2011-12-1
雷神 Anatomiaのサーバ
東京都の三多摩地区の中核病院である杏林大学医学部付属病院 。放射線部門では,2011年に従来のワークステーション(以下,WS)を更新する形でAZE社のネットワーク型WSである「AZE VirtualPlace 雷神 Anatomia(以下,雷神 Anatomia)」を導入した。放射線部門の各所に設置されたサーバとクライアントで画像処理を行っている。自動処理の機能を強化したネットワーク型WSの採用は,放射線部門のワークフローを大幅に改善。さらに,新機能を採用したソフトウェアにより,放射線科はもとより各診療科へ有用な情報をスピーディに提供している。最新鋭のネットワーク型WSをどのように使いこなし,メリットを引き出しているのか,その活用スタイルを取材した。
放射線科医や診療放射線技師の業務支援を行う
ネットワーク型WSが今後重要になる
—似鳥俊明 放射線科教授に聞く
モダリティの進歩により放射線部門の業務量が激増する中,これからのWSに求められるものは何か。そして,医学教育の中での3D画像の位置づけについて,似鳥俊明教授にお話をうかがった。
─貴院放射線科の特色についてお聞かせください。
放射線科では,診断からIVRまでを幅広く行える放射線科医の育成をめざしています。近年,胸部単純写真などの読影を行う大学病院の放射線科は少なくなってきましたが,当院では基本として取り組んでいます。さらに,消化管造影検査も,放射線科医自らが検査を施行し,読影まで行っています。このほか,検診においても,CT,MRIだけでなく単純撮影も含め,読影しています。
また,当院は,高度救命救急センターを擁する日本でも有数の規模を誇る三次救急医療機関であり,専用のCTとMRIを配備しています。夜間の検査があった場合には,当直の放射線科医が読影するほか,血管撮影を行うチームも確保しています。
一方,IVRについては,肝細胞がんのTAEにおいて日本でもトップレベルの実績を誇っており,放射線科に入局後,すべての放射線科医は基本的な手技を身につけるよう教育しています。
─放射線科医にとって,WSはどのような存在でしょうか。
CT,MRIともに近年の技術進歩により高画質化したことで,より広い範囲,薄いスライス,細かな画像を読影するようになりました。加えて,CTならばdual energy imagingや逐次近似法を応用した撮影技術,MRIならば高磁場化や非造影など,新しい撮影・撮像方法が登場してきています。このような状況で,放射線科医の業務量は増え続けているのが現状です。WSは,多忙な放射線科医の業務を支援し,対応できないところを補ってくれる存在だと思います。
─WSに望むことは何でしょうか。
放射線科医を支援するツールとして,今後はCADのような機能を期待しています。私自身もテンポラルサブトラクション法を用いた検診データの読影について研究を行っていますが,読影時間の短縮や診断能の向上が図れています。今後は,その使用方法も含め検討することで,放射線科医の業務に大いに役立つと考えています。
また,従来WSは放射線科内での利用が中心でしたが,院内の各診療科のHIS端末で3D画像を作成したり,見られるように,ネットワーク型へと移行する必要もあります。これにより放射線科医や診療放射線技師の業務が軽減されるだけでなく,より多くの情報を診療科に提供できるようになると思います。現在,当院では,診療放射線技師が作成した画像を2Dの静止画像として提供していますが,これでは診療科にとって情報が不足していると言えます。手術シミュレーションや患者説明などに利用し,質の高い診断,治療を行うためには,ボリュームデータを十分に活用できるようにネットワーク型WSで診療科の医師が自ら3D画像を作成,展開できるようにすることが重要です。当院では,2012年度にHISを更新し,新しい医療情報システムの稼働をめざしていますが,端末から3D画像を作成したり,iPadなどのタブレット端末を用いて院内各所から3D画像を参照できるようなシステムにしたいと考えています。
─大学病院の使命として教育にも力を注いでいらっしゃいますが,3D画像をどのように活用されるのでしょうか。
医師だけでなく,看護師,診療放射線技師にとっても解剖の知識は大変重要であり,基本です。最近では,患者さんも医療に関する知識が豊富になり,解剖にも関心を持つようになりました。そこで,私としては,医師などの医療者はもとより,一般の方が知識を得るための共通のテキストを作りたいと考えており,現在AZE社の協力を得て,3D画像を用いた解剖書の編集を進めています。また,双方向性を持たせた解剖の学習教材として,iPhone用のアプリとリーフレットを組み合わせたものの開発も行っており,近日アップル社のiTunes Storeより配信する予定です。このアプリは,日本語版と英語版を作成し,できるだけ低価格で提供するつもりです。私としては,このような教材を通じて,医療者はもちろん,多くの方に解剖の知識を得てほしいと考えています。
■高度医療・地域医療を担う中核病院
杏林大学医学部付属病院は,三鷹新川病院を母体に1970年4月に開設された杏林大学医学部の付属病院として,同年8月に開院した。現在の病床数は1153床で,2010年度の実績では,外来患者数1日平均2260人,入院患者数1日平均848人となっており,2011年4月現在,310人の医師が在籍している。同院は,東京都三多摩地区の中核的な医療を行う特定機能病院として,高度医療の提供のほか,地域医療連携のハブとしての機能を担っている。
