ITEM2018 バリアンメディカルシステムズ ブースレポート
放射線治療装置の新製品「Halcyon」や「TrueBeam」の新バージョンなどを中心に,がん治療に貢献するトータルソリューションを展開
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2018-4-27
バリアンメディカルシステムズブース
2017年9月に社名ロゴおよびブランドイメージを刷新したバリアンメディカルシステムズは,新しいイメージを前面に押し出した明るくオープンなブースを展開した。ブース中央には,2017年11月に薬機法承認を取得したIMRTに特化した放射線治療装置の新製品「Halcyon」を展示し,さまざまな先進的な機能によって高度な放射線治療を効率的に実施可能なシステムであることを紹介。また,幅広い治療に対応可能なオールインワンの放射線治療装置「TrueBeam」がバージョンアップし,新機能が搭載されたほか,放射線治療計画システム「Eclipse」や放射線治療情報システム「ARIA」も新バージョンとなったことが紹介された。
同社の展開について,代表取締役のミッチェル・シロン氏は,「当社はこれまで放射線治療装置を中心に展開していましたが,今後はがん医療全体に貢献する企業になりたいと考えています。そのための方策の一つとして,今年1月にはオーストラリアのinterventional oncologyの企業であるサーテックス・メディカル社の買収を発表しました。同社のSIR-Spheres Y-90樹脂微小球(薬機法未承認)を用いた局所放射線治療は原発性の手術不能肝がんや大腸がん肝転移の治療などに有用であり,今回の買収によって,われわれのがん医療への展開もさらに広がっていくものと考えます」とコメント。また,日本のがん医療への貢献として,cancer care networkの構築を挙げ,同社のソリューションを用いてチーム医療のさらなる推進を図るとともに,患者を中心としたがん医療を展開していくことを強くアピールした。
●革新的な新技術の搭載により高度かつ効率的なIGRT・IMRTを実現する「Halcyon」
六角形の外観が印象的な放射線治療装置Halcyonは,「高品質なケア」「運用効率の向上」「人にやさしいデザイン」をコンセプトとしており,画像誘導(IGRT)による強度変調放射線治療(IMRT)に特化した装置として開発された。100cmの大きなガントリ開口径や,間接照明,水冷却システムに加え,リニアモーター駆動の採用による静かな治療環境の実現,最低高の低い治療台などにより,患者に優しい装置となっている。
最大の特長として,照射時間や治療計画にかかる時間が従来よりも飛躍的に高速化したことが挙げられる。同社が独自に開発した2段式のマルチリーフコリメータ(MLC)「Dual-Layer MLC」は,多段に重なり交互にずらした配列形状となっており,従来のMLCの2倍の速さ(同社比)で動作し,より高度な治療が行えるほか,リーフ間の漏れ線量がほぼゼロ(0.01%)となったため,正常組織への線量低減が可能となる。また,リング型ガントリの採用により,Cアーム型ガントリと比較して回転速度が4倍となり,わずか15秒でコーンビームCT(CBCT)の画像取得が可能となった。これらによって治療時間が従来のIMRTの約半分に短縮した。
Halcyonでは,治療計画やワークフローも大幅な効率化が図られ,高速化している。オートセットアップ機能により,患者が治療台に乗ってからの位置合わせや照射,照射後に治療台を下げるといった一連の流れがほぼオートで可能となった。また,装置と治療情報システム,治療計画システムが統合されシームレスに連携することで,従来は30以上あった治療開始から終了までの手順が,わずか9と大幅に削減された。これは,Halcyonがフルデジタルでコンピュータ制御されているからこそ達成できたことであると言える。
同社では,HalcyonをIMRT実施件数の多い施設の2台目,3台目の装置として導入すれば,施設全体のスループットの向上が図れるとしている。
●バージョンアップにより多数の新機能が搭載可能となった「TrueBeam」
定位放射線治療(SRT),IMRT,強度変調回転放射線治療(VMAT:同社での名称はRapidArc),IGRTなど,すべての高度な放射線治療および次世代の治療にも対応すべく開発されたTrueBeamは,今回,Ver.2.5から2.7にバージョンアップし,さまざまな新機能がオプションで搭載可能となったことが紹介された。
