ADCT研究会,“発展的閉会”として最後の大会となる第10回研究会を開催
2019-1-18
“FINAL”として多くの参加者があった会場の様子
第10回で最後となるADCT研究会が,2019年1月12日(土),赤坂インターシティコンファレンスセンター(東京都港区)で開催された。ADCT研究会は,2007年のAquilion ONEの登場をきっかけとして,その代名詞でもある“面検出器”型CT(Area detector CT:ADCT)の普及・啓発,情報共有などを目的として2009年に設立,以来年1回のペースで研究会を開催してきた。今回の当番世話人を務めた梁川範幸氏(つくば国際大学)は冒頭の挨拶で,「ADCTの普及という一定の目標を達成できたと考え,この10回大会をもって“発展的閉会”とする。この10年間で会員が300名を超えるまでに発展した。最後ではあるが,ADCTが今後さらに発展するよう活発な議論をお願いしたい」と述べた。続いて,キヤノンメディカルシステムズからの“情報提供”として,2018年11月25日〜30日にシカゴで開催されたRSNA2018における同社ブースのトピックスと,Deep Learningを用いた画像再構成技術「AiCE」,W.I.P.としてspectral switchingを用いたDual Energyについて紹介した。
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続いて,辻岡勝美氏(藤田医科大学)と君島正一氏(日本大学医学部附属板橋病院)を座長として,「画論上位入賞者講演」が行われた。最初に,2017年度の“Aquilion ONE部門最優秀賞”の野水敏行氏(富山労災病院)が,「画論から世界へ−整形CTの新しいコントラストBone Bruise Image:BBI」を講演した。野水氏が2017年度の画論で最優秀賞を受賞したDual Energyを用いた不顕性骨折の描出法である“Bone Bruise Image(BBI)”は大きなインパクトを与え,Aquilion ONEユーザーの間でも広がりつつある。講演では応募の経緯やコンセプトを概説し,BBIはMRIを撮像することなくCTのみで骨折の判定をしたいという夢を実現した撮影法であり,今後,80列CTでも応用が可能になっていくことを期待すると述べた。
次に,2018年度の“Aquilion ONE(心大血管)部門優秀賞”の石田和史氏(川崎幸病院)が,「腹部アンギオで損傷部同定が困難であったグラフト損傷例の4DCT」を講演した。石田氏は,腹部大動脈のステントグラフト置換術においてエンドリークの判定を4DCTで行った症例について解説した。造影剤の濃度勾配を時間軸に置き換えることで4DCTの時間分解能を補い,アンギオの2D画像では濃染部の重なりで評価が困難だった損傷部位の同定につながったことを報告した。
最後に,2018年度の“Aquilion ONE部門最優秀賞”である菊池 啓氏(岩手医科大学附属病院循環器医療センター)が「右上肢AVM」を講演した。菊池氏は,右上肢のAVM(arteriovenous malformation)の描出で,4DCT撮影を行った症例について紹介した。病変が複雑で血流速度が速く,動静脈を分離した血行動態と立体的な構造把握のため,4DCTの撮影の際に行った補助具を使ったポジショニングの工夫や右前腕から手指全体までの血管動態を描出するための撮影条件の設定によって,治療方針の決定に寄与できたことを紹介した。
座長のコメントで辻岡氏は,「画論の審査では,画像のきれいさだけでなくCTの検査法を変えるような工夫や活用方法を評価してきた。装置の進化はもちろんだが,メーカーの想定を超えたユーザーの工夫が,日本のCT技術の発展の原動力となっている。ADCT研究会は今回で終了するが,今後もいろいろな場で面検出器CTを用いた研究が続いてくことを期待している」と総括した。
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機器展示とポスター発表閲覧のためのインターバルを挟んで,中屋良宏氏(静岡県立静岡がんセンター)と井野賢司氏(東京大学医学部附属病院)を座長として3題の一般演題の発表が行われた。「頭部領域におけるDEの活用」を発表した福田幸太郎氏(東京女子医科大学八千代医療センター)は,Dual Energy CTのIodine Mapを用いた急性期脳梗塞の血行再建術後の出血と造影剤の鑑別について発表した。村松 駿氏(大原綜合病院画像診断センター)は「呼吸動態CTで見えてきたこと」として,胸部領域の多施設共同研究であるACTIve Studyの研究成果として呼吸動態画像(4DCT)が呼吸器領域の診断や治療にもたらした成果を報告した。最後に瓜倉厚志氏(静岡県立静岡がんセンター)が,「腹部領域における非剛体サブトラクションについて」を発表し,Aquilion ONEに搭載された非剛体レジストレーションである“SURESubtraction”について,ファントム実験のデータや臨床例を示して解説した。最後にコメントした中屋氏は,「頭部のDual Energy,胸部の動態画像,腹部の非剛体サブトラクションとCTの最先端技術が紹介された。研究会は今回で終了するが,CT技術の発展が期待される内容であり,今後のさらなる進化を期待したい」と述べた。
