第2回日本メディカルAI学会学術集会が開催
——メディカルAIの社会実装に向けた議論が進む
2020-2-12
基調講演やシンポジウムなど
豊富なプログラムで構成
テーマは「AIを医師にも患者にも」
第2回日本メディカルAI学会学術集会が2020年1月31日(金),2月1日(土)の2日間,東京ビッグサイトTFTホール(東京都江東区)で開催された。(株)ヒューマノーム研究所代表取締役社長/東京医科歯科大学特任教授/産業技術総合研究所人工知能研究センター招聘研究員の瀬々 潤氏が会長を務め,テーマには「AIを医師にも患者にも」が掲げられた。第3次人工知能(AI)ブームの中で,医療をはじめとしたヘルスケア領域においてもAIの研究開発が進み,医療機器プログラムなど承認を得るなど,社会実装へ向けた動きが加速している。一方で,米国や中国などに比べ,日本の研究開発は遅れをとっているという指摘がある。このような現状を踏まえて,31日に行われた開会式の中で瀬々会長は,AIの研究開発にはデータと解くべき課題が必要であるが,世界で最も超高齢社会が進んでいるという課題を持つ日本は,同時に世界最先端のデータを持っているとし,それらのデータを用いた研究開発の成果を世界に発信していくことが重要であると述べた。
2日にわたる学術集会では,基調講演が5題,シンポジウムが9セッション,一般演題が5セッション用意されたほか,自然言語処理チュートリアル,次世代医療基盤法説明会,ポスター閲覧・発表,ランチョンセミナー〔共催:アマゾンウェブサービス(株),マイクロソフト(株),キヤノンメディカルシステムズ(株)〕,企業展示が設けられた。
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PMDAの藤原理事長らが基調講演
開会式後には,基調講演1として東北大学メディカル・メガバンク機構機構長の山本雅之氏が登壇。「未来型医療実現に向けての東北メディカル・メガバンク計画の挑戦」をテーマに講演した。山本氏は,未来型医療の実現には個別化予防・医療が重要であり,そのためのデータを集積する大規模前向きコホート研究と複合バイオバンクが必要だと指摘。世界最大規模の出生三世代コホートなど,約15万人が参加した東北大学メディカル・メガバンクを紹介した。さらに,山本氏は,他施設も含めたデータ利活用のためのシステムについて解説を行ったほか,日本人ゲノム解析ツール「ジャポニカアレイ」を用いた個別化予防などに言及。そして,講演のまとめとして,今後の研究を進めるには,人材育成や産業界との連携が必要であると述べた。
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また,初日の午後に行われた特別講演2では,「AI・ディープラーニング時代における医用画像支援診断の新潮流」をテーマに,岐阜大学特任教授の藤田広志氏が登壇した。藤田氏は,computer-aided diagnosis / detection(CAD)について1960年代からの歩みを概観した上で,ディープラーニングにより,ヒトが特徴量を抽出していた従来の手法から,AIが自動的に特徴量を抽出するようになり,研究開発が劇的に変化したと解説。医師自身がAIをつくり,育てる時代になったと述べた。さらに,藤田氏は,ディープラーニングによって,CADがsecond reader型,first reader型などの多様化していると説明した。藤田氏は,医用画像支援診断における今後のAIについて,医師のパーソナルアシスタントのような存在になると指摘したほか,AIを用いたワークフローがシームレスに統合されるようになると言及した。
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2日目に午前中には,基調講演3,4が行われた。基調講演3では,医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏が登壇し,「AI技術の医療応用におけるPMDAの取組み」をテーマに講演した。藤原氏は,PMDAの目的として,医薬品や医療機器にかかわる承認審査・安全対策・健康被害救済を業務としており,方針として4つの“F”,「ペイシェントファースト」「アクセスファースト」「 セーフティファースト」「アジアファースト」を掲げていると説明。AIについては,専門部会を設けて「次世代指標」を策定すると述べた。また,藤原氏は,AIの特徴であるブラックボックスや市販後の性能変化について言及し,その対応が重要だと指摘。そして,AIを使用してもらうための情報提供が重要だとの認識を示した。さらに,藤原氏は,医療のビッグデータが蓄積されることで,今後スマートホスピタルやスマート手術室,遠隔医療,個別化医療などでAIが応用されるようになるとし,PMDAは多様な製品開発に対応していくことが大事だと述べた。その上で藤原氏は,最適なレギュレーションには産官学のコミュニケーションが不可欠であると講演をまとめた。一方,基調講演4では,システム・バイオロジー研究機構代表の北野宏明氏が“Nobel Turing Challenge: Creating the Engine for Scientific Discovery”をテーマに講演した。北野氏は,AIにノーベル賞を取らせるという“Nobel Turing Challenge”について取り上げた上で,医療分野におけるAI研究の将来展望を述べた。
