Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)
第80回日本医学放射線学会総会が,2021年4月15日(木)〜18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。学会共催ランチョンセミナー17「心臓画像診断の現在と未来」(ザイオソフト株式会社 / アミン株式会社)では,佐久間 肇氏(三重大学大学院医学系研究科放射線医学)が座長を務め,丸尾 健氏(倉敷中央病院循環器内科)と大田英揮氏(東北大学大学院医学系研究科先進MRI共同研究講座/東北大学病院放射線診断科)が講演した。
2021年7月号
心臓画像診断の現在と未来
講演2:日常診療における心臓画像診断のエッセンシャル
大田 英揮(東北大学大学院医学系研究科先進MRI共同研究講座/東北大学病院放射線診断科)
心臓の画像診断は,臨床医と放射線科医が共通の言語を持って進めることが重要である。本講演では,循環器診療のCTとMRIの役割を説明したあと,日常診療で遭遇するクリニカルシナリオを基に,標準的なモダリティの選択と評価について述べる。
循環器診療におけるCTとMRI
1.心臓CT
心臓CTでは心電図同期を用いて撮影し,基本的には静止画で評価していく。評価内容としては,冠動脈CTAのほか,心形態評価,弁評価,心周囲病変,肺病変,大血管病変などである。
冠動脈病変の診断では,SCCT(Society of Cardiovascular Computed Tomography)が提案している冠動脈分類や,病変についてCAD-RADS(Coronary Artery Disease‒Reporting and Data System)が用いられるようになっている。CAD-RADSは,冠動脈狭窄病変を0−5の6段階で表現するもので,その後の精査に関する推奨項目を含んだ体系的なレポートシステムである。心臓CTの診断では,放射線科医と臨床医(循環器科医)とが共通の言語を持つことで,病変部を正しく伝えて意思疎通を図ることが,重要な前提となる。
2.心臓MRI
心臓MRIには多くの撮像法があるが,歴史的には心筋や壁運動の評価を中心に行われてきた。MRIでは視覚評価だけでなく,Phase Contrast法やT1マッピングなど定量評価が可能な撮像法がある。視覚評価だけでなく定量評価を加えることで,臨床医とのコミュニケーションが取りやすくなるケースもある。
日常診療で遭遇するクリニカルシナリオ
American College of Radiology(ACR)では,放射線科領域における“Appropriateness Criteria”を発表している。これは,画像診断の全領域で,症候に対する適切な検査は何かを1700以上のクリニカルシナリオで提示している。その意図は,無駄な(余計な)検査をしていないかどうかを問うもので,背景には米国での“decision support system”の導入による適切な検査を推奨する流れがある。
心臓領域では15種類のクリニカルシナリオがあり,それぞれのシナリオで各画像検査法の適性度(appropriateness)を9(最高)〜1(最低)点で評点し,緑(Usually Appropriate)・黄(May Be Appropriate)・赤(Usually Not Appropriate)で色分けして提示している。
Appropriateness Criteriaに則ってシナリオと症例を提示する。
シナリオ1:非特異的急性胸痛
急性胸痛(非特異的)で来院した50代,女性で,冠動脈疾患の事前確率が高くない時,適切と考えられる画像検査は何か。事前確率は,年齢,性別,症候の種類,冠動脈疾患の危険因子から推定する。事前確率が高くない急性胸痛では,胸部単純X線と冠動脈CTAが緑,心エコーと心電図同期をしない胸部CTが黄色となる。
事前確率が低くても急性胸痛がある場合には臨床上のジレンマとなる。急性胸痛には,冠動脈疾患や大動脈解離など一部致死的な疾患が含まれるからである。冠動脈CTAは陰性的中率がほぼ100%で,冠動脈疾患を否定するには優れた検査である。例えば,心電図変化がなくトロポニン上昇がない胸痛の場合,CTAを行うことで入院期間の短縮,あるいは入院不要の判断に寄与する。
【症例提示】50代,女性,胸痛があり心膜炎として加療していたが,胸痛が残存し,冠動脈疾患の否定と心膜炎の評価を目的に冠動脈CTAを施行した。冠動脈には有意狭窄を認めず,胸痛の原因はほかにあると考えられた(図1)。放射線科としてはここで終わらず,全体を観察することで,左房室間溝の軟部影からIgG4関連疾患の可能性が示唆され,生検で確認された。当然であるが,冠動脈疾患以外も十分に考慮して評価することが重要である。
シナリオ2:無症候性症例の冠動脈評価
無症候性の患者の場合,冠動脈疾患の評価として適切な画像検査は何か。事前確率を低い・中等度・高いに分けたが,事前確率が低く無症候性であれば画像検査の必要はない。中等度あるいは高い場合には,緑は石灰化スコアCT,冠動脈CTA(中等度では黄色)となる(図2)。
