新会社設立を発表する杉山　清 氏（左）
と江川尚人 氏（右）

日本電気（株）（NEC）のグループ会社であるNECソリューションイノベータは，ヘルスケア事業の加速を目的として，フォーネスライフ（株）を設立する。新会社では，血中タンパク質の解析技術を持つSomaLogic（米国）と協業を開始，NECグループが保有する人工知能（AI）・解析技術と組み合わせることで，健康状態や疾病リスク可視化サービスなどの提供を行っていく。2020年7月9日（木）に，NECソリューションイノベータの代表取締役執行役員社長の杉山　清氏，フォーネスライフの代表取締役に就任した江川尚人氏，SomaLogicのCEOロイ・スミス氏が出席して記者会見が行われ，新会社の事業概要や目標などが発表された。

NEC本社（東京都港区）ならびにオンラインで行われた記者会見では，まず杉山氏が，新会社設立に至る経緯を説明した。杉山氏は，NECソリューションイノベータではヘルスケア事業を重点領域の一つと位置づけ，ヘルスケアサービスの提供や他社との協業を進めてきた一方で，サービスとしての一貫性に欠ける面があったと述べ，その課題解決を目的として，新会社を設立したと説明。協業するSomaLogicの最新技術やNECのICT・AI技術により，健康寿命の延伸に貢献していくとの意気込みを語った。

続いて，新会社フォーネスライフの代表取締役を務める江川氏が，事業概要や目標などについて紹介した。日本の健康診断受診率（20歳以上）は約67%に上るが，診断結果に基づいた行動変容の実行には高いハードルが存在する。そこでフォーネスライフがめざしていくのは，疾病予防・健康改善に向けた自発的な行動変容を促すことで，「誰も病気にならない未来。誰もが自分らしく生きられる社会」を実現することである。

杉山　清 氏（NECソリューションイノベータ）

江川尚人 氏（フォーネスライフ）

そして，そのために提供するのが，SomaLogicの持つ高精度血中タンパク質測定技術とNECグループのICT・AI技術を組み合わせた「健康状態見える化/疾病リスク予測サービス」である。SomaLogicは，独自に開発したアプタマー技術を活用し，数滴の血液で5000種類の血中タンパク質濃度を一度に測定できる次世代血液検査プラットフォーム「SOMAscan」を開発している。この技術による解析結果と，NECソリューションイノベータとフォーネスライフが確立する日本人向け疾病予測アルゴリズムに基づいて，健康状態を見える化し，疾病の発生リスクを予測する。さらに，個々の体の状態に合った改善策の提案や，AIを用いた結果シミュレーションの提示により，健康状態の維持や改善に導く行動変容サイクルを提供するサービスだ。一度の測定で，健康状態の推計と全対象疾病のリスク予測，健康改善に向けた個別提案が可能で，人間ドックを行う医療機関などと提携し，2020年10月に提供を開始する予定としている。

他社が提供する同様のサービスとの違いとして，江川氏は，予測可能な疾病が多いことを挙げる。循環器疾患（再発）からスタートし，2021年度には循環器疾患（初発）や糖尿病，肝疾患，2022年度には認知症や肺疾患，腎疾患などを追加し，2023年度以降は50以上の疾病を対象にする。また，SomaLogicでの開発状況を踏まえ，新型コロナウイルス感染症の重症化リスク予測や，重症化につながる基礎疾患のリスク予測にも取り組んでいく。

なお，同社のアドバイザーには，国際医療福祉大学副大学院長/東北大学医学系研究科客員教授の下川宏明氏，京都大学医学研究科附属ゲノム医学センター長・教授の松田文彦氏，東京大学医学系研究科リピドミクス社会連携講座特任教授の小田吉哉氏の3氏が就任，研究や製品開発を支えていく。

また，医療機関へのサービス提供のほかに，介護やフィットネス，食品・美容などの消費関連企業と共創し，共同サービスの開発・提供などを行っていく。いずれは，提携先の拡大を図るほか，エコシステムの創造に向け，ヘルスケア以外の業種の企業ともパートナーシップを提携し，さらに東南アジアなどにも進出する予定だ。それらを踏まえた事業目標として，江川氏は，2029年度の売り上げ高1000億円超をめざすとする（うち，健康状態見える化/疾病リスク予測サービスの国内売り上げ高は300億円超）。また，その過程では上場も視野に入れていることが示された。江川氏は，「予防医療におけるヘルスケア革命」の使命の下，健康長寿社会の実現に取り組んでいきたいと抱負を語った。

最後に，SomaLogicのCEOロイ・スミス氏が米国からZoomを通じて出席，自社の技術について解説した。さらに，NECソリューションイノベータとの協働により，世界で初めて日本で提供することが可能になったと述べ，同社とのパートナーシップはすべての人の健康に貢献するものと評価した。

ロイ・スミス 氏（SomaLogic）

健康状態見える化/疾病リスク予測サービスの提供フロー