地域に根ざした高度医療を提供する同院において,扇の要の役割を果たしているのが放射線科および放射線部である。似鳥俊明教授が率いる放射線科は,「チーム医療における専門家としての誇りと責任を持つ」を理念に掲げ,28名の放射線科医が診断部門と治療部門に分かれて診療を行っている(上記インタビュー参照)。また,放射線部には,55名の診療放射線技師がおり,モダリティ別に検査を担当している。CTは64スライスCTを筆頭に高度救命救急センターも含め5台導入されており,MRIは3T装置1台をはじめ計5台が稼働している。
このように多くのモダリティを擁する放射線部門では,検査から診断までのワークフローをスピーディかつ効率化するためにIT化にも力を入れており,PACS,RISの導入によるフィルムレス化に早期から取り組んできた。また,同様の目的から,医用画像WSの活用も積極的に進めてきた。このような背景のもと,2011年9月には従来のWSからバージョンアップする形で,AZE社の最新ネットワーク型WSである雷神 Anatomiaへ更新。放射線部門内でのネットワーク運用を行っている。
■自動処理などの機能を強化した雷神Anatomia
放射線部門において,最初にAZE社のWSを導入したのは,10年以上前にさかのぼる。MRIの画像処理用WSの導入を検討するにあたり,他施設で導入実績があり,高い評価を得ていたAZE社のVirtualPlaceを選定した。放射線部の小林邦典副技師長は,「八重洲クリニックをはじめAZE社のWSの導入施設を見学したのですが,心臓MRIなどの高度な画像処理が行われていて,操作性が良く,機能も充実していて,ぜひ導入したいと思いました」と述べている。さらに,3T MRIの導入に伴い,ネットワーク型の雷神 Plusに更新。放射線部門内にクライアントを配置して,各所で画像処理ができるようにした。その後,前述のとおり雷神 Anatomiaに移行して現在に至っている。
2011年7月にリリースされた雷神 Anatomiaは,本体とクライアントを合わせて5台のWSが同時に使用できる最新鋭のネットワーク型WSである。タスク処理を統合管理し,高速に行うことで,データローディングと転送時間を飛躍的に短縮化。放射線科医の読影や診療放射線技師の画像処理などの業務を大幅に改善する。
高速化した演算処理技術がもたらす恩恵はそれだけではない。その1つとして,ポストプロセッシングを自動化する“AZE Auto Analyzer(以下,AAA)”が挙げられる。この機能は,モダリティから転送されてきた画像データのDICOM Tag情報に基づいて,バックグラウンドで自動解析処理するもので,処理時間を大幅に短縮する。また,ワークフローを向上させる機能としては,PACSや電子カルテシステムとの連携を強化しており,PACSのビューワからワンクリックで雷神 Anatomiaを展開し,画像処理・参照を行える。システムの切り替えによる患者情報などの再入力が不要となり,作業の省力化にもつながる。
このようなWSにとって最も重要となる“エンジン”と“足まわり”が強化された上に,雷神 Anatomiaには最新のソフトウェアも数多く搭載されている。
■フレキシブルでスピーディな画像処理環境
杏林大学医学部付属病院の放射線部門では,雷神 Anatomiaのサーバ1台と3台のクライアント,および他社製WSでの画像処理業務を行っている。クライアントは,CT室とMRI室に1台ずつ設置されているほか,読影室にも1台用意されている。CT室,MRI室のクライアントは主に診療放射線技師が使用しており,読影室の1台は放射線科医が自ら画像処理を行っている。
雷神 Anatomiaでの画像処理の流れは,次のとおりとなる。
まず,診療科からCT・MRIの検査オーダが入ると,使用する装置の振り分けを行い検査を施行する。CTはthick sliceのデータを読影用としてPACSに送り,雷神 Anatomiaには,thin sliceデータだけを送るようにしている。また,MRIはボリューム撮影を行っているものに関しては,全データをPACSと雷神Anatomiaに送信する。この段階で,診療放射線技師は検査内容に応じて,それぞれの検査室にあるクライアントで画像処理を行う。加えて,診療科からの3D画像作成のオーダは,読影室の放射線科医に出されることが多く,放射線科医も,オーダ内容に基づいて,読影室内のクライアントから画像処理を行う。作成された3D画像は静止画像にしてPACSに送られ,読影ビューワやオーダリングシステム端末から参照できるようになっている。
放射線科の本谷啓太助教は,読影時のWSの利用方法について,「例えば,冠動脈のVR像ならば診療放射線技師が作成したメインブランチの画像に加え,サイドブランチを確認するために,自ら作成することがあります。また,MIP像やMPR像をWSで作成して,任意断面から読影していくことで,PACSの読影ビューワだけでは得られない情報を得ることができます」と述べている。加えて,本谷助教は,「循環器内科からは冠動脈CTのVR像のオーダが多くあります。また,消化器外科,消化器内科からは術前の血管マッピング,形成外科からは顔面再建術,下肢救済・フットケアのためのVR像のオーダを受けます。このほか,整形外科からは頸椎骨C1-C2固定術の術前ナビゲーション用のVR像や,脳神経外科からは脳表静脈の走行の確認のための3D-MRA像などのオーダもあります」と,幅広い診療科から多岐にわたってオーダがあると説明している。
