第44回医療情報学連合大会が「デジタルヘルスの新未来」をテーマに開催
2024-12-17
「デジタルヘルスの新未来」がテーマ
第44回医療情報学連合大会(第25回日本医療情報学会学術大会)が,2024年11月21日(木)~24日(日)の4日間,福岡国際会議場・福岡サンパレス(福岡県福岡市)を会場に開催された。テーマは「デジタルヘルスの新未来」。大会長を中島直樹氏(九州大学),プログラム委員長を脇 嘉代氏(東京大学),実行委員長を山下貴範氏(九州大学)が務めた。中島氏は,大会ホームページの大会長挨拶の中で,団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて,医療情報の視点から日本の方向性を議論し,未来の世代につなげる機会にしたいと説明している。
2日目の11月22日には,開会式・表彰式に続き大会企画1「DXへつながる途-デジタルヘルスが紡ぐ医療の未来-」が行われた。脇氏と上田悠理氏〔(株)Confie〕が座長を務め,人工知能(AI)など,これからのデジタルヘルスに大きな影響を及ぼすと思われる技術について4名が発表した。最初に,松尾 豊氏(東京大学)が,「生成AI・DXの概要と日本の取るべき方向性」をテーマに,オンラインで発表した。松尾氏は,AIの歩みを振り返り,2018年ごろから自然言語処理技術が進歩し,Transformerの登場によって生成AIの時代になったと説明。生成AIの用途としてAIエージェントを紹介した。さらに,松尾氏は日本における生成AIの動向を取り上げ,国が取り組むインフラ整備やリスク対策,計算資源の増強支援施策について解説した。その上で,医療分野での生成AIに関して,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で進める医療用大規模言語モデル(LLM)を説明。医療分野の生成AIやDXのポテンシャルは大きく,関係者の積極的な実践に期待したいとまとめた。続く荒川 豊氏(九州大学)は,「情報技術による行動変容支援」と題して発表した。荒川氏は,ウエアラブルデバイスとセンシング技術の向上により常時生体モニタリングが可能となったと説明。また,ソフトウエアによる医療支援として,禁煙や高血圧,不眠症などのデジタル治療が登場している現状を紹介した上で,普及のための課題に言及した。
同じく11月22日に行われた特別講演1では,中島氏が座長を務め,喜連川 優氏(大学共同利用機関法人情報システム研究機構/東京大学)が登壇。「デジタルの潮流とSIP3統合ヘルスケア」をテーマに講演した。喜連川氏は,国立情報学研究所が開発しているLLMの「LLM-jp-3 172B」を紹介したほか。SIP第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築における生成AIの活用」の概要などを解説した。
11月22日には,共同企画4「増え続ける医用画像の管理と今後の展望」(日本医用画像情報専門技師共同認定育成機構・日本放射線技術学会)が設けられた。坂本 博氏(東北大学)と木村通男氏(川崎医療福祉大学)が座長を務め,4名の発表者が登壇した。この中で,川眞田 実氏は,「医療画像データの増加に伴う課題」をテーマに,画像診断装置の高性能化に加えて,放射線治療の高精度化により,医用画像データ量が増大している現状を指摘。オンプレミスとクラウドそれぞれのメリット・デメリットを説明したほか,放射線治療用PACSのデータがPDI統合プロファイルに対応できていないといった課題などを解説した。また,原瀬正敏氏(豊橋市民病院)は,「画像診断AI解析ソフトウェア導入による画像管理と運用における課題」と題して発表した。原瀬氏は,画像診断AIの活用が進むことで,PACSに保管される医用画像データが増大していると指摘。画像診断AIの利用のルールづくりや3D画像処理の運用を見直した経験を報告した。「経営視点での医用画像管理の考え方~運用管理や新技術の導入について~」をテーマに発表した谷 祐児氏(旭川医科大学)は,医療機器管理のための設備投資の考え方,オンプレミスとクラウドの費用比較を提示。医用画像管理の費用対効果を検討することの重要性に言及した。
3日目11月23日には,中島氏が座長を務め,大会企画3「見えてきた,平時/有事の健康医療データの利活用」が設けられた。最初に登壇した田中彰子氏(厚生労働省)は,「行政が進める医療DXの現状と方向性」と題して,医療DX施策の現状と,それに伴う法整備について解説した。医療DX推進施策として,全国医療情報プラットフォームの構築などが進められており,2025年には電子カルテ情報共有サービスがスタートする。田中氏はこれらを説明したほか,社会保険診療報酬支払基金の改組についても取り上げた。2番目に発表した日野 力氏(内閣府健康・医療戦略推進事務局)は,「次世代医療基盤法の改正と公的DBの連結」と題して,連結可能匿名加工医療情報の利活用に当たっての制度概要と利用フローなどを解説した。また,磯 博康氏(国立国際医療研究センター)は,「緊急時のワクチン・治療薬のRCTと治療効果判定の迅速化体制について」をテーマに発表した。磯氏は,パンデミックの早期にワクチン開発する上で,臨床試験を迅速に進めるための治験システムの電子化,標準化が必須だと説明。ナショナルセンター6施設で構築を進めるリアルワールドデータ収集・提供基盤「JASPEHR(Japan Standard Platform for Electronic Health Records)」や2025年4月に設置される国立健康危機管理研究機構(JIHS),「新興・再興感染症データバンク事業ナショナル・リポジトリ(REpository of Data and Biospecimen of INfectious Disease:REBIND」といった施策について解説した。
