第34回医療情報学連合大会(その1)
生命科学の発展,高齢社会の中での医療情報学の役割を問う
2014-11-14
メイン会場でのセッションの様子
第34回医療情報学連合大会(第15回日本医療情報学会学術大会)が,2014年11月6日(木)〜8日(土)の3日間,千葉大学医学部附属病院の高林克日己氏を大会長として,千葉市の幕張メッセ国際会議場で開催された。テーマは「医療情報学が医生物学を造る〜医療情報学による医学の革新〜」。そのほかの大会役員として,プログラム委員長を香川大学の横井英人氏,実行委員長を千葉大学の鈴木隆弘氏が務めた。幕張メッセでの開催は,1996年(第16回,里村洋一大会長),2003年(第23回,豊田 建大会長)に続いて3回目となる。開会式で挨拶した高林大会長は,「96年のテーマは“電子カルテが医療を変える”だった。当時まだ黎明期だった電子カルテだが学会を通じて医療を変える力があることを示した。その後,電子カルテは当たり前のものになり,さらに地域医療連携も発展するなど医療情報学は大きく進歩した。今後,さらに遺伝子情報など医学生物学を結びつけ新たな知見を造るための重要な学問として発展することを確信している」と述べた。
プログラムは,大会長講演,学会長講演のほか,特別講演として「パーソナルゲノム,メタボローム,メタゲノム解析のシステム医科学への応用」と「Advances in Data Mining for Biomedical Research」の2題,大会企画として「医療情報学が未来を可視化する〜超高齢社会における医療情報学の役割」「世界のEHR〜日本のEHR の今後の方向を考える上での参考事例」「在宅医療連携とはなにか?」「医療情報技師プラザ」が行われた。そのほか,各学会・団体との共同企画12,産官学共同企画2,学会企画2,シンポジウム8,ワークショップ8,一般口演,ポスター展示,HyperDEMOなど多彩なプログラムが行われた。企業展示は,国際展示場展示ホール7に63社が出展したほか,国際会議場も含めて11のホスピタリティルームが設けられた。
展示ホールで行われた産官学共同企画の「SS-MIXデモ展示・プレビュー〜地域包括ケアと地域医療連携」では,SS-MIX普及推進コンソーシアムの活動の概要と,退院サマリ,各種レポートをCDAで出力するサンプルプログラムのデモ展示,災害対策のための医療情報バックアップ事業などの展示とデモが行われた。
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大会長講演は,初日の午後に「医療情報学が医生物学を造る〜医療を編み、医生物学を革新するための情報学」と題して行われた。高林大会長は,電子カルテの開発・導入や,診療記録のテキストマイニングをもとに開発された日本内科学会の類似症例検索システム“PINACO”など,これまでの取り組みを紹介して,電子カルテが“夢”だった時代に構想していた役割や機能は現在ほぼ実現しつつあり,EHRやPHRについてもオランダなど欧米諸国が進んでいるように見えるが,同じ山頂に向けて違う道から登っているに過ぎないと述べた。その上で今後の医療情報学の役割として,ゲノムや代謝など膨大な生命科学の情報とPHRのデータを結びつけていくのか,それらの情報をいかに“編む”のかデザインすることが重要だとした。さらに,これから日本が迎える“超超高齢社会”は他国にも前例のない事例であり,その中で未来予測のためにも医療情報学が役立てるのではないかと結んだ。
特別講演1では,慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田 勝氏が「パーソナルゲノム,メタボローム,メタゲノム解析のシステム医科学への応用」を行った。冨田氏は,パーソナルゲノム解析として,自分自身の全ゲノム配列を解析して公開し,それを教材として大学で行った“ゲノム解析ワークショップ”の取り組みや,メタボロームでは生命科学研究所に構築したキャピラリー電気泳動と質量分析法を組み合わせたCE-MS法によるメタボロームファクトリーと,その解析技術を活用したコホート研究である“鶴岡みらい健康調査”の取り組み,メタゲノム解析では細胞の機能をコンピュータ上でシミュレーションする“E-cellプロジェクト”などを紹介した。また,生命科学研究所からスピンアウトしたベンチャー企業であるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社や,バイオインフォマティクスを利用してクモの糸の人工繊維開発を実現したスパイバーなどの成果を紹介した。
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初日の開会式に続いて行われたシンポジウム2「電子カルテにおける医療記録記載〜あらためて問う、新たに考える」では,卒後臨床研修評価機構の岩崎榮氏,聖路加国際大学教育センターの渡邉直氏が座長を務め,POS(Problem Oriented System)を中心に電子カルテにおける医療記録の記載の問題について取り上げた。最初に渡邉氏が電子カルテ時代のPOSのあり方について,problemsを発生の時系列に記述することが,患者の状態を長期間で把握できる診療記録となり,チームや地域で連携し情報共有が必要とされる時代には重要な記述となると述べた。アメリカでは,電子化された記録の有効利用(Meaningful use)のために36時間以内に退院サマリを患者に渡すことが求められており,退院サマリは単なる診療記録の要約ではなく,情報の伝達のための記録を位置づけられているとした。続いて,川崎医療福祉大学の渡邊佳代氏,千葉大学医学部附属病院の羽石遥氏,日本医師会の石川広己氏,ソフトウェアサービスの井川澄人氏が講演し,電子カルテ時代に必要なPOSの考え方と記述のあり方,監査や連携のためのシステムの方向性などが議論された。
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初日のA会場のワークショップ1「情報のバックアップと外部保存、そして情報の共有利用に向けて」では,放射線医学総合研究所の奥田保男氏が座長を務め,外部保存が可能になった画像情報の実際の運用やガイドラインへの対応,欧米で普及しつつあるVNA(Vendor Neutral Archive)の現状について,大阪警察病院医療技術部の山本剛氏,横河医療ソリューションズの野津勤氏,ケアストリームヘルスの大竹雄一郎氏が講演した。VNAの概要を解説した大竹氏は,静止画や動画などベンダーごとのシステムでデータ保存するのではなく,部門の異なるシステム間の接続を標準プロトコルで行い,画像データも標準フォーマットで保管することで,相互運用性やリプレイス,拡張性などを確保し,院内サーバの保存容量を有効に活用できると説明した。さらに,VNAはその特性からクラウドでの構築のほうが運用性が高く,今後コンセプトが浸透していけば日本でも普及していくのではないかと述べた。
初日H会場では,学会企画1「医療現場からみた医療ソフトウェア規制」が行われた。2013年に公布された「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」の施行が11月25日に迫るというタイミングもあって,19時からという時間にもかかわらず多くの参加者がつめかけた。最初に川崎医療福祉大学の岡田美保子氏が座長を務め,医療用ソフトウエア規制の概要について,改正の経緯と公布後の現在までの状況,医薬品医療機器等法で規制の対象となるソフトウエアと規制対象外の単体ヘルスソフトウエアに対する業界自主ルールなどについて,大阪医療センターの楠岡英雄氏,JEITAの平井正明氏,JAHISの橋詰明英氏が説明した。続いて,帝京大学の澤智博氏と香川大学の横井英人氏を座長として,まず澤氏より「医療機器ソフトウェア規制への疑問と不安と期待〜医療者の立場から」についての発表があり,横井氏からはソフトウエア規制に対する医療者としての疑問点が挙げられた上でディスカッションが行われた。
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●問い合わせ先
千葉大学医学部附属病院 企画情報部内
TEL 043-226-2346(代表)
http://www.ho.chiba-u.ac.jp/jcmi2014/