定位手術的照射(SRS)治療専用ツールである“HyperArc”では,多発脳腫瘍などに対するSRSのノンコプラナー治療を一度で行うことができる。通常,脳腫瘍のSRSでは,1つの腫瘍に対し10〜15分程度の治療時間を要するが,HyperArcでは,複数の腫瘍を一度ですべて治療できるため,治療時間の大幅な短縮が可能になる。海外ではすでに臨床で使用されており,イタリアの医療機関では22個の腫瘍に対するSRSが約22分で終了した例もある。装置と治療計画システムが連携し,治療計画に合わせて装置が自動で治療を行うため,きわめて効率的なSRSの実施を実現している。
“Iterative CBCT”は,CTで用いられている逐次近似法を応用したCBCTの画像再構成技術。通常,逐次近似法の画像処理には時間がかかるが,ハードウエアの改良により短縮化を図っている。Iterative CBCTにより,軟部組織構造がより良好に画像化されるほか,ノイズ低減や画像均一性の向上,コントラストの向上,ストリークアーチファクトの低減などが図られる。また金属アーチファクトも低減されるため,頭部の撮影時における歯の充填物や義歯などのある患者の撮影などで有用性を発揮する。
“Online 4D CBCT”は,患者の自由呼吸時の動きを視覚化し,動くターゲットでも最適な位置合わせを可能にする技術。従来の4D CBCT撮影では,臓器の動きを確認するだけで位置合わせに使用することはできなかった。しかし,Online 4D CBCTでは,4D CBCTの取得,取得画像からの照合用位相選択と画像再構成,参照画像(DRR画像)と選択した位相の画像照合という一連の流れが,治療装置側の操作でオンラインで可能となり,選択した位相のCT画像を用いて3D-3Dマッチングを行うことが可能となった。これにより,治療開始までの時間が短縮され,治療スループットの向上が図れる。
“Gated CBCT”は,動きのアーチファクトを抑制し,臓器の視認性を向上する技術。決められた呼吸位相のみCT撮影を行うことで,自由呼吸下でも動きの影響をほとんど受けない画像を取得できる。これにより,照射位置の確認などがより正確に行え,呼吸同期を伴う治療で大きなメリットが得られる。
“Short Arc CBCT”は,1回の短時間の息止め(約20秒)でCBCT画像を取得する技術。一般的に体幹部のCBCT撮影ではガントリを1回転させるが,それよりも小さいガントリ回転角度での画像取得が可能となる。例えば,初回治療時には1回転で撮影し,次回以降は120°回転のCBCT画像で確認を行うといった対応ができるようになり,スループットの向上と患者のストレス低減に貢献する。
“Visual Coaching Device(VCD)”は,患者に対して呼吸ガイドを提供し,安定した呼吸運動を支援する機能。特に肺がん患者の場合,呼吸同期で最も問題となるのは呼吸を整えるのが非常に難しいことである。そこで,患者の呼吸位相を基に作成した呼吸波形を患者自身が視覚的に確認できるようにすることで,呼吸が安定しやすくなる。
“Delta Couch Shift”は,治療計画で算出されたアイソセンタのシフト量を,治療時にワンタッチで補正できる機能。通常,治療台にて患者の位置合わせを行い,ズレがあった場合にはシフト量が数字で表示されるため本来の数値に合うよう計算する必要があったが,Delta Couch Shiftでは,それが自動で計算され,ボタン1つで相対値移動をすることが可能となった。この技術は同社の「CLINACシリーズ」でオプション搭載可能であったが,今回,TrueBeamへの搭載の要望が多かったことから,オプションでの搭載が可能となった。
●放射線治療計画システム「Eclipse」のVer.15.5が薬機法承認を取得
今回のITEM直前に薬機法承認を取得したことがアナウンスされたEclipse Ver.15.5では,治療計画のワークフローの流れが大きく改善できることがアピールされた。