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最後のプログラムとして特別講演が2題行われた。最初に梁川氏を座長として,髙岡浩之氏(千葉大学医学部附属病院循環器内科)が,「Area Detector CTがもたらした循環器診療における貢献と展望」と題して講演した。高岡氏は,ADCTの登場で体軸方向のカバレッジが劇的に広がったことが循環器診療における劇的な進歩をもたらしたとして,“冠動脈狭窄評価”“冠動脈プラーク評価”“冠動脈機能評価”“心筋障害評価”について,データを示しつつ紹介した。ADCTは,FIRSTなど画像再構成法の進化による画質の向上や被ばく線量の低減,サブトラクションやFFR-CTなどアプリケーションなど絶え間ない開発が続けられており,高岡氏は最後に“包括的心臓評価CTプロトコル”を紹介してこれからの展開に期待した。
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特別講演の2題目,そしてADCT研究会として最後の演題として,“ADCTの生みの親”でもある片田和広氏(藤田医科大学医学部先端画像診断共同研究講座)が,「面検出器CTとは−その本質を考える」を講演した。座長は研究会代表世話人の井田義宏氏(藤田医科大学)が務めた。片田氏は,「EMI Mark1」からスタートしたCTの進化の歴史を振り返り,2007年にAquilion ONEとして結実した面検出器型CTの開発の経緯やコンセプトを概説した。CTの技術開発は,“生体の臓器断面を画像化する”というメリットとトレードオフで失われた,“単位時間当たりの取得可能データ量(速さ)”という問題点を解決するために費やされてきた。片田氏は,スリップリングCT,電子ビームCT(イマトロン),Dynamic Spatial Reconstructor(DSR)などの製品や技術を紹介しつつ,開発段階では面検出器とマルチソースの2つの道があり,どちらを先に進めるかという分岐点があったことを紹介した。その上で,Aquilion ONEでは,列数をターゲットにするのではなく当初から面検出器という到達点を想定し,その実現に向けて技術開発を積み重ねていったことが,他社に先駆けてADCTを製品化できたポイントだと述べた。現在,Aquilion ONEは1500台以上が出荷されているが,そのうち海外が2/3を占めており,日本発の面検出器の技術が世界で受け入れられたといえる。片田氏は,ソフトウエアに比べてハードウエアの開発は高度化していることから,新規参入のハードルが高く世界のハイエンドCTにおけるキヤノンメディカルシステムズの役割は重要であり,これからも巨視的な視野と具体案をもって未来のCTの開発に取り組んでほしいと結んだ。
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プラグラムが終了後には,ポスター展示の受賞者が発表され井田氏から表彰状と記念品が贈られた。なお,当日の総合司会は越智茂博氏(東千葉メディカルセンター)が務めた。また,併設の会場でキヤノンメディカルシステムズなど22社による機器展示も行われた。
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最後に,研究会の企画や運営を行ってきた幹事も登壇して,研究会代表世話人の井田氏が閉会の挨拶を述べた。井田氏は,「ADCT研究会は,この第10回をもって発展的な解散としていったん閉会する。これまで研究会では,ADCTの普及・啓発,教育,情報共有を行ってきたが,マーケットを育成しながら,同時に診療放射線技師の技術を向上させるという役割は果たすことができたのではと考えている。ADCTの技術の研究は,今後も発展させ熟成させる必要があるが,ADCTだけにこだわっていては発展はない。そこで,次の展開として最先端のCT技術を包括した研究会『RISE UP CT CONFERENCE』をスタートする。ここでは,超高精細CT,Dual EnergyやAiCEといった最先端のCT技術を取り上げる予定で,ADCT研究会のこれまでの成果や精神を引き継いで,さらに発展していきたい」と締めくくった。
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●問い合わせ先
ADCT研究会 事務局
藤田医科大学病院 放射線部内
http://adct.kenkyuukai.jp
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