松尾 豊・東京大学教授による合同特別講演「人工知能の進展と医療・ヘルスケアにおける可能性」
2019-4-13
いま最も注目されているトピックスである人工知能研究の第一人者・松尾 豊教授の講演が,JRC2019合同開会式に続いて行われた。司会は,山下康行 JRS会長と石田隆行 JSRT大会長が務めた。
松尾氏は,日本を代表する人工知能研究者としてメディアに登場する機会も多く,いま最も注目されている時の人と言える。東京大学工学部を卒業後,スタンフォード大学客員研究員などを経て,2007年から東京大学大学院工学系研究科の准教授に就任。人工知能の基礎研究などをテーマとする松尾研究室を率いて,国内外に多くの優秀な人材を輩出している。2017年には日本ディープラーニング協会を設立し,理事長として活動中。2019年4月からは,同大学人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授,システム創成学科知能社会システム(PSI)コース長に就任している。
松尾氏は,人工知能(AI)とは,「スーツケースワード」であり,いくつかの技術の総称だと説明。具体的には,IT系(従来からのIT技術の擬人化),ビッグデータ系(従来型の機械学習や自然言語処理を中心とする技術),ディープラーニング系(眼の技術,画像処理と機械・ロボットの融合)である。今の人工知能の進化はディープラーニング革命であり,画像認識→運動の習熟(ロボット・機械に熟練した動きが可能に)→言葉の意味理解,が技術の進展に伴い,順次,可能となるとし,これらの段階をそれぞれ例を挙げて説明した。
そもそもディープラーニングの原理とは何かという問いに対する答えは,一言で言うと,「深い関数を使った最小二乗法」であるという。ディープラーニングとは,変数を増やした最小二乗法のお化けのようなものであり,さらに一層ではなく,二層,三層,n層と関数を深くすることが重要となる。料理にたとえて,層を深くすれば食材からいろいろな料理が作れるという加工の階層構造を説明した。
そして,なぜ急に深い関数を使えるようになったのかというと,それまでの常識や思い込みから埋もれていた活性化関数が再発見され,次々と改良した方法が提案されるようになったからだという。それまでのシグモイド関数に代わって,ReLUが使われるようになったのが2012年頃であり,人工知能の第三次ブームの始まりに重なる。
ディープラーニングは,インターネット,トランジスタ,エンジン,電気などに匹敵する数十年に一度の技術だが,原理は単純で,汎用性が高いのが特徴だという。関数(xとy)を何にするかは工夫次第であり,ビジネス的には創意工夫のポイントになる。深い関数を使える効果は,視覚に最も顕著であり,画像認識で大きく性能が向上した。これからは,眼を持った機械が誕生し,機械・ロボットの世界でのカンブリア爆発が起こると述べた。
ディープラーニングに関する動きは,医療画像が全産業の中でも最も早いと指摘。2011年には眼底検査,2014年には検査画像から悪性腫瘍を検出するベンチャーが現れるなど,次々と新たなシステムや企業が出現している。
松尾氏は最後に,スタンフォード大学のAndrew Ng氏が2018年末に発表した人工知能ビジネスの成功のカギを紹介。(1) パイロットプロジェクトを実行し勢いをつける,(2) 社内にAIチームを作る,(3) AIのトレーニングを提供する,(4) AI戦略を作る,(5) 内部・外部のコミュニケーションを作る,という段階を踏むことが大事だと述べた。日本では社会全体の理解レベルが低いことや,人材育成の遅れが課題であると指摘。自身が設立し理事長を務める日本ディープラーニング協会(JDLA)のジェネラリスト(G検定)やエンジニア(E資格)の取得を勧めて講演を終えた。