日本メドトロニック,日本初の経カテーテル肺動脈弁専用デバイス「Medtronic Harmony™経カテーテル肺動脈弁システム」の販売を開始
生涯にわたり繰り返し開胸手術を必要とする先天性心疾患の患者により低侵襲な治療選択肢を提供
2023-3-2
日本メドトロニック(株)は,先天性心疾患の術後に起こる肺動脈弁逆流症の治療に用いられる「Harmony(ハーモニー)経カテーテル肺動脈弁システム」(以下,Harmony TPV)の販売を2023年3月2日より開始した。
Harmony TPVは主に,乳幼児期に自己の右室流出路から肺動脈組織を温存して外科手術を受けた重度の肺動脈弁逆流症の患者に対して,カテーテルを通じて肺動脈弁を留置する日本初の専用デバイス。肺動脈にフィットするように設計・デザインされた2つのサイズの生体弁と,それを心臓内に送達するためのデリバリーカテーテルシステムのセットから構成される。外科的手術のリスクが高く,本品による治療が最善であると判断された場合,負担の大きな開胸手術の代わりに,カテーテルに格納された生体弁を,太ももまたは首の小さな切開を介して送達し,心臓の内部に直接留置する。これにより,生涯における開胸手術の回数の減少,入院期間の減少及び術後早期の社会復帰などが期待される。
日本先天性心疾患インターベンション学会理事である昭和大学病院小児循環器・成人先天性心疾患センター長富田英特任教授は,「右室流出路再建術を受けた先天性心疾患の典型的な患者さんは,肺動脈弁の問題に継続的に対処するために,生涯にわたって複数回の開心術が必要になります。生涯に渡り必要となる術後フォローアップや外科手術は,患者さんにとって,身体的・精神的あるいは経済的に大きな負担となり,就業や雇用の維持,収入,妊娠・出産,子供の養育,親の介護,老後の生活など各ライフステージにおける日常生活に大きな不安と影響をもたらしています。本品は,そういった患者さんに対してより低侵襲な治療オプションを与えるものであり,より適切な時期に,患者さんにより負担の少ない治療を提供できる可能性をもつ,非常に革新的な治療法として期待できます」と述べている。
日本ではおよそ100人に1人が先天性心疾患を持って生まれている1。近年,小児期の治療成績が向上したことに伴い,乳幼児期に外科手術を受けた患者の90%以上が成人期を迎えると言われている1。成人となった患者は成人先天性心疾患患者と呼ばれ,その数は2020年時点で約50万人を超えると見積もられ,今後も増加が見込まれている1。先天性心疾患の患者は,術後数年から数十年経った成人期に新たな問題を生じることが分かってきており,そのフォローアップ体制を構築することが社会課題となっている。
生まれて間もなく心臓と肺をつなぐ右室流出路の外科手術を受けた先天性心疾患の患者が成人期を迎えることにより,代表的な術後続発症である肺動脈弁逆流症が問題視されるようになってきている。肺動脈弁逆流症は心臓から肺動脈に送り出された血液の一部が心臓に戻ることにより心臓に負担がかかる病気。そのため,適切に対処されず状態が悪化した場合には,心不全や不整脈,さらには突然死のリスクが高くなると言われている1。肺動脈弁逆流症に対しては,これまで開胸を伴う外科手術しか選択肢がなかったことに加え,生涯にわたって複数回の外科的な治療介入を繰り返すことが想定されることから,より負担の少ない低侵襲な治療選択肢の導入が望まれていた。
Harmony TPVは,産官学の共同プロジェクトであるHarmonization by Doing (HBD) for Childrenプログラムに基づき,製品開発が難しいとされる小児領域において日本を含む国際共同治験が行われ,国内で初めて承認を取得した製品。また,2020年12月に厚生労働省より希少疾病用医療機器として指定を受けている。米国では,米国食品医薬品局(FDA)において患者が特定の救命技術にタイムリーにアクセスできるようにすることを目的とした承認制度であるBreakthrough Device Designation(画期的医療機器/デバイス指定)によりBreakthrough Therapy(画期的治療)の指定を受け,2021年3月に米国で承認された。世界では,米国に続き二か国目として販売を開始した。
日本国内では,経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会(THT協議会)が管理し,THT協議会構成学会である日本小児循環器学会に設置された経カテーテル肺動脈弁留置術管理委員会(TPVI管理委員会)に委託され定められた実施施設基準および実施医基準等を遵守して使用される。
【成人先天性心疾患とは】
成人先天性心疾患(ACHD: Adult Congenital Heart Disease)は,生まれつき心臓に病気をもって生まれた患者の多くが成人期を迎えられるようになったことに伴い,近年認知され始めた新しい概念。成人先天性心疾患の患者数は1990年代後半以降増加の一途を辿り,小児の先天性心疾患の患者数を凌駕しており,その受け皿を整えていくことが急務である。このような状況を受けて,2022年4月に日本成人先天性心疾患学会により成人先天性心疾患専門医認定制度が制定され,専門医総合・連携修練施設の運用が開始された。
【術後続発症とは】1
術後続発症は先天性心疾患に対する外科手術に伴って術後成人期に偶発的あるいは必然的に発生する異常といわれている。続発症が進行すると生活の質(QOL)を低下させ,不整脈,心不全を生じ,内科治療や再手術を含む開胸手術が必要となる場合があると言われている。続発症の進行には個人差があるため,長期に渡る継続的な経過観察が必要と言われている。
【肺動脈弁逆流症(肺動脈閉鎖不全症)とは】3
肺動脈から右室へ血液が逆流する疾患である。ファロー四徴症に代表される右室流出路に対する外科手術後に起こることが多く,まれに先天的なものもある。臨床症状は,重度になるとむくみや体重増加,食欲不振といったような右心不全の症状を呈し,人工弁に置き換えるための開胸手術が行われることもある。
【Harmonization By Doing(HBD)for Childrenプログラム】4
HBD(Harmonization By Doing)は,日米両国の産官学が協力し,臨床試験や承認審査の実践を通して,日米における医療機器規制の調和を図る活動である。循環器領域の医療機器を中心として,米国FDAとの意見交換を行いながら,国際共同臨床試験の推進,日米間で協力して審査を実施する体制の構築,効率的かつ迅速な審査を進めるための施策の検討を行い,我が国としては,医療機器承認のタイムラグの改善を図ることを目指している。
1 市田ら,成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
2 一般社団法人日本成人先天性心疾患学会ホームページ https://www.jsachd.org/specialist/
3 小児慢性特定疾病情報センター92肺動脈閉鎖不全症 https://www.shouman.jp/disease/details/04_63_092/
4 PMDAホームページHBDのページ https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/hbd/0015.html
より抜粋
●問い合わせ先
日本メドトロニック(株)
www.medtronic.co.jp