2011-9-1
虎の門病院が導入したAquilion PRIME
「医学への精進と貢献」を基本理念に掲げる虎の門病院では,CT予約検査の待ち時間の長期化という状況を解消するため,2011年3月に,4列の東芝社製マルチスライスCTから,「Aquilion PRIME」に更新した。80列(160スライス)という高スペック,高速のスキャンと画像再構成により,ワークフローが大きく改善し,検査待ちやスタッフの業務負担が解消した。さらに,循環器領域の検査にAquilion PRIMEを積極的に使用することで,高画質画像を迅速に提供できるようになり,画像診断,治療の質の向上が図られている。東芝社の最新鋭マルチスライスCTが,どのようにワークフローを改善し,循環器領域の画像診断にメリットをもたらしているのかをレポートする。
「医学への精進と貢献」を理念に掲げ,高度な急性期医療に取り組む
─山口 徹院長に聞く
1958年に開院した虎の門病院は,国家公務員共済組合連合会の医療機関における中核的な存在として,長年にわたり高度な急性期医療を提供してきた。山口院長に,Aquilion PRIME導入の背景や期待についてうかがった。
─虎の門病院の特色についてお聞かせください。
山口院長:当院の基本理念は,「医学への精進と貢献,病者への献身と奉仕を旨とし,その時代になしうる最良の医療を提供すること」です。この基本理念の冒頭に「医学への精進と貢献」を掲げているのが,当院の大きな特色だと言えます。患者さんへの最良の医療を提供することは当たり前のことであって,例えば,良い装置を導入して,そこから得た知見を医学界へ,世の中へ発信していくといったように,医学の進歩に貢献することが重要だと考えています。
─Aquilion PRIMEに期待することは何でしょうか。
山口院長:処理速度が非常に速い装置なので,予約検査の消化や検査業務の効率化,スピードアップを期待しています。しかし,これは新しい装置を導入すれば,当然得られるメリットでもあるわけです。ですから,さらに少ない被ばくで検査ができるようになればよいと考えています。
─CTの被ばくに関する国民の意識が高まってきていますが,どのようにお考えですか。
山口院長:CT検査での被ばく線量を少なくすることは大きな課題だと考えています。この点については,当院でもしっかりと取り組んでいきます。そのためにも,メーカーには,真剣に被ばく低減に取り組んでほしいと思います。さらには,高級機だけでなく,普及機にもその技術が搭載され,多くの施設が被ばくの少ない装置で検査を行うようになることが大事です。普及機にもAIDRなどの技術を搭載している東芝社の姿勢は,大変評価できます。
■ワークフローの改善を視野に入れAquilion PRIMEを選定
虎の門病院放射線部では,東芝社製4列,16列,64列のマルチスライスCTを8年程度運用してきたが,CT予約検査が1~2か月待ちという状況になっていた。これに伴い,診療放射線技師の超過勤務が常態化しており,その改善が求められていた。そこで,同院では2008年ごろから,装置の更新を検討し始めた。
当時の状況について,放射線部の多賀谷 靖科長は,次のように述べている。
「2008年はちょうどAquilion ONEが販売を開始したころで,要望していたのですが,コストの面から導入が難しい状況でした。その後,2010年度の診療報酬改定で,コンピュータ断層撮影診断料における従来のマルチスライスCTの加算(850点)が,2列以上16列以下(820点),16列以上(900)点へと変更になったことで,本格的にCTの選定が始まりました。その2010年末に高速撮影が可能な80列のAquilion PRIMEが発表されました。同機では従来のルーチン検査,心臓・心大血管などの循環器領域の検査における有用性と,ワークフローの改善が見込まれると判断し,導入を決定しました」
こうして導入されたAquilion PRIMEであるが,本格稼働から3か月が経過し,循環器領域の検査も数多くこなしている。
■循環器領域の検査のスピード化と効率化を実現し画像診断の可能性を広げるAquilion PRIME
