JIRAがAIをテーマにした第8回画像医療システム産業研究会を開催
2019-1-7
国内の最新AI研究動向にフォーカス
一般社団法人日本画像医療システム工業会(JIRA)は2018年12月20日(木),大手町フィナンシャルシティサウスタワー(東京都千代田区)を会場に,第8回画像医療システム産業研究会を開催した。
本研究会は,医療機器産業の発展の方向性や課題の検討,理解を深めることを目的に,2011年から毎年開催されている。創立50周年を迎えた2017年は,「AIを用いた医用画像診断」をテーマに開催された。2018年は,前年のテーマを継続しつつ,超音波や内視鏡,細胞診断などに領域を拡大。「AIを用いた医用画像診断 Vol. 2」と題して,研究開発や実用化への取り組みなどについて,最新の状況が報告された。
最初に,JIRAの新延晶雄会長が開会の挨拶を行った。新延氏は,2018年5月の次世代医療基盤法の施行や,11月の「人工知能技術を利用した医用画像診断支援システムに関する評価指標(案)」に対するパブリックコメント募集などの流れの中で,今回の研究会が,参加各社の研究開発や製品化の参考になることを期待したいと述べた。
|
基調講演では,国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野分野長/日本メディカルAI学会代表理事の浜本隆二氏が登壇し,「各種画像検査・診断への人工知能の応用の現状と可能性」について講演した。浜本氏は,これまでのAI研究の世界的な動向をまとめた上で,日本でも人工知能技術戦略会議の創設など,研究成果の早期実用化をオールジャパン体制でめざすに至った経緯を解説。自らが研究代表を務める,科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)採択事業「人工知能を用いた統合的がん医療システムの開発」の概略や,各プロジェクトの進捗を紹介した。
続いて,国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野の小林和馬氏が,「放射線科検査・診断領域における人工知能の利用」と題して講演を行った。小林氏もCRESTプロジェクトに参画しており,2年間にわたる同プロジェクトでの取り組みを中心に紹介。non-rigid registration(非剛体レジストレーション)やthree-dimensional statistical model(三次元統計解析手法),radiomics(腫瘍の画像的特徴量の網羅的解析)などにより,放射線治療の体内での合算線量の算出や,腫瘍の予後関連因子の抽出などに取り組んだ事例を報告した。さらに,データに適切なラベル情報を付与し,構造化する過程にAI技術を活用するデータ構造化プラットフォーム構想が進行中であることも報告した。
次に,理化学研究所革新知能総合研究センター/国立がん研究センター研究所の小松正明氏が,「AIを用いた胎児心臓超音波スクリーニングシステムの開発」と題して講演した。新生児の死因の約20%を占める重症先天性心疾患は,早期診断により治療可能であることから,妊婦健診での超音波診断,すなわち出生前診断が重要となる。しかし,技術が高度なことに加え,産婦人科医が不足・偏在しているため,出生前診断率は不十分で,地域格差も大きい。このような現状に対し,小松氏は,診断補助システムの重要性を指摘した上で,研究・開発を行っている物体検知技術を用いた胎児心臓超音波スクリーニングシステムについて紹介した。超音波検査は検査者間での技術差が大きく,またノイズ(陰影)が生じやすいため,AI技術の活用に当たっては,ロバストな機械学習技術が必要となる。これを踏まえて開発された同システムは,アノテーション(意義づけ)を行った心臓および周辺臓器18部位の正常画像を教師データとし,臓器の異常を検知する。小松氏は,これらの特徴を説明したほか,異常が検知された部位ごとに疑われる疾患が一覧表示でき,専門医への精査依頼が容易な点もポイントとして挙げた。そして,今後の展望として,関連する各学会の協力を募り,教師データ拡充や開発を進めていきたいとまとめた。
|
|
|
休憩を挟んだ後,「細胞診断領域における人工知能の利用」をテーマに,九州保健福祉大学教授/生命医科学部長/がん細胞研究所長の大野英治氏が講演を行った。細胞診断は組織診断に比べ低侵襲で簡便なため,子宮頸がん検診にも利用されている。若年層での子宮頸がん罹患率の上昇を受け,検診率の向上が課題とされているが,人手不足が懸念されている。このような背景を説明した上で,大野氏は,AIを用いた画像診断支援システムの必要性を指摘した。現在の診断支援システムは,パラメータを人が設定する必要があり,完全自動化には至っていない。また,子宮頸がんの一部と全身がんの多くを占める腺型病変は,細胞標本同士が重なり合ってしまうため,診断支援システムには不向きである。これらの状況を踏まえ,大野氏は,工学の専門家と共同で,CRESTプロジェクト「3D画像認識 AIによる革新的がん診断支援システムの構築」において,3Dでの画像認識技術の開発を進めていることを紹介した。
続いて,国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科の高橋雅道氏が,「多施設共同研究による学習データの収集および人工知能の臨床応用に向けての戦略ーGlioblastomaを例にしてー」と題して講演を行った。2016年のWHO脳腫瘍病理分類改訂により,脳腫瘍の診断には遺伝子情報が必須となった。特に膠芽腫(glioblastoma)では,IDH遺伝子変異の有無により,予後が大きく異なることが明らかにされている。しかし,高橋氏は,迅速に全例の遺伝子解析が可能な施設は限られることなどを指摘。画像の特徴から遺伝子プロファイルを予測するradiogenomics研究について紹介し,現在進行中のグリオーマ分子診断共同研究コンソーシアムにおける大規模コホート研究について報告した。また,コホート研究の課題として,施設間のシーケンスや撮影条件の差異を挙げ,共通の撮影プロトコールを設定することの重要性について言及した。まとめとして,高橋氏は,世界と肩を並べるためには,データ整理の労力軽減への取り組みが必要であり,企業の協力を得て,社会実装をめざしていきたいと述べた。
最後の演者として登壇した国立がん研究センター中央病院内視鏡科/国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野の山田真善氏は,「内視鏡科領域における人工知能の利用と臨床応用への戦略」と題して,深層学習を活用した大腸がんおよび前がん病変発見のためのリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発について講演した。山田氏はまず,大腸内視鏡検査の課題として,医師間の技術格差の解消や病変の見逃し防止などを指摘。その改善を目的に,山田氏らが開発に取り組んでいる診断サポートシステムについて紹介した。同システムは,隆起型病変に対する感度は高く,内視鏡のメーカー間でAIの診断性能にほとんど差は認められていない。また,より識別が困難な表在型病変に対しても,有用性が期待される。今後の展望として,山田氏は,十分なデータ収集の必要性を指摘した上で,内視鏡診断サポートシステムにおいては,リアルタイムとベンダーフリーが特に重要なキーワードになるとまとめた。
|
|
|
全体の質疑応答の後,JIRA副会長の佐藤公悦氏が閉会の挨拶に立ち,今後,さまざまな分野でAIの活用が進むであろうと実感したと述べた上で,JIRAも今後の医療の発展に邁進していきたいと締めくくった。
|
●問い合わせ先
一般社団法人日本画像医療システム工業会
事務局
TEL 03-3816-3450
http://www.jira-net.or.jp