innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

Aplio500 × NTT東日本関東病院日本初のRFAエコー専用治療室で“限界を決めない”RFA治療を実施し肝臓がん治療の可能性を追究 —診断や穿刺ガイドには,“Smart Fusion”を搭載した高画質なAplio500を採用

2013-5-20

6面構成のモニタを使ったRFAエコー専用治療室での実際の手技の様子

6面構成のモニタを使った
RFAエコー専用治療室での実際の手技の様子

地域の中核病院として31の診療科・センターを擁するNTT東日本関東病院は,1日平均で外来患者数2133名,入院患者数503名(2012年度)を受け入れ,高度な先進医療を提供している。同院消化器内科では,2012年4月に東芝社製超音波診断装置「Aplio500」を穿刺ガイドとする日本初の“RFAエコー専用治療室”を構築し,運用を開始した。2013年4月からは「消化器内科ラジオ波治療センター」としてセンター化し,寺谷卓馬センター長のもと,一般的に適応外とされる症例に対しても,RFAが有効と見れば積極的に実施する方針で,高度なRFA治療を提供している。RFA治療の現状,また,RFAエコー専用治療室の構築のねらいや運用について,寺谷センター長に取材した。

■RFAの柔軟な適応拡大で最適な治療を提供

寺谷卓馬 センター長

寺谷卓馬 センター長

NTT東日本関東病院の消化器内科では,早期胃がんの内視鏡治療や肝臓がんのラジオ波焼灼術(RFA)など,消化器疾患への高度な専門治療を提供し,全国トップクラスの診療実績を誇る。なかでもRFA治療は,2006年4月に東京大学医学部附属病院から寺谷卓馬センター長が着任したのを機に,積極的な治療を展開し,年間400人近い患者の治療を行っている。
寺谷センター長は,同院における肝臓がんの治療について次のように語る。
「消化器内科の肝臓チームでは,RFAによる経皮的局所療法を中心に行っていますが,それだけではなく,症例にあわせてベストな治療法を選択しています。放射線科と連携した動脈化学塞栓療法(TACE)や放射線治療,外来での分子標的薬ネクサバールによる化学療法など,内科的な療法に関してはすべて行っています。当センターを受診される患者さんには,手を尽くしてできるだけ長生きしてもらうことをポリシーに治療にあたっています」
寺谷センター長は,東大病院で肝臓がんの局所療法の第一人者である椎名秀一朗氏(現・順天堂大学消化器内科教授)のもとで肝臓がん局所療法に携わり,1994年から経皮的エタノール注入療法(PEIT),96年には経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)を手掛け,RFAについては,99年から日本でも最初の取り組みを始めた。
肝臓がんの治療は,再発時の治療も念頭において肝機能の温存を考慮する必要があることから,身体への負担が少ない治療が望ましい。そのため近年は経皮的局所療法が主流となっており,2004年から保険適応となったRFAはその中心となりつつある。
同院でのRFA治療の特徴は,病変の大きさや個数で限定せず,適応外とされる症例でも,他の治療法よりもRFAが適していると判断すれば積極的に施行していることだ。RFAの一般的適応は,「病変が3cm3個以内,または5cm以内単発」とされているが,同院では,大きさが4cm以上や4つ以上の複数病変がある症例,転移性肝がんなども除外せず,できるだけ制限を設けずにRFAを行っている。寺谷センター長は,同センターでのRFA実施のポリシーを次のように語る。
「一般的なRFAの適応には制限がありますが,それはある程度の個数や大きさを超えると手技が難しくなり,治療成績が下がることが1つの理由です。確かに,病変が大きかったり多発の場合には,十分な焼灼ができないことによる局所再発や,出血や梗塞などの合併症のリスクが高くなります。しかし,3cm以上の病変や4個以上を焼灼したからといって,他の治療法に比べて生存率が下がるかというと必ずしもそうとは言えません。RFAは適切に行えば,局所根治性が高く肝機能も温存できる優れた治療法であり,われわれとしてはRFAが有効であると判断すれば,適応を拡大して対応しています。最初から限界を決めず,安全で精度の高い手技を行うことで,RFAの可能性を探っていきたいと考えています」
同センターには,ホームページなどで寺谷センター長のRFAの治療方針を知って,他の医療機関では治療不可と言われた患者が全国から集まり,これまで2000例以上の治療実績を積み重ねている。