装置の稼働開始から3か月が過ぎた現在,1日の検査数は120件程度で推移し,順調な滑り出しとなっている。また,放射線部のスタッフの超過勤務は大幅に改善されており,Aquilion PRIMEへの更新による成果が表れている。
●診断の迅速化でストラテジーを変える可能性
虎の門病院放射線部が管理するCTは現在,16列,64列,そしてAquilion PRIMEの3台で,5名の診療放射線技師がローテーションで撮影業務を担当している。通常検査における64列CTとAquilion PRIMEの使い分けはしていないが,循環器領域の検査に関しては,Aquilion PRIMEをメインに使用している。
循環器センター内科の石村理英子医師は,高速スキャンにより,被検者の息止め時間が大幅に短くなったことがメリットとして挙げられると述べている。
「当院では,冠動脈バイパス術のフォローアップ検査が多いのですが,左内胸動脈と胃大網動脈をバイパスにしている症例では,64列CTだと息止め時間が25秒を超えることが多く,動きによるアーチファクトで診断が難しいケースがありました。それが,Aquilion PRIMEでは左内胸動脈なら10秒強,胃大網動脈まで撮影しても20秒以内で終えられるので,きちんと息止めがされた状態の高画質画像を得ることができ,診断能の向上にも結びついています」
撮影の高速化に加え,石村医師は,画像再構成とその後の解析処理の速さについても,高く評価している。撮影後,高速再構成で迅速に処理ができ,診断能も向上したことで,将来的には検査数を増やしていけると見込んでいる。冠動脈疾患の低・中リスク患者に対して,負荷心電図検査と同等の利便性で心臓CTを適用できるようになれば,循環器の診断ストラテジーを変える可能性を有していると石村医師は評価している。また,解析処理についても,「従来は撮影の後に行っていたカルシウムスコアリングを,今後は単純撮影後にすぐに計測し,直ちに造影検査を施行するかどうかを判断するといった検査フローにしていけるのではないかと期待しています」とも話す。
●循環器領域の画像診断に寄与する新技術を活用
大動脈の撮影を行う場合に,バリアブルヘリカルピッチスキャンシステムを用いることで,連続性のある画像を得られるようになった。このシステムは,寝台を停止させることなく,スキャン中に心電図同期から非同期,低ヘリカルピッチから高ヘリカルピッチへと切り替えることで,冠動脈バイパス術後のフォローアップや大動脈解離などの症例において,1回の撮影で広範囲の撮影を行えるものである。石村医師は,「心臓から腹部までを心電図同期で撮影する場合,息止めの困難な症例があります。以前は心電図同期と非同期に分けて撮影を行っていましたが,タイムラグがあり造影剤の濃度が違ってしまうため,連続性のあるデータを得られませんでした。しかし,バリアブルヘリカルピッチスキャンシステムではこの欠点を解決し,術前評価のための質の高い画像を作成できるようになりました」と説明する。同院では,Aquilion PRIMEの80列・高速撮影によって,循環器領域をはじめとした各領域の診断や治療のために有用性の高い情報を提供できるようになった。
さらに,石村医師は「例えば,冠動脈疾患の罹患者は,頸動脈疾患も罹患されている確率が高いことからもわかるように,循環器医は,心臓以外の領域にも目を向けなければいけません。広い領域を診断するためにも,1回の検査で広範囲の撮影ができるAquilion PRIMEをもっと活用していきたいです」と今後の意気込みを語る。
●超高速画像再構成によるワークフローの改善
Aquilion PRIMEでは,50f/sという超高速での画像再構成処理が可能になっている。これについて,多賀谷科長は,「当院では,心臓,下肢動脈などの循環器領域の検査枠があるのですが,例えば心臓の撮影では次の検査までの間に再構成が終わるので,そのままワークステーションで画像処理をして読影にまわすことができます。そのため,検査枠内でほとんどの処理が完了するようになり,診療放射線技師の業務効率が向上しました」と,メリットを挙げている。さらに,川内 覚技師は,「Aquilion PRIMEは,動作が非常にスピーディで,寝台の移動もスムーズです。そのため,作業の流れが速やかになっているのを実感しています」と付け加える。
