第13回オートプシー・イメージング学会学術総会が開催
海外の研究者を招聘し,死後CTにおける国際連携,多職種間連携を議論

2015-8-25


会場風景

会場風景

第13回オートプシー・イメージング学会(Ai学会)の学術総会が2015年8月22日(土),慶應義塾大学医学部北里講堂(東京都新宿区)にて開催された。Ai学会は,2004年1月に創設された法医,放射線科医,診療放射線技師,病理医,救急医,歯科医など,さまざまな領域から専門職が集まる学際的学会。死後CTにおける症例の検討や調査結果を発表するとともに,発表を通して多職種間連携を模索することで死後CTの普及を促進することを目的としている。
13回目となる今回は,大会長である慶應義塾大学医学部法医学教室の飯野守男氏の下,「領域の壁を越えたAiの浸透を目指して」をテーマに開催された。一般口演では,「調査報告」「症例報告」「技術応用・個人識別」「死因究明」の4つの題目で,各分野の専門家が発表した。また,Ai学会としては初めてとなる海外からの研究者を招き,特別講演が開かれた。さらに,2015年10月から医療事故調査制度が開始されることに先立ち,「Aiを医療事故調査制度にどう生かすか」のシンポジウムが行われた。

大会長である飯野氏が座長を務める特別講演では,オーストラリア・ビクトリア法医学研究所(VIFM)顧問法医放射線科医のクリス・オドンネル氏が,「オーストラリア・ビクトリア州において死後CTが死因究明に果たす役割—実症例から学ぶ関係者間の連携」と題し,ビクトリア州における死後CTの実例紹介を中心に,死後CTの役割と必要性を報告した。
ビクトリア州では,コロナー法と呼ばれる制度が採用されている。コロナー法では,身元不明死体の調査・身元確認や死因,死因の種類,死亡の機序を,コロナーと呼ばれる死因究明官が決定する。非自然死体の解剖の要否についても,コロナーが最終的に判断する。コロナーが解剖の要否を判断する前には,予備検査として「外表検査」「全身CT検査」「毒薬物検査」が行われる。その後,コロナーが法医学者の意見や遺族の意向も考慮した上で,最終的に解剖の要否が判断されるため,予備検査で死因が判明するかどうかが要否基準となる点が,事件性の有無で解剖の要否が決定される日本と大きく異なる。
オドンネル氏が所属するVIFMの法医放射線学では,この予備検査の「全身CT検査」を行うことでコロナーの死因究明過程に貢献している。オドンネル氏は,警察や裁判所に代表される法的環境下における専門的証拠としての死後CTの事例を挙げ,死後CTの画像証拠に関する役割は今後ますます増加していくだろうとした。また,このような事例では裁判など法的手続きを遂行する上で有意義となる証拠の提示と説明が不可欠となると述べ,3Dプリンタなどの,より医学的証拠の理解を促すための技術を探求していくことの重要性に言及した。
オドンネル氏は,急性期医療や地域医療においても,医療関係者や地域社会に対して再発防止を啓発する効果があり,多くの利害関係者に対して有用であると語った。
最後に,死後CTの注意点として,法医放射線学は法医学において新しい分野であることを念頭に置き,最新技術だからと過信しないよう参加者に警告した。

飯野守男氏(慶應義塾大学医学部法医学教室)

飯野守男 氏
(慶應義塾大学医学部法医学教室)

クリス・オドンネル氏(ビクトリア法医学研究所)

クリス・オドンネル 氏
(ビクトリア法医学研究所)

 

 

クリス・オドンネル氏への感謝状授与

クリス・オドンネル氏への感謝状授与

 

 