■日本初のエコーガイド下RFA専用治療室を構築

同センターでは,穿刺ガイドモダリティとして超音波診断装置「Aplio500」を導入。6面の液晶モニタなどで,安全で確実なRFAの実施を支援する“RFAエコー専用治療室”を構築した。RFAの際に必要となる,さまざまな画像情報,生体情報などを表示し,大きな画面で必要な画像をタイミング良く参照しながら,安全で確実な手技が行えるように工夫されたものだ。寺谷センター長のコンセプトをもとに,6面のモニタを天井から懸垂する支持アームや,モニタに表示する映像切り替えシステム,電源などの設計や設置を東芝メディカルシステムズが担当して構築された。
超音波ガイド下のRFAは,通常,外来や病棟のCVカテなどを行う処置室の一角で行われていることがほとんどだ。同院でも,以前は病棟の処置室にガイド用の超音波診断装置を置いてRFAを行っていた。寺谷センター長は日本で初めての“専用治療室”を構築したねらいを次のように説明する。
「超音波ガイド下のRFA治療を行う際には,ライブの超音波画像だけでなく,CT画像や造影超音波画像など,多くの画像を参照することが必要です。治療を確実に進めるには,それらの画像を切り替えたり,モニタを分割して表示するのではなく,Bモードと同じサイズで同時にすべての情報を把握することが重要です。術者が一覧できるようにモニタを天井吊り下げにするなど,RFAを専門的に行えるようなシステムを実現しました」
専用治療室は,RFA専用ベッドを中心に,Aplio500と天吊りの可動式21型モニタ6面を設置。モニタは,(1)リアルタイムBモード像,(2) CTまたはMRIの術前画像,(3) 前日(または当日)の造影エコー像,(4) 術者手元のライブ映像,(5) 患者バイタル,(6) HIS(電子カルテ)の表示が可能で,必要に応じて切り替えられる。
大きいモニタで画像を一覧できるメリットについて,寺谷センター長は,「全画面で見る視認性の良さと,診断と同じサイズの画像を見ながら治療が行えることです。画面を分割して表示する方法は,例えば両目で見ていたものを,むりやり片目で見させられるのに近い感覚です。また,他の医師も手技の状況を知ることができるため,教育的にも有用です。何より,現場にいる多くの目でチェックできるので,バイタルの変化などにすぐに気づくことができ,リスク回避にもつながります」と述べる。
手技は,医師3名と看護師1名の体制で行われる。治療の際のポジションは,専用ベッドを挟んで術者と超音波診断装置,6面モニタが向かい合う位置になる。超音波診断装置を操作するスタッフが必要になるが,術者は穿刺する方向を正面にして,すべてのモニタを視野に入れながら手技を行うことができる。
寺谷センター長は,「術者自身がエコーを操作する場合,寝台と装置を平行に置くため,穿刺の際は上体をひねらなければなりません。しかも,穿刺する方向とライブの画像が表示されている画面は違う方向で,術者は無理な体勢を強いられます。正対することで,穿刺の正確性や術者の疲労度が変わってきます」と,配置の意味を説明する。
コントラストの高い造影エコーは,病変は確認しやすいが,周辺臓器や脈管は見えにくくなるため,穿刺のガイドにはリアルタイムBモード画像を用いて,ガイドとして造影エコーをモニタに表示して参照し,病変の位置を確認しながら穿刺している。造影エコーは,基本的に前日に行うが,同センターでは,そのままでは病変が把握しにくいような症例では,人工胸水,人工腹水を使って治療を行っているため,その場合は術直前に造影超音波を施行する。その画像についても,PCを経由して取り込み,表示するようにしている。
治療室には,6面モニタと同じ画像を表示するモニタをそろえた“監督机”がある。RFAの際には,寺谷センター長以下,消化器内科医のチームが穿刺から機器の操作までを行っているが,医師は,他院から寺谷センター長のもとにRFAを修得に来たスタッフだ。寺谷センター長は,手技に関してはスタッフに任せ,監督机で記録を取りながら,机上モニタで手技を確認し,術者への助言を行う。

