2012-10-1
乳腺チームのメンバー
13の病院・診療所を擁する医療生協さいたまのセンター病院である埼玉協同病院は,専門外来診療や検診,二次救急などを担い地域医療を支えている。同院では,2012年7月にフィリップスエレクトロニクスジャパンのFPD搭載デジタルマンモグラフィシステムである「MammoDiagnost DR」とマンモ専用ビューワ「IDS7/mx」を導入した。8月には,1例目のバイオプシー検査も行われ,同院が力を入れている乳腺領域の診療に早くも貢献している。FPD搭載デジタルマンモグラフィシステム導入のねらいや初期使用経験について,放射線科の松本 茂科長,乳腺外科の金子しおり医長,放射線科の新島正美主任に取材した。
■乳がん検診数の増加と検診精度の向上をめざして新システム導入を決定
川口市とさいたま市の境に立地する埼玉協同病院は,出資した組合員が利用・運営する医療生協さいたまのセンター病院として1978年に設立された。医療生協さいたまには現在,県下23万世帯の組合員が加盟する。入院・外来,検診,二次救急などを担う同院は,地域に根差した医療に力を入れ,検診においては,組合員以外にも住民検診・事業所検診を実施し,地域住民の健康に寄与している。
同院放射線科は,CT,MRI,一般X線,血管撮影,X線TV,超音波診断装置などを備え,20名の診療放射線技師がローテーションで業務にあたる。マンモグラフィ検査については,基本的に8名の女性技師が担当している。松本 茂科長は,「当院はもともと女性技師が多く,人材パフォーマンスは高かったため,マンモグラフィにすぐに対応できる環境でした。乳がん診療は,重点課題の1つとなっており,2011年に医師,看護師,技師,事務など職種をまたいだ乳腺チームを立ち上げて取り組んでいます」と話す。
同院は,マンモグラフィ検診精度管理中央委員会のマンモグラフィ検診施設画像認定を受け,市の乳がん検診を受け入れているが,1台のCR装置では対応できる件数に限界があり,昨年までは検診を断らざるを得ないことも多かったという。そこで,検診枠を増やすことを主な目的に,2012年7月,FPD搭載デジタルマンモグラフィシステム「MammoDiagnost DR」とマンモ専用ビューワ「IDS7/mx」を導入した。松本科長は,「今回の導入により,一人でも多くの検診を受け入れ,乳がんの早期発見・早期治療につなげることができればと願っています」と期待を述べる。
■検診からバイオプシーまで対応するオールマイティな機能と優れた画質を兼備
装置の選定には,乳腺チームの医師や技師を中心に,複数メーカーのFPDシステムを比較し,実際の読影を想定した環境下でモニタを比較するなど,詳細な検討が重ねられた。医師は画質,技師は操作性,事務はコスト面と,装置への要求は立場によりさまざまだ。選定時の検討では,ビューワとネットワークシステムを医師が,装置を技師が評価し,最終的には“病変を見逃さない”ことを重視して,優れた画質が評価されたMammoDiagnost DRとIDS7/mxを導入することでコンセンサスを得た。
院内スペースの関係で装置を2台以上設置することが難しく,1台で検診から精査,術前検査までを行うことが求められる。MammoDiagnost DRは,検査情報の取得から撮影画像の確認までの一連の検査を1台の高精細モニタEleva Workspotに集約し,タッチパネルによる直感的な操作を特長とする。撮影後,数秒でコンソールに確認画像が表示されるなど,検診に求められるワークフローの改善,スループットの向上を可能にする。画質の面では,アモルファスセレン(α-Se)を採用した直接変換方式かつ画素サイズ85μmを有したFPDに加えて,わずかなコントラストの差を描出できるマルチ周波数処理“UNIQUE”アルゴリズムを適用し,診療に最適な画像を提供。長年培ってきたCRの技術を生かし,日本市場の要望にフレキシブルに対応できるパラメータを実装している。また,ステレオバイオプシーにおいては,ステレオバイオプシーガイダンスツール(オプション)を実装することで,ステレオ撮影からプランニング,穿刺後の確認撮影までのすべてのワークフローをサポートし,バイオプシー専用チェアー(オプション)も開発した。同院がマンモグラフィに求める条件にすべて応える装置として,MammoDiagnost DRの導入が決定した。
