医療放射線防護連絡協議会が第31回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」をオンラインで開催
「医療における放射線の線量管理」をテーマに今後に向けた取り組みを提言
2020-12-25
新型コロナウイルス流行を受け,
初のオンライン開催で行われた
医療放射線防護連絡協議会は2020年12月,「医療における放射線の線量管理」をテーマに第31回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」をオンラインで開催した。同シンポジウムは,協議会の年次大会として毎年12月に開催されているが,今回は新型コロナウイルス感染症の影響により,初のオンライン開催となった(事前登録制で,視聴期間は12月11〜18日)。また,12月12日(土)には,ZoomによるLIVE中継で総合討論が行われた。
シンポジウムの冒頭では,同協議会会長の佐々木康人氏が新型コロナウイルスに対峙した一年を振り返り,2021年中の収束を期待しつつ,今後も感染防止対策に注力していくと挨拶した。続いての教育講演では,国際放射線防護委員会(ICRP)翻訳委員を務める電力中央研究所原子力技術研究所放射線安全研究センターの佐々木道也氏が,「医療分野におけるICRP日本語訳出版物の概略紹介」と題して講演を行った。佐々木氏は,ICRPが1928年の第2回国際放射線医学会議で組織された「国際X線ラジウム防護委員会(IXRP)」を前身として誕生して以降,医療における放射線防護についての勧告や刊行物(Publication)の発行を行ってきたことを紹介。ICRPの医療被ばくに関する刊行物は,最新の治療に対する放射線防護の情報を積極的に提供しているものの,情報提供のタイムリー性やページ数の限定という点で課題があることなどを指摘した。また,ICRP刊行物の日本語への翻訳は日本アイソトープ協会と原子力規制庁が行っているが,刊行物の大半が翻訳されるなど,継続的な翻訳活動が行われていることを評価し,今後の継続に向けて支援を願いたいと結んだ。
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高橋信次記念講演では,「医療放射線利用における線量管理の意義 *IVRにおける患者・術者の被曝~これまでを振り返って*」と題して,彩都友紘会病院の中村仁信氏が講演を行った。IVRを数多く手がけてきた中村氏は,1997年にICRP第3専門委員会の委員に就任。2000年の報告書(Publication 85。邦訳タイトルは「IVRにおける放射線傷害の回避」)の作成に携わった経験を持つ。中村氏は,IVRは低侵襲で緊急症例にも対応可能な上,入院期間や費用面でメリットが大きい半面,被ばくには注意を要する必要があり,術者も散乱線による被ばくリスクがあると指摘。水晶体混濁(白内障)や手指・四肢などの皮膚障害,慢性低線量被ばくの発がんリスクなどについて,国内外の調査データを示して解説した。また,Publication 85の邦訳を基に,術者・診療放射線技師が持つべき心構えや具体的な被ばく低減対策を紹介した。
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古賀佑彦記念シンポジウムでは,「今後の線量管理に向けた取り組み」をテーマに,各分野から4名のシンポジストが講演を行った。まず,「実用量改定の動向」について,国立研究開発法人産業技術総合研究所の黒澤忠弘氏が講演を行った。従来の定義では,通常は実用量≧防護量となり,測定値で線量限度を考慮することにより,安全側に対応することができた。しかし,ICRP/ICRU合同で実用量改定に関する議論が起こり,2017年にドラフト案が公表されたが,その中で実用量は防護量をベースとして定義されるべきとの考え方が示されている。黒澤氏はこれらの点を解説し,定義変更により実用量≅防護量となると,従来の安全側のマージンがなくなることから,実用量が改定された場合の管理運営上での対応について多分野の専門家を交えた議論が必要だと指摘した。
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続いて,東京都立大学健康福祉学部放射線学科の福士政広氏が,「RI法の視点から」と題して,RI法の概要や緊急時における連絡,許可届出使用者の責務などについて解説した。福士氏は,2020年4月7日に発出された新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言に伴い,緊急事態宣言を踏まえたRI法の運用について対象となる届出の具体例が例示されていることにも触れ,参考にしてほしいと呼びかけた。
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3番目に登壇した国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門放射線医学総合研究所の赤羽恵一氏は,「医療法の視点から」と題して解説した。赤羽氏は,医療法施行規則の一部改正により,一部の放射線診療において患者の線量管理と記録が義務化され,被ばく管理が規制に導入されたことは画期的であると評価。また,関連学会・団体などはガイドライン作成・改定に加え,現場に役立つ内容の活動を進めていくことが求められるとした。さらに,各施設で記録されたデータを,個人情報に留意しつつ,ビッグデータとして活用し得る可能性があることを示唆した。最後に登壇した神戸大学大学院海事科学研究科・海事科学部の小田啓二氏は,「保健物理の視点から」と題して講演した。小田氏は,放射線防護の目的や防護量の定義などについてわかりやすく解説した上で,患者に対し,医療被ばくの正当性に加え,線量が意味するものを正確に説明することが重要であると述べた。
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12日にLIVE中継で行われた総合討論には視聴者35名が参加し,同協議会総務理事の菊地 透氏の司会の下,「今後の線量管理の取り組みに向けた提言」が検討された。各演者の発表を振り返った後,演者との質疑応答が行われた。実用量の改定や医療法一部改正に伴う線量管理への対応などについて,現場視点での質問が多く寄せられ,これらの問題に対する関心の高さが伺われた。
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