検査・診断の迅速化など,ワークフローの改善だけでなく,Aquilion PRIMEによる検査画像の高画質化も,スタッフからは高く評価されている。Aquilion PRIMEには,東芝社の最新の画像再構成アルゴリズムであるV-TCOT が搭載され,ハイピッチのヘリカルスキャンでもムラのない高画質画像が得られる。
また,循環器領域では,心電同期フラッシュスキャンシステムが使用できるようになり,被ばく低減を図った上で,短時間で安定した画像を撮影することが可能だ。石村医師は,以前と比較して,同条件で撮影した画像は明らかに画質が向上しており,コントラストや鮮鋭度の高い画像が得られるようになったと指摘している。
●被検者に優しい検査を提供する780mmの開口径とi-Station
一方で,Aquilion PRIMEへの更新は,被検者にとってもプラスになっている。川内技師は,「ガントリの回転速度が0.35s/rotと,高速スキャンで撮影できるため,高齢者や息止めの難しい方,小児の検査でも,高画質と優しい検査を両立できています」と述べている。加えて,川内技師は,780mmの開口径は,被検者の圧迫感や閉塞感を軽減させ,リラックスさせる効果があるというメリットを強調する。
また,情報コミュニケーションモニタのi-Stationも,循環器領域では高く評価されている。川内技師は「i-Stationを一緒に見ながら説明,練習するなど,コミュニケーションをとることで,クオリティの高い検査につながっていると思います」と話す。石村医師も,「造影剤を注入するため撮影室内で立ち会うときに,i-Stationで心拍の状態を確認できます。被検者の状態を把握して検査することは,その後の画質にも影響してくることなので,大変役立っています」と,診断する立場からメリットを説明している。
■症例1 心電同期フラッシュスキャンシステム
■症例2 バリアブルヘリカルピッチスキャンシステム 心臓
(心電図同期)→大血管(非心電図同期)
■症例3 Aquilion PRIMEと64列CTとの比較
■症例4 救急での高齢者の撮影(腕を下ろした体位)
■さらなる画像診断の画質向上に向けて
放射線部ではAquilion PRIMEの撮影プロトコールを検討しながら,日常の検査に取り組んでいる。多賀谷科長は,「私たちとしては画質を上げつつ,低被ばくでの撮影ができるように努めています」と述べている。循環器領域の検査でも,被検者の体格に応じて管電流を調整するということをスタッフに徹底し,被ばく線量を確認しながら撮影を行っている。
このような工夫に加え,Aquilion PRIMEには,東芝社の被ばく低減技術である“AIDR”(Adaptive Iterative Dose Reduction)が搭載されており,今後はこれを用いた撮影プロトコールの検討も行っていくという。多賀谷科長は「AIDRを積極的に使って,被ばく低減に取り組むのが今後のテーマです」と述べている。
虎の門病院では,Aquilion PRIME導入以降,その性能を引き出し,機能を活用して,高画質と低被ばくを追究してきた。これからもAquilion PRIMEを用いながら「医学への精進と貢献」を図り,さらに被ばく低減などへの取り組みにより,患者さんに最良の医療を提供していく努力を続ける。
(2011年6月27,29日取材)
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
住所:〒105-8470 東京都港区虎ノ門2-2-2
TEL:03-3588-1111
病床数:890床
診療科目:一般内科,血管内科,臨床感染症科,内分泌代謝科,呼吸器センター,睡眠呼吸器科,消化器内科,肝臓内科,神経内科,循環器センター,腎センター,リウマチ膠原病科,精神科,臨床腫瘍科,消化器外科,乳腺・内分泌外科,脳神経外科,間脳下垂体外科,脳神経血管内治療科,小児科,皮膚科,放射線科,整形外科,形成外科,産婦人科,泌尿器科,眼科,耳鼻咽喉科,麻酔科,歯科,救急科,放射線診断科
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