日本医学放射線学会と日本学術会議が「レントゲンの日記念」市民公開講座を共催
2017-9-25
日本における医療被ばく低減を
テーマにした市民公開講座
公益社団法人日本医学放射線学会と日本学術会議は2017年9月23日(土)に「レントゲンの日記念」市民公開講座「医療被ばく低減に向けての取り組み」を共催した。ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン氏が1895年にX線を発見した11月8日を,欧米ではレントゲンの日として記念行事を催すなど,毎年祝っている。わが国でも日本医学放射線学会が記念行事を行っており,市民公開講座や座談会を開催し,新聞紙上でその様子を紹介してきた。今回は,日本医学放射線学会が取り組んでいる“Japan Safe Radiology”の取り組みなどを紹介する場として,7テーマの講演と総合討論が行われた。会場となった東海大学高輪キャンパス(東京都港区)には,多くの一般市民や医療関係者が足を運んだ。
JRC2018〔2018年4月12日(木)〜15日(日)〕での第77回日本医学放射線学会総会の会長を務める今井 裕氏(東海大学)が開会の挨拶,日本医学放射線学会理事長の本田 浩氏(九州大学)が理事長挨拶を行った後,講演へと進んだ。まず,今井氏が,「レントゲンの生涯」と題して,誕生からX線の発見,晩年に至る人生を紹介した。1845年にドイツのレンネップで誕生したレントゲン氏は,素行不良により学校を退学となり大学進学を諦め,ポリテクニウム(準大学)に進学した。その後,ホーエンハイム農科大学教授,シュトラスブルク大学助教授などを経てヴィルツブルグ大学教授に就任。クルックス管を用いた陰極線を研究する中で,偶然X線を発見した。この功績が認められ,1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞したものの,その後,幸福な晩年を送ることはできず1923年に亡くなったと,今井氏は説明した。
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次いで,登壇した本田氏は,「『放射線医療“安心・安全”プロジェクト』について」をテーマに講演した。本田氏は,放射線科医の仕事内容についてテレビドラマを引き合いに出して説明した上で,日本医学放射線学会が取り組むJapan Safe Radiologyを取り上げ,国民に対して,“安全”で“質の高い”放射線医療を,“均等”に提供するための活動であると述べた。その上で,無駄な検査による医療費の増大を抑えること,画像診断業務の効率化や安全性の確保のためのAIの活用,被ばく線量管理といった,わが国における画像診断の課題と解決のための方策について言及。画像診断の安全性と効率性を向上させるシステム構築を実現するための画像診断ナショナルデータベースであるJ-MIDの構想を紹介した。
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3番目に登壇した陣崎雅弘氏(慶應義塾大学)は,「CTの技術進歩と臨床応用の現状」と題して,CTを中心に,MRIや超音波診断装置,PETなどのモダリティの進歩を概説した。特に,CTについては,ヘリカルCTやマルチスライスCTの登場以降,高画質化だけでなく,3D,4D画像での形態情報と機能情報が得られるようになり,ほかのモダリティから検査が置き換えられるようになったと説明。検査の効率化,性状診断と定量化の向上が進んだと述べた。
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続いて,粟井和夫氏(広島大学)が,「CTの放射線被ばく低減の取り組み」をテーマに講演した。粟井氏は,日本における人口100万人あたりのCT台数が101台で,世界でも群を抜いて多いというOECDのデータなどを示したほか,年間6250万件の検査が行われ,2990万人が検査を受けていると説明した。そして,小児CT検査などの被ばくリスクについて解説した上で,被ばく低減に向けた診断参考レベルの作成や逐次近似再構成法などの装置メーカーの技術を取り上げた。さらに,粟井氏は,患者の被ばく履歴の一元管理や,放射線検査の正当化の教育といった,広島大学病院の取り組みを紹介した。
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次に,「海外でのChoosing Wiselyについて」と題して,隈丸加奈子氏(順天堂大学)が講演した。隈丸氏は,画像検査における“Choosing Wisely(賢い選択)”とは画像検査のメリット(得られる健康)とデメリット(検査による損失)のバランスを考えることだと説明。損失の要素として,被ばくや造影剤副作用,合併症,検査時間,医療資源・医療費,偽陽性などを挙げ,偽陽性による損失について,安定冠動脈疾患疑いに対する冠動脈CTを例に挙げて解説した。さらに,米国で2012年に始まったChoosing Wiselyキャンペーンなど,海外での取り組みを紹介した。
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休憩を挟んだ後には,井上登美夫氏(横浜市立大学)が登壇し,「画像バイオマーカーの開発と検査の標準化—日米の放射線学会におけるQIBAの取り組み—」と題して講演した。井上氏は,バイオマーカーについて,客観的に人の体の状態を測定し評価するための指標であると解説。また,検査の標準化や定量化がされていないと診断にバラツキが生じ,診療の質の低下と医療費の無駄につながると述べた。その上で,井上氏は,北米放射線学会の下部組織として設置され,定量的イメージングを進めるQIBAの活動を紹介。定量評価を行うための装置や撮影法などを設定したQIBAプロファイルについて説明した。
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7番目に講演を行った佐々木 健氏(厚生労働省医政局)は,「医療被ばくの適正管理に関する国の政策について」をテーマに,2017年4月から同省が開催している「医療放射線の適正管理に関する検討会」の概要を解説した。同検討会は,9月までに3回開催されている。佐々木氏は,第1回は医療放射線の管理に関する現状が議題になったと述べ,第2回は可搬型PETといった新たな技術への対応や放射性廃棄物について検討したと説明。第3回では放射性医薬品を投与された患者の退出基準,被ばくの適正管理のあり方が話し合われたとして,その概要を解説した。
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この後,今井氏と本田氏が司会となり,講演を行った5名の演者に日本医学放射線学会の副理事長である青木茂樹氏(順天堂大学)を加え,総合討論を行った。被ばく低減に向けたJapan Safe Radiologyのあり方や技術開発,医療機関での被ばく線量管理のあり方などについて意見が出されたほか,会場の参加者も交えた質疑応答も行われた。総合討論後には,青木氏が閉会の挨拶を行い,盛況のうちに閉会となった。
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東海大学医学部専門診療学系画像診断学
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