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さらに,2日目の午後に行われた基調講演5では,東京医科歯科大学生体材料工学研究所バイオメカニクス分野教授/リバーフィールド(株)代表取締役社長の川嶋健嗣氏が,「手術支援ロボットにおけるAIの活用」をテーマに講演した。川嶋氏は,力覚提示機能により実際の手術に近い手の感覚を持ちながら遠隔操作できるマスタスレーブ型手術支援ロボットを開発してきた。講演の中で川嶋氏は,この手術支援ロボットに機械学習を組み合わせ,ロボット鉗子にマーカーを取り付け,それをセンシングして畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて姿勢推定実験を行い,有効性を確認したと解説した。さらに,川嶋氏は,タスク削減のための自動制御と繊細な手技を行うための手動制御を組み合わせた人間協調ロボットなどの解説を行った上で,現在開発を進めている世界初の空気圧駆動手術支援ロボットを取り上げ,2022年の上市をめざすと述べた。このほか,川嶋氏は,次世代インテリジェント手術支援ロボットとして,AIによるリアルタイム診断を行う診断治療融合ロボットシステムについて言及した。
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社会実装に向けた課題などをテーマにしたシンポジウム
初日に行われたシンポジウム1「医用画像の収集から利活用の新展開」では,4題の発表があった。最初に発表した国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野/理化学研究所革新知能統合研究センターがん探索医療研究チームの小林和馬氏は,臨床現場のリアルワールドデータでAIの研究開発を行うためのデータプラットフォームについて,国立がん研究センター研究所と同中央病院とのシステム構築,テキストデータなどの情報統合,アノテーションの方法などを解説した。また,東京工業大学科学技術創成研究院の鈴木賢治氏は,少ないデータ数での研究開発が可能なmassive-training artificial neural network(MTANN)を用いた画像処理や診断支援技術を紹介した。
同じく初日に行われたシンポジウム4「AI医療機器の実現へ向けた取り組みと日本における課題」では,産業技術総合研究所健康工学研究部門の鎮西清行氏が,AIソフトウエアの市販後性能変化といった問題や性能評価のあり方,個人情報保護法などの法制度の課題を整理した。さらに,昭和大学横浜市北部病院消化器センターの三澤将史氏はオリンパス(株)などと開発した内視鏡画像診断支援ソフトウエア“EndoBRAIN”の上市の経験を報告。エルピクセル(株)代表取締役の島原佑基氏は,MR画像から脳動脈瘤を検出するAI医用画像解析ソフトウエア“EIRL aneurysm”の開発経験を発表した。このほか,国立医薬品食品衛生研究所医療機器部の中岡竜介氏は,PMDAの評価指標案などを解説した。
2日目のシンポジウム7「米国,中国の医療AIアプリケーションに関する開発と医療機器の認可の現状について」では,東京慈恵会医科大学放射線医学講座/IT戦略室の中田典生氏が,欧米の状況について言及し,AI医療機器でFDAの認可とCEマークを取得しているのは119に上ると述べた。また,(株)リジット代表取締役社長の山本修司氏は,中国が国家戦略としてAIの研究開発に取り組んでおり,米国とともに圧倒的なスピードで進んでいると指摘。スマートフォン,クラウドなどの技術を利用して,国民が容易にAIを用いた診療を受けられるサービスが登場していることなどを取り上げた。
次回は2021年1月29日から2日間
第3回日本メディカルAI学会学術集会は,2021年1月29日(金),30日(土)の2日間,今回と同じ東京ビッグサイトTFTホールで開催される予定である。会長は,東京大学医科学研究所ヘルスインテリジェンスセンター健康医療データサイエンス分野分野長の井元清哉氏が務める。テーマには,「人知とAIの協働」に決まった。
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●問い合わせ先
第2回日本メディカルAI学会学術集会事務局
株式会社エー・イー企画内
TEL 06-6350-7163
E-mail jmai2020@aeplan.co.jp