東大発ベンチャーLPixel,画像不正検出ソフト「LP-exam」を無料公開
2014-4-16
LPixel(エルピクセル(株))は,最先端の画像処理技術を応用し,生命科学分野の学術論文の画像を中心に,切り貼りや加工などの不自然な箇所がないかを検出するソフトウェアLP-examを開発し,無料で公開した。
英科学雑誌「ネイチャー」に掲載されたSTAP細胞の論文に含まれる画像に不正な加工や不自然な箇所があるという指摘が,生命科学界のみならず論文捏造をめぐる社会問題として,大きな注目を集めている。LPixelでは,生命科学の専門家チームが自ら,高度な画像処理技術を応用して,生命科学研究のノウハウを活かし,「画像不正検出ソフトウェアLP-exam」を開発した。複数の手法を組み合わせて,元の画像から8つの分析結果を出力し,不正検出のサポートをする。
STAP細胞に関する電気泳動画像の分析例
画像加工が指摘されているSTAP細胞に関する画像(*注1)について,LP-examで分析した結果,以下のように,明らかに不自然な箇所が見つかった。
▼上記の画像について
(1)暗色背景に変換
(2)明暗反転画像 (3)カラーマップ画像
(4)~(6)段階的コントラスト強調(弱(4), 中(5), 強(6))
(7)~(9)高域通過処理((4)~(6)に対する)
画像の不正(*注2)となりうる加工が行われた場合,以下のような現象が観察される。
(4)~(6)… 切り貼りがされた箇所全体(赤枠内)が目立って見える。
(7)~(9) … 連続的な直線(青枠内:黒色直線)が見えるようになる。
(3) … 一つのバンドが全て同じ色に見えることもある。
上記のSTAP細胞に関する電気泳動画像の分析では,(4)~(9)の結果により,他の実験結果の写真を長方形に切り取り,赤枠内にその写真を貼りつけた様子がうかがえる。
▼解析の様子(動画URL:http://youtu.be/r05KYmbG9K4 )
●LP-exam Ver.1オンライン版の特徴
○独自のアルゴリズムを用いた画像の不正検出に特化したソフトウェア
・画像の明暗反転 … 暗色(収縮色)背景と明色(膨張色)背景では画像全体の印象が異なるので,画像の客観的な識別に有効である。
・カラーマップ画像 … 輝度分布の視認性に優れ,モノクロ表示ではわかりにくい明るさの違いが鮮明になる。
・段階的コントラスト強調 … 切り貼りされた箇所は周囲のピクセルと輝度が異なる場合が多いため,段階的にコントラストを調整することで,輝度の変化がより明確に検出できる。
・高域通過処理 … 高域通過処理により,画像上目立たない明るさの変化を強調し浮かびあがらせる。
○簡単操作で画像の切り貼りや加工などの不自然な箇所がないかを検出
○対象画像ファイルはPNG,BMP,TIFF,JPEG,PDFと幅広く対応
○以下の機能も開発中
・不正コピー検出機能
・画像種類選択機能(MRI,電子顕微鏡写真等)
・不正加工の危険性判定ならびにスクリーニング機能
※オフライン版(未公開)ではオンラインでは実装できないより高度な解析が可能。
●LP-examの無料配布を開始
画像不正検出ソフトウェアLP-examは,4月16日より以下のサイトから無料で利用できる。
▼LP-exam Ver.1オンライン版
http://lpixel.net/lp-exam
LPixelの起業のメンターとしてサポートしている鎌田富久氏(スタートアップブースターTomyK代表 http://tomyk.jp/ )は,「生命科学の東大発ベンチャーが,自らこのようなツールを開発し,無料配布したのは画期的だ。画像不正の検出が容易になることによって,安易な不正の防止,研究者のモラルの向上,査読審査の効率化が期待できる。また,研究者間で,こうしたツールを活かし,情報共有のネットワークが広がれば,研究協力などのプラス効果も考えられる。」とコメントしている。
LPixelは,今後ユーザのフィードバックも取り入れ,多くの研究者と協力して,精度向上にむけてLP-examを改善していく。また,LP-examの特定用途向けのカスタマイズや機能拡張,ビジネス用途などの相談も受け付ける。
*注1) 小保方氏等の Nature 論文 "Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency" (http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/full/nature12968.html ) Fig. 1iの画像を使っている。
*注2) 画像不正の詳細な定義
生命科学分野で扱われる画像には撮影装置や光学的現象に由来する様々なノイズが含まれている。そのため,画像に対して一連の画像処理(コントラスト調整やノイズ除去)を施すことは,実験データを簡潔かつ明瞭に説明するために必要なことがある。しかし画像処理を施した場合,論文中に「施した画像処理」 および 「使用した画像処理ソフトウェア」 の記述が厳密に求められている。
英科学雑誌「ネイチャー」の投稿規定によると,
・ 施した画像処理は論文中で明言する
・ 処理は画像全体に対して行ない,画像の一部分だけに画像処理を施してはならない
・ 実験データが隠れるほどの過大なコントラスト調整を施してはならない
等,画像処理に対する規定が厳密に定められている(http://www.nature.com/authors/policies/image.html
) 。多くの科学雑誌は画像処理に対して同様の投稿規定を定めている。したがって,画像中に 「切り貼りされた跡」 があり 「画像処理を施したことが論文中に明言」されていない場合,画像不正に該当すると考えられる。
●問い合わせ先
LPixel
http://p.tl/-48d