Webセミナー「HBOC診療と乳癌サーベイランスにおけるMRIの役割」開催
2021-3-22
登壇者6名による質疑応答の様子
厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究」班(研究代表:札幌医科大学医学部遺伝医学教授 櫻井晃洋氏)は2021年3月13日(土),「HBOC診療と乳癌サーベイランスにおけるMRIの役割」をテーマにWebセミナーを開催した。
日本国内においても,2020年4月に遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)患者へのBRCA遺伝学的検査や乳房MRIサーベイランス,リスク低減乳房切除術などが保険収載され,HBOC診療が一般診療となった。研究班では,(1)国内実態調査,(2)遺伝学的検査,(3)予防医療の実装,(4)遺伝医療体制の整備,(5)遺伝性腫瘍診療の標準化・均てん化の5つを柱に,既発症者だけでなく未発症者も含めた病的バリアント保持者への医療提供体制の整備に向けた研究を進めている。教育啓発の一環として,患者や家族,一般市民に向けたWebセミナー「いま,伝えたいこと,考えたいこと」も定期的に開催するなど,当事者への情報発信にも力を入れている。
オープニングで挨拶した櫻井氏は,「HBOC診療が,やや専門的な診療から通常診療になり,当事者から質問を受けた先生もいるだろう。どうやって診療体制を整えるべきか,どういった医療を提供すべきかについて戸惑う声も聞かれる中で,あらためてHBOC診療への理解を深めていただきたい」とセミナーの企画意図を説明した。セミナーは2セッション4演題が設けられ,最後には視聴者からの質問に答える質疑応答も行われた。
セッション1は,座長を聖路加国際病院乳腺外科部長/ブレストセンター長の山内英子氏が務め,国内外のHBOC診療の動向について3題の講演が行われた。はじめに山内氏が「Global Standardへ」をテーマに講演した。山内氏は,聖路加国際病院における遺伝性腫瘍相談数の推移や国際的な研究のトレンドを紹介した上で,『遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版』を改訂する形で策定を進めているガイドラインについて報告した。講演2は,昭和大学先端がん治療研究所の吉田玲子氏が「HBOC practice “Future plan 〜beyond BRCA”」を講演した。吉田氏は,日本人の遺伝性腫瘍に関する症例対照研究や遺伝性腫瘍のリスク管理,医学的管理について概説し,BRCA検査が一般診療になり,これからはハイリスクやnon-BRCAを考える段階になるだろうと述べた。講演3は,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)放射線科乳腺画像診断部に留学中の村上和香奈氏(防衛医科大学校放射線医学講座)が,「米国におけるハイリスク女性の画像スクリーニング」と題して報告した。村上氏は,米国のハイリスク外来や放射線科外来の現状を紹介するとともに,ハイリスクサーベイランスにおけるMRIの役割についてNCCNガイドラインを解説。ハイリスクに対する診療が本格化すればMRIのニーズが高まり,乳腺放射線科医を含めたチーム体制が必須になるとの考えを示した。
セッション2は,吉田氏が座長を務め,相良病院放射線科部長の戸﨑光宏氏が,講演4「サーベイランスにおけるMRI読影のポイント」を講演した。戸﨑氏は,BRCA関連乳がんの画像的特徴,MRIの撮像・読影の基礎,BI-RADSカテゴリー,月経周期とBPEなど,乳房MRIの基礎について説明しながら10症例を供覧。ハンズオンセミナーのようにMRIサーベイランスの読影のポイントやピットフォールについて解説し,カテゴリー分類を踏まえたマネジメントについて私見も含めて紹介した。
講演4の後,視聴者から寄せられた質問やコメントに対して質疑応答が行われ,最後にクロージングとして,昭和大学医学部乳腺外科教授/ブレストセンター長の中村清吾氏が挨拶した。中村氏は,国内では長年セカンドルック超音波が行われ,超音波で検出されなければ病変はないと考える施設も多いが,MRIでしか指摘できない病変はMRIガイド下生検でしか証明できないと述べ,「日本の今の乳房MRIの考え方は欧米の10年前の考え方であり,考え直す必要がある」と強調した。そして,MRIが普及し検査件数も多い日本では,これから新たにMRIガイド下生検や検診にMRIを導入することは容易ではないかもしれないが,放射線科・部門と話し合い,工夫して生検や検診ができるシステムを構築してほしいと締めくくった。