東北大学やJR東日本が医療・健康データを活用したウェルビーイング社会実現に向けた取り組みを講演
2024-3-4
2024年2月20日開催の日経オンラインセミナー
「医療・健康データの利活用による
ウェルビーイング社会の実現」から
日経オンラインセミナー「医療・健康データの利活用によるウェルビーイング社会の実現」〔協賛:富士通(株)〕が,2024年2月20日(火)に開催された。セミナーでは,ウェルビーイング社会の実現に向けて医療や健康データをどのように活用するか,また活用における課題は何かを中心に,先進的な取り組みを行っているアカデミアや企業からの報告と,富士通のFujitsu Uvanceをはじめとするソリューションや実際の事例などが紹介された。
プログラムは,基調講演として東北大学病院教授産学連携室室長,東北大学総長特別補佐の中川敦寛氏による「ウェルビーイング社会の実現に向けた東北大学病院の取り組み~医療機関は診断+治療の場であることに加えて課題解決による価値創造の場へ~」,特別講演として東日本旅客鉄道(株)マーケティング本部まちづくり部門品川ユニットマネージャーの天内義也氏による「JR東日本のエキとマチにおけるヘルスケア領域への挑戦」の2演題。また,講演者と富士通関係者によるパネルディスカッション「医療・健康データをどのように活用し、価値創造に繋げていくべきか?」が行われた。
基調講演で中川氏は,これからの医療・ヘルスケアでは,超高齢化,生産人口減少,コストの増大,人材不足など多元的な「Huge Mismatch」を解決する必要があり,そのためにはデジタライゼーションとデザイン思考が重要になると述べた。中川氏は,デジタルとデザインを活用した事例として,不整脈治療に対するiRhythm Technologies社の事例(コンパクトなパッチ型ホルター心電図とクラウドを活用して不整脈の診断率を向上)や,東北大学病院で行ったMRI検査の最適化(検査ワークフローの改善による働き方改革)などデザイン思考を取り入れることで改善や改革に向けた流れをつくることに成功した事例を紹介した。その上で,「スマートホスピタルプロジェクト」では,富士通のFujitsu Uvanceのコンセプトの下,ウェルビーイングの実現に向けてデジタルツインやPHRなどを活用して「less work, super high impact」が出せるように取り組んでいると述べた。最後に,東北大学が提供しているアカデミック・サイエンスユニット(ASU,企業に対して医療現場での視察や議論,ネットワークづくりなどをルールに基づいて行えるプロブラム),オープンベッドラボ(OBL,コンセプトモデルやプロトタイプを医療従事者と一緒に実際の医療現場の環境でテストできるフィールドを提供),インフラ・スペシャリスト(AR/VRや3Dプリンタなど)やデザインチームによる全体のデザインサポートなど課題解決ための取り組みを紹介した。
特別講演の天内氏は,「鉄道起点からヒト起点へ」としてJR東日本が取り組んでいる新たな事業の中から,ヘルスケアに関連する事業を中心に紹介した。JR東日本は,「究極の安全」と「すべての“ヒト”の心豊かな生活の実現」という目標達成のため,次の100年を見据えて鉄道事業から生活ソリューションのサービス事業者へと転換を図っている。「心豊かな生活の実現」のための事業として,「WaaS(Well being as a Service)」をキーワードにしたコンソーシアムで進められている「駅のDX推進(AI案内)」や「ウェルネスサイクルツーリズム実証実験」などの事例を紹介。ほかにも,Suicaデータを活用した「駅カルテ」の販売,「オフピーク定期券」などもサービスとして提供されている。さらにJR東日本が持つ最大の資産である駅を,「通過する」「集う」から「つながる」をテーマに取り組んでいるのが「Beyond Station構想」である。そのプロジェクトの一つとして2025年3月の開業に向けて開発が進められているのが,「TAKANAWA GATEWAY CITY」だ。TAKANAWA GATEWAY CITYでは,単なる大規模開発ではなく駅と街を一体で運用し,そこから発生するさまざまなデータを活用して社会課題の解決やビジネス創造をパートナー企業などと進めることが特徴だ。環境,ロボット・モビリティ,ヘルスケアの3つの事業創出分野があるが,ヘルスケアについては先行して事業化が始まっている。「スマート健康ステーション」は,駅をプラットフォームにステーションクリニックやオンライン診療ブースを設置して,医療やヘルスケアサービスを受けられる新たな場として構築されるもので,2022年4月に西国分寺駅ホームに1号店がオープン,東北大学と連携して2024年夏には仙台にも開設の予定だ。TAKANAWA GATEWAY CITYでは,これをさらに拡大し地区の企業やオフィスワーカーに対してデータを活用して,予防,診療,治療の一貫したネットワークでの医療環境の提供を行う事業を予定していることを紹介した。
続いて行われたパネルディスカッションでは,基調講演の中川氏,特別講演の天内氏に加え,富士通ソーシャルソリューション事業本部Head of Healthy Livingの青野 考氏が加わり,モデレーターは富士通シニアエバンジェリストの西本伸一氏が務めた。ディスカッションでは,最初に青野氏が富士通の医療ヘルスケア領域における事業について概要を紹介し,電子カルテシステムや公共セクターでの標準化やセキュリティなどをベースにして,現在は個人起点でのデータ連携によって多業種と共創して日常生活に溶け込むヘルスケアの提供の実現をめざしてFujitsu Uvanceのブランドで取り組んでいることを説明した。ディスカッションでは,医療・健康データの利活用に期待や苦労について,産学の立場から議論が交わされた。