医薬品の臨床研究や治験を支えるGCP(Good Clinical Practice)が,ICH(International Clinical Harmonization)によりすでに国際整合しているのとは異なり,医療機器GCPは現時点では国際的に整合されたものではない。認証期間によるCEマーキング体制をとる欧州ではISOのGCP(ISO14155),日本は医療機器GCP,米国はIDE(Investigational Device Exemption:治療医療機器の臨床試験実施のためのFDA治験届と適用免除)により治験が実施され,各地域のGCPギャップを埋める必要がある多国間臨床試験においては,元来医薬品を対象とする ICH-GCP(Document E6)およびISO14155を枝葉部分で採用しているのが現状である。日本のGCPは,医療機器の臨床試験の実施基準に関する省令(平成17年厚生労働省令第36号)による「省令」である一方,米国では医薬品,医療機器共に,GCP条文は法令化されていない。cGCP(current,現時点でのGCP)として,臨床機関体制の進化により,自主自律的に修正しうるガイドラインとなっている。
上記の米国IDE制度(法令としてのGCP,規制法21CFR812)は,通常であれば未承認のために法定不適合あるいは不当表示として扱われる機器を米国における臨床試験用に出荷することを許可する法律であり,申請企業に対して510(k)またはPMAといった薬事承認の取得,医療機器施設の登録,機器の登録,品質保証関連(設計管理に関する規定を除く)の要求事項が免除される。機器が著しいリスク(significant risk)を持つかどうかにより,臨床施設のIRB(倫理委員会)承認だけでよいのか,FDAのIDE承認も必要とするかが決まるが,その判断は申請企業が行い,臨床施設のIRBが確認することとなっている。FDAが2007年度に211件の新規IDEおよび4345件のIDE補足申請を受領していることからも,著しいリスクを持つ医療機器の臨床試験において,活発に制度利用されていることがわかる。
このIDE制度あるいはICH-GCPと日本の医療機器GCPの内容は,根本的には似ているものの,対象となる臨床試験(研究)の範囲,治験契約,IRB(倫理委員会),必須文書(種類と量),ならびにファイナンシャル・ディスクロージャー(利益相反:治験責任医師,治験分担医師本人とその配偶者ならびに子供に該当する)の点で大きく異なる。ICH-GCPやIDEと比較し,GCP省令においては,治験依頼者(企業)が実施医療機関とは契約できるが治験責任医師とは契約できない点,実施医療機関ごとにIRB設置が必要となり,総括的な中央倫理委員会の設置ができない点,治験責任医師がIRBから治験承認を得るのではなく,治験実施医療機関の長がIRBに意見を聞くことが求められる点,などである。IDE承認を得ると有料での製品提供による治験が可能になることからも,IDEにはファイナンシャル・ディスクロージャーの規定が明記されている。最近,HBD(Harmonization By Doing:FDAと厚生労働省が主導し,産学が協力して実施する医療機器の同時申請プロジェクト)の第4WGが行った,日米およびISO-GCPの比較分析報告の概要(日英)が医機連ホームページに掲載されているので,一読されることをお勧めしたい。
こうしたGCPの違いは,より習熟した治験責任医師がリードし,多施設連携での優れた治験実施を必要とする革新的医療機器の治験と産業の開発意欲に大きな影響を与えている。特にこれまで,ライフサイエンス分野での科学技術政策が産業育成政策に連動し得ていない日本と,革新的医療機器の開発意義を国家が提唱し,開発リスクとプロダクト・ライアビリティとの整合性に法的にも取り組んできた米国とのギャップは大きい。 |