CT,MRI,PET,超音波診断装置など,花形の画像診断装置も開発されてから30年以上が経過した。では,次の時代の画像診断装置は何だろうか?
超音波検査で必須となっているドプラ装置の原理は,1842年に発表されたドプラの「ドプラ効果」の技術が使われている。ウィーン大学構内に著名な学者の墓があると聞き,旅行のついでに見学に行ったところ,ドプラの銅像を見つけたが,死後160年,「ドプラ効果」が発見されてから170年近く経っている。また,ドプラの教え子のメンデルは遺伝学者だが,「メンデルの法則」も死後50年経ってから初めて評価されるようになった。
CT,MRI,超音波診断装置などに続く,次の時代の画像診断装置は何か? まだ何も見えてこない。その基礎となる基礎研究の評価は難しいし,その研究がいつ花開くかまったく予測できない。現在使われている画像診断技術は,30年以上のはるか前に開発されたものが,やっと日の目を見ているのである。
国家予算も科学研究費も限られている。この限られた予算を薄く多くの研究者に配るか,あるいは重点的に特定の小人数の研究者に配るかという問題があるが,最近の科学研究費の配分は,優秀な少数の研究者に大型の予算を配るようになった。その反動でいくつかの大学の研究者は研究費が不足し,さらには学生実習の費用もなくなってきた。つまり,ひと握りの優れた研究者に多くの研究費を配るか,あるいは多くの研究者に少しずつ研究費を配分するかの選択であり,研究費を多く受け取れる研究は,すぐ役立ちそうなものばかりになる。一方,いつ日の目を見るかわからない基礎研究には,研究費は配分されにくい。
審査する人にとっても明日の成長分野,これからの日本の医療がどうなっているか判断できない。医療の分野で,国がこれまで行った研究費の重点配分,産業政策も成功したとは言い難い。企業経営者にとっても,次にどのような研究をすれば企業が発展するか,次世代の医療機器はわからないのが本音でなかろうか。
「政府が何もしないこと」が最も有効な成長戦略との論もあるようだが,一理ある考えである。基礎研究に幅広く研究費をつければ,日本人はさまざまなアイデアを出す。日の当たらない基礎研究に,たとえ少額でも予算を配分しておくと,いつの日かその中から花を咲かせ,将来の日本の科学技術が発展するだろうことを期待する。 |