国会議員を対象にしたアクチニウム-225に関する勉強会が開催

2024-7-5


アクチニウム-225国産化に向けて勉強会を開催

アクチニウム-225国産化に向けて勉強会を開催

2024年7月2日(火),衆議院第2議員会館にて国会議員を対象に「アクチニウム-225に関する勉強会」が開催された。6月21日に閣議決定された「骨太方針2024」では,医療用ラジオアイソトープの国産化に向けて体制整備を図ることが明記され,アクションプラン(医療用等ラジオアイソトープ製造・利用促進アクションプラン,2022年5月31日原子力委員会決定)に基づいて取り組みを推進するとともに,アクションプランの改定に向けた議論を行う方針が示されている。α線を放出するアクチニウム-225は,がん治療において大きな期待が寄せられているが,十分な量を製造する技術が未確立で,世界的に不足している現状がある。勉強会では,座長を元・厚生労働大臣で「ラジエーション知識を普及させ安全利活用を推進する議員連盟(ラジエーション議連)」会長の田村憲久衆議院議員,司会進行を同議連事務局長の畦元将吾衆議院議員が務め,アクチニウム-225の現状や課題,今後の方向性などについて,講師から説明が行われた。

座長を務めた田村憲久衆議院議員

座長を務めた田村憲久衆議院議員

 

司会進行を務めた畦元将吾衆議院議員

司会進行を務めた畦元将吾衆議院議員

 

1題目として,医療用等ラジオアイソトープ製造・利用促進アクションプランについて,内閣府科学技術イノベーション推進事務局審議官の徳増伸二氏,同事務局参事官(原子力担当)の山田哲也氏,および日本アイソトープ協会副会長の畑澤 順氏による説明が行われた。アクチニウム-225は,2016年に転移性前立腺がんへの高い治療効果が報告されて以降,各国で研究が進められ,早ければ2028年までに市場に登場する可能性がある。アクチニウム-225は原子炉と加速器のいずれでも製造できるが,国内の研究用原子炉(JRR-3,常陽)は稼働を停止していて放射性同位元素の供給を国外に依存しているため,日本では治験が十分に進んでいない現状がある。これを受けアクションプランでは,2026年度までに大量製造が可能な原子炉(常陽)でのアクチニウム-225の製造実証を行うことを計画しており,現在実施しているアクションプランの 2回目のフォローアップにおいて需要側・医療側へのヒアリングを行っていることなどが報告された。

次いで,国立がん研究センター東病院病院長の土井俊彦氏が,臨床の立場から放射性医薬品の臨床開発の現状について説明した。RLT(ラジオアイソトープ標識治療)は,薬剤ががん組織に到達しているかを画像で確認でき,治療効果を予測できる点で意義が大きいが,日本は他国と比べて放射性医薬品の治験が非常に少なく,新規モダリティ医薬品への対応の遅れからドラッグロスが加速している状況にある。土井氏は,放射性医薬品開発の課題を述べた上で,国立がん研究センターでは世界の規制に通用するデータ,治験の質の担保が可能な開発基盤体制を整えていること,また,2024年2月に日本原子力研究開発機構(JAEA)と協力協定を締結して,医用利用可能な放射性同位元素の製造,放射性医薬品の研究開発,およびサプライチェーン構築を進めていることを説明した。

3題目として,量子科学技術研究開発機構(QST)量子医科学研究所分子イメージング診断治療研究部部長の東 達也氏が,「Ac-225利用とトレーラーハウス型RI施設」について説明した。QSTでは,RI医薬品開発において原料確保からRI管理まで一気通貫に対応している点が特徴で,アクチニウム-225に関しては小型加速器によるGBqレベルでの製造に世界で初めて成功したほか,アクチニウム-225対応・α線放出核種標識製剤のGMP製造設備を国内で初めて整備するなど,国産アクチニウム-225製剤の臨床試験に向けた研究を加速している。さらに,臨床導入に向けてトレーラーハウス型RI施設を開発,2022年にRI法での使用許可を取得し,現在,医療法での許可取得をめざして調整が行われている。トレーラーハウス型RI施設は,設置コストを従来施設の1/10程度に抑えられるほか,従来のRI管理区域とは完全独立で設置が可能,必要な時に必要とする病院に移動可能といったメリットがあることが紹介された。

最後に,日本原子力研究開発機構(JAEA)理事の大島宏之氏が,「常陽を用いたがん治療用放射性同位元素(アクチニウム-255)製造」と題して説明した。JAEA所有の高速炉実験炉「常陽」は,2023年に新規制基準適合性審査に合格し,2026年の運転再開をめざして工事が進められている。大島氏は,常陽では高速中性子を利用することでアクチニウム-225を大量に製造することが可能で,ラジウム-226を入手できれば日本国内のがん治療におけるアクチニウム-225のニーズに十分に対応でき,さらに海外へ輸出することで大きな波及効果を得られることを説明した。また,課題として,アクチニウム-225を頒布するための中間事業体の必要性やラジウム-226の確保,連続供給のためのサプライチェーンの構築を挙げ,現場レベル・政策レベルでの課題解決が必要であると述べた。


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