がん対策推進企業アクションがメディアセミナー「コロナ禍におけるがん対策,がん治療」を開催
2020-8-7
がん対策推進企業アクションの
2020年度の啓発ポスター
企業のがん対策を支援するがん対策推進企業アクションは,2020年8月5日(水),赤坂サンスカイルーム(東京都港区)でメディアセミナー「コロナ禍におけるがん対策,がん治療」を開催した。新型コロナウイルス感染症の流行による医療環境の変化が,検診などのがん対策やがん治療に与えた影響は少なくない。特に就労世代では,在宅勤務の増加など職場環境の変化も加わり,生活習慣の悪化などによる健康リスクの増大も指摘されている。セミナーでは,新型コロナウイルス流行下でのがん対策・治療について持つべき知識や,放射線治療の利点などについて,同アクションのアドバイザリーボード議長を務める東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏が講演を行った。
2009年に事業を開始したがん対策推進企業アクションは,がん検診の受診率向上や,がんになっても働き続けられる社会の構築などをめざす国家プロジェクト。がん経験者認定講師による出張講座の開催や,小冊子・ポスターなどの啓発ツール配布などを通じて,推進パートナー企業のがん対策をサポートしている。
しかし,新型コロナウイルス感染症の流行は,緊急事態宣言下でのがん検診や人間ドッグの中断,受診控えによる治療の遅れなど,がん対策・治療に大きな影響を与えている。それについて中川氏は,国内の新型コロナウイルス感染症者は4万217人,死亡者数1018人(クルーズ船除く,8月3日時点)であるのに対し,年間の新規がん患者数は約102万人,がん死亡者数は約38万人との数字を挙げながら,新型コロナウイルスは未知のウイルスであり,慎重に推移を見守る必要があるとした上で,新型コロナウイルス対策に注力するあまり,がん対策が疎かになることがあってはならないとした。
中川氏は,新型コロナウイルス流行下のがん対策の具体的な問題として,(1)在宅勤務による生活習慣の悪化,(2)がんの早期発見の遅れ,(3)がん治療への影響,の3つを挙げる。(1)については,喫煙やアルコール摂取の増加のほか,座りすぎによる影響を指摘する。米国の研究では,座る時間が長い人はがんで死亡するリスクが高いとの報告がある。一方,日本人の1日の座位時間は約7時間で,世界20か国中で最も長いことが示されていたが,緊急事態宣言下の4月下旬に在宅勤務者を対象に行われたアンケートでは,約8割の人が在宅勤務により,座って仕事をする時間が増加したと回答している。これらを踏まえ,中川氏は,こまめに立って動く,貧乏ゆすりを行うことなどで,座りすぎによる健康リスクの軽減が可能であると呼びかけた。
また,がんは早期発見(ステージⅠ)と進行後発見(ステージⅣ)の場合で,5年生存率に大きな差が生じることから,検診などによる早期発見が重要となる。しかし,中川氏が紹介した日本対がん協会によるアンケート結果では,新型コロナウイルス流行の影響により,2020年度のがん検診受診者数は3割以上減少し,それに伴い発見がん数は単純計算で4000人近く少なくなる見込みで,それらは今後,進行がんとして発見されることが懸念される。さらに,(3)がん治療への影響については,4〜5月ころの医療従事者の新型コロナウイルス感染による手術の見合わせが挙げられる。また,がん治療による新型コロナウイルス感染症へのリスク増大を示唆するような報告や報道もある。しかし,それに対して中川氏は,ウイルス感染に注意しつつ,がん治療を継続すべきとする。特に放射線治療は,技術の進歩により,多くのがんで手術と同等の有効性が得られるほか,副作用も軽減している。また,多くは通院での治療が可能で,必要な通院(治療)回数も少なくなっており,新型コロナウイルス流行下でも濃厚接触になりにくいという利点がある。中川氏は,これらの点をまとめ,放射線治療ががん治療の有効な選択肢の一つであることを認識してほしいと述べた。講演を通じて中川氏は,新型コロナウイルスという新たなリスクに備えることは大変重要であるとした上で,全体としての健康をいかに保つかが課題であると重ねて強調した。
なお,がん対策推進企業アクションのホームページでは,新型コロナウイルス流行下での職域がん対策について,中川氏のメッセージや,関連情報(一般向け,企業向け)の関連リンクを掲載,紹介している(https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/covid_19/index.html )。
●問い合わせ先
がん対策推進企業アクション事務局
TEL 03-6441-6574
http://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/