冠動脈石灰化スコアは,無症候性の中リスク群において将来の心イベントのリスクの層別化に有用であることが報告されている。石灰化がない症例ではイベントが起こるリスクが非常に低いことから“Power of Zero”とも言われる。また,冠動脈CTAは,無症候性の高リスク群で石灰化スコアに加えることで将来のリスク層別化に有用であるとの報告がある。石灰化スコア>100の群では有意狭窄の有無で将来のイベントの層別化ができる。
シナリオ3:急性胸痛で急性冠動脈症候群が疑われる場合
急性胸痛,急性冠動脈症候群が疑われる場合の適切な画像検査は何か。これも,事前確率が低い〜中等度と,高いに分ける必要があるが,症候性のため低い〜中等度では冠動脈CTAを加えることになる。負荷血流シンチグラフィ(緑),負荷心エコー(緑),負荷灌流MRI(黄)などほかのモダリティも選択肢となるが,CTAの高い陰性的中率を活用することになる。一方で,事前確率が高い場合には冠動脈造影(CAG)を行うべきで,ほかのモダリティの検査は必要ない。
【症例提示】50代,女性,年数回の胸痛発作があり,ニトロ製剤を近医で処方されていた。勤務中に胸痛発作が生じニトロ製剤で改善が得られた。冠動脈疾患を強く疑うが,来院時の心電図と採血所見は正常だった。冠動脈CTAが依頼され,LADの近位側に狭窄があり,短区域だが70%を超える狭窄と測定された。CAD-RADSの4Aのカテゴリーに相当し,CAGあるいは機能的評価,すなわち虚血の評価を考慮すべきと考えられた。これらの所見を踏まえてCAGが施行されたが,LADの狭窄病変は血行力学的有意狭窄ではなかった(図3)。しかし,症状から冠攣縮性の可能性もあることから,循環器内科でアセチルコリン(Ach)負荷試験を行った。Ach負荷試験では,冠動脈の攣縮が生じ,勤務中に生じた臨床症状と同様の胸痛が出現したことから,冠攣縮性狭心症に伴う症状であったと診断された。
冠動脈CTAの役割は,次の診療ステップに何を選択するかを示唆する重要な検査と考えられる。
シナリオ4:心疾患の可能性が高い慢性胸痛
心疾患の可能性が高い慢性胸痛の画像検査の選択では,やはり事前確率で分けて考えることが必要となる。低い〜中等度の場合,冠動脈CTAのほか負荷灌流MRIが緑となり,虚血の評価が求められる。事前確率が高い場合も同様だが,CAGも候補となる(図4)。
シナリオ5:非虚血性心筋症に対する初期画像検査
虚血性心筋症が除外された心筋症(非虚血性心筋症)に対する初期画像検査として適切なものは何か。心筋症には,肥大型心筋症(HCM),拡張型心筋症(DCM),拘束型心筋症やinfiltrative disease,心アミロイドーシスなどでは,心エコーや造影MRIが重要な選択肢となる。心筋の変化には,浮腫/炎症,線維化,沈着/蓄積などがある。この心筋性状変化の評価を目的としてMRIが用いられるが,特に遅延造影は梗塞や置換性線維化といった,局所的で,間質拡大が強い心筋障害で明瞭な陽性所見を示す。心筋梗塞,HCM,心サルコイドーシス,心アミロイドーシスなどで陽性所見が明瞭になる。
心不全の鑑別では,DCMと虚血性心疾患の評価で遅延造影が使われる。非虚血性のDCMでは,冠動脈支配領域に一致しない心筋中層の帯状の造影効果を認める。陽性率はDCMの3割程度だが,この所見によって非虚血性の心筋症だと評価が可能になる。
また,近年,MRIのT1マッピングが多くの施設で導入されてきた。T1マッピングは,遅延造影が白黒で定性であるのに対して,グレースケールの定量性を持った撮像法だと言える。さらに,造影ありとなしの両方のT1マッピングを撮像し,ヘマトクリット値で補正することでECVを求めたECVマップの作成も可能になっている。
DCMでは,ECVは心筋の線維化の程度と相関すると考えられる。また,native T1とECVを組み合わせることで心疾患のさまざまな病態を表すことができる。図5は左室肥大の3例だが,いずれも非対称性の左室心筋の肥大があり,壁運動はある程度保たれている。形態学的な評価だけでは鑑別は難しいが,native T1とECVの値から,左からHCM,Fabry病,心アミロイドーシスと診断できた。
まとめ
心臓CTは冠動脈形態評価,全体俯瞰,心臓MRIは心筋評価,壁運動,血流評価が基本的な使い方となる。クリニカルシナリオは,基本的な心疾患に対する標準的なモダリティ選択の考え方について,放射線科医と臨床医が共有するためのツールとして有効だと考える。
大田 英揮(Ota Hideki)
専門領域:心臓血管領域の画像診断,IVR。日本医学放射線学会:造影剤安全性委員会,保険委員会,ダイバーシティ推進・働き方改革検討委員会,画像適正使用委員会。日本放射線専門医会・医会理事。放射線科医および一緒に働くスタッフが,より良い環境で働けるようにするにはどうすれば良いか,日々考えております。
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