●消化器内科ラジオ波治療センター RFAエコー専用治療室の全体像

全体像

 

超音波診断装置「Aplio500」は,術者とはベッドを挟んで設置されるため,操作は別のスタッフが行う。前日の造影超音波画像を含めて,Smart FusionなどでRFAをサポートする

超音波診断装置「Aplio500」は,術者とはベッドを挟んで設置されるため,操作は別のスタッフが行う。前日の造影超音波画像を含めて,Smart FusionなどでRFAをサポートする

21型6面構成のモニタは天井懸垂で設置。モニタ全体の移動ができるほか,個々のモニタも方向が変えられるようになっている。 (1) 操作者用のリアルタイムBモード像 (2) 術前CT画像(電子カルテ)  (3) 前日(または当日)の造影エコー像  (4) 術者手元のライブ映像 (5) 患者バイタル (6)リアルタイムBモード像 (a):Aplio500のモニタ

21型6面構成のモニタは天井懸垂で設置。モニタ全体の移動ができるほか,個々のモニタも方向が変えられるようになっている。 (1) 操作者用のリアルタイムBモード像 (2) 術前CT画像(電子カルテ)  (3) 前日(または当日)の造影エコー像  (4) 術者手元のライブ映像 (5) 患者バイタル (6)リアルタイムBモード像
(a):Aplio500のモニタ

   
RFA治療中の様子。モードの切り替えやフリーズなどの超音波の操作が必要な場合には声で指示する。スタッフ間のチームプレーが必要だ。

RFA治療中の様子。モードの切り替えやフリーズなどの超音波の操作が必要な場合には声で指示する。スタッフ間のチームプレーが必要だ。

監督机には術者が見ている6面モニタと同じ画像を表示するモニタが並ぶ。監督者(寺谷センター長)は治療の経過を記録しながら,モニタを見て適宜指示を送る。

監督机には術者が見ている6面モニタと同じ画像を表示するモニタが並ぶ。監督者(寺谷センター長)は治療の経過を記録しながら,モニタを見て適宜指示を送る。

 

■病変の同定を支援するSmart Fusion

【Smart Fusion使用例】MRI-EOBの肝細胞相にてdefectとなっている1cm以下のclassical HCCをFusion Imageで検索し,Target Point機能でHCCを囲むようにマーク(緑の丸)を設定した。その後,US上でマークを参考にしながら結節に穿刺した。画像は,焼灼直後のバブル発生の様子。MRI上の病変部位に対応している。

【Smart Fusion使用例】
MRI-EOBの肝細胞相にてdefectとなっている1cm以下のclassical HCCをFusion Imageで検索し,Target Point機能でHCCを囲むようにマーク(緑の丸)を設定した。その後,US上でマークを参考にしながら結節に穿刺した。画像は,焼灼直後のバブル発生の様子。MRI上の病変部位に対応している。

肝臓がんの診断とRFA治療の穿刺をサポートする装置として導入されたAplio500は,プラットフォームを一新し,High Density Beamformingによって高画質を追究したAplioシリーズの最上位機種である。
Aplio500を選定した理由について,寺谷センター長は,「以前から東芝のAplio XGなどを使っていましたが,同社の超音波診断装置は基本となるBモード画像の画質が高く,ドプラ画像や造影画像もきれいで見やすいことを実感していました。新しいハイエンド装置となるAplio500にも,その点を期待していましたが,さらに画質が向上しており,術前の検査での検出能の向上や確実な手技が可能になっています」と話す。
Aplio500では,管腔内を3D画像表示する“Fly Thru”や,組織の硬さを画像化する“Elastography”といった,さまざまなアプリケーションが搭載可能である。
専用治療室に導入したAplio500には,リアルタイムにエコーとCT/MRI画像の断面を合わせて表示し,高精度かつ安全な穿刺を支援する“Smart Fusion”が搭載されている。寺谷センター長は,Aplio500のSmart Fusionについて,次のように評価する。
「超音波診断装置の画質も向上していますが,CT,MRIの進歩は目覚ましく,検出能が格段に向上しており,CTやMRIで見つかった病変が超音波ではわからないというケースも出てきています。Smart Fusionでは,CT/MRIのボリュームデータと超音波のリアルタイム画像を断面を合わせて表示し,CT画像を参考にして超音波で病変を同定することができます。超音波のプローブとCTのボリュームデータを同期させる位置合わせも簡単で,微調整も可能ですので正確な穿刺が行えます」
同センターでは,病院側の情報システム管理の関係からCTやMRIのデータをオンラインではなく,オフラインでCDなどから取り込む必要があり,Smart Fusionを行う件数はそれほど多くないが,「前日の造影超音波でもわからず,Smart Fusionを使って病変を見つけるケースがあり,助かっています。今後はオンラインのデータ取得を可能にして,もう少し簡単にSmart Fusionを行えるようにしたいですし,Smart Fusionのアプリケーションにもマルチフェーズでの確認を可能にするといった,機能の向上をお願いしたいですね」と,寺谷センター長は今後の期待を述べている。

