「メディカルAIの深化と飛躍−医療の限界に挑む−」をテーマに,第5回日本メディカルAI学会学術集会が開催

2023-7-19

AI(人工知能)


会員数が2100人を超え,規模を拡大する日本メディカルAI学会の学術集会

会員数が2100人を超え,規模を拡大する
日本メディカルAI学会の学術集会

第5回日本メディカルAI学会学術集会が2023年6月17日(土),18日(日)の2日間,コングレスクエア日本橋(東京都中央区)を会場に,オンラインとのハイブリッド形式で開催された(共催:理化学研究所革新知能統合研究センター)。学術集会会長は山本陽一朗氏(理化学研究所革新知能統合研究センター病理情報学チーム/東北大学大学院医学系研究科数理知能医学講座)が務め,テーマには「メディカルAIの深化と飛躍−医療の限界に挑む−」が掲げられた。学術集会初日の6月17日に行われた開会式の中で山本会長は,同学会が2018年に設立されて以降成長を続けてきたと振り返った上で,医療分野の人工知能(AI)について,最近でも生成AIの可能性が大きく注目されていると述べた。そして,臨床医学だけでなく,基礎医学の分野でもAIの利用が広がっており,医療の限界に挑戦していると,テーマに込めた思いを説明。AIによって多くの人が安心して医療を受けられるようになることをめざしたいとまとめた。

学術集会会長:山本陽一朗 氏(理化学研究所)

学術集会会長:山本陽一朗 氏(理化学研究所/東北大学)

 

2日間の主なプログラムは,第5回学術集会記念特別講演が1題,特別講演が1題,教育講演が1題,理研共催セッション・会長シンポジウムが1セッション,ムーンショットシンポジウムが1セッション,シンポジウムが7セッション用意された。

開会式後には,シンポジウム1「本邦の医療AIの動向」が行われた。まず,座長を務めた同学会代表理事の浜本隆二氏(国立がん研究センター研究所/理化学研究所革新知能統合研究センター)が,「最近の本邦における医療AI研究開発の動向」と題して発表した。浜本氏は,AIの現状について,第4次ブームと言われるようになり,AIとの共生の時代になったとの認識を示した上で,新たなAIモデルとしてトランスフォーマーが登場し,「ChatGPT」(OpenAI)が注目されていることに言及した。そして,ガイドライン整備や次世代医療基盤法の改正といった国が進める施策など,シンポジウムで取り上げるテーマを紹介した。次いで,姫野泰啓氏(内閣府健康・医療戦略推進事務局)が登壇し,「本格化する次世代医療基盤法による医療ビッグデータの活用」をテーマに,同法施行後の状況や法改正に向けた動きについて解説した。姫野氏は,現在3法人が認定匿名加工医療情報作成事業者(認定事業者)として医療データを収集しており,そのデータが22の研究に用いられていると説明。今後の制度改正では,仮名加工医療情報の利活用や,NDBといったデータベースと匿名加工医療情報を連結した解析などへの対応に向けて取り組んでいくと報告した。また,中岡竜介氏(国立医薬品食品衛生研究所医療機器部)は,AIを用いた医療機器プログラム(SaMD)の薬事規制について解説した。AIを用いたSaMDは,市販後学習による性能変化の扱いなどが大きな課題となっている。このことを踏まえて中岡氏は,日本医療研究開発機構(AMED)の医薬品等規制調和・評価研究事業「人工知能等の先端技術を利用した医療機器プログラムの薬事規制のあり方に関する研究」の内容などを紹介した。

同じく,初日に行われたシンポジウム2「臨床とAI」では,5人が発表した。2人目に登壇した横川裕大氏(東北大学大学院医学系研究科救急医学分野)は,院外心停止における体外循環式心肺蘇生(ECPR)を施行した患者に対する体温管理療法(TTM)の最適化に関する研究成果を報告した。本研究では,ECPRを施行した患者を対象にクラスター分析を行いサブクラスを分類してTTMの有効性を検証。サブクラス分類によってTTMを施行すべき患者を同定できる可能性を示した。また,武田隼人氏(理化学研究所革新知能統合研究センター/日本医科大学付属病院泌尿器科)は,「前立腺癌の多様な臨床データに対する機械学習を用いた統合データ解析」をテーマに発表した。武田氏は,前立腺がんの悪性度の分類において,マルチパラメトリックMR画像とエコー画像を用いたマルチモーダルAIによる精度向上を報告した。

このシンポジウムに続いて,第5回学術集会記念特別講演として,永井良三氏(自治医科大学)が「第三期SIP『統合型ヘルスケアシステムの構築』への期待」をテーマに講演した。永井氏は,2023年度から始まった内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期における課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」のプログラムディレクターを務めている。本課題では,医療データを標準化し,デジタル空間に投影する「医療デジタルツイン」を開発することとしている。永井氏は,自身がこれまでにかかわった日本内科学会などの症例検索システム「症例くん」といった医療情報のデジタル化の経験を紹介した上で,「統合型ヘルスケアシステムの構築」のための研究開発の概要を解説した。

このほか,2日目の6月18日には,シンポジウム5「医療AI人材育成の先にあるもの」が行われた。このシンポジウムでは,東北大学・北海道大学・岡山大学の「医療AI人材育成拠点プログラム(Clinical AI)」,名古屋大学の「メディカルAI人材養成産学協働拠点(AI-MAILs)」の取り組みが紹介された。大山慎太郎氏(名古屋大学未来社会創造機構予防早期医療創成センター)はAI-MAILsのカリキュラムなどを説明したほか,キャリアパスにも言及した。また,小林智哉氏(東北大学病院Smart Hospital推進室AI Lab)は,Clinical AIにおける人材育成について,組織としての活動や成果,課題を取り上げた。さらに,園部真也氏(東北大学病院脳神経外科/AI Lab)は,成果を出すための産学連携などについて,「医療 AI 人材育成の先を見据えた取り組み」をテーマに発表した。

10以上の企業・団体が出展しにぎわいを見せる展示会場

10以上の企業・団体が出展しにぎわいを見せる展示会場

 

25題以上の発表があったポスター会場

25題以上の発表があったポスター会場

 

なお,次回第6回日本メディカルAI学会学術集会は,2024年6月21日(金),22日(土)の2日間,名古屋市公会堂(愛知県名古屋市)で開催される予定である。学術集会会長は,山口 類氏(愛知県がんセンター/名古屋大学大学院医学系研究科)が務める。

 

●問い合わせ先
第5回日本メディカルAI学会学術集会
学術集会事務局
https://www.jmai2023.jp

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