前述のように,薬事認証が行われるもの,すなわち,臨床研究のデータの取得が必要であり治験が実施されないようなもの(おおむねクラス I ,II)の場合,Good Clinical Practice(GCP)を遵守して実施される治験ではなく,臨床研究の実施が不可欠である。しかしながら,これまで,薬事法の解釈上は,臨床研究において用いられる未承認医療機器を企業からアカデミア等の医療機関に提供するに際して,多くの混乱があり,医療機器開発企業としては,薬事法違反を恐れて臨床研究が実施されにくいという問題が起きていた。企業側は,臨床研究段階における薬事法の適用範囲についての解釈に慎重になっており,医師から要望されたいかんにかかわらず,未承認機器は提供できないと考える例がある。また,臨床現場(医師)から,医療機器開発企業に寄せられる改良の要望に基づいて機器を改良し,臨床研究として評価を実施し,その評価結果に基づいて,最善の仕様,使用手順にて承認(認証)を取得しようとしても,そのための未承認医療機器の提供ができないという報告もあった。そのため,現状では,医療機器は改善,改良のたびに承認(認証)申請をし,承認(認証)取得後に臨床研究が実施され評価されている。このサイクルが製品開発の遅れの要因となっている。
このため,2010年には,「臨床研究において用いられる未承認医療機器の提供等に係る薬事法の適用について」が発出された。しかしながら,具体的な事例や,臨床研究の実施上の注意点についてはいまだ不明瞭であり,どのようにすればよいのかという意見が多く出ている。また,昨今改定された「臨床研究に関する倫理指針」は,医薬品を用いた臨床応用研究を念頭にされた記載が多く,医療機器を用いた臨床研究においては解釈が困難な場合がある。
産業界(日本医療機器産業連合会),アカデミア研究者,関係政府省庁のメンバーによって構成される医療技術産業戦略コンソーシアム(METIS)においては,第4期METIS計画として,10年先を見据えたシーズ発掘と実用化・事業化,医療機器産業の基盤整備のための提言と推進,啓発活動を掲げているが,この中で,特に重要な基盤整備として,昨今,「未承認医療機器の臨床研究」の戦略会議が設置された。本組織では,産業界側の委員,アカデミアからの委員によって未承認医療機器を用いた臨床研究の基盤整備に取り組み,『医療機器の臨床研究実施の手引き(仮称)』を策定することになっている。第1版は2011年春に発表され,2012年春までに改訂版を作成するという計画である。本手引きにおいては,アカデミア医療機関の研究者が,医療機器を用いた開発や改良に携わる場合に,治験を実施すればよいのか,臨床研究を実施すべきなのか,どのような規制あるいはガイドライン等を遵守すべきか,企業とアカデミア研究機関との間にどのような契約を結べばよいのかということについて,時系列を追って詳しく記載がされている。 |