新たに搭載されたMulti-Criteria Optimization(MCO)アルゴリズムによる“Trade-Off Exploration”により,ターゲットと周辺リスク臓器のトレードオフ関係の微調整が容易に可能となった。IMRTの治療計画立案に当たっては,医療機関ごとにリスク臓器に照射される線量の上限が決められているが,従来は線量が多くなってしまった場合は,適正な値になるまで繰り返し治療計画を立て直して,ターゲットの線量がどの程度影響を受けるのかを確認する必要があった。しかし,Eclipseでは,事前に設定された条件に従って自動的に複数のプランが計算され,さらに,クリニカルプロトコル表示が新たに追加され,その治療計画における各領域の線量が適正であるかどうかが数値と三角の印で表示され,一目で確認することができる。しかも,線量が多すぎる場合は,その部分のスライドバーを動かすだけで容易に調整可能である。スライドバーの動きに合わせて一瞬でダイナミックに線量分布と数値が変化するため,視覚的にもわかりやすく,治療計画のスループットが大幅に向上する。また,Trade-Off Explorationは,従来の治療計画のワークフローを崩すことなく組み込まれている点も大きなメリットとなっている。
また,Eclipse Ver.15.5では,線量計算の速度が数分から数十秒にまで短縮されたことが紹介された。例えば前立腺の1回転のRapidArc(VMAT)のプランの場合,従来はモンテカルロ相当の線量計算アルゴリズム(同社の名称は“AcurosXB”)で約90秒かかっていたが,Eclipse Ver.15.5では9秒と,約1/10に短縮された(領域などによって異なる)。モンテカルロ線量計算アルゴリズムは高精度な計算が可能であるものの,計算に非常に時間がかかるため,通常,各医療機関では症例によってアルゴリズムの選択を行っている。しかし,Eclipse Ver.15.5では線量計算スピードが飛躍的に向上したことで,今後はおそらくすべての症例にモンテカルロ相当の線量計算アルゴリズムを適用できる可能性が出てきた。
●放射線治療情報システム「ARIA」もバージョンアップし,日本への対応をさらに強化
ARIAは,治療データ照合ソフトウエアから患者情報,照射カルテ,使用画像,発生画像,照射実績など放射線治療に関する情報の一元管理を可能とするシステム。これらの情報はすべて,1つのモニタ上で参照・入力可能で,放射線治療の正確,安全,効率的な運用を支援し,治療実績のデータの二次利用なども容易に可能となる。このため,米国では日本における治療RISの役割も含んで使用されている。今回のITEMでは,日本向けの対応が強化されたVer.15が紹介された。上位システムである電子カルテやオーダリングシステムとの接続を直接行えるため,より多くの情報を相互にやり取りすることが可能であり,従来はローマ字表記のみであった患者名の情報を,漢字とカナの双方を取得して表示できるようになった。また,Webベースのアプリケーションである“放射線治療ポータル”を搭載し,治療時の様子や全身症状,放射線障害などの情報を写真や文字情報で容易に共有することができる。これにより,放射線治療部と病棟の看護師や依頼医とのコミュニケーションの強化が図れる。治療オーダはカレンダーで表示され,キャンセルなどの情報も一目で確認可能であり,治療の進捗状況は数値のみの表だけでなく,グラフィック表示が追加され,視覚的にわかりやすくなっている。さらに,がんの病期分類は,以前は米国の基準であるAJCCを採用していたが,現在は日本での基準であるUICCが実装されている。
●がん医療の統合情報ツール“360 ONCOLOGY”を参考出品
がん医療に関連する重要な情報をチーム間でコーディネートおよび集約するためのツールとして,360 ONCOLOGYが参考出品された。がん医療においては,医師と患者や院内スタッフとのコミュニケーション,他科や他院との連携,放射線治療医や医学物理士の不足など,さまざまな面で課題があるが,それらを解決し,かつ患者中心のがん医療を実現することを目的としている。360 ONCOLOGYが各診療科の部門システムから統合的に情報を集約し,医療機関のあらゆるスタッフおよび患者自身がWeb上で閲覧可能とすることで,がん治療に関する円滑なコミュニケーションが可能となる。なかでも,患者向けにはスマートフォン用のアプリケーションを提供し,日常生活の中での不安などをつぶやけば,それに対して医療従事者からのコメントを返信することも可能となる仕組みも用意されている。すでに米国および英国の3施設で導入され,実際に稼働を開始している。日本での展開は未定だが,セキュリティなどにも配慮し,日本の市場に適した形での展開が検討されている。
●お問い合わせ先
株式会社バリアン メディカル システムズ
住所:東京都中央区日本橋兜町5番1号 兜町第1平和ビル2階
TEL:03-4486-5000
URL:www.varian.com./ja