第36回医療情報学連合大会(その2)
学会長講演で大江会長がこれからの学会の役割を示す
2016-12-5
会長:大江和彦 氏
(東京大学)
第36回医療情報学連合大会の3日目,2016年11月23日(水)の午後からはA会場において,学会長講演が行われた。登壇した日本医療情報学会の大江和彦会長(東京大学)は,「医療情報学の将来に向けた学会の役割」をテーマに,まず最近の保健医療分野のIT化の動向について,厚生労働省の「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」がまとめた提言を紹介。これからの医療における医療情報学の視点として,(1)患者視点の健康医療情報を国民に直接還元する,(2)国民の健康増進と健康危機回避,(3)患者個人特性と病型に適合した精密医療(precision medicine)の実現,(4)社会保障システム改革と持続可能な社会システム構築に資する知見を提供,(5)超少子高齢社会を乗り越えるインフラの5つが必要だと述べた。さらに,大江氏は今後の学会活動方針として,従来の方針を継続させていくことが重要だとした上で,新たに,(1)先端医療・精密医療を生み出す革新的医療情報システムの視点と(2)飛躍しつつあるICTの技術(AI,IoT,NLPなど)を発展させ活用する視点の2つを追加したいと説明した。また,大江氏は電子カルテシステムの普及動向と学会が取り組んでいる標準化活動についても言及したほか,会長の任期である3年間に進める施策として,学術活動支援と人材育成,国際活動と学術公表活動,倫理的・法的・社会的問題への対応などを挙げた。講演の終わりには,ITの技術進歩によりゲノムなど医療に関する情報がビッグデータとなり,これをAIや言語処理,次世代インターネットなどの技術を用いて,医療機関でも家庭でも医療や健康管理を行えるようになると言及。その実現に向けて,十分な質と構造化を持つ医療データを生み出す医療情報システムを開発・普及させて,生成されたデータの利用環境を作ることが重要だとまとめた。大江氏の講演に続き,副会長/学術委員長の松村泰志氏(大阪大学)が学術委員会,副会長/国際委員長の澤 智博氏(帝京大学)が国際委員会について,今後3年間での活動内容を紹介した。
23日午後のB会場では,13時50分から,石川広己氏(日本医師会)と田尻泰典氏(日本薬剤師会)が座長を務め,医師会大会企画「医療情報連携の基盤構築と今後の課題」が開かれた。まず,石川氏は,日本医師会が策定した「ICT戦略」の概要などを説明。続いて,上村昌博氏〔内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室〕が「医療等分野におけるIT施策について」,佐々木裕介氏(厚生労働省政策統括官付情報化担当参事官室)が「医療等分野のICTに関する取組」と題して,わが国の保健医療福祉分野におけるITに関する施策を解説した。4人目として登壇した大山永昭氏は,地域連携での安全な情報のやりとりを行うために日本医師会が運営している認証局(HKPI)と公的個人認証サービス(JPKI)について現状を説明。さらに,各地の地域医療連携ネットワーク同士を接続するための医療情報連携基盤である医療用IXにも言及した。最後に登壇した山本隆一氏(医療情報システム開発センター)は,この医療用IXである「地域医療連携ネットワーク間の相互接続」の具体的なモデル案を示した。
G会場では,16時からシンポジウム6「組織横断的な臨床分析を可能にするDWHとは」が行われた。座長は紀ノ定保臣氏(岐阜大学)と木村映善氏(愛媛大学)。このシンポジウムでは,電子カルテシステムなどの普及により医療機関内にはデータウエアハウス(DHW)が構築されているものの十分活用できていないという現状を踏まえ,DWHの標準化と実装化をめざして設立されたSDM(Semantic Data Model)コンソーシアムの活動や事例などが報告された。まず,紀ノ定氏が,コンソーシアムの概要を説明し,その後近藤博史氏(鳥取大学),鈴木英夫氏(MoDel),木村氏,高月常光氏(トゥモロー・ネット),久島昌弘氏(沖縄県立中部病院)の順に発表した。
17時からはA会場で特別講演4が行われた。座長を澤氏が務め,テレビコメンテーターとしても活躍する伊藤元重氏(学習院大学/東京大学)が登壇。「日本の財政と医療」をテーマに講演した。伊藤氏は日本の財政が非常に厳しい状況にあることに触れ,医療などの社会保障費の増大が,今後の日本経済に大きな影響を与えると指摘した。しかし,政府は診療報酬の大幅な引き下げなどは考えておらず,質の高いサービスが提供できるようにしている。こうした状況を踏まえ,伊藤氏は,医療の質を維持しつつ,コストを下げるための方策として,医療サービスの見える化,インセンティブの付与,民間企業の力を活用することなどを挙げた。
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●問い合わせ先
JCMI36大会事務局
東京医科大学病院 情報システム室内
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