このような状況の中で,同院ではネットワーク型WSの導入によって,放射線部門の各所で3D画像を作成するなどフレキシブルな対応ができている。そして,雷神 AnatomiaのAAAによるバックグラウンドでの自動処理と高速化は,診療科からの多様なニーズに速やかに応えるための大きな武器となっている。小林副技師長は,「WSに最も求められる性能はスピードです。AAAの高速処理は,放射線科医や他科の医師からの要求に対応する上で重要な技術です」と評価している。
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■最新ソフトウェアで診断能の向上を図る
AZE社のWSは,豊富なソフトウェアが標準で搭載されているのが特長であるが,杏林大学医学部付属病院では,雷神 Anatomiaで機能が強化されているこれらのソフトウェアが,威力を発揮している。
1.COPD診断の共同研究に活用される“3D気道解析”
同院の呼吸器内科と放射線科では,COPDの画像診断に関し共同研究を行っており,AZE社WSがその研究に用いられてきた。これは,呼気と吸気で胸部CTを施行し,その容積変化とスパイロメーターの相関から定量化するというもので,雷神 Anatomiaに搭載されている“3D気道解析”というソフトウェアが使用されている。
この3D気道解析は,気道を自動的に抽出するもので,CPRや直交断面,仮想内視鏡画像などを作成できるほか,内腔・外壁の径の統計出力や低呼吸域の測定,過去検査との比較が行える。放射線部の鈴木 満技師は,「手間のかかる気管支の抽出や,径の計測・集計がほぼ自動で行え,短時間で,ストレスなく作業を終えることができます」と,その使い勝手の良さを評価している。
このソフトウェアの精度の高い画像処理と利便性を生かして,同院ではさらに共同研究を進めていく予定だという。
2.速度と精度が向上した“CT細血管解析”
雷神 Anatomiaに更新されたことで,鈴木技師は改良された“CT細血管解析”に期待を寄せている。新機能としては,まず画面レイアウトが読影やレポーティングなど,目的に応じて変更が可能となったことが挙げられる。さらに,VR像とCPR像の角度が連動するようになったことに加え,冠動脈病変評価チェックシートなどのレポーティング機能が搭載された。鈴木技師は,「3D画像の作成と解析をワンクリックで行うなど,操作性が非常に良いソフトウェアです。不要な血管の除去なども自動処理するので,操作者の技術に依存せず高精度の画像を,短時間に作成できます」と述べている。雷神 Anatomiaの更新から間もないため,本格的な使用はこれからになるが,鈴木技師は積極的に使っていきたいと考えている。
3.3T MRIの能力を生かす“T2 mapping”
同院では,2010年に東芝社の3T MRIの第1号機が導入された。以降,3T MRIの性能を生かすためにAZE社のWSで画像処理を行っている。本谷助教は,「現在,3T MRIのコンソールで処理できない,“T2 mapping”に期待しています」と述べている。このソフトウェアは,関節軟骨のT2値の変化を算出するもので,変形性関節症などの診断に有用である。さらに,3T装置の画像におけるWSの活用について,「SNRが高くなったので,手の小さな靭帯の損傷などは,WSを使用して任意断面で確認しています」と説明している。
■院内各所で3D画像処理ができるようネットワークの拡大をめざす
雷神 Anatomiaの導入により,フレキシブルかつスピーディに3D画像が作成できるようになった杏林大学医学部付属病院の放射線部門であるが,今後はさらにネットワーク型WSの利用を拡大していきたいと考えている。本谷助教は,「ネットワーク型WSによって,放射線科医が3D画像を作成する機会が増えてきたので,さらに病院全体で利用できるようになればよいと思います」と今後の展望について語っている。特にAZE社のWSはiPadをクライアントとして利用可能なので,診療科の医師が院内各所にあるクライアントから,3D画像を作成できるようになれば,メリットは大きい。そのためにも,「3D画像作成の院内ルールやマニュアルを整備して,画像の真正性などを担保しなければなりません」と小林副技師長は指摘する。そして,より操作が簡単で精度の高い3D画像が作成できるよう,さらなる機能強化も望まれると付け加えている。同院は,2012年度にHISの更新を控えており,その中でWSの利用機会の拡大も期待されている。これが実現すれば,高度医療,地域医療の重責を担う同院にとって,強力な診療支援ツールになるだろう。
(2011年10月12日取材)
杏林大学医学部付属病院
住所:〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2
TEL:0422-47-5511
病床数:1153床
診療科:31科
http://www.kyorin-u.ac.jp/hospital/