東大先端研,富士通,興和がIT創薬により,従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんにも効果が期待できる新規低分子化合物の創出に成功
2018-6-13
東京大学 先端科学技術研究センター(以下,東大先端研)と,富士通(株)(以下,富士通),興和(株)(以下,興和)は,コンピュータ上で仮想的に設計・評価するIT創薬により,がんの原因となるタンパク質(以下,標的タンパク質)の阻害活性(注1)を持ち,従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんにも効果が期待できる新規低分子化合物を創出することに成功した。
今後,興和は本研究成果を創薬に結びつけるべく,今回の研究で得た低分子化合物を改良していく予定。
●研究概要・役割分担
IT創薬の共同研究は,2011年6月に東大先端研と富士通で開始し,同年7月に興和が参画し,複数の創薬標的に関する研究を行ってきた。
本共同研究は,従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんに対し,その原因となるタンパク質を創薬標的として選択し2015年12月に開始した。富士通はIT創薬により阻害活性があると予想される低分子化合物を設計し,興和は低分子化合物の合成と実験による阻害活性測定を行った。東大先端研は創薬標的に関する医学的見地に基づく情報を提供するという役割を担った。
またこの共同研究期間中,富士通と(株)富士通研究所(以下,富士通研究所)は,IT創薬技術の改良を重ね,精度と性能を向上してきた。
●共同研究の成果
本共同研究で,富士通は独自の技術を結集させ,標的タンパク質の働きを抑える効果があると期待される化学構造を興和に提供した。具体的には,医薬候補化合物設計技術(注2)と今まで培ってきた創薬の知見を取り入れ,合成可能な低分子化合物の構造をコンピュータ上で設計し,高精度活性予測技術(注3)を改良したM2BAR法(注4)を用いて,低分子化合物と標的タンパク質の結合強度を計算して絞り込んだ。これに量子力学に基づく高精度な立体配座解析(注5)の結果も考慮に入れた。
興和は,富士通が設計した低分子化合物を合成し,その中に目標とする阻害活性を示す化合物を確認した。また,興和はこの化合物と化学構造が似ている低分子化合物を複数合成し,一連の化合物にも目標とする阻害活性を示すことを確認した。興和は現在,これら化合物のX線結晶構造解析による複合体構造を検証中であり,今後,本研究成果を創薬に結びつけるべく今回の研究で得た低分子化合物を改良していく予定。
東大先端研,富士通,興和は,本共同研究を通じて,IT創薬により標的タンパク質への阻害活性を持ち,従来のがん治療薬に抵抗性を示すがんにも効果が期待できる新規低分子化合物を創出することに成功した。
注1 阻害活性:疾患を引き起こす原因と考えられるタンパク質に化合物が結合し,タンパク質の機能を抑制する度合い。通常,化合物の濃度で表される。
注2 医薬候補化合物設計技術:疾患を引き起こす原因と考えられるタンパク質が機能する部位に結合して,タンパク質の働きを抑える低分子化合物を設計する技術OPMF(オーピーエムエフ)。富士通が開発。
注3 高精度活性予測技術:分子動力学計算をベースに,医薬候補化合物の阻害活性を実験に匹敵する高い精度で予測するシステムMAPLECAFEE(メープルカフェ)と,原子間に働く力の精緻なパラメーターを生成するソフトウェアFF-FOM(エフエフフォム)から成る。富士通研究所が開発。
注4 M2BAR法:エムスクエアードバー。複数の結合パターンを用いて高精度かつ高速化した定量的活性予測計算法。富士通研究所が開発。
注5 立体配座解析:化合物の立体形状と位置エネルギーの関係を調べること。
●問い合わせ先
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