■専用治療室が可能にする“No Limit”のRFA治療

専用治療室を構築した効果については,正確な検証にはまだ時間が必要だが,合併症の発生率が下がっていること,術者の疲労度が少ないことが挙げられるという。専用治療室のシステムは現在も改良が続けられており,例えば,寺谷センター長が監督机にいながら,マウス操作でリアルタイムのエコー画像にポインタを入れて穿刺場所を指示できるようにするといった,手技支援のためのノウハウを着実に積み重ね,進化を続けている。
RFAセンターのスタッフは,背中に“RFA TEAM”というロゴが入ったそろいの術着を着用する。1つのチームとして治療にあたるという意識づけのためだが,胸には“No Limit”の文字が入っている。寺谷センター長は,「当センターには,他で治療できなかった患者さんが遠方から来院します。当院でRFAを修得した医師が各地の病院に広がることで,より多くの医療機関で“限界を決めない”RFAを受けられるようになることが理想です。患者さんが地元で治療を受けられるように,多くの先生方に研修に来ていただきたいですね」と話す。

RFAの術者育成にも精力的に取り組む。

RFAの術者育成にも精力的に取り組む。

RFAチームの術着のロゴ。胸には“No Limit”の文字が入る。

RFAチームの術着のロゴ。胸には“No Limit”の文字が入る。

 

NTT東日本関東病院では,寺谷センター長の着任後,平均観察期間が3年半程度のため治療成績の解析には至っていないが,適応拡大の手応えは感じているという。
「化学療法が効かない転移性肝がんで来院したある患者さんは,病変が44個ありましたが,約3年間で6回入院し,1回の入院につき5個程度,最終的に33個の病変を治療しました。残念ながら亡くなられましたが,化学療法だけの生存期間が約27か月であることを考えると,RFAを行った分だけ寿命を延ばすことができたと言えるでしょう」
日本国内では肝細胞がんの発症は減少することが予想されるが,世界的にはがんは増加傾向にあり,特に肝臓がんは中国で圧倒的に多く,RFAのニーズが高まりつつある。寺谷センター長は,「世界的にも,低侵襲なRFAが多く行われていくでしょう。その時に治療の質を保つには,エコーの精度が重要です。同時に,専用治療室が非常に有効であると思います」と話す。
肝臓がん治療のこれからについて,寺谷センター長は次のように予測する。
「より侵襲性の少ない治療は誰もが求めるものです。医療技術や創薬研究が進めば,肝臓がんも治療の適応が広がり,さらに低侵襲な治療も可能になるでしょう。医療の正解というのは,未来を先取りすることだと思います。RFAについても, RFAの適応外と言われているものがいずれは適応の範囲に入ってきます。常に一歩先取ることが,医療を進歩させるのではないでしょうか」
“低侵襲で確実なRFA治療で,患者にできるだけ長生きをしてもらいたい”という思いに応えるRFAエコー専用治療室が,日本のみならず,世界中の肝臓がん治療に貢献することが期待される。

(2013年3月14日,26日取材)

 

 

聖マリアンナ医科大学病院

NTT東日本関東病院
住所:〒141-8625 東京都品川区東五反田5-9-22
TEL:03-3815-5411
病床数:592床
診療科:31科
http://www.ntt-east.co.jp/kmc/