11月23日には,学会長講演が行われた。中島氏が座長を務め,日本医療情報学会代表理事の小笠原克彦氏(北海道大学)が登壇。「AI時代における医療情報学の役割」をテーマに講演した。小笠原氏は,AIの動向とAI時代に必要な能力について説明したほか,AIの開発でも重要となる医療情報の質,リアルワールドデータの利活用について言及した。また,実際にOpenAI社「Chat GPT」で,日本医療情報学会の経営分析を行った結果を紹介した。
学会長講演後に行われた大会企画4「UIとUXの新しいパラダイム-デジタルヘルスの最前線-」では,脇氏と池田真一郎氏(九州大学)が座長を務め,5名が発表した。高橋秀明氏〔ウィーメックス(株)〕は,医師が診療に集中できるように電子カルテの入力作業を極力減らし,レスポンスの良さを重視したユーザーインターフェイスを紹介した。また,高山和也氏〔富士通Japan(株)〕は,200床未満の病院で電子カルテの普及が進んでいないと説明。これらの施設向けの電子カルテについて,シンプル,ミニマルで,メンテナンスフリーであることを重視し,医事システムとの連携するヒューマンセントリックデザインをめざしていると述べた。このほか,保坂 景氏〔Apple Japan(同)〕は,札幌医科大学が導入したiPhoneで利用できる「ポータブルカルテ」を紹介。さらに,西脇資哲氏〔日本マイクロソフト(株)〕は,「Microsoft 365」の「Copilot」を活用した音声入力で医療現場が大きく変わっていく可能性を示した。
最終日11月24日には,大会企画6「情報セキュリティ人材の育成と適正な配置に向けて」が設けられた。座長は武田理宏氏(大阪大学)と鳥飼幸太氏(群馬大学)が務めた。このセッションでは,医療情報技師,診療放射線技師,臨床工学技士の立場から情報セキュリティの人材育成について,施設における具体的な取り組みや課題が取り上げられた。また,武田氏は,セッション名をタイトルに掲げて発表し,情報セキュリティ人材について,求められる人材とその職務内容をグループで区分して説明した。その上で,現状では情報セキュリティの担当者を設置する医療機関は多いが,医療情報技師や情報処理機(IPA)の資格を有する人材は少ないと指摘。人材を確保するためには,日本医療情報学会が内科系学会社会保険連合(内保連)を通じて,サイバーセキュリティ対策向上加算の新設を働きかけていくことが求められると述べた。
最終日には,大会長講演も行われた。小笠原氏が座長を務め,中島氏が「改善サイクル“LHS”の実装が,医療の質改善の最大の武器となる」をテーマに講演した。中島氏は,「KAIZEN(改善)」は日本の得意分野であるが,医療では進んでいないと指摘。改善に向けた医療のPDCAサイクルとなるのが,LHS(Learning Health System)であると述べて,これを取り入れることが少子高齢化,医療現場の硬直といった日本の医療が抱える課題を解決し,業務改善による働き方改革を実現して医療の質も向上させると強調した。また,現在の電子カルテ共通の課題について,診療プロセスがないこととデータの構造化がされていないことだと指摘。クリニカルパス標準データモデル「ePath」の活用を提言した。さらに,内閣府の「BRIDGE事業」を取り上げて,個人のLHSを進めることで,治験のDXも可能になると説明した。
この後,木村氏と塩川康成氏(保健医療福祉情報システム工業会)が座長を務める産官学連携企画「電子カルテ情報共有サービス」が設けられた。新畑覚也氏(厚生労働省)から電子カルテ情報共有サービスの現時点での取り組み状況などが報告されたほか,大江和彦氏(東京大学/日本医療情報学会)が「FHIR仕様CLINSの策定と標準化 ~特にコード化について~」をテーマに発表。さらに,塩川氏が,IHEの活動状況を紹介した上で,プロジェクタソンの必要性を強調した。
すべてのセッション終了後,閉会式が行われた。中島氏が盛会であったことを報告し,関係者,参加者に感謝の意を示した。参加者は3800名を超え,演題数も過去最多となった。さらに,第29回日本医療情報学会春季学術大会(シンポジウム 2025)の大会長を務める大佐賀 敦氏(東北医科薬科大学)と第45回医療情報学連合大会(第26回日本医療情報学会学術大会)の大会長を務める山下芳範氏(福井大学医学部附属病院)が挨拶した。第29回日本医療情報学会春季学術大会(シンポジウム 2025)は2025年7月3日(木)~5日(土)に仙台国際センター(宮城県仙台市)とWebで開催される。また,第45回医療情報学連合大会(第26回日本医療情報学会学術大会)は,2025年11月12日(水)~15日(土)に,アクリエひめじ(兵庫県姫路市)で開催される。
●問い合わせ先
第44回医療情報学連合大会大会事務局(九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター)
E-mail jcmi44office@med.kyushu-u.ac.jp