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■操作性の高いシステムで技師の負担を軽減しスループットを向上
選定にあたり,装置の評価を行った新島正美技師は,判断のポイントは,圧迫板やFPDのサイズと使いやすさ,そして,画素サイズであったと話す。
「画素サイズは,5MPモニタ上でのピクセル等倍表示から85μmが適していると考えました。FPDと圧迫板のサイズは,当初はCRの流れで小さい方が扱いやすいと考えていましたが,他院の技師から,慣れの問題なので心配ないというアドバイスがありました。また,実機に触れて確認する機会があり,圧迫板やステレオバイオプシーのユニットが非常に軽くて着脱も簡単なことや,説明書が不要なほどわかりやすいタッチパネル操作に感動して,高評価となりました」
FPDや圧迫板のサイズが今までより大きいことで懸念していたポジショニングは,CCでは圧迫板に中心線があることでかえって容易となり,MLOでは腋窩を伸ばして手を少し外転させるなどの工夫により問題なく撮影できているという。さらに新島技師は,座位・側臥位で使用できるバイオプシー専用チェアーがコンパクトで,患者の負担が少ない体位で行える点を評価している。
MammoDiagnost DRにより,午前中の検診検査枠がそれまでの最大20名から30名に増え,外来からの検査を加えて,午前中だけで40件程度の検査が可能となった。件数は増えたが,高精細な2MPコンソールモニタ,確認画像表示までの時間短縮,タッチパネルによるワンタッチでの拡大・縮小などにより,撮影や追加撮影に要する時間が短縮され,技師の負担は逆に軽減しているという。
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■石灰化を明瞭に描出し高精度な乳腺診療を支援
がん研究会有明病院と埼玉県立がんセンターでの研修を終え,2011年に同院に戻った金子しおり医長は,乳腺診療をチームで行う重要性やデジタルマンモグラフィ(FFDM)の必要性を研修先で実感したと話す。医師,看護師,技師が連携して高度な医療を提供するのはもちろんのこと,患者からの費用についての質問や,手術件数の取りまとめなどには事務の協力が必要で,チームで取り組むことで,円滑に乳腺診療が実施できるという。また,FFDMの導入については,「マンモグラフィは,検診では小さな病変を見逃さずに数をこなすこと,診断だけでなく術式決定にも影響する精査では精度の高い検査を行うこと,バイオプシーでは患者負担軽減のために短時間で行えることなどが求められるため,FFDMはこれからの乳腺診療には必須だと考えます」と,その必要性を強調した。
装置の選定では,金子医長は医師の立場から画質を最優先とした。実際に複数の装置を比べた結果,MammoDiagnost DRとマンモ専用ビューワIDS7/mxの画質は圧倒的に優れていたと評価する。
「第一印象は石灰化が非常にきれいに見えることでした。特に他の装置と比較するとその印象は強く,精査の判断がより明確にできています。しっかり見るために拡大しても,5MPのモニタに適したピクセル等倍表示ができるなど,全体的なバランスの良さも感じました」
同院は,すでに電子カルテシステムやPACSを導入していたため,選定にあたってはシステム連携も重視された。CRの時にはフィルム読影を行っていたためシステム的に問題はなかったが,ソフトコピー診断においては,システム連携に不具合があれば,診療や読影に時間がかかるといったデメリットの発生が心配された。金子医長は,「比較読影のために外来時に過去画像を出力したり,手書きレポートをスキャンする手間を省くためにもデジタル化は必要でした。システム連携については導入前にメーカーと相談を重ねましたが,フィリップス社の技術担当者はこちらからの質問に対しての答えも明確で,サポートがしっかりしていると感じました」と述べる。
MammoDiagnost DRで撮影した画像はIDS7/mxのサーバとゲートウェイに送られ,それをキーにして他社PACSから過去画像を上記サーバに転送して比較読影するという仕組みを構築。PACSサーバには圧縮したマンモグラフィのキー画像のみを保存することで,システム全体の負荷を軽減させている。
