アジアでは,人々のボーダーレスな行動がますます盛んになっているが,医療においても,モノ(医療機器),技術(治療法),ヒト(医療従事者,患者),さらには医療機関も国境を越えていっそう移動するようになる状況が想定される。こうしたことから,医療圏を日本(1億人)だけでなく,広くアジア(42億人)ととらえる,“アジア医療圏”を構想して推進することが重要であるということが,昨年5月にMETISおよび医機連の連名による政策提言(医療技術のアジアとの連携・交流拡大に向けた政策提言)において提案された。日本の優れた医療技術と医療機器をアジア各国に紹介することを契機に,アジアとの連携と交流を進めて,将来的にアジアの医療の向上に貢献できれば,"アジア医療圏"の構築も夢ではない。
図1 アジアの医療ニーズの急速な拡大と“アジア医療圏”構想
出典:第4期METIS 第5回 医療テクノロジー推進会議資料)
図1に示すように,アジア諸国では経済成長と所得水準の向上に伴い,医療インフラと医療保険制度の整備が進み,医療アクセスの向上も図られつつある。一方で,人口増加と高齢化の進展にも直面し,食生活の西欧化に伴う糖尿病などの生活習慣病の増大も大きな問題になっている。これらは,同じアジアの中で日本がすでに経験してきたことであり,その対応経験に基づく知見と技術はアジア医療圏の中で大きく活きるはずである。
例えば,アジア諸国では今後,日本以上のスピードで高齢化が進展することが予想されており,介護システムを含めた,高齢化社会における医療ニーズへの対応も必要となってきている。2010年に経済産業省が発表した『通商白書2010』も,アジア諸国では日本以上のスピードで高齢化が進展するとしている。高齢化社会(高齢者が7%に達した社会)から,高齢社会(同比率が14%に達した社会)になるまでの期間を見ると,先行している日本は24年だが,シンガポールは17年,韓国は18年,タイは22年と,早いペースでアジアの高齢化が進むとしており,医療費のさらなる増大も予想されている。
政策提言にも記載されているように,医療機器は医療行為と一体不可分であり,医療現場のニーズを踏まえて,改善・改良を加えながら,現地に適した機器を導入していくことが重要である。このため,アジアとの国際交流に問題意識を持つ各医学会のアジア諸国との交流の促進等を通じ,現地の医療現場との接点を拡充し,治療法と医療機器の開発・改良・改善のための"場"を確保して,ニーズに合致した機器の開発・普及を強化することが必要である。
さらに,製品開発の出口となる現場のニーズを,仕様の改良・改善を含めた技術開発の戦略にフィードバックするサイクルを確立し,日本の強みを生かして国際競争力を強化していくビジネスモデルを形成することが求められている。
今後の多様な現場ニーズに対応するためには,アジア諸国の現地の医療インフラ向上に資するように,医療技術(ソフト)と機器(ハード)とを組み合わせたシステム化・パッケージ化による総合的医療システムを展開するなど,運用の面からもMade in Japanの優れた品質と高い信頼性をアピールする取り組みにより,アジアの現地に根ざした形で,治療法に関するアジア・スタンダードを目指すことが重要である。 |