日本初となる血液バイオマーカーを用いた認知症診断ワークフローの構築へ
島津製作所・エーザイ・大分大学・臼杵市医師会が共同研究を開始
2022-11-22
(株)島津製作所(以下 島津製作所),エーザイ(株)(以下 エーザイ),国立大学法人大分大学(以下 大分大学),一般社団法人臼杵市医師会(以下 臼杵市医師会)は,臼杵市を実証立地としたコホート研究を開始することを発表した。本共同研究は,血液バイオマーカーを活用し,軽度認知障害(MCI)およびアルツハイマー病の診断ワークフローを日本で初めて構築する試みである。「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用指針」*1に則り,かかりつけ医から認知症の関連学会専門医に至る医療連携体制において,血液バイオマーカーの有用性を実証し,アルツハイマー病の早期診断への貢献をめざす。
認知症の6割強を占めると言われているアルツハイマー病では,発症の約20年前からアミロイドベータ(同疾患の原因と見られるタンパク質,以下 Aβ)が脳に溜まり始めるとされている。Aβの蓄積度合いの推定には陽電子放出断層撮影(アミロイドPET)や脳脊髄液検査(CSF)が用いられているが,実施できる施設が限られており,高額な検査費用や侵襲性による身体的負担などが課題とされている。血液バイオマーカーの普及により,被検者の負担を抑えることが見込まれる。
■研究概要図
本共同研究では,臼杵市医師会が研究への参加希望者(50歳以上)を募集し,臼杵市医師会所属のかかりつけ医が応募者に対して簡易的な認知機能検査等を行い,MCIや軽度認知症の疑いがある方200名程度を選定する。臼杵市医師会立コスモス病院所属の専門医がより詳細な問診や認知機能検査を行ったうえで,最終的にアルツハイマー病が疑われるMCIや軽度認知症の対象者100名を選定する。島津製作所は,同社製の「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」(以下,「アミロイドMS CL」)*2などを用いた血液バイオマーカーの測定データ解析および評価を担当する。臼杵市医師会所属のかかりつけ医,および臼杵市医師会立コスモス病院所属の専門医は,検査結果を参加者に開示・説明し,心理的影響を評価するとともに,必要に応じて継続した診療を行う。さらに,大分大学医学部神経内科学講座では,詳細な認知機能検査およびエーザイが開発した「のうKNOW」*3を用いた脳の健康度セルフチェックや,アミロイドPETによるAβの蓄積確認とともに,血液バイオマーカーの有用性の検証を行う。エーザイは,認知症研究に関する知見を活かして研究計画を立案,支援するとともに,検査結果および心理的影響の解析・考察手法を助言する。4者は,「血液バイオマーカーの臨床性能」および「検査結果開示後の心理的影響」の両評価結果を統合し,実臨床下における血液バイオマーカーの受容性を検証する。
4者は本共同研究を通じて,血液バイオマーカー検査による,かかりつけ医も含めたアルツハイマー病の新たな診断ワークフローの確立をめざす。これにより,アルツハイマー病の早期発見に寄与するエコシステムを構築することで,当事者や家族が安心して生活できる社会インフラの整備に尽力していく。
*1 厚生労働省科学研究費研究班 2021年3月31日
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/dementia_biomarker.pdf
*2「アミロイドMS CL」は,血中のアミロイドペプチド(アルツハイマー病の特徴であるアミロイド斑の主要成分)を測定し,アミロイドベータに関連するバイオマーカー値を提示する製品。2021年6月に質量分析技術によりアミロイドペプチドを測定する製品としては日本で初めて医療機器としての承認を受けた。
*3 「のうKNOW」(非医療機器)は,エーザイが開発した脳の健康度(ブレインパフォーマンス)のセルフチェックツール。Cogstate Ltd.(本社:オーストラリア)が創出したアルゴリズムに基づいて開発され,エーザイが全世界における開発権および独占的商業化権を有している。PC等を用いた簡便なトランプテストによって,脳の反応速度,注意力,視覚学習および記憶力を,テストすることができる。「のうKNOW」はエーザイ(株)の商標。
詳細はホームページを参照 https://nouknow.jp/
●問い合わせ先
(株)島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/