期させてページングしていくことで,フュージョン画像のように観察でき,非常に便利です」と述べている。
●読影しながら必要に応じて3D画像処理
iNtuition REVIEWが高い評価を得ているのも,もともとの3Dビューアーの機能が優れていることが根本にあるからだと言える。同院では,長年にわたりテラリコン社のビューアーを使用しており,多くの放射線科医がその利便性や操作性の良さを評価している。放射線部の金尾昌太郎助教は,普段使用しているAquarius NET Clientビューアーについて,次のように感想を述べている。
「PACSクライアントのモニタと並べて3D画像を表示できるようにしており,読影室から移動することなく,3D画像を作成したいと思ったときにすぐに操作できるのが非常に良いと思います。一般的な3Dワークステーションで3D画像を作成するには,読影を中断して装置まで移動しなくてはいけませんが,Aquarius NET Clientビューアーならば,院内の各所から画像処理できるので,ストレスなく使うことができます」
金尾助教は,専門である乳腺領域でのAquarius NET Clientビューアーの操作性について,「サブトラクションやMIP,MPR処理が容易にできます。特に,厚さや角度を変更する操作も反応がスピーディで,リアルタイムで結果が表示される点も評価できます」と話す。乳腺領域では,数百枚に及ぶシリーズから微細な造影効果のがんを見つけ出すために,読影する医師の大きな負担となる。Aquarius NET ClientビューアーでMPR画像を作成してボリュームで観察することは,医師の負担を減らすだけでなく,診断の精度を上げることにもつながると言える。
さらに,金尾助教は,循環器領域でもAquarius NET Clientビューアーのメリットを実感しており,「心臓CTでの拡張期から収縮期までの全フェーズのデータをシネで動かしながらMPRも表示させるといったこともでき,とても便利です。また,curved MPRや血管抽出などは検査後自動的に画像処理を行うため,診療放射線技師が3D画像を作成する前に,ある程度必要な情報を得ることができます」と説明する。このほか,金尾助教はフュージョン画像作成における精度の高さも評価している。
●自動化とテンプレート化がもたらすメリット
一方,各診療科においても,AquariusNET Server iNtuition Editionによる3D画像配信環境のメリットは大きい。小泉技師は,「例えば,脳神経外科では,検査後に骨をサブトラクションしたボリュームデータを用いて,電子カルテのクライアントからAquarius NET Clientビューアーで3D表示させ,任意の角度から観察しています。医師からは,自分の見たい角度で画像を観察できる点が非常に好評です」と,有用性を説明する。
また,小泉技師は,自動前処理された画像や,血管抽出機能などが高精度に行える点を評価できると説明している。このAPS機能に加えて,Workflow Templateによって,従来,診療放射線技師が時間をかけて作成していた3D画像を自動的かつ高い精度で得られることは,放射線部のワークフローの効率化にもつながる。それを踏まえた上で,小泉技師は,「これからのワークステーションの機能として,自動化とテンプレート化は重要なファクターになると思います」と述べており,Aquarius iNtuitionシリーズのアドバンテージを強調している。
●CT装置に依存せずにノイズを除去する「iGENTLE」
一方,放射線部では,テラリコン社の新技術であるiGENTLE(iNtuition General Enhancement and Noise Treatment with Low Exposure)の物理評価も行っている。iGENTLEは,低線量で撮影されたCTデータをフィルタ処理し,IR法(逐次近似画像再構成法)と同等のノイズ除去を行う技術である。メーカーや装置に依存せず,ノイズを抑えたCT画像を提供する。また,rawデータではなく再構成された画像データの処理を行うため,PACSサーバーに保存された過去画像にも適用できる。その物理評価を担当した坂田健太郎技師は,「iGENTLEは,高コントラスト分解能を維持したままノイズ成分を低減できるため,IR法に近い特性があります。また,高ノイズの過去画像でも,iGENTLEで処理することにより,ノイズ成分を低減し,低コントラスト分解能を上げることができるので,診断能を向上させる可能性があります。これをファントムで検証することができました」と,検証結果を説明する。その上で,「CT装置に依存せず,どの装置の画像でも効果を得られることが一番のメリットだと思います」と評価している。
■症例1:iNtuition REVIEWでの解析例
■症例2:Aquarius NET Clientビューアーによる乳腺領域の解析例
■症例3:Aquarius iNtuition Clientビューアーでの解析例
■さらなるボリュームデータの有効活用をめざす
AquariusNET Server iNtuition Editionを中心に,用途に応じてビューアーを配置して,院内各所から3D画像作成・参照環境を構築した京都大学医学部附属病院。今後もiNtuition REVIEWなどの新技術を取り入れながら,ボリュームデータの有効活用を進め,診断・治療に役立てていくことにしている。
(2013年10月8日取材)
京都大学医学部附属病院
住 所:〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町54
TEL:075-751-3111
病床数:1121床
診療科目:内科,循環器科,神経内科,外科,眼科,産科,婦人科,小児科,皮膚科,泌尿器科,耳鼻咽喉科,整形外科,精神科,歯科口腔外科,放射線科,麻酔科,脳神経外科,形成外科,心臓血管外科,呼吸器外科,矯正歯科
URL:http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/