島津製作所は10月1日に学校法人自治医科大学と臨床分野における質量分析（MS）技術の応用に向けた3カ年の包括共同研究契約を締結した。同附属病院にて，がん，心臓疾患，感染症，認知症など各種疾患の早期/迅速診断，治療薬物モニタリング（Therapeutic drug monitoring，以下TDM）^※，予防医学に寄与するMSの応用手法を開発していく。島津製作所は自治医科大学に技術者を派遣することで分析技術を提供し，自治医科大学は共同研究から研究成果の社会実装までを主導する。

近年，液体クロマトグラフ質量分析計（LC-MS）は「複数の薬物成分を高精度で一斉分析」という特長を評価されて，臨床分野でご利用いただく機会が増えてきた。活用例の1つが免疫抑制薬のTDMである。臓器や造血幹細胞の移植治療では，拒絶反応を制御するために免疫抑制薬が投与される。その際，過剰な投与は免疫を抑制し過ぎて感染症などの合併症につながるため，薬物濃度を測定・監視して，投薬量を管理しなければならない。欧米ではTDMにおけるLC-MS利用が一般的であり，国内でも導入する病院が増えている。

自治医科大学と島津製作所は，第一弾の研究として「微量採血によるTDM」に取り組む。TDMを受ける患者は病院で採血するが，新型コロナウイルス感染が拡がる現在は来院にリスクも伴う。「微量採血によるTDM」が実現できれば，負担のある来院を無くして，自宅で専用キットによって採取した一滴にも満たない血液（数マイクロリットル）の送付で済ませられる。また，従来法のイムノアッセイ（免疫法）に必要な採血（数ミリリットル）の負担が大きい乳幼児のTDMも容易になる。

疾患の早期/迅速診断，TDMおよび予防医学における質量分析技術の活用は，健康寿命の延伸のみならず，増大する医療費の抑制にもつながる可能性を秘めている。自治医科大学と島津製作所は，本共同研究の成果を通じて，医療技術および人々のQOL（Quality of Life）向上に貢献していく。

^{※ 投与した薬物の血液中濃度を測定することにより治療を最適化すること。濃度が低いと薬効を発揮せず，高過ぎると副作用につながるため適切なコントロールが必要となる。}

研究で使用する液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8050」

自治医科大学の関連ページ
https://www.jichi.ac.jp/news/research/2021102601/