シンポジウムでは,Ai学会理事長で千葉県がんセンター画像診断部の髙野英行氏が司会を務め,4名の演者が「Aiを医療事故調査制度にどう生かすか」をテーマに講演を行った。
まず登壇したのは,亀田メディカルセンターの弁護士である水沼直樹氏で,医療機関内の弁護士の立場から医療事故調査制度における死後CTの有用性を発表した。水沼氏は,医療事故調査制度における「医療事故」の定義と「事故調査」の方法について説明し,医療事故調査におけるAiの利点と必要性について述べた。
次に,三重大学医学部医療安全・感染管理部の兼児敏浩氏が,医療事故調査制度の開始に向けて,すべての医療施設で一定水準以上の死後CTを撮影可能な体制を整備する必要があると訴えた。兼児氏は,医療関連死が疑われる場合の時系列から見た医療事故の3つの分類を示し,そのどれにおいても死後CTを行うことは報告すべき事例か否かの判断材料となり,事故調査委員会の資料にもなるとして,事実上死後CTはいかなるケースにおいても必須であるとした。
続いて,病理医の立場から筑波大学大学院診断病理学研究室の野口雅之氏が,「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」について報告を行った。「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」は,2015年より開始される医療事故調査制度の前身となり,野口氏は茨城地区の代表としてかかわってきた。その中で扱った症例と日本病学会認定病院・施設に行った診療関連死のアンケートを提示し,死後CTは死因解明のために望ましい方法論であると同時に,病理専門医が不足している現状において死後CTで対応していくことにより,精度の高い医療事故調査が行えるのではないかと期待を示した。
4番目に,Ai情報センターの山本正二氏が登壇し,東京都医師会の活動と江東区新木場にある「Aiセンター・新木場」を紹介した。東京都医師会は,医療事故調査制度の開始に当たり,医療事故調査委員会の立ち上げや資料作成が困難だと懸念されている中小規模施設への支援団体として挙げられている。Aiセンター・新木場では,東京都医師会の支援団体としての業務の一つである「遺体の受け取り・搬送・保管,Ai撮影」を担当している。山本氏は,医療従事者が死後CTについてもっと知る必要があると同時に,実施における問題点についても理解しておく必要があると述べた。また,それを解決するために東京都医師会は医療従事者,遺族が理解できるような資料を作成する必要があるとした。さらに,自施設で死後CTが実施できないような場合にAiセンターを活用する方法についても紹介した。
最後に,司会である髙野氏が,医療事故疑い症例の読影のポイントについて講演した。髙野氏は,特に医療紛争の死後CTを扱った経験から,死後CTは死後画像だけでなく,死亡前情報との包括的な統合が重要であると述べた。また,医療紛争においては,理由や証拠だけを発見しても医療の素人である一般人や裁判官,弁護士が納得しない可能性があり,それらの証拠に対する説明,解説(ストーリー)を構築することも必要になるとした。さらに,医療事故の紛争の場合は,医療事故が「なかった」という客観的証拠についても同様にストーリーの構築が不可欠となることを説明した。
最後にシンポジストたちにより死後CTを医療事故調査制度にどう生かすかについての総合討論が行われ,活発な議論がなされた。

髙野英行氏(Ai学会理事長)

髙野英行 氏
(Ai学会理事長)

水沼直樹氏(亀田メディカルセンター)

水沼直樹 氏
(亀田メディカルセンター)

兼児敏浩氏(三重大学医学部医療安全・感染管理部)

兼児敏浩 氏
(三重大学医学部医療安全・感染管理部)

 

野口雅之氏(筑波大学大学院診断病理学研究室)

野口雅之 氏
(筑波大学大学院診断病理学研究室)

山本正二氏(Ai情報センター)

山本正二 氏
(Ai情報センター)

 

 

総合討論の模様

総合討論の模様

 

 

次回のAi学会は新潟大学医学部保健学科放射線技術科学専攻の高橋直也氏が務め,2016年8月27日(土)〜28日(日),新潟市内で行われる予定となっている。

高橋直也氏(新潟大学医学部保健学科放射線技術科学専攻)

高橋直也 氏
(新潟大学医学部保健学科放射線技術科学専攻)

   

 

●問い合わせ先
オートプシーイメージング学会
事務局
TEL 03-6228-6990
http://plaza.umin.ac.jp/~ai-ai/


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