■安全・確実な バイオプシーを可能にするガイダンスツール
従来より同院では,カテゴリー3-2以上で,超音波では見えない症例をマンモグラフィバイオプシーの対象としているため,件数は年に数回程度と頻度は少ない。今回の装置の選定では,バイオプシーもポイントの1つであったと金子医長は言う。
「セッティングが簡単であることはもちろん,側臥位で実施ができることも条件の1つでした。8月に実施した1例目のバイオプシーでは,CRで描出困難だった淡い石灰化をはっきりと描出することができ,穿刺のねらいをピンポイントで定められて,大変心強く思いました」
ステレオバイオプシーガイダンスツールにより,精度の高い穿刺が可能となり,スループットも向上している。セッティングやポジショニングについて新島技師は,「ユニットは軽くて,3ステップで装置に装着できます。コンソールでのガイドも大変わかりやすく,スカウト撮影とステレオ撮影もスイッチ1つで自動的に行われます。CRの時にはポジショニングも難しく,患者さんの入室から退室まで1時間20分程度かかっていましたが,8月の1例目は30分程度で終わり,患者さんの負担も軽減できていると思います」と話す。プランニング画面では,検出器,圧迫板,穿刺針のノッチ箇所,ターゲットを視覚的に把握・微調整ができ,より正確なアプローチが可能となっており,確実で安全な穿刺を支援する有用なツールとなっている。
■マンモ専用ビューワIDS7/mxで負担の少ない読影環境を実現
マンモグラフィ撮影室に隣接した読影室には,5MPのマンモ専用ビューワ「IDS7/mx」2面と,IDS7/mx操作端末,電子カルテシステム端末,レポートシステム端末が設置されている。比較読影では,PACSサーバからCRの過去画像を呼び出して,FADや腫瘤,簡単な石灰化などを見ることもできるが,CRの画質が不十分なため,現在はフィルムで比較することも多い。
研修先でソフトコピー診断を経験しているため,金子医長にとっては,読影環境の変化への順応は容易だったが,導入時にはフィルムに近い見え方になるように,IDS7/mxを細かく調整した。IDS7/mxによる読影について,金子医長は,さまざまな機能を使いこなすことで診断の大きな助けになると話す。
「ビューワは,読影のしやすさと,目への負担が少ないことが選定のポイントでした。機能も充実していて,読影しやすいように画面をカスタマイズしたり,自分の読影パターンを設定できるので,キーパッドの操作のみでほとんど読影できてしまいます。キーパッドを使い始めると,マウス操作よりもずっと楽で手放せません。ビューワは,少ない台数を複数の医師が共用するため,ログインで設定の使い分けができることも,決め手の1つとなりました」
キーパッドの機能の振り分けは,医師の読影スタイルに合わせて自由に設定できる。特に検診では,読影する件数が膨大となるため,読影者が疲れにくいシステムが望まれる。IDS7/mxは,操作性だけでなく,ビューワと操作モニタ間のカーソル移動を認識し,読影者が見ている画面の明るさを調整するなど,読影者にかかる負担の軽減を徹底して追究したシステムとなっている。
金子医長は,今回のデジタルマンモグラフィシステムの導入について,「安心して読影できる画質であり,高スループットで検診の数をこなすことができるようになったため,導入の最大の目的は達成できています。また,他の院内システムとの連携も問題なくできているので,病院側に負担をかけることなく導入できたことも良かったと思います」と述べる。
また,これからの乳腺診療については次のように語った。
「今後,症例が蓄積されていけば,現在よりも比較読影の質が確実に上がっていくでしょう。それにより,継続的に受診される方に対して,病変をより早期に発見することができるといったメリットを還元できるものと期待しています」
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(2012年8月14日取材)
医療生協さいたま 埼玉協同病院
住所:〒333-0831 埼玉県川口市木曽呂1317番地
TEL:048-296-4771
病床数:401床 診療科:18 専門外来:7
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